100 素材売却
本編100話目。ヤッター!
魔石換金の日
私たちは、迷宮都市ギルドに向かっている。魔石の代金を受け取るためと、魔物類の解体をしてもらうためだ。
フェンリルはアリシアさんの家に置いてきた。家にいるメイドさんに世話を頼んだらしいが、特に世話の必要はないと思う。餌だけやっておけば後は勝手にするだろう。
魔石の売却代金だが、私達で5等分にすることになった。アリシアさんは最下層に到達して迷宮踏破者としてこれから名が売れていくことで満足していたらしいが、パトロンになる際の取り決めもあったし結局そう言う形に落ち着いた感じだ。
カーマインさんは、最初アリシアさんにすべて渡すつもりで自分はその一部を特別褒賞としていただければと言っていたが、アリシアさんが、「もういい年なのだから、結婚資金にためておきなさい」とか言いかえしていた。
とりあえず、売り払ったお金は5人がそれぞれ受け取ることになった。
ドロップ品と魔物の死体(素材)の方については魔石と同じように、5等分かと思ったが、アリシアさんのご厚意で、アリシアさんが一部を受け取った後、残りはすべて私たちがもらうことになっている。
その一部というのは、ドラゴンなどの希少な魔物の素材なのだが、どうやら今回の冒険の記念に家に飾りたいらしい。
いくらぐらいになるのだろうか。
以前に30層台の魔石を売っているのを見たことがあるが、結構なお値段だった。それを考えると60層台の魔石は大きさも段違いだからすごい金額になるだろう。5等分にしても1人当たりの金額は途轍もない大金になるのではないのだろうか。
「おう、お嬢ちゃんたち来たね。」
ギルドに入るなりギルドマスター直々に声をかけてくれる。その後、こっちへ、と言われて奥の部屋へと通される。
そうして私たちが座り対面にギルドマスターと経理の人? が座ると、さっと私たちの方に渡される紙切れ5枚……私たち全員の分のようだが、
え? なにこれ?
「こちらが明細になります。中に書いてある条件で問題ないでしょうか?」
中に目を通すと、なるほど確かに、ずらっと箇条書きにされた明細だった。といっても、全部『○○級魔石;○○フラム』という条項が並んでいるだけなので、持ち込んだどの魔石がどの項目に当てはまるのか全然わからないのだが。そもそも何個持ち込んだのかすらあいまいだし。
その額なんと62億2500万フラム!!
ギョギョギョッ!!
スゲェ、なにこれ!?
「こちらで問題なければサインをお願いいたします。」
「……私はいいと思うが、どうだ?」
そう言って皆を見回す。正直魔石の適正価格なんて知らないし、ここまで大きな金額になると、少々ごまかされたぐらいでは何とも思わない。
お金が心の余裕になるというのは本当だったんだね。
「私も問題ありませんわ」
さすがにアリシアさんはこういった大金は見慣れているのだろうか? すぐに返事をしてきた。
他の3人も頷いたので問題ないのだろう。
カーマインさんなど目を剥いて紙を睨んでいたが少しすると立ち直ったようでワザとらしい咳払いをした。ティーアとソレイユちゃんはよく分かっていないような顔だ。
経理さん? が出してきた用紙に目を通し問題が無いことを確認するとサインする。
そうして、5人分のサインが入った紙を丁寧に包めていく経理さん?
それで? 62億は? ドコ?
あたりを見回すがそれらしきものは無かった。
「そんなにキョロキョロしなくても、ここにはないよ。」
……な、なんだってー!
「さすがに62億フラムもの金銭を用意するなんて2日じゃ無理だ。最低でも2か月はもらわないと。ああ、あと魔石の販売方法についてはこちらに任せてもらうよ」
「ああ、それは構わないが」
そうか、即金でもらえるわけじゃないのか。まあ、少し考えればそうだよな。
ちなみに5等分で1人当たり12億4500万フラムとなったが、ギルド預かりとなり必要な時に引き出せるようになるらしい。ただし、いきなり全額下すとかはやめてほしいと言われた。平時にそんな蓄えがギルドに無いからだ。
なお余談だがこれを聞いて銀行のようなシステムもあるのかな? と思ったが、これは大金を稼ぐ高ランク冒険者専用の処置らしい。といっても大金を他人に預けるということが一般人にはあまり馴染みが無いようで、あまり利用する人もいないそうだ。
あと魔石の販売に関してはさすがにあの量を一気に市場に流すと、価格崩壊を招くので、少しずつ放出するらしい。まあ、もうギルドに売ったんだからこちらからどうこういう事では無い。
「よし、それじゃあ、今度は魔物の方を見るよ! ついてきな!」
そう言われて、ギルドマスターとギルド員十数名と共に行った先は解体場……ではなくて迷宮都市の外れの平地だった。そこに柵で仕切られた一角がある。柵といっても木の杭を打ち込んでロープを張っただけのいかにもやっつけな場所だが。どうやらこの日のために確保した場所らしい。
そしてその周辺にたむろしているオッサンども。見たところ50人ぐらいはいるだろうか。子供も一部交じっているが、皆作業用のエプロンみたいなものをしている。さらにリヤカーに乗せられた大型の包丁の類。この人たちが魔物の解体作業を行うのだろう。
あと、見物人が多数柵の外にいる。皆、迷宮踏破者の事を聞きつけて一目見ようとやって来たようだ。
「全員そろってるかい!」
「「「おおっ!!」」」
ギルドマスターの掛け声に返事をするおっさん達。
今日のために王都のギルドや、普段精肉店等をやっている動物の解体のできる奴を片っ端から集めたらしい。
「じゃあ順に出してもらえるかい」
「1体ずつという事か?」
「そうだね、こいつらがちょろまかすかもしれないからね。一応こっちも目を光らせるつもりだが、念を入れて目録を作っておくつもりだ。」
「……分かった。」
いつもより高額で雇ったらしいが、さすがに人格の判断までは出来ないだろう。片っ端から集めたらしく、セコイ奴も交じっているかもしれない。
そう言ってまずは一体目。ドラゴンの死体だ。成体で20メートル近くある。出した瞬間、周囲から「おおっ!」という驚嘆の声が聞こえた。
その死体を見て、ギルド員の人が手元の魔物の種類と特徴、おおよその金額などを紙に書き込んで行く。
「記録したかい? よし、次だ!」
よっと。
ドンッ!!
またドラゴンを出す。
「よし次だ!」
ドンッ!!
またドラゴンを出す。
………………
…………
……
もう何体目だろうか。赤、青、黄色に羽の無いグランドドラゴンなどドラゴン類を出し終えると次は、べヒモス、バイコーン、カルキノス、コカトリスなどが並んでいく。
ついでに、王都に来る途中に倒したグランドドラゴンもしれっと混ぜておく。(ソレイユちゃん復活のために体の一部を使ったがかなり残っているからな)
最初の頃はアイテムボックスから出すたびに、周囲の見物人や解体人が「おおー!!」とか言って驚いていてくれたのだが30体を超えるころから、なんかビミョーな雰囲気になってきた。
ギルドマスターとか顔が引きつっているし、さっきから「次だ」しか言わなくなった。
そうしてようやく60体目と半分を超えた頃だろうか、街の方から馬車に乗った一団がこちらにやって来た。
それらは、私たちの前で止まって、そこから少しふっくらとした商人風の男たちが転がるように出てきた。
「ギ、ギルドマスター!」
「ん…………あんたは――」
ようやく再起動したのだろうかギルドマスターがその商人風の男を見た。
「こ、このようなこと困ります! わ、私の店が潰れてしまうではないですか!!」
そうして少しするとまた同じように馬車に乗った商人があわててこちらに向かってくる。いったん魔物を出すのを中断していると同じような人間が何人か来た。
ギルドマスターの話によると彼らは王都や迷宮都市にいる様々な高級店の店主達らしい。
彼らはドラゴン他の希少な魔物の素材を加工した武具やアクセサリー等を高額で売っている。無論それは普通に商売で別に彼らがあくどいとか言うわけではなく適正価格で売っている業者ばかりだ。ただ、ドラゴンなどの素材は通常出回らない。そもそも討伐されるということが稀なのだ。素材としての価値も非常に高いし、希少価値もある。それゆえ非常に高級となってしまう。
そこに今回ドラゴン等の希少素材が数十体単位で解体されるということを聞きつけ、価格が暴落するのではないかと、あわてて出てきたらしい。
「あー、ちょっと待ちな。後で聞くよ。じゃあ、次!」
あれ? いいの?
どうやらギルドマスターは放っておくらしい。なので、私は次の死体を出す。すべて人間より大きく、めったに討伐されることの無い希少な魔物ばかりだ。まあ、すべて魔王が飼っていたレベルも100代後半以上の奴ばかりだからな。
野次馬や解体人たちはもう驚き疲れたという感じでこちらを見ている。いまだに驚いているのは野次馬の中に交じっていた一部の子供たちのみだ。元気な子供たちだ。目の前にうず高く積まれている普段は見ることすらできない魔物を見て大はしゃぎだ。
反対に高級店の店主たちは青い顔でブルブルと震えている。
対照的で見ていると面白いのだが、私も単調作業でそろそろ面倒くさくなってきた。
「止めてください! お願いじまず~!!」
ようやく回復した一部の店主たちがこちらに泣きながら縋り付いてきた。彼らも自分の店がかかっているので必死なのだろうが、さすがに小太りのオッサンが泣きながら縋り付いてくるのは気持ち悪い。
お前がヤメロ! 鼻水がつくじゃないか!
そんなこんなで、計112体のダンジョンで討伐した魔物を出し終わった。
ギルド員はもう無心で記録を付けているし。
周りはもう勝手に、おしゃべりしていて驚いてくれない。一部の元気な子供たちは目を輝かせて「すげー!」とか言ってくれるが。
高級店の店主はもう涙と鼻水でぐちゃぐちゃな顔でオンオン泣いている。一部泡を吹いて倒れている奴もいる。
ギルドマスターは「ようやく終わりかい」としみじみと言っている。
解体人たちは「え!? これ全部俺等で解体すんの!?」とか言う顔で頬をひきつらせている。
「これで終わりだな」
「そうかい。これだけの量だ。また少し時間をもらうよ。」
「分かっている。解体についてはそちらに任せるが、一部素材についてはこちらに戻してもらいたいのだが」
「分かった。それは解体した後かい? 決まっているんなら今聞いておくよ」
「アリシアさん。欲しいものは決まっているのか?」
そう言ってアリシアさんに聞くと、うーんと唸った後いくつか候補を上げてきた。ドラゴンの逆鱗や牙、珍しい魔物の首から上(剥製にして飾るらしい)等。
あとドラゴンの肉は非常に美味だと聞いたので私とフェンリル用に3頭分の肉をもらうおくことにした。ドラゴンステーキか……なんだか美味しそうだ。
後、メリノ君へのお土産も考えないとな。竜の鱗や牙とかは定番だな。あとはバイコーンの角とかもいいかもしれない。
「これらも少しずつ市場に流すのか?」
「まあ、魔石と同じようにするしかないだろうね。」
「そうか、そこにいる高級武具店の人を優遇してもいいんじゃないか? 扱える店も限られているんだろう?」
優遇と聞いたとたんにスクッと泣き止んで揉み手で近づいてくるオッサンどもが最高に気持ち悪かったです。