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99 メリノ君家

 メリノ君たちとの交渉はそこまで難航しなかった。メリノ君が母親のためにいくつかアクセサリー類がほしいと言われたので少し入れ替えを行った程度である。

 個数については、事前の打ち合わせ通り、10個をメリノ君用に、そして残りの20個を王家への献上品とすることについてメリノ君も同意してくれた。


 私の解説を聞いてせっせとメモを取っている人がいた。たぶんそのメモをもとに献上品の目録を作るんだろう。



 一番喜んでいたのは、王様だ。何せ、本来王様としては迷宮踏破者に対して「その偉業をたたえて~」とか言って褒美を与える側なのに、逆に国宝級のアイテムを20個ももらえることが明らかになったのだから。


 なおこれらの受け渡しは大々的に行いたいらしく、数日後に急遽行われることになった国王主催のパーティー(今決めたらしい)にて他の貴族達の前でアリシアさんが参列し国王へと献上するというパフォーマンスをするらしい。

 そこで、メリノ君とアリシアさんが国王へ迷宮踏破の報告を行うとともに、献上品を贈呈する。そうしてそれに対して国王は「見事な偉業であった云々~」と声をかけ、地位や領地などの褒美を与える。と言う流れだ。

 計20個のアイテムの価値を考えれば、彼女たちに少し地位や領地を与えようとも痛手にはならないらしい。与える以上に価値のあるものを献上しているのだから、他貴族の反発も抑えられると言っていた。


 ◇◇◇


 王様に献上する20個のアイテムはすでに国王に進呈済みだ。数日後のパーティーでは周知する目的で行うもので、所有権はすでに王様に移ったことになる。あと、パーティーで献上する際にそれらのアイテムをむき出しのままというわけにもいかず、収納するための化粧箱などを作成するためにも数日は必要だと。


 それと今回の迷宮踏破でアリシアさんは無事家に帰ることができた。

 まあもともと、彼女の両親――特に父親の方は本気で出て行かれた上にこのような大きな成果を得て帰ってくるとは夢にも思っていなかったらしいが。

 アリシアさんが前に借りていた家は借家なので持ち主に返して屋敷に戻って行った。ただ、私たちも一緒に住んでいたので宿住まいに逆戻りかとも一時は思ったが、なんとメリノ君が私たちのために部屋を用意してくれた。


 王都のメリノ君の屋敷は領地に有った物よりは小さいが、それでも十分な広さがある。(他家との兼ね合いの問題でありお金をケチったとかではないらしい)

 大体の貴族は王都での職務のために王都の貴族街に屋敷を持っている。

 ただしメリノ君の家の場合は、母親が王城に勤めている関係で、母親の住まいともなっているらしいが。


 宿屋に逆戻りになってしまうのか。先に売却金の一部だけでもらっとけばよかったと今更ながらに思っていたが、そのことを口に出していたらしい、それを聞きつけたメリノ君が、


「ノワールさん、住むところが無いんですか? な、なら、ぼ、僕のい、家に来ませんか?」


 とか言ってくれた。さすがメリノ君太っ腹。

 母親の方も平民の私たちが泊まることを快く了承してくれたらしい。


 そうして私たちはメリノ君のお屋敷に集まっていた。


 メリノ君の母親の方も公式な場や国王がいる場では礼節を持って応じなさいとは言ってきたが、プライベートな場ではそこまで口うるさく言いませんというような方だった。

 何か私たちが知り合った貴族ってみんな気さくな人たちだよな。この国の風潮としてそうなのか、それともたまたま運が良かったのかは知らないが。


 まあ機嫌がいいというのもあるかもしれない。なんせメリノ君が母親のためのダンジョン産の宝を少なくとも2個は確保してくれたのだから。


 フェンリルはまた馬小屋の方でお世話になっている。一応賓客の一人(一匹)という位置づけらしいので、厩舎を改造して心地よい空間を演出しているらしい。



 なお、フェンリルの子供は


「フェンリルさん、この子を(わたくし)に譲ってもらえませんこと?」

『……私としては王の御友人に我が子を預けるのは名誉なことだと思いますが』

「ご心配なさらないで、ちゃんと立派なフェンリルに育て上げて見せますわ!」

『おお、心強いお言葉……わかりました。わが子を頼みます。』

「ええ、お任せになって!」

『クウゥ~ン』

『我が子よ、私もつらい。しかし子はいつか独り立ちせねばなりません』

『クウゥ~ン』

『ダメです。そのようなことは……立派になるのですよ。』

『クウゥ~ン』

『くっ……御友人よ、我が子の事、よろしくお願いします。』


 という感じで、あっさりとアリシアさんに引き取られていった。

 ちなみに子フェンリル、人間の言葉を発することはまだできないが、聞いて理解はしているらしい。


 余談ではあるが、フェンリルはわりと早い時期に親離れする。個体としては世間の荒波にもまれて強くなるわけだが(初期スペックの強さもあるが)、その過程で命を落とすものも少なくなく個体数の少なさにつながっている。


 ◇◇◇


 夕食時、私たちはお客様待遇なので、メリノ君たちと一緒に食事をとった。それ自体はいいのだが、周囲にメイドさんとかが控えているので、見張られている気分だ。

 メリノ君の領地では、メイドとして雇われていたため、こういう事は無かったのだが。


 なお、私たちの中で一番マナーに明るいのはティーアだ。今も何食わぬ顔で優雅に夕食を食べている。こいつ何処でマナーとかを覚えてきたんだ? やはり年の功か……

 ソレイユちゃんも、メリノ君の領地にいた際に最低限の事を習っていたらしく、さらに高級料理をおいしそうに食べていることもあり、わりと見られる感じだ。

 あれ? 私は? マナーとか知らないんですけど……

 

 そんな夕食中の事、メリノ君の母親から今度アリシアさんと共に王家から与えられる褒賞について聞かれた。数日中に希望を聞く機会を設けられるそうなのだが、事前に聞いておけるなら時間短縮にもなるだろうという事だった。

 ちなみにパーティーでは事前の摺合せの結果を発表して、私たちは「ありがたく頂戴します」と言うだけらしい。


「ノワールさん達は騎士爵に興味があるかしら?」

「騎士爵ですか? それはどういった……」

「そうね、……貴族の一種ね。一代限りで社会的地位を保証するものよ。ただし、領地や支援金などは無し。その分義務もないのだけれど。それに社会的地位にしても男爵位よりも下だけれど、少なくともこの国では平民とははっきり分かれているわ。ただこの騎士爵はその『親』となる貴族がいるわ。その貴族の後ろ盾が得られることが最大の利点ね。今回の提案はフーカ公爵家が『親』としてあなたを部下としてお誘いしているのだけれどどうかしら?」

「そう、ですか」


 うーん、貴族の位か。もらったほうがいいのだろうか? 別に今のままでも不自由はしていないのだが……お金が無かった時は苦労したが。

 大体私たちが貴族になってどうするんだ? 一応『名誉』と付くように本当に肩書だけの物らしいが。平民には威張れるんだろうけど。


 地球にも騎士という位は存在したみたいだが、こちらで言う騎士爵とは大物貴族が爵位を継いでいない(継がない)貴族出身者等をそばに置いたり重要な仕事を任せる際に騎士爵にして、「こいつは貴族だ、身元ははっきりしている」と言い張るための物らしい。

 そのためこの騎士爵は指名した貴族を『親』として仕えるらしい。なので、これは各貴族の権限で位を与えられるらしい。ただし、意味もなく乱発すると王家から注意が入る。

 まあつまり、ポストを用意するのでうちの部下にならないかという打診だ。


「ちなみに先ほど義務はないとおっしゃいましたが、フーカ公爵家から何か頼まれたりとかは?」

「そうね。そういう事はあるかもしれないわ。なるべくなら受けてほしいけれど……あなた達に関しては無理強いするつもりはないわ」


 ……うむ、面倒な各種義務が無いのであればいいのかもしれない。身分保障にもなるしな。


「……ソレイユちゃん、ティーア、どうだろう? 私は受けてもいいと思うが?」

「わ、私はノワール様と同じでいいです」

「うーん、私はどちらでもいいのだけれど、ご主人様に任せるわぁ」

「そうか……では、受けさせていただきます。」

「そう、よかったわ」


 そういう事で、今度の王宮でのパーティーで私たち3人が受け取るのは騎士爵という社会的地位ということで、王家に伝えることになった。


 ◇◇◇


 後日王城にて


「え? 騎士爵あげちゃったの? ワシあの子らに男爵位あげるつもりだったのに……」

「フフフ、申し訳ありません陛下、そうとは知らずに早まった真似を」

「いやいや、絶対知ってたよね!? そう言うヘッドハンティングみたいな真似止めてほしいんじゃけど!」

「しかしあの子らは義務のある貴族位にあまり乗り気ではありませんでしたし良いのでは」

「いい人材を囲うのも王の務めなんじゃよ! 大体、騎士爵だとワシじゃなくてフランちゃんからの褒美になっちゃうじゃろ!?」

「あらあら、そう言えばそうですわね。失念しておりましたわ。オホホホ」

「王様に対してそう言うワザとらしい言い方とかどうなの!?」

「そうですね、別に何かあげればよいのでは?」

「あれ? スルー?」


 とか言う、王様とメリノ母――フランドラッテ夫人のやり取りがあったとか

 現実にも騎士という称号はあるようですがこの話の中に出てくるものとは異なります。

 この世界の騎士爵はあくまで『親』の貴族から与えられるものであり、王様からの褒美にはなりません(『王の騎士』となった場合は別)。なので、主人公さんたちはこの後別の褒美を王様から貰うことになります。

 ちなみに王侯貴族を護衛している人たちなどを平民が「騎士」と呼んだり、「騎士団」という組織があったりしもしますが、正確には「兵士」であり、「称号としての騎士」とは別物です。



 メリノ母の本名はフランドラッテ・レスター・フーカといいます。親しい人にはフラン夫人とか呼ばれています。

 なおメリノ君の父親は「権力闘争などもう嫌だ! 実家に帰る!」と言って早々に領地に引っ込んでしまった人です。

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