96 報告そして売却
あけましておめでとうございます……遅い?
「それで早速で悪いが証拠を見せてほしい。」
「分かった。」
ギルド側でダンジョンコアの大まかな扱いが決まったようで(細かい所は後日ということだが)、早速最下層まで行った証拠の提出を求められた。
なので、アイテムボックスから49~70までの階層魔宝石と地図を取り出し、テーブルの上に並べる。
「これが証拠だ。魔石などは……ここで換金してくれるなら一緒に出すが?」
「いや、これだけで大丈夫だ。魔石の換金はここじゃ無理だ。この話し合いが終わったらギルドに来てくれ。それにしてもアイテムボックス持ちだったのかい……あんたには驚かされてばかりだね」
アイテムボックスから取り出す光景を驚いたように見ていたギルドマスター達だが、すぐに私たちが出した魔宝石の鑑定にかかる。
さっき書記だと思っていた人がどうやら鑑定役の人だったらしい。魔宝石を1つ1つ確認していく。そしてすべて確認し、
「ふむ、各階層の魔宝石で間違いありませんな。地図の方は私では確認できかねます。」
「そうかい。…………ふぅ」
鑑定役の人の言葉を聞くと息を吐きイスに深く座り直すギルドマスターたち。
「まったく、アンタたちならと思っていたが、本当にやっちまうとわな」
そう、感慨深そうにしみじみというおばあちゃんギルドマスター。
「信じるのか? 70層までの魔宝石はあるが、それだけだとそこが最下層だと分からないんじゃないのか?」
「さっきも言ったとおり、あそこの魔法陣は最下層につながっているってのはもう結構昔に出た研究結果だ。もし嘘だとしても70層まで行ったのは確実なんだ。それだけでも賞賛ものだよ。」
どうやら70層が最下層ということで信じてくれるようだ。
「その件なのだが少し報告しなければならないことがある。……この件について口外するかどうかはそちらで決めてもらっていい」
「ほう、何だい?」
一応今後ともギルドにはお世話になるし、あまり不信感を持たれるのはよろしくない。
そうして70層に至った経緯を話す。
これについてギルドマスターにはちゃんとした報告を行うことを事前に皆に伝えている。
ダンジョンコアを支配下に置いた魔物を倒したこと。(魔王ということについては信じてもらえるかどうかわからないのでぼかした)
そのため30層までしか攻略していないこと。
「――以上だ。多少ズルをした感は否めないため、そちらが踏破していないと判断するのであればそれでもいいが。」
「ちょっと! それだと私が困りますわよ!」
アリシアさんは踏破したという実績があった方がいいので口を出してくるが、それは杞憂だったようだ。
「いや、それでも最下層まで行ったことは確かなんだ。それに60層台の魔物も倒しているんだろ。なら問題ない。」
こうして私たちはダンジョンを制覇した初の冒険者となった。
なお、ダンジョン踏破者の名前の公開などはパトロンであるアリシアさんの希望でもあったため了承した。これで私たちも有名人だな。
◇◇◇
その後、ダンジョン入口を後にして迷宮都市ギルドに移動した。
フェンリル達も一緒だが、さすがに建物の中に入れるわけにもいかないので……というか出入り口や室内の大きさ的に入るとかなり窮屈になるので外で待機するように伝えた。
ダンジョン入口の建物はどうやって出たのかって? あっちの建物はかなり大きく作られていたため通れた。大量の冒険者対策というよりは見栄えを重視しているようだった。勿論それだけでなく、扉は頑丈で実用性もあるのだろうが。
フェンリル用にと途中でリボンを買い、首に巻いてやる。飼い犬っぽく見えるようにしたのだが、……うーん、無理があるかな。私たちは事情を知っているのでわりと可愛らしく見えるのだが。
フェンリル君は『おお、王からの頂き物とは――』とか言っていた。
ギルドマスターが、先頭に立って移動したとはいえ視線がすごいのなんのって。
「今戻ったよ」
「ギルドマスター、お帰りなさい」
ギルドマスターが入っていくと職員が出迎えてくれる。そうして後ろからぞろぞろと付いていく私達。
「全員いるね。じゃあこの場で言ってもいいだろう。みんなよく聞くんだ! 今日、ダンジョンが踏破された! 踏破したのはここにいる女性5人のパーティー『高潔な乙女達』だ!」
そうギルドマスターが―声を張り上げると、周囲がシンとなり……少し間をおいてから「おおー!!」という感嘆の声がそこかしこから聞こえてきた。
「マジかよ!」
「踏破したって? 最下層まで行ったのか!?」
「あいつらが? 女のパーティーじゃねぇか!」
「おいおい、あっちのねぇちゃん色っぽいな」
「俺はあの黒髪の女が好みだ」
……何か違う声も聞こえてくるが。
「さて、じゃあ魔石の換金だが、」
「その件なのだが、先ほど話したように一部ダンジョン産ではない魔物がいた。それについては死体ごと持ってきているので、それらも買い取ってほしいのだが、できるだろうか?」
「通常の魔物かい? じゃあ解体場に行くかね」
一度ギルド内に入ったのだが再度出て、ギルドに併設されている魔物解体場に行くことになった。
なお、魔物解体場は魔物の大きさの関係で倉庫のような大きな建物で行われるため、出入り口も大きくフェンリルも入ってこれた。
ちなみに、解体場は大体のギルドに併設されて存在する。魔物はそれぞれの部位がいろいろな用途に使用されるためである。とはいえ、普通の冒険者だと荷物量的に自分たちで解体して高価な部分のみ持って帰るということも多々あるため、あまり流行ってはいない。
さらにここは迷宮都市――死体の残らないダンジョン目当ての冒険者が多いため、地方のギルド並に小さい。(それでもテニスコートぐらいの大きさはあるのだが)
王宮側のギルドの解体場などはここの3倍以上の広さがある。
「よし、じゃあ…………何体ぐらいあるんだい?」
え? 何体? 倒して片っ端からアイテムボックスに突っ込んでいたので正確な数がわからない。
意識をアイテムボックスに傾けて、内容物を確認する。
「えーと、ひゃく……112体だな。」
「それはここに入るのかい?」
「全部は無理だな。何体か分けて出そうか?」
「悪い、後日でいいか? それまでに人員などを手配しておくよ」
「わかった。」
結局またギルド側に戻った。
「で、魔石の方は全部売るのかい? 宝は売ってくれないのかい?」
「魔石の方はすべてだな。宝はパトロンがいるのでそちらに譲ることになっている。」
「そうかい、じゃあ出しておくれ」
ゴトゴトゴトゴト――
「ちょ、ちょ、ちょっと待った!」
魔石を出していたら、待ったがかかった。
「なんだいこりゃぁ!?」
「なんだって、魔石だろう?」
うん、魔石だよな。目の前にうず高く積まれた一抱えもある魔石たち。
そうして頭を抱えるギルドマスター。
「まあ、確かに60層の魔石だから予想はしておくべきだったんだろうけど……おい、全員これらの換金を手伝いな!」
ギルドマスターが声をかけ、こちらをビックリして見ていたギルド職員たちがその一言で、我に返ったのか集まってくる。
後ろにいた冒険者たちも、驚いているな。視線の先は魔石だな。……そうか、これだけ大きな魔石を大量にとなると大金になるもんな。
これが勝ち組が浴びるという視線か。むふー。
「なんだよあの魔石! でけぇな!」
「あれだけ大きいってことはレベルどのくらいなんだ? 想像もできねぇ!」
「やっぱ迷宮を踏破したってのは本当だったんだな!」
「しかも大量にあるぞ」
「あっちのねぇちゃん色っぽいな」
「俺はあの黒髪の女が好みだ」
……さっきの奴がまた湧いているな。
「お嬢ちゃん達、悪いがこれだけの量となるとすぐに換金は無理だ。数日待ってもらってもいいかい?」
「ああ、構わない」
「そうかい、じゃあ……2日後に来てもらえるかい? 魔石の方はそれまでには終わらせとくよ。その日に魔物の解体の方も行おう。といっても何回かに分けてになるだろうけどね」
「分かった。昼ぐらいでいいか?」
「ああ」
そうして、2日後に来る約束をして私たちはギルドを後にしようとしたのだが――
少し間があきそうなため1話だけ投稿します。
山場と山場の間の話って整合とかの問題もありよく詰まるので……
ささっと終わらせたいのですが詰め込みすぎるとただの説明文みたいになるし。