94 一方そのころ 2
祝通算100話(本編94話だけど)∩( ・ω・)∩ばんじゃーい
そして主人公さんは出てこない(´・ω・`)
「ああ、あの子は大丈夫だろうか……」
「あなた、今日はフーカ夫人もいらっしゃるのよ。そのようなことを口に出さないでください」
あの後、メープルローズ伯爵夫妻とフーカ公爵家子息であるメリノとはたびたびお茶会をする仲となっていた。
もともとはそれほど仲がいいわけでもなく、派閥のようなものも違ったため――そもそも11歳の次男なのでそこまで他の貴族達と交流があるわけでもない――そこまで交流も無かったのだが、アリシアが冒険者となりメリノ公爵御令息が出資しているとあって、次第に交流するようになっていった。
今回はさらに、王都で働くフーカ公爵夫人も同席していた。一応メリノの保護者であるし、『高潔な乙女達』への出資はメリノが決めたことではあるが、未成年者であることなどから、表向きは保護者である夫人が出資している事になっている。そのためフーカ夫人とも交流の機会を設けることができたのだ。
「しかしアリシア様達が迷宮に潜ってから結構経ちますからね、心配されるのもごもっともかと。」
「……申し訳ありません、みっともない所を」
「いえいえ、息子のメリノも結構心配しているようですしね。」
「メリノ様、娘のためにお心を割いていただきありがとうございます。」
「あ、いえいえ」
メリノにとってはアリシアよりも、ノワールの方を心配しているのだが。別にアリシアの方も心配していないわけではないので笑みを浮かべて相槌を打っておく。
とはいえ、メリノやメープルローズ伯爵の心配はもっともだ。なんせ長期間にわたって、連絡が無いのだ。もっとも迷宮という特性上、長期の行軍というのは珍しくないし、その間外部との連絡は取れなくなるのは当然なのだが。
「そう言えば、シャロレー殿はご在宅ですか? 挨拶ぐらいはしておきたいのですが……」
シャロレーは自身の娘を貶めた男爵令嬢の取り巻きとなっているとメープルローズ伯爵は聞いており、あまりいい感情は持っていないがそれでも自分たちよりも上の貴族の令息である。最低限の礼儀はわきまえるべきだろうと思っていると、
「ああ、あの愚息ですか。あれなら謹慎中ですのでお気になさらず。」
「き、謹慎ですか。」
メリノの兄でありフーカ公爵家長男であるシャロレー・レスター・フーカだがエリナ嬢に傾倒するあまり、学院の成績がガタ落ちとなっており、母親から一時謹慎し、頭を冷やせと言われていた。
もっともシャロレー本人はひどく反対したようだが。
フーカ夫人は本来ならこのままおとなしくしていてくれるように期待しているようだが、あの様子では無理だろう。これはメリノに家を継がせることも視野に入れなければならないかと思っている最中だった。
メープルローズ伯爵はこれ以上の深入りは不要と判断し、少々強引だが話題の転換を図った。
「そ、それはそうと、先日王城からの使者が参りまして、なんでも3日後に貴族を集め何かの発表を行いたいと」
「ええ、その話なら私も伺っております。王都にいる有力な貴族に声がかかっているようですね。内容までは聞いておりませんが」
「フーカ夫人でも内容をご存じないと?」
「ええ、まあ貴族を集めているのですからそれなりの件なのでしょうね。」
◇◇◇
数日後
王の謁見の間には、今ローズ家当主であるローズ男爵とその令嬢であるエリナが呼ばれていた。
玉座には王が据わっており、その前に頭を垂れた2人がいる。そして周囲にはこの国の重鎮たちや高位貴族が数十名並んで立っている。
フーカ公爵夫人やメープルローズ伯爵夫妻もこの場に参列している。
「父上! 急な呼び出しだが何の……エリナ! なぜここにっ!」
謁見の間にズカズカと入ってきたのは第二王子のアレックスだ。どうやら彼もこの場に呼ばれていたようだが、何の事かは聞かされていないらしい。周囲の貴族達は第二王子の登場に少々びっくりしていたもののその後の反応は様々だ。
一方のアレックスはこの場に大勢の貴族がいて、エリナが呼ばれていることに対して、ニヤリと勝ち誇ったような笑みを見せた。
(なるほど、どうやら父上はエリナとの婚約をようやく認めたらしいな。この場で宣言するのだろう。)
そんな能天気な考えがアレックスの脳裏によぎる。
またエリナやその父の男爵令嬢も同じように考えていた。エリナは思ったより早く婚約を認めてくれそうなことに顔を下に向けたまま口を吊り上げ、ローズ男爵もエリナとアレックスの事は聞いていたためこれで王族の仲間入りを果たし夢のような強大な権力を手に入れられると頭の中で舞い上がっている。
周囲の貴族達も第二王子と男爵家との関係は知っているため、難しい顔をしている。大多数は第二王子の婚約に関して納得はしていないようである。さすがに相手が男爵家ともなれば当然ではあるのだが。
「役者がそろったようだな。では始めよう。面を上げよ。」
王が言葉を発した。 その言葉に従いゆっくりと頭を上げる男爵たち。真顔を保っているが瞳はキラキラと輝いているようにも見える。
「まずは他の貴族達も含め、急な呼び出しであったことを詫びよう。」
「いえ、そんな我々は王のためとあればそのような些細なことは気にいたしません」
ローズ男爵が答えるが、早くも真顔が崩れそうになっている。彼にとってこの後のことを考えれば本当にこのようなことは些末なことなのだろう。
――考えている通りなのであればだが。
「ふむ、皆を集めたのは他でもない、ここにいるローズ男爵家の事であるが――」
キタ―
アレックス王子やエリナ、その父は期待に顔を輝かせ次の言葉を待つ。
「――ローズ男爵家は取つぶし。娘であるエレナは殺人教唆の罪で死罪とすることを伝える。」
「……………………は?」
アレックス王子ほか謁見の間のほとんどのものがポカンとしている。今王は何を言ったのか分からないといった顔だ。
「ち、父上! 取つぶし? 殺害? 何を言っているのですか!?」
一番早く、反応したのは第二王子だった。
「今言ったとおりだ。そちらの男爵の娘――エレナだったな。彼女はメープルローズ伯爵の令嬢であるアリシア嬢を殺害しようとした罪がある」
「な、なにをっ! そんな馬鹿なことがっ!」
「証人を連れてこい」
王のその言葉によって連れてこられた証人――それはかつてダンジョン内でアリシア達を殺そうとしていた盗賊の一人ウィルズだった。
連れてこられた彼の目はうつろ、口は半開きで涎を垂らしている。どう見てもまともな状態ではなかった。
そして語られる計画の全貌。まあ結局、ウィルズがローズ家お抱えの暗殺者でエリナがアリシア殺害を指示したという事であるが。
さて、経緯は実に簡単である。ノワールたちが地上に送り届けるように言った冒険者たちが通報したのだ。ダンジョン内であっても明らかに貴族の身なりであるアリシア。さすがに冒険者たちも気づき、貴族を害しようとしたと衛兵に通報した。貴族を害しようとするのは重罪である。無論衛兵に突きだされた後、取調べという名の拷問が始まった。
大体の盗賊はこの場で金と女目当てだと吐き、涙を流し命乞いをした。だがそんな中で口を割らなかったものがいる。無論ウィルズである。
普通の盗賊程度であれば命乞いどころかその場で気を失ってもおかしくないような拷問を受けたにもかかわらず、口を割らなかったのだ。これは逆に何かあると、専門の拷問官が呼ばれ長期間の薬物投与などにより口を割らせることに成功した。
現在の状態はその後遺症である。
周囲の貴族たちは一斉にざわつき始める。内容を理解したメープルローズ伯爵夫妻など怒りに震え、今にも飛びかからんというような状況だ。
ローズ男爵たちの方は何かを期待するような顔から一転、顔はひどく青ざめている。男爵についてはガタガタと体を震わせている。
ウィルズが帰ってこなかったことに関してエリナが何も気づかなかったのかと言われたら肯定である。ウィルズに関しては下調べも含めて暗殺に長期間出張るという事も少なくなかったため、また高レベルということ、ダンジョンという未知の領域ということで、長期間帰ってこなくても不信に思わなかった。
「さて、ローズ男爵、何か申し開きはあるか?」
「ち、違うのです! わ、私は何も……父が勝手に指示を行ったことで!! そもそもこのような者は――」
「お、おまえ!」
いきなり父親の男爵を差し置き娘が苦しい言い訳を始める。その裏切りに男爵は驚きエリナを見る。
「ふむ、見苦しいな。二人を連れて行け!」
「お待ちください父上! これは何かの間違いです! 冤罪です! きっとあの性悪なアリシアの罠です!」
「まったく、この期に及んで……アレックス、貴様にも言う事がある……アレックス第二王子はその王位継承権を剥奪する。また学院卒業までは面倒を見るがその後は王国直轄地にて執務を言い渡す。」
「――なっ! そ、そんな……」
がっくりとうなだれるアレックス王子。
そうして両脇を衛兵に固められ連れて行かれるローズ男爵と娘のエリナ。
これにてこの件は終了となると思われたその時、謁見の間に一人の兵士が駆け込んできた。
「なんだ騒々しい、今は重要な話の最中であるぞ!」
「失礼しました! しかし、王命により至急伝えるようにと言われてたため――」
「何!? そうか報告しろ」
「はっ!」
王はこの兵の言葉よりある事に思い至った。通常至急の案件など指示することはほぼない。指示をしたのは――
「アリシア・ショコラ・メープルローズ伯爵令嬢が迷宮から帰還いたしました!」
「おお!」
主人公さんと関係ないところなのであっさりと終わります。
第二王子の適当な左遷先が思い浮かびませんでした。