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制服連合のみんなが集まるのは、藤代さんが学校を訪れた時以来だ。久しぶりに会ったこともあって、皆盛り上がっている。話す内容は主にテストの話なのが残念だと思う。
「それじゃあ、みんな久しぶり。テストのことなんか忘れて、これからどうするか決めよう。夏休みももうすぐ始まるし。」
そう言うと、相川さんが手を挙げた。
相川さんはここ数週間で変わったと思う。前までは引きがちだったのに、今では2年の男子たちよりも積極的に意見を述べるほどになった。
「あの、また勉強の話で悪いんですけど、先輩たちって、そろそろ勉強しないといけないんじゃないかなって思うんです。私の兄が今大学1回生なんですけど、去年夏休みなんて勉強ばっかりで部屋からでてこないくらいだったんですよ。制服連合のせいで先輩たちが後で困るのはイヤなので…。」
そんなことを言われるのは想定外だった。確かに、テストが終わり、夏休みが迫っている今、そろそろヤバいかもしれないという3年生も少しずつ増えてきた。私の今までの成績はあまりいいものではないし、今回も怜治君がいなければさらに落ち込んでいたと思う。まだ結果が出ていないのでわからないけれど。
どう答えるか悩んでいると、怜治君が先に口を開いた。
「心配してくれてありがとう。確かに、3年生はそろそろ勉強しなきゃいけない。ぼくも塾があるしね。でも、制服連合はまだできて間もない。それに藤代さんからの返事もまだない。今ぼくたち3年生が抜けるのはちょっと危ないかな、と思う。だから、少なくとも藤代さんの話に決着が着いたらぼくたちは勉強に専念する、っていうのでどうかな。」
そう言って彼は私を見た。とっさに私は付け加える。
「そうだね。私もそれなら安心できるかな。」
そう言うと相川さんを初め2年生も納得したようで、とりあえず藤代さんからの返事を待つこととなった。
数日後、テストの結果が返却された。私は大体中の上くらい、つまり平均以上の成績だった。ここのところ平均を超えたことがなかったので、これはうれしい結果だった。すぐにメールを打った。
-怜治君、今回のテスト、順位上がりました。本当にありがとう。またなんかお返しするね。-
しばらくすると、返信があった。
-それは良かった。今回ダメだったよ。ま、次の模試で頑張ることにする。
あ、別にお返しなんて気にしなくていいよ。-
と、言われてもどうしても気にしてしまう。どうすればいいのか、勉強も忘れてその日は悩んでいた。
結局、無難に学校の帰りにご飯を奢ることにした。怜治君はずっと遠慮していたけれど、負けじとお願いすると了承してくれた。
というわけでファミレスに来ている。彼は安いグラタンとドリンクバーだけしか頼まなかった。そういう私も同じなのだけれど。
彼は私の成績表をまじまじと見ている。本当に家庭教師か塾の先生みたいだ。目を大きく開き、瞬きすらしない。
「うん、すごい良くなったね。特に英語、あのテストでこの点はすごいや。」
ハイ、と言って私にその紙を手渡す。
彼が私を褒めてくれる度に罪悪感が募った。私のせいで彼の成績が下がってしまったと思うと、彼の前では素直に喜べなかった。
沈黙が流れる。何か話題を出したいが、勉強の話はしづらい。何かないか…と考えていると、口が滑った。
「小学校のこと、覚えてる?」
言ってからしまったと思った。しかし、取り返しはつかない。
「え?小学生の時?」
彼はそう言って考え込むように天井を見上げた。
「父さんの都合でいろんなとこに行ってたから、あんまり印象に残ってることはないかな。」
彼は私のいた学校でも、たったの3ヶ月ほどしかいなかった…はずだ。
「でも高校に入るころに、父さんはシンガポールに行くことになって、それからは母さんと2人だけどね。」
いや、覚えていなかったのは幸い…のはずなのだけれど、心の底で、何かがくすぶっていた。どこかで、覚えていてくれる、そうでないとしてもきっかけさえあれば思い出してくれると思っていたのだろうか。自分に腹が立った。
あ、でも、と彼は唐突にそう話しを再会した。
「これ、言っていいのかなぁ…一回、この近くの小学校に3ヶ月…だったかな、居たことがあるんだよ。そのときに…」
そう言って彼はスピーチするときのような口調で話始めた。
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