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制服連合  作者: ぺーた
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拍手が教室の中に響く。教室の入り口の方を見ると、先生がなんとも複雑な表情をしてぼくを見ていた。教室の後では山岸さんがビデオカメラを畳んでいて、ぼくを見て指でOKサインを作った。その笑った顔は無邪気で、可愛い。

 あの日の昼休みに即興で作り上げた意見は、何故か連合のみんなに好評だった。そして、ぼくは毎日、ホームルームの時間にどこかのクラスに行って話をするはめになってしまった。

 さらに、相川さんのあの一言で周辺の学校の生徒たちとも協力することが決まり、ぼくが喋っているところを今日は撮影したのだ。もちろん、山岸さんの人脈がなければ他校と協力なんて夢のまた夢だっただろうけれど。

 人前で話すのは、何度しても緊張する。しかし、緊張するのは話し始めるまでだと、この頃気がついた。一度始まってしまえば、いつのまにか終わっていて、ぼくは拍手に包まれていた。山岸さんによれば、それは集中しているかららしいが、個人的には少し頭がおかしいんじゃないかと心配している。

 ちなみに、制服を着て登校する生徒は少しずつ増えているらしい。一週間に一度、山岸さんが放課後ずっと校門前に立って数えているそうだ。


「今日も良かったよ、今までお疲れさま。やっと全クラス終わったね。」教室を出てすぐに彼女は話始める。

「うん、やっぱり人前で話すのは疲れるし、もう勘弁して欲しいね。」

 ここ1週間くらいで、ぼくは山岸さんとある程度普通に話せるようになっていた。高校に2年と少し通っているけれど、こんなに自然に喋れる女の子は初めてな気がする。

「ま、もうビデオも撮ったから大丈夫だと思う。あとは笹倉くんに任せよう。」

 笹倉、というのはショートヘアーの、大きな目を持ったあの男子だ。元々は陸上部だったらしいのだが、成績が悪いのと、部活の厳しさについていけず1年の2学期で退部し、その後は動画編集なんかをしているらしい。初めはシャイに見えたが、慣れるとおしゃべりになった。他人に慣れるまで時間がかかるのだろう。


 ビデオをどこに送るのか気になるところだが、彼女に任せることにした。聞いて心配するくらいなら知らない方がいい。

 「じゃあ、荷物取ってくるから、待っててね。」彼女はそう言うと教室に入った。ぼくも隣の教室の扉を開け、中に入る。数人の生徒が掃除をしているところだった。

「あ、上村くん、毎日お疲れ様。」そう声をかけてくれたのは飯島さん…だったと思う。

 軽く会釈をして最前列の自分の机に向かう。プリントが何枚か置かれていたが、ざっと見て重要そうなものがなさそうだったので適当にカバンに入れた。机の中を覗き込み、忘れ物がないか確認し、カバンを肩にかけて教室を出ようと歩き出す。

「またね。」

 飯島さんが言う。ぼくは手を振ってそれに答えた。


「よし、じゃあ行こうか、みんな待ってるだろうし。」教室の外では既に山岸さんが待っていた。彼女はそう言うと、先に歩き出した。ぼくはそれに着いていく。


 初日から、ぼくたちが放課後集まるのはあのファミレスだ。店にとってはイヤなお客さんになっていることだろう。ぼくが頼むのはドリンクバーだけだし、ほかの皆も大方そうだ。ちなみに、ぼくは話し合いにはほとんど参加していない。求められたときだけ喋るようにしている。それは、元々ハッキリした理由なしに参加しているし、さらに適当に作った話をしたくなかったからだ。それは山岸さんも理解しているらしく、あまりぼくには話しを振って来ない。どちらかというと、1年の相川さんがよくぼくに意見を求めてくる、というかヒソヒソ声で相談してくることが多い。正直毎回困っている。


 しかし、この日は何事もなかった。いくつか多数派が取られ、それにぼくが手を挙げる。ただそれだけの動作で済んだ。


 ぼくの家は一般的な、何が一般的なのかはわからないが、並の家だと思う。住宅街にある、似たような家のひとつだ。父の意向で中学までは転勤が多かったのだが、高校になってからはこの家で過ごしている。


 家の扉を開けると、母の「おかえり」という声が聞こえた。なんだか少し声が固いような気がした。

「ご飯、もうできてるよ。」ぼくが階段を登ろうとするところで、母が背中から声をかけた。わかったとそのまま答えて、部屋に入ってさっと服を着替えた。


 ダイニングに行くと、母が夕食を用意して座っていた。ぼくはその向かい側に座り、さっと手を合わせた。

「ねぇ、前のテスト、どうだったの?」そろそろ結果が返ってくるんじゃない?」母がいきなりそう切り出す。

 驚いた。今まで母はぼくの成績なんか気にしたことがなかった。そして、結果は昨日返って来た…が、見せるのを忘れていた。

「あぁ、そういえば昨日貰った。ちょっと待ってて。」そう言ってぼくは部屋に戻り、机の中に置いた一枚のプリントを取り出し、すぐに一階に下りた。

 

 はい、と言ってそれを差し出すと、母はいつになく真剣にそれを読み出した。

「うん、ありがとう。」少ししてぼくにプリントを渡した。

 その顔はどこか複雑な顔をしていた。





読んでくださりありがとうございます。

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