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ぼくがある程度落ち着くと、彼女は店を出ようと提案した。ぼくはそれに同意して、2人で外に出た。
「やっぱり暑いね。」
外はこれこそ日本の夏、というくらい蒸し暑かった。太陽はもう沈んでいるのに、ヒートアイランド現象というのは恐ろしい。
「ヒートアイランド現象ってのはすごいね。」
彼女がそんなことを言ったので、ぼくは少しの間凝視してしまった。
「なんか顔についてる?」
と聞かれてすぐに視線をそらした。
その後も他愛のない話題について話していると、いつの間にかぼくたちが別れる交差点までやってきた。
ぼくはそっぽを向きながら、彼女に話しかける。
「ちょっと、話さないとダメなことがあるんだ。」
それは、ここ2日ずっと考えてきたことだ。一番に、彼女に知っていて欲しい。
「待って、私もあるの。先に言わせて。」
ぼくとは違って彼女は目をキチンとぼくに向けている。
そして、ぼくは押しに弱い。
ぼくの沈黙を肯定と取った彼女は、躊躇もなく話し始めた。
「私、怜治君のことが好き。これから受験でお互い大変だけど、怜治君となら頑張れる気がする。だから…」
そこまで言ったところでぼくは手を出して彼女の口を塞いだ。
「そのことなんだ。ぼくは、9月からシンガポールの高校に行くことにしたんだ。三日前、母さんがどうかって。最初はイヤだったけど、家族のためにはそうするのが一番いいんだってわかった。それに、英語も学べるし。」
彼女は、ぼくの話を理解できないでいるようだった。
「嘘!そんないきなり…ちょっとは相談してくれたらよかったのに。」
また離れ離れになるの?と聞く彼女の顔は、涙で濡れていて、それがまた最高にかわいかった。
「うん、ごめん。本当にごめん。」
ぼくはただ謝ることしかできない。
「それに、怜治君英語苦手じゃない!」
「そうなんだ、でも、これから得意になるから。」
「バカ!」
彼女はそう言って、大声で泣き始めた。通行人が目を向けては逸らすのを肌で感じた。
ぼくは彼女がぼくのことを好いているのはなんとなくわかっていた。さっきなんて、「下心があった。」なんて言われたらのだ。それくらいはわかる。
でも、シンガポールに行くことを決心したからには、彼女と付き合うことはできないと思った。彼女だってぼくだって受験生だ。いつかはメールを打つ時間すら惜しくなるだろう。そんな中でぼくはやっていけない。
ぼくは彼女に近づき、小学校のときしたように彼女のキレイな髪をなでた。今回はぼくのほうが背が高い。見下ろすと、彼女はぼくの顔を見上げて、抱きついた。
「もっと。」
彼女はそれだけ言って、ぼくの胸に顔を埋める。それに従ってぼくは何度も何度も、根元から先まで丁寧に手を滑らせた。
どれくらいそうしていただろうか、彼女はまたぼくのことを見上げて、
「いつまで日本にいるの?」
その目は腫れていたが、もう涙はでていなかった。
「8月の初めくらいには、あっちに行く予定だよ。生活にも慣れないといけないし。」
「そっか、ねぇ、私のことは好きなの?」
いきなりすごいことを聞かれた。抱きしめられながら、そんなことを聞かれたら、誰だって動揺する。
「目を逸らさないで。」
と言って彼女はもっと強くぼくを両腕で引き寄せる。
彼女の目は真剣だった。その姿は本当に美しい。
「うん、ぼくは、山岸さんのことが、好きです。」
言い終えた瞬間に目を逸らすと、背中を叩かれた。ここまで気が強かっただろうか。
「うん、すごい嬉しい。」
そう言う彼女の頬も赤くなっている。
「じゃあ、私と付き合ってくれるよね?」
上目遣いの彼女は、やっぱりものすごいかわいい。
結局、ぼくは押しに弱い。
「うん、こんなぼくで良ければ。」
そう言ってぼくも彼女を抱きしめた。
「これから大変だよ?」
「バカ、それくらいわかってる。」
彼女の目は今までで一番輝いていた。
2014/01/31-完結しました。
読んでくださりありがとうございます。元々はハッピーエンドにするつもりではなかったのですが、書いている内にエンディングが浮かんできたので、このようなエンディングになりました。バッドエンドを期待されていた方、すいません。
また、山岸咲輝のイメージが最初と最後では全然違う、という点を特に反省しています。ほかにも沢山ありますが…
誤字脱字も多くあったと思いますが、お許しください。
楽しんで頂ければ幸いです。
最後にもう一度
本当にありがとうございました。




