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制服連合  作者: ぺーた
10/14

9

  ぼくは、思い出しながら話しを続けていた。人の秘密を話してしまうという、罪悪感を抱きながら。

 

 あの日、ぼくはムシャムシャしていた。いわゆるガキ大将のようなやつに父さんを馬鹿にされたからだ。いや、馬鹿にされて何もできなかった自分に怒っていたのだろう。恥ずかしい自分を父さんに見せまいとして、放課後教室に残った。もしかすると、誰かが慰めてくれるのを期待していたのかもしれない。

 モチロン、ぼくは泣いていた。できるだけ声を立てないように。でも涙はなかなか止まらなかったのだ。気がつくと、ティッシュが無くなっていた。困ったぼくは、トイレットペーパーを取りに行くことにした。トイレ掃除をしていたから、どこにトイレには予備のトイレットペーパーがあることを知っていた。

取りに行く途中、女の子が教室に一人でいるところが見えた。そっと教室を覗くと、泣いているようだった。ぼくよりも背が高い、少し気の強そうな子だった。

「もう、こんな学校やめたい。」

 そう言った。少なくともそう言ったように聞こえた。それくらい小さな声だった。

 何だって、ぼくのほうが辛いのに、ぼくだって止めたいのに、我慢してるのに、そんな思いが頭を満たした。

「ねぇ、じゃあ、やめたら?」

 だから、あんなことを言ってしまった。幼い子どもの、ただの理不尽な怒りを表現するためのものだった。


 彼女は、ビックリしたようにこちらを見た。その顔は涙でぐちゃぐちゃで、本当に、本当に悲しそうな顔をしていて、ぼくは怯んでしまった。

 やってしまった、素直にそう思った。彼女は、ぼくよりも傷ついているとわかった。

「待って、トイレットペーパー取ってくる。」

 ぼくはあのときもそう言って一旦逃げた。

 でも、トイレまで走った。帰り道も走った。そうしないと、彼女が消えてしまいそうな、そんな予感がしていた。

「はい」

 そう言って彼女にトイレットペーパーを渡すと、彼女は涙を拭き、鼻をかんだ。

「さっきは、ごめん」

 そう言おうと何回も思った。でも、バカみたいに大きなプライドがそれを許さなかった。

「ありっ、グスっ、がとう。」

 彼女がなそう言ったのをぼくは聞き逃さなかった。

 ぼくは安心して、彼女のそばで何も言わず座っていた。

 窓の外には、どんよりとした空が広がっていた。



「その子は、お母さんが誰かに殺されちゃったって言ってた。ぼくの耳が正しければだけど。」

 ぼくはいつの間にか話すことに夢中になっていた。はっとして山岸さんを見ると、彼女は俯いて、身体をふるわせていた。

「大丈夫?ごめん、こんな話するんじゃなかった。ホントに大丈夫?」

 ぼくは彼女の顔を下から覗き込む。

 彼女は泣いていた。でも、同時に笑っているようにも見えた。

 ゴメン、そう言って彼女は涙を拭った。

 ぼくは焦りながらポケットティッシュをカバンから取り出す。彼女はそれを受け取るために、一瞬だけ、顔を挙げた。

 ハッとする、という表現がピッタリだろう。その泣き顔が、あの女の子と同じ、完全に同じだったのだ。

「山岸さん…」

 ぼくは、何か言うべきだった。謝罪の言葉を、慰めの言葉を。

 彼女は突然立ち、1000円札を机にサッと置くと、走って店を出て行った。

 店にいる人から非難、とまでは言わないでも白い目で見られているのがわかった。でも、全く気にならなかった。

 でも、ぼくは彼女を追いかけようとはしなかった。何を話せばいいのか、まったくわからなかったのだ。

 ぼくは、あの時のことをまた思い出していた。


 彼女が一通り話しを終えたとき、太陽は傾き始めていた。

 ぼくの怒りはもうどこかに消えていた。

 彼女慰めようとは思わなかった。どれだけ言ったところで、ぼくは他人なのだ。ぼくなら何も言われたくないな、そう思ったのだ。

「ねぇ、何も言わないの?何も思わないの?」

 彼女はそんなぼくを不思議に思ったみたいだった。

 何を言っても傷つけそうで、ぼくはお母さんがぼくにしてくれていたように、彼女のキレイな髪をなでた。

 彼女は驚いた目をして、すぐに俯いてしまった。

 長い間、そうしていたと思う。ぼくには少なくともそう感じられた。手が疲れてきた、そう思い始めたとき、彼女は顔を上げた。

「ありがとう。」

 彼女はさっと荷物を取り、部屋から出て行こうとした。

「ホントにありがとう。」

 彼女は部屋をでる前に、一度振り向いて言った。

 その時見た笑顔は、夕日に照らされて美しかった。

 

 


読んでくださりありがとうございます。

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