1*雪の日に。
私の彼氏は、暴力団のリーダー。
山本 蓮だ。
蓮と出会ったのは…そう、あの日は確か、クリスマスイブ__
__そう、蓮と出会ったのは…12月24日の、クリスマスイブだった。
久々の雪が、私の心を温かくする。
それと共に、バイクのエンジン音が鳴り響く。
徐々に音が近づき、私の横で音が止まった。
「よ、姉ちゃん。随分ブランドもんで気取ってっけど、もちろん金はあるよな?」
…うわ…チンピラか…。
私は、チンピラから遠ざけようとした。けれど、なんだか気になる。
少しだけ、立ち止まって聞いていた。
「やめてください!…私…お金なんて…」
止められる訳でもないのに。
助けられる訳でもないのに。
むしろ、興味だけに偏って、助けようなんて気持ちはこれぽっちも無かった。
チンピラの言葉遣いは、段々と荒くなってきた。
「おい!金よこせっつってんだろ?!上品ぶってねぇで、さっさとよこせよ!」
「やめてください!本当に、やめてください!お金なんてないんです!」
「あぁん?じゃあそのバッグ、見せてみろよ。」
「…い…嫌です…。」
「いいから見せろっつってんだろ!」
「きゃぁっっ!!」
チンピラが、女性を…殴った…。
私の体は自然と動き、すぐにチンピラの目の前にあった。
わ…私…一体何を…。
「あ?てめぇ誰?」
「……その方を離して下さい!」
「は?面識あんの?」
「…ない…です…けど!本当に、離してあげて下さい…!…お願いします!」
面識もなければ見たこともない。
その女性のため、私は何故土下座などしてるのだろう。
途中、目覚めたが、私は土下座をやめなかった。
「……ふぅーん…おもしれぇ。じゃあお前でいいや。」
「えっ…」
「あ、ありがとうございます!」
女性は、そう言ってものすごく早く走って行ってしまった。
私を、空手の黒帯か何かと勘違いをして。
「…お金はいいから、少しお願いを聞いたら帰してあげる。ちょーど結構かわいーし。ですよね、リーダー。」
り…リーダー…?
「…あぁ、丁度いいかもな。」
奥から、メンバーをかき分け、出てきたのは…。
少し長めの黒髪の…目の隠れた男…。
リーダーのオーラが漂った。
「ささ、リーダー、早く連れて帰りましょう!」
「………」
「リーダー…?」
「…やめとけ。」
「えぇっ!何故ですか!リーダー!」
「いいから、やめとけ。……おい、お前。早く帰れ。」
「…えっ…私ですか…?」
「そうだ、お前だよ。あ……もしかして、帰りたくない?」
急に、リーダーの顔が目の前にきた。
と同時に、
フワッ…!
今までにない、強い風が吹いた。
「…あっっ…」
「あんた、大丈夫?顔、真っ赤だけど?…あ、もしかして…。見た?」
「……は…はい…」
「…まじかよーー。まぁ、 ドンマイ。」
ドンマイって…。え…。
すぐに、姿は消えていた。
それにしても…。リーダーって…。
優しい気が…。
あの目……。
その後、本当にチンピラ達は帰って行った。
…私…何かした…?
私は疑問を抱きながらも、家に帰った。
「ただいまー…って、誰もいないか。」
私の家族は、みんな忙しい。
父は仕事の出張。母は祖母の看護に青森に行ってる。兄はバイト。
一昨日まで。一昨日までは、ママとお兄ちゃんと一緒に楽しく過ごしてた。
クリスマスイブも、一緒に過ごすはずだった。約束していた。
けれど、昨日兄は急にバイトが入り、一緒に過ごせなくなった。私は何度も、バイトよりクリスマスイブのが大事でしょ?って言ったけど。
「久しぶりの時給アップなんだ。」
それでも私はやめない。
「お兄ちゃん!」
それほどクリスマスイブが楽しみだったから。
「…ごめん。」
その辛そうな顔を見て、私は素直に返事をした。
"来年は絶対一緒にいような。"
って言ったけど、もう信じられない。
去年も、一昨年も、その前も。
全部急に潰れてる。
いくら忙しいクリスマスイブだって言っても、家族を優先してほしい。
そんな私を見て、ママがこう言ってくれた。
「大丈夫よ。ママがいる。今年は一人じゃないわ。」
そう言ってくれて、とても安心した。嬉しかった。
けれど。
いきなり電話が鳴った。
「…はいもしも……七帆!どうしたの、急に連絡なんか…」
「大変!…大変なの!」
「な…何が…」
「お姑が倒れたの!どうしたらいいか…助けて!」
「え…そ、それで、今は…」
「病院で呼吸困難状態なの!このままじゃ…どうしよう!」
…こうして、ママは私に泣きながら謝り続け、私を強く抱きしめてから、お姑さんのいる青森の病院に向かった。
私は、クリスマスイブは一人ということが定着しつつあった。
クリスマスイブが大嫌いになった。