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魔王様の婚約者! 2  作者: イナミ
番外編
1/8

ばっちこいアブノーマル!!

以前の話が、予想以上にたくさんの方に読んで頂けたので、ちょっと調子に乗ってみました。

すみません!

相変わらずアホな内容です、

楽しんで読んで頂ければ幸いです!


9月9日、お兄様の容姿説明をほんの少しだけ変えました。

アンジェが魔王城に来るようになって。

一ヶ月ぐらい経った頃。



数多ある部屋の一つに、二人の少女がいた。


一人は、三歳くらいの大きな黒い瞳と、柔らかい漆黒の髪を二つに結った、可愛らしい女の子。

もう一人は、燃えるような赤い長い髪をカールさせ、ルビーのような瞳を持つ、十五歳くらいの少女。


年上の少女が、幼い少女に何かを教えている。



「いい?足を肩よりちょってだけ広めに開いて〜…そうそう!で、ちょっと腰を下げる!」


「ふらふらするぅ」


「耐えるのっ!で、両手は膝の上…上手上手!それから、相手を思い切り睨みつけるっ!」


「こう?」


キッと唇を尖らして、言われた通り睨みつけるが、少女は違う。と首をふる。


「…その顔は、今度兄様にしてあげて?きっと鼻血出して悶えるから」


「?」


「もっと、眉をグッと寄せて。鼻の上に皺つくって。下唇をすこ〜し突き出して。あ"ぁんっ!?…って感じで」


「あぁん!?」


「ん〜、まぁそれでいいや。で、声を低めに、こう言うの。繰り返してね?」


赤髪の少女は、すぅと息を吸うとドスのきいた声をだした。


「舐めとったるぁ、いてまうぞ!?こるぁっ!!」


「あめとったぁ、いてまうぞ!!こらぁっ!!」


「違う違う。こらぁじゃなくて、こるぁっ!舌巻いて」


「こるあ〜っ」


「こるぁぁっるぁぁ」


「こらぁっるぅあっ」


「るぁぁっ」


「らあぁ」


「るぁぁあ"がっ!」


ゴッと鈍い音が響き。赤髪の少女の頭が揺れた。


「〜っ!?したかんらぁっ!!」


「な・に・を!アホな事してんだ?」


「あ!まおーサマ!」


黒髪の少女が、満面の笑顔で赤髪の少女の後ろに立つ青年を呼ぶ。


漆黒の髪と瞳、服も黒一色の魔王は片手に靴を持ちながら、愛しい少女に微笑みかける。


「アンジェ。おいで」


パタパタと愛らしい足音を立て、魔王に駆け寄る少女を愛しそうに抱きあげてから、赤い頭を抑えてしゃがみこんでいる少女を見下ろす。


「シャルール。お前は何をアンジェに教えていたんだ?」


「兄様、それ革靴じゃない…まぢ痛いっ」


赤い目に涙を浮かべ、恨めしそうに魔王を見上げる。


美少女+涙目+上目遣い=最強。


というわけで、常人なら鼻血ものの公式も、魔王(兄)にしてみれば、鼻でフッとすれば終わりである。


「ざまーみろ、だ。アンジェに近寄るな。馬鹿が移る」


「バカってうつるの?」


「そうだ、だから近寄っちゃいけないぞ?」


「でも…シャルといるとたのしいよ?」


「!?」


アンジェが少し潤んだ目で、魔王を見上げる。

もう一度言おう。


美少女+涙目+上目遣い=最強。


アンジェに限り、この公式は魔王にも当てはまる。


根性で鼻血が出るのを抑えた魔王だが、ギュッとアンジェを抱きしめた。


「あぁ〜…可愛い」


「そんなアンジェは私に夢中〜♪」


勝ち誇ったように、ニヤニヤと笑いながら魔王を見る。

魔王は悔しそうに、シャルールを睨んだ。


「黙れ小娘。何で釣ったか知らんがアンジェは渡さんぞ」


「人徳ってやつですわ〜兄様は鏡をよくご覧になった方がよろしくってよ?その顔、獅子でさえ逃げだしそうなほど怖いわ。アンジェに嫌われますわよ?」


「っ!?嫌われなどせぬわっ!!」


バチバチと火花を散らす二人。

魔王の手にも自然と力が入り、アンジェを強く強く強く強く……馬鹿力で抱きしめる。

見た目は細いが、しっかりと筋肉のついた腕に強く抱きしめられ、アンジェは顔をしかめた。


「…っいたいよぅっ」


「ぅおらぁぁぁっ!!!」


ドゴォォンッと派手な音と共に現れたのは、銀色の髪に青い瞳の優しげな顔つきの青年。

青年は見事な飛び蹴りを魔王の背中に命中させた。


「ぐっ!」


あまりの衝撃にガクリと膝をつく魔王。


「…っ何を、する。シオン!!」


「じゃかぁぁしぃっ!お前はアンを抱き潰す気かっ!?」


シオンは、いつのまにか腕の中に保護したアンジェの頭を優しく撫でる。


「ケホッ…おにぃさま?」


「大丈夫か?苦しかったな?かわいそうに」


シオンは、優しい手つきでアンジェを抱きしめる。

ギュッと強く抱きしめているにも関わらず、アンジェは全く苦しそうにしていない。


アンジェが産まれた時から傍にいるのだから、扱いに慣れていて当然なのだが、魔王にしてみれば面白くない。


「返せ。次は大丈夫だ」


「五月蝿い。近寄るな」


「俺のだぞ」


「僕のだよ」


まるでおもちゃを取り合う子供のように、睨みあい火花を散らす、誰もが見惚れる美青年二人。

その対象は見た目三歳の少女という、非常に残念な光景。


「あぁっ!!」


そんないろいろと気まずい空気を壊したのは、灼熱の炎。シャルール。


らんら…いや、キラキラと輝く瞳は、獲物を狙…恋する乙女。

そんな痛……熱い視線を受けたシオンは、背筋を這った悪寒に全身鳥肌を立てていた。


ギギギ、と錆びた鉄のような動きで、振り返るとキラキラの恋する瞳が、シオンを捕えていた。


「シ、オン様?…シオンさまぁぁっ!!」


「げっ!?」


ガバァと、猪が如く突っ込んで来たシャルールを思わず避ける。


ガシャーーンッ!!


本当に猪のようにまっすぐ突っ込んだシャルールは、部屋の調度品を粉砕した。


「あぁんっ!酷いですぅ!受けとめて下さいよぅ!」


「死ねってか、おい」


いたぁいっと、見た目だけは白く細い綺麗な腕をさする。


「…お前より、壁の方が悲惨な事になってるが?」


無傷のシャルールに対して、シャルールが突っ込んだ一角は置かれていた机と花瓶は砕け、壁までもがえぐれていた。


額に青筋をたてる魔王と、ウンザリとしたため息を吐くシオン。

すごぉいっと、キラキラとした瞳をシャルールに向けるアンジェの目元を、シオンはそっと覆った。


「見ちゃダメだよ。」


「壁の修理代は、お前の小遣いから引いとくからな」


「えぇ〜!兄様の鬼畜!シオン様素敵!」


「「……」」


「きちくってなに?」


「「知らなくていい」」


「鬼畜っていうのわね〜」


「「教えなくていいっ!!」」


見事にハモった二人に、アンジェが嬉しそうに笑った。


「お兄さまとまおーサマ、仲良しだねっ」


「そりゃ、将来二重の意味で兄弟になるんだもの〜♪」


「…二重?」


シオンの頬が引き攣る。

嫌な予感しかしないんだが。


「アンジェちゃんと兄様♪私とシオン様♪結婚式はダブル挙式にしましょうね!」


やはり。と深い深いため息をついた。


「……おい、あの妄想爆女どうにかしてくれる?」


「無理だ。(バカ)をよろしく頼む」


「どっかのゴリラでも当てがっとけば、僕にはムリ」


魔王も妹に関しては、ほぼ諦めてる?見た目は綺麗なんだが、中身が残念過ぎる。

それでも、こんなんでも妹だ。

ゴリラを当てがうのは気が引ける。


「……一応妹なんだが?」


「あんな妹で同情する」


「いや〜ん!辛辣なシオン様も素敵〜!愛情の裏返しね!?大丈夫っ私、貴方のためならSにもMにもなれるわっ!!ばっちこいアブノーマル!!」


前言撤回。ゴリラが可哀相である。


「あぶのーまるってなぁに?」


「聞いちゃダメだ、耳が腐るぞ」


「喋るな、痴女」


「喋るな……ハッ緊縛プ」


「「本当に、黙れぇぇっ!!」」


「用意しましょうか?さるぐつ」


「やかましぃっ!!」


「おさるさん?」


「アンジェ、お兄ちゃんとおうちに帰ろうか?」


「私達の愛の巣ねっ!?」


「あぁ、一山超えたあたりに打ち捨てられた古い小屋があるから、そこに一人で住めば?」


「いや〜ん、放置プレイ!?興奮しちゃうっ」


「ハハハ。いいね。永遠に放置しといてやるよ」


「大丈夫っミイラになっても愛してるから♪」


「……ほんとに、どう育ったらこうなるんだ…」


頭が痛い、とコメカミを揉む魔王。


「…ところでアンジェ。シャルールと何をしてたんだ?」


「えっとね?アンジェが、だれかにいじわるされたときに、どうしたらいいか、おしえてくれたのよ?」


「…ちなみに、どうするって?」


「え〜とね、イスにすわるみたいなかっこうで、あいてをにらむの!こうだよっ」


キュッと眉を寄せて、下唇を突き出す。

精一杯、二人を睨んでみせるが、全く怖くない。

寧ろ、可愛いすぎる。

こんな顔で睨まれたら、襲われてしまうんじゃないだろうか。


などと、余計な心配をする魔王とシオンを余所にアンジェは続ける。


「で、こういうの!『あめとったぁ、いてまうぞ!こらぁっ!』」


「「……」」


「『らぁ』が、じょうずにいえないの」


「うん、すぐに忘れな?」


「上手に言えなくていいぞっ」


ニコリと笑うシオン。

どこか懇願しているような魔王。

アンジェは首を傾げた。


「なんで?」


「アンジェにいじわるする奴は、お兄ちゃんがボコボコにするからだよ」


「そうだぞっ!俺が守ってやる」


しばらく考えこんでいたアンジェだったが、「そっか」と満面の笑みを浮かべた。


「おにいさまたち、つよいもんね!」


無垢な笑顔に撃沈して、心の中で激しくのたうつ二人には気づかずに、ふと足元をみたアンジェは首を傾げた。


「?おにいさま、おくつは?」


「え?」


「かたっぽしかないよ?」


アンジェの言う通り、片方は艶めく革靴を履いているが、片方は紺色の靴下だった。

それを見たシオンは、あぁ。と、魔王を見る。


「おい。靴返せ。」


「あぁ、忘れてた。ほれ」


何気ないやり取りをした瞬間、ピシャーン!と雷にうたれたような効果音が響いた。

それまで黙ってシオンに見惚れていたシャルールが、目を見開いている。


「!?に、兄様…もしかして、私の頭をシオン様の靴で殴ったのっ!?」


珍しくうろたえた様子のシャルールに、魔王が首を傾げる。


「そうだが…何か問題でも?」


靴で妹の頭を叩く事自体が問題なのだが、そんなことは日常茶飯事のこの兄妹。

いまさら気にすることではない。


なのに、シャルールは衝撃を受けている。


「大アリよっ!!」


涙目の妹に、さすがの魔王もたじろいだ。

好きな男の靴で殴られるのは嫌だったのか、少し慌てる魔王に対し、シオンの目は冷めきっていた。

シオンは可愛い妹の耳を無言塞ぐ。


「シオン様の靴って分かっていたなら、殴られた感触を記憶に叩き込んでいたのにぃっ!!」


やはり、変態は変態である。

うわぁん!

と突っ伏して歎く残念な妹に、魔王は痛む頭を抑えた。


「…シオン。アンジェを返せ。癒しが足りない」


「断る。自分の妹でも見とけ」


「アレが癒しになるとでも?」


「世界が地獄と化しても、ありえないな」


「ならアンジェを…」


「しつこい」



「そうだっ!!」


淡々とした二人のやり取りを遮ったのは、またしてもシャルール。

何か、ろくでもないことを思いついたらしく、満面の笑みで顔を勢いよく上げた。

うんざりした様子で、シャルールに目をやる二人。


「もう一度、叩いてもらえばいいのよっ!」


赤い瞳をギラ…キラキラさせ、シャルールは兄を見つめる。

魔王はそんなシャルールと視線が合わないように、そっと目を逸らした。


「ん?…待って…今、シオン様の靴は、シオン様の足にある……って事は、兄様に殴ってもらうのはムリ……」


何かブツブツと呟くシャルール。

気づいてくれたか、と安堵の息を魔王は漏らしたが、シャルールの思考回路は、ネジが一本外れてるどころか、一本もついていないらしい。


「…て事は……シオン様に、直接踏んでもらえばいい…?」


やや俯いて考えていた顔を、ゆっくりと上げる。

瞳どころか、顔全体をキラキラさせて、シオンを見つめた。


シオンと魔王は、ゾワリと一瞬にして全身に鳥肌が立った。

異様な雰囲気に、本能が恐怖を感じたのか、アンジェも兄にギュッと抱き着いた。


腕の中の怯える妹を、守るように抱き抱えるシオン。

それを守るように身構える魔王。


シャルールはゆらりと立ち上がると、キュピーンと瞳を輝かせる。


「シオン様ぁぁっ!私を踏んでぇぇっ!!」


「「来んなぁぁぁっ!!」」



その日、魔王城の一部が半壊した。


そして、ようやく見つかった魔王の婚約者は、魔王城でよほど怖い目にあったらしく、兄シオンの腕の中で大泣きしながら帰り、兄妹共に暫く魔王城には近寄ることは無かった。


それ故に、婚約者にベタぼれの魔王の仕事が滞り、部下達が土下座してアンジェを迎えに行ったのは、また別のお話。


ちなみに、シオンにゾッコン(過ぎてストーカーの域に達している)の魔王の妹姫シャルールは、いったい何を言われたのか、

「人間界の華道と茶道と香道を極めてくる!」

と、大荷物と共に魔王城を旅立った。


『灼熱のシャルール』の異名を持つシャルールが、城から去ったことで、城の損害率が格段に減ったのは言うまでもなかった。



あと、余談ではあるが、シャルールは一つ問題を残していた。


アンジェが城で、知らない人に話かけられると、足を開いて、腰を屈め、左手を膝につき、右手は掌を上に斜め前へと突き出すポーズをとり、

『おひけぇなすって!あっしはまおーサマのこんにゃくしゃ、アンジェともうしやす!いごおみしりおきを!』

…と、非常に変わった挨拶をするようになったのだ。


いったいいつから教えていたのか、すっかり癖になったその挨拶は中々やめられず、皆を困らせたらしい。

シャルールがアンジェに教えたことの一つ。


「まおーサマ!!シャルゥに、まおーサマがよろこぶことおしえてもらったよ!」


「・・・ろくでもない事な気がするが、いったい何を教えてもらったんだ?」


「んふふ、ちょっとまってね!」


「?」


「(モゴモゴ)」


「・・・何をしてるんだ?」


「まっへ・・・あと、すこし(モゴモゴ)」


「?」


「・・・でひたっ!!」


「・・・何ができたんだ?」


「みて!さくらんぼのくきを、したでむすべたのっ!」


「!!」


「じょうずでしょ?いっぱいれんしゅうしたのよ!」


「シ・シャルールゥゥゥゥ!!」



この後、シャルールがこってり怒られたのは、言うまでもないです。

そして、アンジェはこれをシオンにも見せちゃうのです。


そのあとどうなったかは、ご想像にお任せします。

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