君を殺して、俺も死ぬ。
何と言うかまた救われないというか、悲劇?的な話です
うん。そういう系が嫌な人は見ない方がいいと思われます。
美し公爵家令嬢、エマ・アストロネスは高飛車で、ほめられた性格ではなかったが、その外観を子供時代より気にいられており第二王子の婚約者となった。
第二王子であったシロネ・ギンガーネは彼女の美貌に子供時代から魅了されており、周りが何をいってもその悪女に夢中だった。
ところがある時、エマ・アストロネスは生まれかわった。それまでの好ましくない行いをすることをなくし、我儘を言う事もなくなった。
その好ましい変化に誰もが歓喜した。
しかし、そこでシロネ・ギンガーネは奇行に走った。エマ・アストロネスを殺し、自分も自害したのだ。
今まで聡明であった彼の奇行に誰もが驚いた。そして多くの人々に、愛されるようになったエマ・アストロネスの死を誰もが悲しみ、彼女は悲劇の女性として知られることとなる。
シロネ・ギンガーネの奇行の原因については、色々と解釈はされているが、いまだに真実は解明されてはいない。
『『王子の奇行と悲劇の令嬢』より出展』
エマ・アストロネスは公爵家の娘だった。貴族らしい貴族で、我儘な所もあったけど、本当はなんだかんだで優しい女の子。
高飛車な態度が誤解されがちだったけど、それはそれでエマを独り占めにしたかった俺――シロネ・ギンガーネにとっては丁度よかった。
アストロネス公爵夫人譲りの、赤茶の髪に、気の強そうな瞳。
瞳の色は、アストロネス公爵譲りの黄色で、両親から譲り受けた美しさがエマにはあった。
近くに居る人達――家族や俺とか、親しい使用人とかには理解されていたけど大多数はエマを「嫌な女」だと言っていた。
それでもよかった。エマが、エマならそれで何も問題はなかった。
婚約を取り付けた時、エマをよく知らない連中に「騙されている」だの、「やめた方がいい」ってそんな風に言われたけれど、俺にはそんな周りの意見なんて関係がなかった。
俺は、エマ・アストロネスっていう女の子を心から求めていて、愛していた。
周りに何て言われてもよかったのだ。
エマが居てくれるなら。エマと共に人生が歩めるなら。エマと一緒に家族になれるなら。
それを想像するだけで、俺は幸せな気分になれた。
それなのに、ある時エマが居なくなった。
****************
「エマ……」
季節が夏から秋へと変わる頃、エマが風邪にかかり、高熱で倒れた。
それを聞きつけた俺は迷わずエマの居る屋敷へと向かった。ベッドに横になって、辛そうだった。
「…シロ、ネ」
辛そうながらに、エマは俺を視界にとらえると名前を呼んだ。
それだけで、幸せだった。エマが、俺の名を呼んでくれるっていうそれだけで。他の誰に呼んでもらうよりも、エマに呼んでもらうことが嬉しかった。
「エマ、きついんだろ? ゆっくり寝て治してくれよ」
「…えぇ」
「居れるだけ、此処にいるから」
そう言えば、エマは小さく笑って、頷いて、しばらくして眠りについた。
王族って立場上色々と忙しいけれど、それでもエマの傍には出来うる限り居たいのだ。俺は。それに公爵家と王族なら身分違いの反対もないから俺が此処にいても問題はない。
周りはともかく父上や母上とか家族達はちゃんとエマの性格をわかってるから反対はされていない。
「エマ、はやく治せよ」
元気な姿を見せてほしいとそう願いながら、俺はエマを見据えるのであった。
幸せを疑わない俺は、エマとずっと一緒に居れると信じていた。
****************
「シロネ!」
エマがおかしい、そのことに気がついたのは、エマが風邪から順調に回復したと聞いて会いに来た時だった。
王になる兄上の手伝いをしたり、剣術の訓練をしたり、色々することがある中で時間を作ってエマに会いに行った。
俺に気付いて素直に笑顔を浮かべるエマが、不自然だった。エマは素直じゃない所があるから、二人っきりの時以外あまりこういう素直にやってくるなんてない。そもそも割とはずかしがって人前ではツンツンしてるし。
そのせいもあって性格を知らない周りは色々いってくる奴も居たけど、可愛いから全然問題なしだと思っていた。
が、本当におかしい。
エマがおかしい。俺にすぐさまひっつこうとするエマがわからない。
聞いたら、「今まで素直じゃなかったから…」だの言いだして、益々意味がわからなかった。「これからはちゃんと甘えるね」とか言われても異和感しか感じないのが正直な感想だ。
「……」
「どうしたの?」
上目遣いで、俺を見上げる仕草をするエマ。何だか、おかしいという感覚しか感じられない。仕草が、エマらしくない。
エマが、エマではなくなった気がした。感じた違和感に、俺は眉をひそめた。
****************
エマが熱にうなされたあの日から、エマが変わった。感じた違和感は徐々に大きくなるばかりであった。
仕草が違う。
好き嫌いが多かったのにそれをしなくなった。
エマは優しいけれど、何処か身分のために偉そうにしていた所があったのにそれがなくなった。まるで皆平等とでもいう風になった。
俺以外の人間にも沢山笑いかけるようになった。
高飛車な態度がなくなっていた。社交的になった。
政治の事は苦手ではないけれどあんまり好きじゃないっていっていたのに、そういうのが得意になった。
ツンツンしてたような態度がなくなった。
俺に迫ってくるような女を今まで強気で嫌味も混ぜながらもあしらっていたのに、正論で片づけるようになった。
貴族の娘として陰謀とかに少なからず関わってきたはずなのに、驚くほど動揺していた。
煌びやかな服装が好きで、いつも派手に着飾っていたのに、それをしなくなった。
今まで一線を引いていた身分が違う人間と仲良くなっていた。
俺のために嫌いな勉強も頑張ると言っていたのに、国のために貴族として頑張るなどと言いだすようになっていた。
花のにおいのする最高級の甘い香りの香水が大好きで、いつもつけていたのに、突然落ち着いた香りに変わった。
気になることがある時、耳に手をあててしまうような癖があったけどそれがなくなった。
社交界が大好きでいつもいっていたのに、あんまりいかなくなった。
情報は女の武器だっていって、意気揚々と交流を深めて情報を集めていたのにそれをしなくなった。
ダンスと編み物が得意だったのに、前より苦手になっていた。
色んな情報を沢山持っていて、いつも楽しそうに話しててくれたのにそれがなくなった。
前に楽しみにしていたような内容を、忘れたといっていた。
口づけをする時、いつもと違う感覚がした。
「シロネの奥さんになるんだもの。今までのままじゃ駄目だと思ったの」、そんな風に俺の腕に甘えるように手を回して自分を否定するようなことを言うようになった。
自信満々で、強気だった性格が嘘のようになくなった。どちらかといえば、大人しくなった。
シロネの選んだドレスを着たいって、我儘をいって城から俺を連れ出していたのに、迷惑かけられなからと遠慮するようになった。
強引に我儘を言う所も結構あったのに、それもなくなった。
他の令嬢に絡まれていたら嫉妬して、不機嫌そうに顔をゆがませて、嫉妬してるって悟られたくないっていうように嫌味を言いながら俺を連れ出していたのに、そんな事しなくなった。嫉妬を嫌味って言葉で隠して連れ出した後に、「シロネは私のでしょ…」なんて小さな声で言いながらそっぽを向いて可愛かったのに。
宝石類が好きで、よく俺にねだっていたのにそれがなくなった。もったいないなんて口にして今まで集めて居た宝石類を売って孤児院に寄付していた。
エマの喧嘩仲間のようないつも色々な面で競い合っていた侯爵家の令嬢の事を相手にしなくなった。喧嘩をしながらも、あいつには絶対に負けてたまるもんですか、っていいながらも楽しそうにしていたのに。その令嬢もエマの変化に寂しそうな顔をしていた。
礼儀作法はばっちりだったのに、何処か間違いをするようになっていた。
部屋は豪華で、煌びやかだったのにそれも変わった。落ち着いた雰囲気の部屋になった。あの部屋が気にいっているといったのに。
主に顔目当てで遊びを迫ったりしていた男(一夜の夢をみたいらしい。とりあえず、エマから報告受け次第とっちめてた)を強気であしらっていたのに、真剣に答えるようになっていた。
人を簡単に信用するような子ではなかったのに、簡単に人を信用するようになっていた。
侍女とよくおしゃべりをするようになった。
今まではずかしがって、「好き」だなんて全然いわなかったのによく言うようになった。
笑い方も違う。表情も違う。
全てが、違う。
エマじゃないと、ただ思った。これは、俺が愛してるエマじゃないって。
****************
「あれはエマじゃない」
「は?」
真剣な顔をしていった俺の言葉に友人であり、王家に仕える暗殺一族の男、カザが俺を見る。カザ達は別名王家の犬と呼ばれており、カザは同年代なこともあって俺専用の「王家の犬」なのだ。とはいっても友人関係になってるつもりだ。少なくとも俺は。
カザは銀色の髪と、黒い瞳を持つ幻想的な男だ。実際男にも女にももてているというのだから恐ろしい。
自室にカザを呼びだして、侍女を追い出し、誰にも聞かれないように魔術を使って今俺はカザと向かい合っている。
「風邪がよくなってからエマがエマじゃない。俺の好きなエマはあんなんじゃない」
「……まぁ、たしかに変わったらしいな。俺は詳しくしらないけど」
「かわったってものじゃない。あれはエマじゃない。仕草も笑顔も表情も、エマじゃない。癖も違う。エマの癖はあんなんじゃない。周りはあれの方がいいらしいけど、全然よくない。外見はエマかもだけど、絶対確実に中身はエマじゃない。熱のせいで性格変わったとかありえないと思うし、完璧に別人。俺のエマはもっと可愛い。他の連中はエマが変わってよかったとかふざけたこと抜かしてたけど、俺あれいらない。エマじゃない女娶りたくない。それにエマは――…」
「あー、わかったからその辺でやめろ。シロネが語り出したら止まらないからな…」
「当たり前。俺のエマは語りつくせないほど可愛いし美人だし、最高」
「………で、とりあえず熱が治ったあいつがあいつらしくないって?」
「らしくないというか、別人。だからさ、ちょっと調べてきてほしい。あれがエマじゃないって証拠」
カザを真っすぐ見て、俺はいった。
エマじゃないって確信はあるけれど、証拠がなければどうしようもない。それに周りの連中はエマより、あれの方がいいらしいし、証拠を見つけ次第どうするか決めればいい。
あれに触りたくない。あれと一緒に居たくない。あれはエマの姿をした何かだ。エマではない。
「証拠ねぇ、どうやって見つけるんだ?」
「張り付いてればボロを出す。だってあれは明らかにエマじゃない。不審な言動があれば味方のふりしてでも聞き出せ。変装は得意だろ。あれは人をエマより人を信じやすいから、頼む。
あれに自分はエマじゃないっていう言葉をいわせろ。それだけでいい。あとは俺が考える」
「了解」
カザはそう言って頷いてくれる。
他の人間だったら俺が乱心でもしたとでも思ったかもしれない。少なくともあれはエマの姿をしているのだ。疑問には思ってもあれはエマじゃないと思っている人間が居るかわからない。
それでも、俺はあれがエマじゃないと確信を持って言える。
俺がどれだけエマに夢中だと思ってる。気付かないわけない。10年以上も前から俺はずっとエマだけが、好きなんだ。
エマか、別人か、何て間違えるわけない。
****************
接触した。シロネに聞いてるから余計異和感がある。
なんかエマっぽくない。疑問を持ってる人は多いけど、シロネみたいに別人って言いきる奴はいないな。
何か意味わからない言葉使いだした。どっかの国特有の言葉?
すまん。エマの事けなす事いって、ちょっと仲良くなった。このエマ(仮)はエマの事好ましく思ってないらしい。
接触して一週間、異和感拭えない。
本当にシロネに聞いた後だと、礼儀作法の異和感とかかなりある。
シロネに迷惑かけるからって遠慮してるのが、エマっぽくない。
二週間目。なんか周りがこのエマ(仮)を受け入れ始めてる。外見がエマだからだと思う。
二カ月たった。不審な点は多い。
四か月。エマ(仮)はシロネに恋してるらしい。だから多分甘えたりしてたんだろ。
接触して、六か月。ようやく故意的に好かれるようにして、聞きだした。なんか憑依? 要するに乗っ取りみたいなものらしい。
よくわからないけど、神か何かのミスで死んで謝られて、「憑依に丁度いい体がある」だの「この人に憑依しても誰も悲しまない」だの「君がこの体使った方が国がよくなる」だのいわれたらしい。本人も「この人って本当に嫌われてたのね。今までの悪評を覆い返すの」って言ってる。
カザが内密に送ってきた報告書の最後の一枚を見て、グシャリッとそれを思わず潰してしまう。
拳に力が入る。神だとか知らないけれど、誰も悲しまない? だと、ふざけるな。嫌われてた? そんなの知るか。俺はエマがエマであるからこそ、好きだったんだ。
それをミスだか知らないけど、そんな事で体を乗っ取った? エマの精神は何処に居る? 消えた?
エマが消えたなら、殺されたも同然じゃないか。俺のエマを何処にやった?
消したのか。殺したのか。エマを、俺のエマを。
「……エマ」
名前を呼ぶだけで、愛しさがこみ上げてくる。
どうしてエマじゃない人間が、あれが、エマの姿で、エマとして生きようとしているんだ。
考えを巡らせるだけで、エマが居ない事実を実感して目元が熱くなった。机に雫が零れ落ちた。
俺はエマと、幸せになりたかったんだ。エマが隣にいて、ただ暮らせればそれでよかった。エマと家族になれることを想像しただけで、幸せを感じられた。
婚約を取り付けて、結婚するときを夢見てた。
それが、わけのわからない神のミスで、失われたなんて…。
俺はあれと結婚したいわけじゃない。俺が結婚したかったのは、隣にいてほしかったのは、エマなんだ。
それなのに――、エマの体を勝手に奪い、エマの人生を勝手に奪った。
涙が止まらなかった。エマが、俺の傍から失われたことに。もうあの笑顔を見れなくて、もうエマに会えないと思うと、止まらなかった。
その後、涙を拭って俺は一つの事を決めた。
「カザ。頼みがあるんだ。大変かもしれないけど、お前にだから、頼む」
俺は帰ってきたカザに頼みこんだ。
「俺は―――」
俺のその頼みに、カザは一瞬驚いた顔をしてだけれども仕方がないとでも言うふうに寂しそうに頷いた。
****************
「シロネ!」
エマの姿をしたあれが、俺に向かって笑顔を浮かべる。
エマの顔で、そんな風に笑うなと思う。エマの笑顔とは違う笑顔。何だか嫌だ。本当に。俺の大好きなエマの体を勝手に使われるのが。
「エマ、でかけよう」
こいつをエマだなんて呼びたくない。だけど、仕方がなく呼んだ。
俺の言葉に、嬉しそうに笑う。ああ、エマの姿をしていてもこれはエマじゃないって実感できて泣きそうだ。
俺たちは幸せになれたはずだった。
こいつが、エマの体に入らなければ。事実かどうかは知らないけれど、事実だとすれば神がミスを犯さなければ。
でも、きっとそんな風に考えても遅かった。
エマはもう、体を失った。エマが、何処にいるのか俺にはわからない。
思わずいら立ちを感じて、唇を噛んでしまった。
公爵家まで迎えにいったのは、終わらせるためだ。もう、周りはこれをエマだと認めてきている。姿がエマだから。色々と変わっただけだと。
俺は護衛の騎士達と、変装して侍女に扮しているカザと、そして憑依した奴を連れて別荘に向かった。
王家の別荘。ただ、遊びに行くだけと家族には告げて、その場を借りた。
俺は、我慢できないんだ。エマの体を他の誰かが使ってることが。俺の大事なエマを奪ったことが。
****************
別荘の中へと入る。騎士達には適当に休んでいるようにいって、侍女と化しているカザだけつれて別荘の一室に入った。
その部屋は絨毯のひかれた、高級そうな家具の並べられた部屋だ。
「シロネとこうやって出かけるの久しぶりだね」
笑う姿に苛々した。俺はエマがエマであった時、時間さえあればエマのもとに通った。エマだって俺の元によくやってきた。出かけることだってした。エマが望むから俺が頷いて、そして出かけるのかいつもの事だった。
あそこにいきたいわ、行きましょうよ、シロネ。
そんな風に突然やってきて、エマはよくいっていた。俺はエマと一緒に出かけたいから用事をさっさと終わらせて、一緒に出かけていた。
エマは俺に遠慮なんてしなかった。それを自己中とか、我儘って非難する人間だっていたけど、俺はそういうエマが好きだったんだ。
我儘いわれたって、好きだから全然気になんなかった。寧ろ、エマの願いは出来うる限り叶えてやりたいとさえ、思ってた。
でも、もうそんな我儘を聞くこともできない。エマは、居ない。
「エマ」
部屋の中で寛ごうとしている奴に声をかける。ああ、本当にエマなんて呼びたくない。呼んでいるだけで、いら立ちが俺の心をいっぱいにする。
振り向いたそいつは、俺を見て笑った。
「なぁに?」
近づかれて、鳥肌が立ちそうだ。エマの姿だろうと、エマじゃない存在に近づかれるのは嫌だ。
俺が触れたいと思うのも、ずっと傍に居たいって思ってたのも、近づかれて嬉しかったのも、全部、全部エマだからだったんだ。
「エマ」
嫌だけど、名前を呼んで、その体を抱きしめる。エマの体。だけど、中身がエマじゃないと思うと嫌になる。
そして、俺はそのまま―――…、隠し持っていた短剣を、それにさした。
「……え?」
それが、何が起こったかわからないとでも言う風に俺をみる。だけど、俺は気にしない。深く深く、差し込む。
何が起きたか、理解したのかそれは、絶望したかのように俺を見て、言葉を放つ。
「な、何で…、わた、しのこと――」
最後の方はもう言葉になっていなかった。
愛されてるとでも思ってたのだろうか。エマじゃない癖に。思わず失笑したくなる。俺はそんな奴に、冷めた口調で告げる。
「俺が、好きなのも愛してるのもエマであって、お前じゃない。俺からエマを奪った奴を、俺が好きになるわけないだろ」
その言葉に、それは体を傾けて倒れて行きながらも驚いたような顔をした。
気付かないとでも思ったのか。他の奴はともかく、俺がエマのことを気付かないわけがない。本当に、俺からエマを奪った癖に、のうのうと生きようとしてるなんて許せない。
そして、俺は冷めた目でそれを見ながらも死ぬまで深く、その体に短剣を差し込む。
「……っ」
もう既に命を失ったそれを見て、俺は侍女の姿をしたカザの方を向く。
「あとを、頼むよ。カザ」
俺はそれだけ告げて、もう一つの短剣を取り出すと、自分に刺した。
血液が溢れだす。俺を見て顔をゆがませているカザが視界に映る。ごめん、カザ。面倒なこと頼んで。心で意識が朦朧としながらも謝る。
俺が、カザにした頼みごと。
それは―――…、
「俺は…、あいつを殺す。エマの体を勝手に使われているのは嫌だ。エマを俺から奪っといて幸せに生きようなんて許さない。
そして、俺も死ぬ。俺は…、エマが居ない人生なんていきたくない。それに公爵家の娘を殺害するんだ。どうせ、いい結末は待ってない。だから俺は死ぬよ。
あとの事、頼む」
そんな願い。俺の我儘。
カザは俺の意志を尊重してくれた。仕方がないって、面倒なことなのに引き受けてくれた。
「それとさ。なるべく、エマか悪いようにしないでほしいんだ。あいつはエマじゃないけど、周りはエマとしてみてる。悪人は俺でいい。エマは家族が好きだったから、公爵家が罰せられる風にはしないでほしい。
俺が狂ったとでも何とでもしてくれていいからさ」
付けたしの言葉にも、カザは頷いてくれた。
俺の我儘な願い。エマを奪った存在が、エマとして生きるのが許せなかった。エマが居ない中生きて居たくなんてなかった。あれをエマとして妻にするなんて嫌だった。
でもエマを愛してるから、悪いようにしてほしくない。幾ら中身が他の物でも、周りはエマとして見てるから。
「エマ、愛してる――……」
朦朧とする中で、俺はただそれを口にした。
――――君を殺して、俺も死ぬ。
(エマじゃないエマなんて生きてほしくない。だから、殺した。そして、俺はエマの居ない世界をいきたくなかった。だから、死んだ)
憑依に愛で気付いた男目線です。
唐突に憑依したのではなく、神のミスによって死んだ元日本人が「君が憑依した方が国のためにもなる」だのの神様の浅知恵に納得して憑依したっていう設定があるのです。
憑依した子が、エマの情報を知っているって設定にしたかったのでそうなりました。
シロネはこの国の第二王子。エマは評判が悪かった。元日本人はバリバリの社会人で、政治とかに詳しい。
下っ端な神(地球の)は、周りの評判だけを見て勝手に憑依決めた人。多分バカなんだと思われる。
下っ端神はもっと高位の神に怒られたくなくてやらかしました。証拠隠滅しようと。
エマはツンデレという奴です。シロネは高飛車に見えるけど本当は優しくて、人前だとツンツンしてるけど二人っきりだとデレるエマにべた惚れでした。
他の人にはツンばかりですが、シロネにはデレてました。
相思相愛の二人っきりだと多分バカップル(?)な二人なのですが、ちょっと神様がアホをやらかしてこんな事に。
シロネはエマ(偽物)がエマ(本物)として生きることが嫌だったのですよね。
シロネからすれば勝手に好きな女の体を乗っ取られてるって事ですから。
エマ(本物)
公爵家娘。貴族らしい貴族。高飛車っぽいけど割と優しい。はずかしがってシロネとは二人っきりじゃないとデレないツンデレ。
でも見た目が気の強そうなのと、ツンツンした態度で誤解されがち。実際偉そうな時は偉そう。優しいけど性格悪い部分もある。そういうのが気に障る人は結構多分居た。
でもそんなの関係なしにシロネはエマ溺愛。
シロネ。
第二王子。エマ溺愛。美形。基本何でもできて有能。
愛により知識ありの憑依だろうと気付く人。独占欲が強くて、悪い噂でも周りがよってくれないなら寧ろいいと思っていた人。
エマの事に詳しすぎて若干何名かには引かれていた。
というか、本編内の何処が違うかっていうの、長々書きましたがあれ長いですかね?長い方がシロネのエマが好きだって思いが伝わるかなと思ったのですが…。
カザ。
王族に仕える暗殺一族のうちの一人。シロネとは大分仲がよく親友関係を築いている人。エマとも普通に喋る仲だった。シロネがエマについての惚気とか語ってきて、うんざりしてた人。
エマ(憑依)
元日本人女性の憑依。バリバリの社会人で仕事面は有能だけど、恋愛には夢見ていたために、物語のような憑依展開+美形な婚約者にちょっと浮かれ気味だった所をグサッとやられた。
神様。(地球)
やらかした人。憑依じゃなくて転生させればよかったのに。丁度いいからと、やらかした人。
あとからばれて滅茶苦茶怒られる予定。
というか、思うに憑依ってですね。本当にその人の事見てたら気付くと思うんですよね。違うってことは少なからず。
この憑依日本人は神様に情報をもらったりしてましたけどそれだけで全くの別人ですからね。
個人的に全てを知ってるカザの日記が後世で発見されたりしたらなんか面白そうって妄想しました。
誤字ありましたら報告お願いします。
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