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作者: ゆんち

 なんてひどいの。あたしの彼氏。


 彼女の誕生日くらい1日中空けておいてほしいものね。なんであたしがバイト先まで行って待ってなきゃいけないのよ。

この際このお店のケーキ全部食べてやろうかしら。当然誠のおごりで。 そしたら誠はあたしだけの愛しい人に戻ってくれるもの。

「ごめんね景子ちゃん! もうすぐ終わるから!」

 そのセリフ8回目よ。1回目聞いたときから一体何時間経ってると思ってるのかしら。

 開店からずっと待ってるっていうのに。9時開店で今もう2時30分よ? さっき奥から出て来た店長のオニーサンにまで謝られちゃったわ。しかたがないからケーキ3つとミルクティーで許してあげたあたし。なんだか嫌なお客になっちゃってるじゃない。

 テーブル3つ隣りの席ではあきらかに誠目当ての色目つかってる女子大生3人。あたしの彼氏にちょっかい出さないでよ。誠もいちいち笑顔で対応するからいけないのよ。

 3つ目の杏タルトはあと1口でなくなっちゃう。これなくなっちゃったらあたし傍から見たら誠のストーカーみたいじゃない。

「彼女ちゃん、なんか食べたいケーキある? 誠から杏好きだって聞いたけど。ゼリーとかプリンもあるよ」

 おやつ時でお客さん多くて忙しいのにわざわざ奥から店長が出て来て聞いてきた。

 いいのに。そこまで気遣ってもらわなくても。あたしもっとみじめになる。

「いいです。もう出ます。おいしかったです」

「出るって…誠まだ着替えてないよ?」

 ミルクティーを一気に飲み干して立ち上がるあたしを店長が引き止めようとする。

「いいんです。どーせまだ終らないだろーし。せいぜい閉店までこき使ってやってください」

 ごめんなさい店長。あなたのことはもう許してあげたけど、このみじめさ、誰かにぶつけないとあたしもっとみじめになっちゃいそうだから。

「待って! 本当にごめんね! あと1分!! ほんと誠あがらせるからあと1分待ってて!!」

 店長はいい人ね。あたしが今日誕生日だって知ってるから誠のシフト外してくれて。

 なのに誠は自分でバイトしだして、店長の「あがれ」って言葉を無視してまだ仕事してる。

 店長はいい人よ。

「いいです。店長が謝ることじゃないんです。誠に言っといて下さい。閉店まで手伝わないと許さないって」

 なんだか後ろで店長がまだなにか言っていたけど、あたしは完全無視を決め込んで店を出る。むわっとした熱気が身体を包んで、一瞬だけ店を出たことを後悔したけど、戻る気なんて毛頭ない。

 追って来てくれないかなってちょっと期待して、少し歩いてから振り向いてみるけど、追って来てくれるどころか誰1人店から出て来る雰囲気もない。

 なによ。

 バイトとあたしの誕生日どっちが大切なのよ。

 なんて毒づいてみたりするけど、答えはもうでてるからくやしくてしょうがない。

 なによなによ。

 メールや電話の1つしたらどうなの? 言い訳があるなら聞いてあげるっていうのに。

 だいたいなんであたしの誕生日、わざわざ休んでくれたのに今日になっていきなり店に行こうだなんて言うのよ。

 待っててって言われたからおとなしく待ってたのに、店長と一緒に奥から戻って来て開口一番『ごめん』てどういうこと? 結局誠、そのままバイトしちゃうし。あたしはほったらかしだし。

 誠のバカ。

 そう叫んでやりたいけど、真っ昼間の公衆の面前でそんなことする勇気あたしにはない。それとも恥をかなぐり捨てて警察にごやっかいになれば誠はあたしのもとへ駆け付けてくれるのかしら。

 でもそんなこと考えても結局絵空事。わかってるからもっと空しい。

 なんで追いかけて来てくれないのよ。ドラマみたいな1シーンをちょっとだけ夢見たのに。誠ったら1ミリも俳優になれる素質をもってないわ。

 こうなったら行方を眩ましてやろうかしら。携帯の電源も切ってちょっと遠いところまで行って困らせてやる。

 そうよ! 思い立ったが吉日!

 本当にやってやるんだから! せいぜい困ればいいんだわ誠なんて!

 ミュールだとやけに歩きにくくてしょうがないけど、家に帰ってスニーカーに履き替えるなんて面倒してる余裕なんてないわ。

 近くにあったJRに足を進めて迷わず一番遠い切符を買う。行ったことも聞いたこともない駅名だけど、行方を眩ますにはちょうどいいわ。

 改札を抜けるとタイミングよく電車が着いて、とんとん拍子に計画が運ぶ。

 電車が向かうのは海方面。

 待ってなさいよ太平洋。あたしの決意はハンパなもんじゃないんだから!



***



 着いたところが漁業の町とかじゃなくて本当によかった。



 遊ぶ人達で賑わってた海。いっぱいある海の家はもう店仕舞い。

 当たり前よね。今もう夕暮れ時。しかも波が荒れてるからサーファーすらいないわ。荒れてさえなければ白砂青松ってまさにこの景色。

 まぁ荒れてるくらいがちょうどいいわよ。感傷に浸るあたしには。

 海のお客さんが帰ったあと、あたし1人、砂浜で体育座りして夕日とにらめっこ。こんなところで日が暮れたら本当に警察のごやっかいになっちゃうわ。早くあたしを見つけてよ。今のあたしかなりおセンチさん。風が吹くだけでも泣いちゃいそう。

 なんて最悪な誕生日なの。

 こんなことなら店でずっと待っていた方がよかったわ。でもあたしは猪年。決めたら一直線にしか走れないタチ。どうせなら耳をピクピクさせていろんな音を拾える兎になりたかったわ。

 もう帰ろうかしら。今から帰れば閉店時間くらい。なにもなかったようにして誠を許して笑って誕生日を祝ってもらって。

 でもこんなときに限って動こうとしないあたしの足。だってまだ誠が来てくれるかもって期待してる。でも絶対にありえないわ。こんな遠いところきっと誠も来たことないもの。

 神様なんて信じてないけど言わせてもらう。

 あんたはなんてひどい奴なの。誕生日くらい幸せにしてくれたっていいじゃない。

 夕日に向かってバカヤローってエコーきかせて叫びたい気分よ。

 バカみたい。

 なんて愚かなの。

 ハンカチを目に当ててみても、涙腺が崩壊したみたいに流れて来る涙はとまらない。パンダ目になっちゃう。早く泣きやまないと黒いマスカラ涙の大洪水。気付けばお気に入りのハンカチにマスカラが付いちゃってる。

 早く見つけてよ誠。

 思い出したらまた涙がとまらなくなる。

「景子…っちゃん!!」 

 いやだわ、ついに幻聴。どこからか誠の声が聞こえてくる。これもう末期? だいぶやばいわね今のあたし。

「よかったいた……」

 荒い呼吸。と、聞き慣れた声。

 幻聴じゃなくて本物だったりするわけ?

「景子ちゃん……ごめん…」

 振り向いたらそこには幻覚。じゃなくて本物の誠? 向こうから走って来るのはまぎれもなく実物の。

「せーぇ…? なんで…」

 いっけなーい! 振り向いちゃダメじゃないあたし! 今のあたしはメイクぼろぼろの汚い顔!! 見られるのだけは本気で勘弁してほしいわ!

「景子ちゃん……怒ってる…?」

 これはちがうのよ。今誠の顔を見れないのはメイクがぼろぼろなせいなの。でも怒ってることは怒ってるのよ。思い出しても怒れてくるくらいよ。彼女の誕生日ほったらかしてバイト選んだんだもの。怒らないはずがないわ。

「…なんでいるのよぉ……閉店まで手伝わないと許さないって言ったじゃないー…」

 ダメだわ。声がふるえちゃう。そういえばあたしの涙腺ダムは決壊中。表面張力もがんばれないくらいに目から涙がだばだばと出てきて、ここまでくるとあたしが困っちゃう。もし干涸びたらどうしてくれるのよ。

「うん…ごめんね……」

 あたしの正面に誠がしゃがんだみたいだけど、顔をあげられないからよくわからない。せめてメイク落としのシート持って来てればよかったのに。今日のことは予想外すぎてそんなもの準備してない。

「……今日店に行ったのは、ケーキを取りに行くためだったんだ」

 そりゃケーキ屋なんだから誠が行くとしたらケーキかバイトしかないでしょうね。

「店長に頼んで景子ちゃんのバースデーケーキを作ってもらったんだ。景子ちゃんの好きなピンク色の。今朝は、それを取りに行ったんだけど、店長それ作ってたせいで店のケーキ焼いてなくて」

 ちょっと待って。それって元々の原因はあたしってこと?

「だから申し訳なくてオレから手伝うって言ったんだ。だから店長には怒らないで」

 怒るもなにも、逆に3つもケーキおごってもらっちゃってあたしの方が申し訳ないわ。

「店長は、景子ちゃんの誕生日を優先しろって言ってくれて、オレもそうしたかったんだけど、…やっぱり申し訳なくて…」

 良心には勝てなかったと。とどのつまり、あたしの誕生日は誠の良心に負けたってこと。

「……ごめんね、オレのせいで…。ごめんなさい…」

 今日だけで何回『ごめん』って言われたのかしら。店長も合わせるときっと今までの人生の中でいちばん多い日だと思うわ。

「…いいわよ。ゆるしてあげる」

 だっていつまでも怒ってるわけにはいかないし。それに誠にここまで謝られて許さないってのもなんだか性格悪い女みたいだもの。当然言ってやりたいことはまだまだたくさんあるから今度言ってやるけれど。

「よかった…ありがとう」

 安心して小型犬みたいに笑う誠。気持ちを量る天秤があったなら、今安心してるのはあたしの方。

 あぁ、こんなに抱き付きたい欲がピークに達しているっていうのに、自分のメイクの崩れた顔が怖くて動けないなんて、なんてはがゆいの。次からは絶対にマスカラだけはなにがなんでもウォータープルーフにしておかなきゃ。

「景子ちゃん? どうしたの? お腹痛い?」

 あたしが顔をあげないものだから誠が得意のかんちがいをしちゃってる。でも全然ちがう。

「……泣いたからメイクがぼろぼろで、顔、見られたくない…」

 涙はいつのまにやらとまっていたけど、今度は鼻孔いっぱいの鼻水がとまらない。しゃべるのにくるしくてしょうがないわ。

「そんなこと気にしないよ」

 そんなことわかってるわよ。

「誠がしなくてもあたしがするの」

 不毛な押し問答。近くにコンビニがあるならあたしが引くのに。

「水じゃ落ちない?」

「もっと悲惨になるわよ」

 涙でぐちゃぐちゃになったんだから水じゃ意味ないでしょ。

「あ、コンビニあるよ。景子ちゃん。ちょっと行って来るから待ってて?」

「シートのメイク落としよ」

「うん、わかった。他にほしいものある?」

 誠の愛。

「……ない」

 言わないけど。

「じゃあすぐ戻って来るから」

 砂浜を走る音。ザクザクザクザク遠のいてく。その足音を確認してから顔をあげるあたし。途端目に映ったのは、にらめっこしてた夕日は水平線に足をつけているところ。

 ゆらゆら揺らめいてるだいだい色。直視すると目に刺さるようね。

 写真に撮りたいほど綺麗だけど、あいにく手持ちは画素のよくない携帯だけ。こんなことなら誠にカメラ頼めばよかったわ。

 いつのまにやら波もだいぶおさまってきていて、さっきの大荒れ大海原はなんだったのよ。あたしの気持ちでも反映してたのかしら。

 頬いっぱいに濡らす涙を拭こうとしたら、腕にもマスカラが付いちゃっていた。そういえば腕はともかく、ハンカチについたマスカラはちゃんと取れるのかしら。

 バービーのタオルハンカチ。汗拭きのために持ってたのに実際は涙拭きのためになっちゃってる。

 溜息を吐いて、いい加減体育座りに疲れていた足を伸ばした。ミュールの中には砂がたっぷり入り込んでいて、あまりに気持ち悪いから脱いで傍らにそろえて置いた。

「…なにこれ」

 まだ鼻声なのがかっこわるい。

 目に付いたのは、白いビニールの袋。濃い茶色でかっこいいローマ字が書いてあって、中を漁ると白い箱が2つ入ってる。形からして、ケーキの箱。たぶんさっき誠が言ってた店長に作ってもらったケーキ。でも2つってどういうこと。

「景子ちゃん。買って来たよ」

 箱に意識を奪われてると、誠が戻って来て、あわてて顔を隠して買って来たそれを差し出す誠から受け取る。

「見ないでねっ! 絶対よ!!」

 念の為そう言ってから誠に背中を向ける。

 誠が買って来たビオレのクレンジングシートを急いで取り出して泣きはらした目元を拭くと、ヒリヒリして痛かった。でもさっきのあたしの心はもっと痛かったのよ。そこのところちゃんとわかってるのかしら誠ったら。

 メイクポーチは持ってるけれど、いまさら直す気にはなれない。それでも眉が短くて薄いのだけはあまりにかっこわるいから手鏡を出して書く。

 眉以外すっぴん。誕生日くらい綺麗に飾っていたいのに。まつげは短くなってボリュームもへったくれもなくなってる。自分のくちびるが紅すぎるのが嫌でコンシーラーで色をつぶしてたのに。

「景子ちゃん」

「……なによ」

 世の男の大半はすっぴん。楽なものね。

「こっちむいて?」

 メイクが崩れた顔も嫌だけど、すっぴんはすっぴんでまた恥ずかしい。でも誠に抱き付きたい欲はとっくにピークを超えていて、あたしにしてはめずらしく素直に誠の言うことを聞いてやる。誠はあたしがしてほしいことわかってて、抱きしめてくれた。でも子供をあやすような抱きしめ方はちょっと気に食わない。

「景子ちゃんはメイクしてなくてもかわいいよ」

 よくそんな恥ずかしいセリフさらっと言えるわね。言われたあたしの方が恥ずかしいわ。

「……そのケーキ、2箱あるけど1つなに?」

 1つは店長のだとして、もう1つはなに。あたしがケーキ好きだからサービスでもう1つ作ってくれたとか? それともお店のケーキ買って来た?

「あー、これは……」

 めずらしく誠が言葉をにごす。店長の失敗作とか?

「その…、店長が作れって言うから一応オレも作ったんだけど…いろいろ失敗して食べれるようなものじゃないんだ。ごめんね…」

 なんていい人なの店長! 今度お礼を言いに伺うわ!

「ね、店長のケーキ食べよ? 今コンビニでフォーク買って来たんだ」

「あたしそっちが食べたい。誠の。店長のは帰ってから食べるわ」

 誠があたしのために作ってくれたケーキ。いちばんのプレゼントだわ。

「…今度もっとうまく作るから、これはやめとこう? 不格好だしまずいし」

「見た目なんか気にしないしまずいかどうかなんてあたしが決めるわ」

 見た目とか味は関係ないのよ。誠が作ったことに意味があるの。

 ねぇ、だってあたしを想って作ってくれたんでしょう?

「…まずかったら無理して食べなくていいからね」

 そう言ってしぶしぶ自分のケーキを出す誠。さすがに砂浜の上に置くわけにはいかないから箱は誠の手の上で広げられる。

 出てきたのは、普段見た目なんかあまり気にしないような杏タルト。でもあたしが今日お店で食べたのとはちがう、1人2人分くらいのちいさめのホール。

「ショートケーキは店長が作ったから、オレは杏タルトにしてみたんだけど…」

 コンビニから買って来たフォークを誠が差し出す。

「いただきます」

 タルトにいただきますはなにかちがうわよねと思いながらも他に言葉を知らないからしょうがない。

 ちらりと目だけで誠を見ると、苦笑と不安がまじった表情をしている。

 端っこにフォークを刺して、1口分を口に運んで、ゆっくり噛む。

 口中に広がる甘いもの。

 タルト生地はしっとりしてて、大好きな杏は、あたしが極度の甘党だからかお店のものよりすごく甘くしてあった。カスタードが多めで、名前は知らないけど杏をコーティングするようなゼリーが、冷たくておいしい。

 そんなことを思ってたら、なぜか一気にいろんな感情が押し寄せてきて、また涙腺ダムが決壊してしまった。

「ど…っ、どうしたの!? まずかった!?」

 ちがうのよ。おいしいの。おいしいからうれしくてしょうがないの。

 胸がはちきれそうだわ。

「……しあわせ」

 誠の肩におでこをくっつけると服越しに体温が伝わってきた。

 わがままでごめんなさい。

 だいすきよ。

 ありがとう。

「うん。オレも」

 あったかくて優しい声。耳元でささやかれてあたしの心臓は破裂しちゃいそう。

 箱を持っている手があたしを抱きしめてくれないのがもどかしくてしょうがない。

「誕生日おめでとう」




***




「ねぇ、なんであたしがあそこにいるってわかったの?」

 ぼろぼろぼろぼろ、せっかく誠があたしのために甘く作ってくれたタルトがしょっぱくなっちゃうくらいに泣きながら、食べ終えたころには夕日は完全に沈みきっていて、誠が帰ろうかって笑って言った。

 さすが終点、座りたいところ選び放題のJRの車内で、遠くなっていく海を眺めながら誠に聞いてみる。

「誠とあそこ行ったことないし」

 あたしは行ったこと自体初めてだったし。

 誠は、あぁ、って思い出すような声を出して、あたしの顔を見るとにっこり笑う。

「携帯つながらないし、家にもいないから、必死で景子ちゃんの行きそうなところ考えたら、いちばん遠いここの駅だったんだ」

 なんだかくやしいわ。その策略家染みた笑顔。あたしの思考回路行動パターンお見通し? もしあたしがサトラレだったらどうすればいいのかしら。脳内情報垂れ流しで恐ろしいほどの痴態。

「……だいすき」

 誠の肩によりそって、精一杯伝えてみるけど、これだけじゃどれだけ好きか伝わっていない気がする。

 それならいっそ誠だけのサトラレになってしまいたいわ。

 あたしの脳内比率40パーセント自分で、だいたい55パーセントくらい誠。あとはその他。ねぇ、はんぶん以上誠よ。

 つまりだいすきってことなんだけど。

「オレも」

 少し照れながら低い声であたしにささやく。

 たとえば今の気持ちに色をつけたなら、しあわせ色にたっぷり染まったうっとりピンクなはずよ。




 明日は日曜日。

 誠はバイトだから、家でイイ子にお留守番。たぶん堪えられなくて途中でお店に行っちゃうだろうけど。そしたらまず店長にお礼と謝罪をして、大好きな杏タルトを食べて、誠の様子を盗み見たら向かいの雑貨屋さんで時間つぶし。ずっとお客さんでいたいけど、店長に迷惑かけちゃいけないもの。




「店長のケーキどんなの?」

「景子ちゃんの好きなピンクの生クリームの、中にフルーツがいっぱい入ったショートケーキだよ」

「ローソクさすから歌ってね」

「ハッピバースデートゥーユー、って?」

「そう。それであたしがローソクを吹き消すの」

「じゃあプレゼントはその後渡すね」

「プレゼント? ケーキじゃないの?」

「ちがうよ」

「なにくれるの?」

「まだ秘密」

「ケチ」

「景子ちゃんをおどろかしたいんだよ」

「じゃあ楽しみにしてるわ」




 だいすきよ。

 ありがとう。

 あなたがいるから、あたしはしあわせ。




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― 新着の感想 ―
[一言] いやぁ?、ほのぼのしてますね。青春ですね。サトラレだとか、愛情表現の仕方がユニークだと思いました。
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