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最恐少女

「さむっ」

 開口一番、漏れたのはその一言だった。寒かった。

 自分の体を抱きしめるようにして体をすぼませると、露出した肩が手の平に触れる。どころか、二の腕にも腹にも肌と肌との触れ合いの感触がある。

「ん?」

 さらに言うなら、この時の真弘は一糸まとわぬ生まれたままの姿。太ももの間に挟まったソレがむずむずと反応し出したので、慌てて思考の方に意識をかき集める。

 まだぼやける意識の焦点を必死に合わせて、脳に血を巡らせる。寝起きの悪い真弘にはありがちなことだが、こうしてしばらく暖気運転をしないと正常な思考ができない。

(ってことは眠っていたのか?)

 それにしては、意識の覚醒は早いような気がする。それに、

「どこだここ? ん? あれ? ん?」

 見覚えのないその場所は、テレビドラマなんかで見るような手術室みたいだが、真弘の知るそれと比べてもどこか殺風景な気がした。

 打ちっぱなしのコンクリートのせいで寒さは三割増しに感じられたし、扉は無骨な鉄の扉だ。しかも鍵穴がこちら側を向いているという、監禁仕様。

「っかしいな……がっこにいたはずなんだけどな」

 衣服を探して視線を巡らせながら言った自分の言葉に、ドキッとする。

 夜の学校にいて、そこで何があったのか。

 慌てて手首に視線をやっても、そこに腕時計はない。周囲を見回しても時計らしいものはなかった。しかも窓がないので、今が夜なのか昼なのかさえ分からない始末だ。

 そして、もっと大事なところに、ようやく視線が行く。

「俺、怪我しなかったか?」

 最後の瞬間の記憶では、自分はあの化け物に胸を切り裂かれ腕を落とされたはずだ。

 飛び散った血の赤や、床に倒れた時のぬるりとした感触が妙に生々しく思い出されて、今さらながら玉の縮む思いがする。吐き気も込み上げてくる。

 ただ、それらしき痕跡は一切なかった。見下ろした先には風呂上がりの鏡に映るいつも通りの体が、いつも通りそこにあるだけだった。怪我どころか、その痕跡も見当たらない。腕もしっかりとある。

「あっれー? ってことは、夢? 妙にリアルな……」

 確認するようにさすって見るものの、見た目通りに普通の肌の感触があるだけだ。

 腑に落ちない部分こそあるものの、いい年をして怖い夢を見て、それを現実にまで持ち込んでしまったのが妙に照れくさくて、誰も聞いていないのに声に出して喋る。

「とりあえずどうしよっかな。フルチンだし、着るもんでも」

 がちゃがちゃ、がっちゃっ

 鍵の開けられる音に、とっさに横たわって寝たふりをする。

(こういうとこ、根性無しだよな、俺)

 仰向けになって目を閉じ、周囲の音に極限まで集中していると、いくつかの足音が部屋に入ってくるのがわかった。当然のごとく、足音だけでどんな人間が入ってきたのかを知るような特殊技能はないが、何故かこの時の真弘には、やけに靴音の一つ一つがクリアに判別できた。

 足音は、全部で三種類。

 スリッパか何かを履いている者と、革靴のような硬い靴を履いている者はわかったが、もう一つが全く想像できなかった。強いて言うなら、分厚い靴下で歩いているような、鈍い音だ。

「一応は成功ですが、よろしいのですか、このような……」

『構わんのですよ。それよりも、このことであれに貸しを作ったことの方が大切なのです。費用対効果というやつです』

「さすがはお嬢様。さすがにさすがでございますね。その小さなお体とお胸でよくもそんな腹の黒いことを」

『お前は無礼という言葉を辞書で引いておくべきなのですよ』

「何をおっしゃいます。これが嘘いつわりのない私の本音でございます」

『だとしたら、なお最悪なのですよ。あと、ここではお嬢様と呼ぶなです』

 何やら和気あいあいとした会話から、男一名女二名の構成らしいことが分かった。

(でも何で、一人の声が妙にくぐもってんだ? 壁の向こうにいるみたいな)

 そんなことを考えながら、真弘は再び耳をそばだてる。

「では、彼に関しては記憶の除去と、軽い洗脳ということで処置を施します」

『そうですね、それがいいです。お願いするです』

(彼ってのは、やっぱこの場合俺のことだよな。他誰もいなかったし)

 そう思って、ようやく自分がただの傍観者ではないことを実感する。

「肉体の方はほぼ再生治療も終わり、あとは意識の覚醒を待つばかりです。厳しい部分もありましたが、概ねは成功です」

『それはよかったです。ここに運び込まれた時はもうだめかと思ったですよ』

 どうやら自分の治療をしてくれたのだということまで確認して、ここは礼の一つも言うべきだろうと真弘は体を起こす。

「おや、お目覚めでございますか。お早い回復でございますね」

 恐ろしく丁寧な口調にに驚いたが、その服装を見て迂闊にも納得してしまった。

 ヒラヒラフリフリのメイド服に、いかがわしい仮面。おそらく部室城で会ったのと同一人物のはずだ。こんな奇抜なファッション、そうそういるとは思えない。

 ただ、それ以上に度肝を抜かれたのはその隣に立っている人物だった。

 そもそも、そいつが人物であるかどうかというところからが、まずは疑問だ。

「いか?」

 ただ、この時の注目度で言うと、その一言に尽きた。

 イカが、立っていた。

 よく見れば着ぐるみであることはすぐにわかったはずだし、何よりも胴体からは十本の脚の他に人間の足も生えている。ただ、眠りから覚めて目を開けたところに飛び込んでくる等身大のイカの衝撃というのは、凶器以外の何でもない。

『おぉ、意識も戻ったですね。よかったです』

 しかもそれが喋る。真弘はこの時点で、自分の中の常識というものが、どれほど意味をなさないものなのかを、じっくりと噛みしめていた。

「あの……やっぱ俺、死にかけたんすか? で、ここで、治療された?」

 とりあえず状況確認。イカとメイド服は避けて、その隣で控えている白衣の人物に聞いてみる。常識的な服装に安堵をおぼえるという、異常事態なのは間違いないが。

「ええ。そうですよ」

「ってことは、やっぱ……夢とかじゃなかった、ってことだよな」

 腕が飛び、胸が切り裂かる光景が鮮明に思い出されるが、今となってはそれすらもが現実感のない、フィクションのようだ。

「今さら何をおっしゃいます? あなたは瀕死の重傷、というか、一時は実に新鮮な死体でいらっしゃいましたよ? それを蘇生させたまででございます」

 メイドの告げた内容のとんでもなさにも実感はない。どこまでも他人事のようだ。

 だから、

「あ、ありがと、ございます」

 礼の言葉も、どこか上の空になってしまう。

「それが命を助けられたものの物言いとは思えませんがね」

『黙るですよ。それに、元はといえばこちらにも責任があるです。口を慎むですよ』

「これは、失礼をばいたしました。」

 どうやら、メイドとイカではイカの方が偉いらしい。いったいどこの世界だ、ここは?

「いや、それでも助けてもらったんだから、こっちとしては礼を」

 言って、頭を下げようとしたところに飛び込んできた言葉に、真弘は耳を疑った。

「もちろん、私が追加で注文しておいた改造も施してくださったのでございますよね?」

『え?』(え?)

「はい。ご指示の通り、体組成細胞の構成変更とそれに伴う肉体・感覚強化。あと、失った腕に関しては細胞培養による高速再生ののちくっつけておきましたが、しばらくは違和感が残るかもしれません。心臓は使い物になりませんでしたので、きんぐすと」

「よろしい。では引き続き彼の脳改造を」

「ちょ、ちょ、ちょっと、待って。ちょっと待ってくれ」

 医師の説明を遮っての言葉にメイドは、不愉快そうに口元を歪める。

「何でございますか? 元死体はおとなしくなさって」

「俺、改造されたの? その……手術って、治療のことじゃ、ないの? 俺、勝手に、改造、されちゃったの?」

 子供向けの特撮番組でしか出てこないような代物が、自分の身に降りかかったなんて、にわかには信じられない。というか、信じられるはずがない。

「何をおっしゃるかと思えば。もちろん治療はいたしております。ただ、その上での改造手術でございます。おわかりですか、あなた様は一時的には新鮮な死体だったのでございますよ?」

 死体の鮮度というのはあまり考えたくはないが、改めて自分がそうだったと言われると、事情も変わってくる。

 たしかに、切り落とされた左腕も、嘘のように元通りだし、痛みもなければつなぎ合わせたような跡もない。胸の傷にしても同じだ。あれだけの致命傷を負って、普通の治療だけでは回復が難しいと言われれば、納得せざるを得ない。

(そういや、医者もそれっぽいこと言ってたしな)

「やむを得なかった、ってことか」

 そういうことならばと、改めて非礼を詫びるために向き直り、

「私の趣味でございます」

「っざけんなよてめぇ!」

 キレておいた。

「心躍りませんか?」

「踊るか! そもそも改造手術なんて特撮じゃあるまいし、そんなばかげた話が現実に」

「先ほども申しましたが、そう思われるのでしたらそれがあなた様の真実ということでよろしいのでは? 所詮、人間というのは己の常識でしか世界を図ることのできない矮小な存在でございますからね。あなた様に限らず」

 妙に悟りきった一言だが、その裏では何が事実であるかを如実に告げているような無言の圧力がある。

「ってか、改造手術とか、冗談……だろ?」

「世界とは、それを見るものを映し出す鏡でございますよ」

 説得力のあるメイドの言葉は、噛み締めれば噛み締めるほど真弘の心を深く沈みこませる。言葉のマジックに見事にはめられていることに気づかせない、巧妙な話術だ。

「どちらでもようございます。では早急に脳の改造手術も済ませて」

(まてまて、だからって鵜呑みにするほど俺だってガキじゃねぇし。そもそも改造なんて、改造手術、なんて……)

 記憶に確かに残されている、体を引き裂かれる痛みに、意識が薄れてうすら寒くなってゆく不快感。それを嘘だと言ってしまうには、あまりにもリアリティが濃厚すぎた。

(まさか、だよな)

『待つのですよ! なぜそんな勝手をしたですか? 一般人に』

 意気揚々と注射針の先から薬液を飛ばすメイド服を、イカが止めにかかる。脳が空回りをしている真弘にはありがたかったが、いかんせん、イカである。

 非常によく出来た着ぐるみで、十本の足の真ん中に二本の人間の足が生えているのもはっきり見えたはずだ。ちなみにこの着ぐるみ、実に精巧にできていて、十本の足のうち二本が『触腕』と呼ばれる他の八本とは異なった構造をしているのまで再現している。

『我々は誠意を持って悪の秘密組織としての業務を遂行するのですよ。カタギのものにこのようなことをするなど、非道ですよ』

 言っていることがハチャメチャの矛盾まみれな気がしたが、今のこの流れは千載一遇であるのは間違いがなさそうだと、苦渋の決断をした真弘。

「そうだ、いくら悪の組織だからってやっていいことと悪いことが……悪の、組織?」

 自分で口にして、ようやくその言葉のおかしさに気がつく。

『はわっ! ば、ばれてしまったのですよ。こうなれば仕方がないのです。脳改造しゅじゅちゅをちて、我々に不都合のないように』

 イカの胴体真ん中あたりの覗き穴から声がする、声の印象だけだと、中の人は幼い女の子のようだが、恥ずかしさのあまり上ずった声なので何とも判別できない。

「お嬢様、言えておりません。脳改じょうすずつでございます」

『ここではお嬢様と呼ぶなです! えーい、何でもいいから改造してしまうですよ。組織の存在を知ったものは生かしておかんですよ』

「御意」

「おい! 無茶苦茶だ……って、なんですか、その怖そうな武器の数々は」

 じりじりと後ずさったところで、すぐにベッドの端が手の平に触れて後がなくなる。

 改造手術云々は別として、迫りくるメイドと白衣の手が、それぞれのこぎりとメスを握っている状況を甘んじて受け入れるほどのお人よしではない。

「さあ、痛くありません。天井の染みを数えている間に完了いたしますので」

「嘘つけ、痛くねぇわけねぇし。ってか、天井染みだらけだぞ! 終わらねぇだろそれ」

「大丈夫でございます。術後は何を言われても「イエスだワン」、と素直に堪える忠実な下僕になりますので、すずちゅ中の痛みのことなどきれいさっぱりでございます」

「他のものまで綺麗さっぱりだぞそれ! 断る! 一回ちゃんとも手術言えてねぇし」

「拒否権はございません」

 目の前まで迫ったメイドの、無表情な仮面の中に狂気を見た真弘は、意を決してベッドから飛び出した。フルチンのままで。

 背中を壁にふさがれているのであれば、残された道は特攻のみだ。

「うぉっ! 何でこんな飛ぶんだ!」

 思ったよりも体は軽い。力いっぱい蹴りはしたが、想像以上の勢いで流れる景色に感覚がついて行かないほどだ。ちらりと振り返ると、先ほどまで寝ていた手術代が蹴りの勢いに耐えきれずにひしゃげている。

(まじかよ? 肉体改造って、まじだったのかよ? まあ、何にしてもとりあえず)

「逃げる!」

『な、何と言うものを見せるですか! へ、へんたい!』

 玉砕覚悟でメイドと白衣の間を突っ切るようにダッシュし、背後で指示を飛ばしていたイカの隣を通り過ぎるところで、運悪く「ソレ」が丸見えになってしまった。というか、それまでもほぼ丸見えだったのだが、さすがに走りながら揺れる「ソレ」のインパクトというのは、幼い声の主には相当だったようだ。悲鳴に近い声をあげている。

 チャンスとばかりに扉に手をかけるが、鍵がかかっていてびくともしない。重苦しい音が室内にこだまするだけだ。

「無駄でございます。その扉は、脱出も考慮して必要以上に分厚くしてございます」

 のこぎりを振り上げながら迫る、狂気の仮面メイド。

「くっそ! 絶対に脳味噌改造なんかさせないからな! くそ!」

 やけクソ気味に振り返ると、強すぎる刺激に思考回路がオーバーヒートしたイカがふらふらと怪しい足取りでこちらに歩み寄ってきている。そして、

「おわっ」

 ぼふん、という重いのか軽いのかよくわからない音を立てて、真弘の胸に倒れこんでくる。さすがに見捨てるわけにもいかず、イカの胴を抱えるようにして支えると、視界の外でガシャリと金属音がする。

「ん?」

「お嬢様を人質に取るとはなかなかの策士でございますね。そういうことでございますか、黙って見逃さなければその卑猥きわまる性剣エクスカリバーで卑猥きわまる狼藉三昧をなさるとおっしゃるのですね。くっ、万事休すでございます」

 のこぎりを投げ捨て、両手を頭の高さに上げたメイドが苦虫をかみつぶしたような顔で悔しがっていた。口元だけなのに、やけに表情豊かなのが印象的だ。

「え? いや、あの……誰もそんなこと」

「わかっております。鍵はここにございます。ですからなにとぞ、お嬢様だけは。お嬢様だけは。いくら粗末とはいえエクスカリバー。ああ、おかわいそうなお嬢様」

 言いながらポケットから取り出した鍵束を放ってよこすと、時代劇のような動きでその場に崩れ落ちてがっくりとうなだれている。

(泣き崩れたいのはこっちだよ……)

 グサリと突き刺さる一言に、心が修復不可能なほどに折れそうになったが、ギリギリで踏みとどまる。今大事なのはここから逃げ出すことなのだと、それだけを繰り返して心を守る。尊厳など命あっての物種だ、と。

 果たして鍵は本物で、扉を開けることに成功する。が、ふと思い立って再び振り返る。

 泣き崩れるメイドに倒れ伏しているイカ。事態において行かれ、呆然としている白衣の姿を見ると、なんだか自分が悪いことをしたような気になってしまう。

「着るもん、ないか?」

 さすがにこのままでは外を歩けない。

 エクスカリバーをおさめる鞘が必要なのだと、自分を慰めた。そう、あくまでもエクスカリバーなのだ、と。サイズの問題ではないのだ、と。

 心の傷は、しばらく癒えそうにない。


「お嬢様、これでよろしかったのでございますか?」

 レンタルされた予備の制服に身を包んだ(この時点で、なぜ満貫寺の制服が出てくるのか、なんてことは気にならなくなっていたようだ)真弘はいそいそと部屋を後にした。

 それを見送りながら仮面を外したメイド、雲雀谷華の表情は相変わらず変化に乏しい。

『よろしいわけはないのですよ。ないですが』

 こちらはイカの着ぐるみの中で動いてもぞもぞと蠢いている。脱ごうとしているのだが、着るのも脱ぐのも一人ではままならない大型の着ぐるみだ。しかも中にいるのは、小学生と見紛う程の小柄な体。

「ふぅ。結果論としては、これでいいということにせざるを得ないですよ」

 満貫寺指定の体操服に身を包んだ少女は、額の汗をぬぐいながら外見にそぐわない尊大な物言いだ。にもかかわらず、板についているというか、こなれている感じがする。

 体操服の胸元には恐ろしく達筆な『鹿王』の文字が書かれたゼッケンが張り付いている。凄まじくいかめしいはずなのに、自己主張に乏しいささやかな胸元と、幼すぎる顔立ちのせいでその文字だけが浮いている。

「お嬢様ならこのようなシチュエーションを好まれるかと。さらに申しますなら、今朝の騒動の際にやけに熱心に彼を見ていらっしゃったと、さらにさらに申しますな」

「申さんでもいいです! どこまでストーカーですか。時々お前が怖くなるですよ」

「恐縮でございます」

「本当に恐縮してくださいです」

「まあ冗談はさておき」

「私は本当にお前の人格を疑うですよ」

 涼しい顔のままで眉毛一つ動かさず(そのくせ、ほんのちょっとだけ頬を紅潮させて)、華はイカの着ぐるみを拾い上げる。軽々と持ち上げているが、凝ったデザインな上にそこそこのサイズなために、重量は二十キロを優に超えるほどだ。華奢な少女が片手でつまみあげられる代物ではない。

「これでようやく、我々も活動開始と相成るわけでございますね」

「そうですよ。株式会社パラ・ダイス、本格始動なのですよ」

 汗のにじむ項をぬぐいもせずに、鹿王紅葉(ろくおうもみじ)は誇らしげに胸を張る。汗でぺったりと額に張り付いた前髪も、乱れた項さえもチャームポイントに見える程に整った外見は、見るものを問わずその将来の有望さを確信させる。

「ようやく出会えたですよ、運命の人……」

 小柄な少女の頬を染めているのは、まぎれもなく淡い恋の色だ。

 腰まである髪が揺れる香りを、余すところなく吸い込もうと鼻息を荒くしたメイドの所業には、敢えて気付かないことにする。

 そのメイドが、明らかすぎる殺意にイカの触腕を握りつぶしていたことまでは、さすがに気づかない。

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