【本編】Ep.6 好奇心の先には
好奇心に誘われて、二人は夜の廃ビルへ。
そこで出会ったのは、ちょっと不器用な幽霊でした。
夜の帳が降り、街灯のわずかな光がビルの影に隠れていた。
足音が響くたびに、空気がわずかに揺れる。
座敷童子と呪いの人形は、夜の街にいた。
座敷童子:
「風が冷たくて気持ちいい〜」
呪いの人形:
「…勝手に家を出て大丈夫なの?
それに、動いてるところを誰かに見られたら…」
座敷童子:
「ん〜…誰もいないし、大丈夫だよ」
呪いの人形:
「…あなたは姿を消せるけど、こっちは”動いてない”ふりしなきゃいけないんだよ…」
座敷童子:
「それなら人形を抱えて歩けばいいんだね」
呪いの人形:
「…夜に子どもが一人(?)でいるだけで問題なんだけど…」
座敷童子:
「今は二人だよね」
呪いの人形(ちょっと困った顔で):
「…そうだけど、そうじゃない…」
(人形なんだけど…)
座敷童子:
「もし見られても姿消すからいいよ〜」
呪いの人形(半泣き):
「…それ、人形がひとりでに空中に浮かんでるように見えちゃうから…」
座敷童子は歩きながら手のひらを広げ、風を感じていた。
街灯の薄い光が二人の影を長く伸ばし、遠くの自販機の青いランプがぽつりと瞬いている。
「お昼にね、なぎの横でスマホ見てたんだ。
この近くの廃ビルに有名な幽霊さんがいるみたい」
その隣で、呪いの人形はちょっとだけ目を輝かせる。
「…だからって…興味ないわけじゃないけど…」
(少し怖いけど、誰かと何かをするのって…こんなに胸が高鳴るんだ…)
座敷童子は足を止め、ビルの入口に目をやった。
割れたガラスから街灯の光が細い筋となって差し込んでいる。
「ついた〜!」
呪いの人形:
「…人には見られないようにね」
そう言いながらも、目は完全に期待に満ちている。
どこか楽しんでいる様子だった。
二人は廃ビルの中へと足を踏み入れる。
ドアの軋む音が静かに広がり、足元から小さな粒が舞った。
中はひんやりとしていて、古びたデスクやカーテンが埃をかぶり、うっすらとした霧が漂っている。
座敷童子:
「わぁ、すごい…ここ、まるで時間が止まったみたいだね」
呪いの人形:
「ちょっと、待って」
急に立ち止まり、真剣な顔をしている。
空気が一瞬だけ重くなり、足音の反響が止まった。
呼吸の音がはっきり聞こえる。
座敷童子:
「どうしたの?」
呪いの人形:
「…なんか…いる。ここに、誰か」
その瞬間、風がぴたりと止まった。
空気が張りつめ、耳鳴りのような静寂が落ちる。
周囲の空気が急に冷えたような気がした。
呪いの人形:
「え…? まさか本当に幽霊…?」
闇の奥から、白い指先がふっと浮かび上がった。
光は柔らかく滲み、かすかに震えるような指先がこちらに向けられる。
呪いの人形は目を大きく見開き、
「な…何あれ…?」
と驚きながら後ろに一歩下がった。
呪いの人形:
「…まさか、本当に幽霊…なの?…」
やがて指先がきゅっと寄り合い――
…「指♡」になった。
しかも、どこか角度が微妙にズレている。
座敷童子はふっと笑いながら言った。
「あっ! 見つけた〜! 指ハート幽霊さんだ!」
呪いの人形:
「…指ハート幽霊…?
それって、どういう意味?」
座敷童子:
「うーんと、ただの幽霊なんだけど、なんかね、出てくるときいつも指で♡を作るんだって」
呪いの人形:
「幽霊なのに、ネタにされるってどういうこと…?」
そして――
二人の反応を気にするように、指♡の角度をそっと直した。
ほんの少しだけ、控えめに。
指先の光がわずかに強まり、冷えた波紋が広がるように感じられた。
その仕草に、呪いの人形は思わず息を呑む。
(え…今、こっちの様子見て直した…?
なんか…気にしてる…?)
やがて幽霊の顔が少しだけ現れた。
霞のような白い輪郭がふわりと浮かび、無表情なのにどこか興味深げに二人を見つめている。
目のあたりに小さな光の反射があり、それがまるで瞬きのように見えた。
座敷童子は恐れる様子もなく、逆に嬉しそうに手を振った。
「幽霊さん、はじめまして!」
幽霊は無表情のまま、でもどこか目がキラッと光ったように見える。
言葉は発さないけれど、“なんとなく”
「よろしくね」
と伝えてきているのが分かる。
呪いの人形は小声でつぶやいた。
「…なんか…悪い人じゃなさそう…」
座敷童子:
「でしょ? かわいいよね、この幽霊さん」
幽霊はその言葉に反応したのか、指♡をもう一度、ちょっとだけ丁寧に作り直した。
光の輪郭がふっと揺れ、耳に届くのは自分たちの鼓動だけのように感じられた。
呪いの人形:
「…いや、そこは直らないんだ…」
座敷童子:
「そこがいいんだよ〜」
座敷童子はしばらくその指ハートを見つめ、首をかしげた。
「なんで指ハートなんだろう? それって、どういう意味なんだろうね?」
呪いの人形:
「…わかんないけど…何か呪いの儀式とかかな…?」
幽霊はしばらく二人を見つめていたが、やがてゆっくりと姿を消し始めた。
消える直前、指♡がぽっと光り、微かな冷気が背中を撫でる。
座敷童子:
「あれ? もう帰っちゃうの?」
呪いの人形:
「多分すぐに出てくるよ。だって、この幽霊さん、全然こわくないし」
二人は廃ビルを後にした。
外に出ると、夜の空気が少しだけ柔らかく感じられた。
しばらく歩いていると、背中に冷たい気配があった。
気温が下がったような気がする。
遠くで何かがカランと鳴り、夜の静けさが一瞬だけ震えた。
そしてゆっくりと振り返ると――
闇の中に、ぽっと浮かぶ白い指先があった。
…その指先は、不器用な指♡。
まるで、覚えたての挨拶みたいに。
次話:【怪異相談室】①"ばずる"とは?
2026/3/18 20:00に更新します




