【本編】Ep.3 呪いの人形、なぎの家へ
静かな夜の気配の中で、座敷童子が“ある存在”と出会います。
なぎの家の日常が、少しだけ変わり始めるエピソードです。
1. 風が囁くような出会い
静かな夜。
満月の光が街のアスファルトを淡く照らしていた。
空気は冷たく、遠くの建物から返る低い静けさが夜を満たしている。
月明かりが窓から柔らかく差し込み、
外では風がそっと木々を揺らし、微かな音を立てていた。
葉が触れ合う小さな擦れ音が、歩く足音に寄り添う。
座敷童子は、夜の街を無邪気に歩き回っていた。
なぎの家に来てから数日。
すっかり“馴染んで”いた。
なぎの家から離れても、不思議と怖くはない。
夜の冷気が頬を撫でるたび、胸の中の静けさが少しだけ深まる。
好奇心に満ちた瞳で、
時折手を伸ばして物に触れ、また別の場所へ向かっていく。
布や木の感触が指先に残り、夜の匂いが薄く混ざる。
その光の中を、ひとつの影がゆっくりと歩いていた。
影は路面に長く伸び、月光に溶けるように揺れる。
古びた人形。月明かりが差し込むたび、その影が路面にゆっくり伸びた。
表面が光を受けて、ざらりとした質感を浮かび上がらせる。
その人形は少し古びていて、
曇った目がくっきりと刻まれていた。
瞳の奥に、夜の光が小さく反射する。
けれど、座敷童子は不思議とその目に引き寄せられる。
静かな好奇心が胸の奥でふわりと膨らむ。
座敷童子:
「……なんだか、ちょっと寂しそうだね」
そっと手を伸ばすと、
ひんやりとした感触が指先に伝わる。
夜風がその感覚を際立たせ、縫い目のざらつきがはっきりする。
座敷童子:
「……ひんやりしてる……」
風がふっと吹き込み、街路樹が揺れた。
風の通り道が、遠くの電柱の軋みを一瞬だけ響かせる。
座敷童子は迷いなく人形を抱き上げる。
布の匂いと夜の冷たさが混ざる。
座敷童子:
「……おいで。ここで一緒に暮らそうよ」
その言葉に応えるように、
風が少し強く吹き、葉がさらりと揺れた。
音が一拍増え、夜の輪郭がわずかに動く。
座敷童子はその揺れを見ながら、
迷うことなく家の中へと戻っていく。
足音がアスファルトに柔らかく落ち、家の扉の影が近づく。
なぎはすでに眠っていた。
古いスマホから静かな曲が流れている。
低いフレーズが部屋の隅をゆっくり撫で、空気をほんの少し震わせる。
座敷童子:
「……ただいま」
言い終えると、そっと布団の端に近づいた。
人形の瞳が、わずかに光を受けて揺れた。
なぎは微かな寝息をたてている。
寝息が布団の中で小さく波打ち、部屋の音に溶けていく。
そのまま座敷童子は人形を自分の部屋へと連れていく。
廊下の床がかすかにきしみ、布の擦れる音が続く。
座敷童子:
「ここだよ。ここでお世話するから、安心してね」
その瞬間、
人形の目がほんの少しだけ揺れた。
揺れは月光の中でだけ見える、細い反応だった。
呪いの人形:
(……あったかい……)
2. ゆるやかな初対面
翌朝。
朝の光がカーテンの隙間から差し込み、埃の粒が静かに舞う。
空気は昨夜よりも柔らかく、窓の外からは遠い朝の匂いが流れ込む。
なぎ:
「おはよー……」
寝ぼけ眼で部屋を見渡すと、
見慣れない人形がちょこんと座っている。
朝の光が布の髪を淡く染め、影が短くなる。
なぎ:
「……この人形、前からあったっけ?」
呪いの人形:
(必死に“前からいた感”を出そうとしている)
布が微かに震え、朝の空気を受けて静かに揺れる。
座敷童子:
「前からいるよ?」
そう返事をする。
聞こえているのかは分からないけれど、
声は柔らかく、朝の光に溶けるように消えていく。
なぎ:
「……まぁ、いっか。」
それ以上深く考えなかった。
昔からこういうことには慣れている。
気にしないことが一番だ。
さっと冷蔵庫を開けて朝ごはんの準備を始める。
扉が開くと冷気が一瞬だけ顔に触れ、鍋の底が小さく鳴る。
呪いの人形:
(……えっ……なんで怖がらないの……?)
座敷童子は小袋のラムネを一粒こっそりもぐもぐ。
紙の包みが小さく弾ける音が、朝の静けさに混ざる。
人形に笑いかける。
座敷童子:
「ねぇ、一緒に…食べよ?」
呪いの人形:
「……私も、それが欲しいな……」
人形の手が微かに動いた。
布の関節がきしりと小さく音を立てる。
座敷童子:
「食べよ!」
呪いの人形:
「……うん……」
なぎの家の朝は、
今日もゆるく、あたたかく始まる。
窓の外の風が、家の中の音をやわらげるように吹いていた。
次話:サブストーリー③ 霞処なぎエピソード0
2026/3/09 20:00に更新します




