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不器用な怪異たちシリーズ  作者: 瀬戸 陽子


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サブストーリー② お世話な神様

願い事が叶うという噂の祠。

VTuberとして有名になりたい少女の願いを聞き届けたのは、少し世間知らずな神様だった。

大晦日の夜。

願い事が叶うという噂の祠は、吐く息が白くなるほど冷えていた。


「今年こそは有名になりたいです……!」


町外れの山道を数時間。


タイムラインには、同期の“収益化報告”が並んでいた。

いいねを押しながら、胸の奥が少しだけ冷えた。


ようやく、すっかり寂れたその祠の前に立つ。

手を合わせた瞬間、

頭の奥で、かすかな“鈴の余韻”のような音が揺れた。


気のせいだと思った。


とりあえず疲れたし、早く帰って寝よう。


数時間かけて家に戻り、早々に眠りについた。


夢の中で、光が揺れた。

炎でも蛍光灯でもない、

油の灯のようにゆらゆらと不規則に揺れる、

“古い時代の灯り”の金色。


その中心に、輪郭だけの影が立っていた。

老人のようにも見えるし、

ただの光の塊にも見える。


声だけは、はっきりしていた。


「お主の願いは、有名になりたい、だったのぅ」


頭の内側に直接響くような、柔らかい声。


『はい!VTuberで歌って、SNSでバズりたいんです!』


「……びーちゅー……ば? えすえぬ……えす? ばず……る?」


影がわずかに震えた。

理解していないのが、光の揺れで分かる。


『えっと……テレビのアイドルみたいなもので……

スマホのアプリで青い鳥の……』


「すまほ? あぷる? 青い鳥……」

光が首をかしげるように揺れる。


「…………とりあえず、有名になりたいということは分かった。

ならば……導こうぞ」


光がふっと強くなり、

夢はそこで途切れた。


スマホの着信音で目が覚める。

少し不思議な初夢を見た気がするが、

内容は霧のように薄れていた。


今日は昼から配信だ。

気持ちを切り替え、

いつも通り、カメラとマイクを準備する。


「今日こそ、バズる……!」


……ばする、が何かは分からんが、

まずは第一印象が大事だな。


鏡を見ると、眉毛が少し整っていた。

髪もふんわりしている。

寝癖が勝手に直るなんて、珍しい。


まあ、いいか。


『明けましておめでとー!』


配信を始めると、

コメント欄がいつも通り流れ始める。


「今日も元気だねー」

「新年一発目!」

「神回の予感!」


“神回”という単語が光った瞬間、

部屋の空気がわずかに震え、

ほんの少しだけ室温が上がった気がした。


……ほっほっほっ。

早速効果が出たか。ワシのおかげじゃな。


彼女は踊りながら、早口言葉のような歌を歌い始める。


神様は四角い箱を覗き込む。

そこには、目の前の女学生とは全く異なる姿で、全く同じ動きをする存在が映っていた。


光が一瞬、ひらりと震え、神様の眉がぴくりと動く。

祈りの文言コメントまで流れておる……


……まあよい。

青い鳥とか言っておったな。


光は窓の外へ流れ、

近くの電線に止まっていたスズメを包み込んだ。


スズメは首をかしげ、

少女のメロディを短く真似る。


歌が終わった。


『難しかったけど楽しかったー!』


コメント欄がいつも通り流れ始める。


「今日神回じゃん!」

「あの歌を歌えるとは!」


……よく分かっとる。

ワシのおかげじゃな。


スズメは合図をすると大空へ。


空気が揺れ、

金色の筋が山の方へ伸びていった。


「……ところで、今日なんか鳥の声入ってなかった?」


その頃、スズメからヒヨドリへ。

ヒヨドリからシジュウカラへ。

シジュウカラは山の方へ飛んでいく。


山の木陰で、

一羽のルリビタキがその声を受け取った。


青い羽が、かすかに震える。


その声が、

さらに遠くの鳥へ伝わっていく。


二日後。


相変わらず、

配信の再生数は昨日と同じくらい。

むしろ年末年始で少し減っていた。

フォロワーも、いつも通り。

コメント欄の常連が、いつもの冗談を書き込んでいる。


テレビでは、新年特番が流れていた。


「本日は“冬の野鳥ライブ中継”をお届けします!

このルリビタキ、今“青い鳥界隈”で話題なんですよ」


画面の中で、

青い色をした小鳥が一声だけさえずった。


ほんの一瞬だけ、

あの日のメロディに似ている気がした。


「この鳥、歌上手いな」


どこか遠くで、

金色の光が満足げに揺れた。


……よし。願いは叶ったぞ。


その震えは、

誰にも届かないまま、

静かに空気へ溶けていった。

次話:ep.3 呪いの人形、なぎの家へ

2026/03/06(金) 20:00に更新します

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