表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者枠、満席。――クレーム係は異世界に誤配属された  作者: ちわいぬ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/13

間章 奉声(教材)


講堂は、昼でも薄暗かった。


高い天井。

壁に描かれた紋章。

中央に置かれた祠の模型。

光は、意図的に抑えられている。


前列には、若い見習いたちが座っている。

制服は新しい。

布が硬く、動くたびに擦れる音がする。

緊張が、その音に混ざっている。


壇上に立つのは、年配の祠守だった。


背筋は伸び、声はよく通る。

よく通るが、張らない。

“揺れない声”だ。


「――奉声とは、犠牲ではありません」


最初の一言で、室内の空気が定まる。


見習いたちは、一斉に背筋を伸ばした。

この言葉は、試験に出る。

覚えるべき言葉だ。


祠守は、ゆっくりと手を動かし、

祠の模型に触れた。


「結界循環は、神の秩序です。

しかし秩序は、固定しなければ崩れる」


模型の中心部を指す。


「初代在来勇者は、

その秩序を定着させるために、

自らの声を奉げました」


“自ら”。


その語が、自然に置かれる。


見習いの一人が、無意識に喉元へ手をやった。

すぐに、気づいて手を下ろす。

周囲の視線がある。


「声は、世界に刺さります。

正しく使えば、治癒が通る。

誤れば、揺れを生む」


祠守の声は、一定だった。

語尾も、呼吸も、揺れない。


「だからこそ、

声を制御できる者が必要になる」


黒板に、簡潔な図が描かれる。


円。

循環。

中央に、点。


「奉声は、

世界を救うために選ばれた、

最も合理的な判断でした」


合理的。


その言葉に、誰も異を唱えない。


祠守は続ける。


「重要なのは、

奉声が一度きりの奇跡ではない、という点です」


見習いたちが、筆を走らせる。


「判断の型として、

現在も活かされています」


活かす。


生かす、ではない。


「声が揺れを生むとき、

誰かがその揺れを引き受ける。

それができる者がいるから、

多数は声を出せる」


一人の見習いが、恐る恐る手を挙げた。


「……奉声された方は、

その後、どうなったのですか」


講堂の空気が、ほんの一瞬だけ張る。


だが祠守は、即座に答えた。


「安置されています」


それ以上でも、それ以下でもない。


「大切なのは、

その後の世界です」


祠守は、穏やかに微笑んだ。


「治癒は通り、

裂け目は閉じ、

国は存続した」


黒板の図に、数字が書き込まれる。

治癒率。

死亡率。

安定指数。


成果が、並ぶ。


「奉声は、

悲劇として語るべきものではありません」


祠守は、はっきりと言った。


「奉声は、

世界を選んだという事実です」


世界を選んだ。


誰が、とは言わない。


見習いたちは、静かに頷いた。

理解したからではない。

理解する必要がない形で、教えられている。


講義の終わりに、

全員が立ち上がる。


祠の模型に向かって、

短い黙祷。


誰も声を出さない。

声を出さないことが、敬意になる。


沈黙が、正しさになる。


講堂を出るとき、

一人の見習いが、友人に小さく囁いた。


「……もし、また必要になったら」


友人は、すぐに答えた。


「そのときのための制度だろ」


二人は、それ以上話さなかった。

話す必要がない。


奉声は、

もう“過去の出来事”ではない。


教材として、

儀式として、

言葉として。


今日も、

誰にも気づかれない場所で、

静かに再生産されている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ