危ない異世界に来てしまったようです。
「俺が使ったのは『霊操』『伸縮』『炎魔法』だ。」
アロマはそれだけ言うと、お前も早く言えよと言わんばかりの目で見つめてきた。
副マスにも見られているので、しぶしぶターリャは口を開いた。
「私は能力の使い方とかわからないし、さっきも使った覚えはない。でも、『身体能力向上』のバフは常時かかってると思う。」
「はあ?じゃあさっき俺が爆発したのって何だったんだよ。身体能力高くなったから爆発したってか?」
アロマが明らかにいらだった様子で聞いてきた。ターリャは「うーん」と考えた後、ハッと思い出して、顔をキラキラと輝かした。
「『無限弾生成』かも!」
「なんで爆発するんだよ。」
「世界を渡る者…『渡界者』ならあり得るんじゃないのか?」
ずっとバリアを展開していて少し疲れ気味なサダメさんがてくてくこちらに近づいてきた。
「どういうことですか?」
「このギルドのマスターは転生者でな。その人は普通の能力の強化版?を使っていたんだ。」
「確かにそれだと辻褄が合いますね。じゃあこいつは『無限弾生成』の強化版を使ってたってわけですか。」
アロマが急にターリャの襟を掴んでブンブンと頭を振ってきた。
「持ってる能力と魔法全部言え!ほかのやつも強化されてるとしたらとんでもなく強くなれるかもしれないんだぞ!」
「そんな無茶な…。」
そう、ターリャは自分の能力を覚えていないのである。スパイ業をやっていたのか信じられないほどの圧倒的記憶力の低さ!!戦闘が主な仕事だった仲間たちよりも低い記憶力にはターリャも悩んでいたのだが。
「そのための能力制御の石だ!俺たちみたいなやつは純白なギルドに行けないからな。能力確認のしようがないんだ。」
さっすが副マス!頼りになる。重機か?ってくらい強い力でアロマを引きはがしてくれた。
「でも、なんで副マスが石のある場所を知ってるんですか?転移できなかったはずでは?」
「マスターと一緒に行ったことがあってだな。」
副マスを疑いの目で見ると、少し困ったような表情で笑っていたのが見えた。
ターリャは話がずいぶん脱線してしまったのを感じて急いで元の話題に戻した。
「…じゃあ戦闘フォーメンションは私が後衛で良い?」
「ああ。目的の場所に着いたら俺が炎で目立ちまくってやるからその隙にお前は石を頼む。」
「…了解。」
ターリャの少し遅かった返答に違和感を感じたが、なんともなかったようにターリャが続けたのでアロマは気のせいと思うことにした。
「じゃあ、そろそろ行ってきます。」
「あたしも行きたかったのになあ。」
そんなことを愚痴っているサダメさんに副マスがギリギリ聞こえるくらいの声でボソッと言った。
「まあターリャの能力が手をつないで共有されるか怪しいからな。」
その言葉にギョッとして目玉が飛び出るくらいにびっくりしたアロマが副マスに詰め寄った。
「今聞き捨てられない言葉が聞こえてきたんですけど?!」
「あはは。死と隣り合わせなんていつものことだろ?」
「それとこれとでは全く話が違うんですが?!」
それはさておき、ターリャも自分の意志で飛び降りるなんてことはしたことがなかったので、足元を見て少しため息をついた。「ふぅ」と深呼吸をして覚悟を決めたターリャは、震えているアロマを連れて「すぐ帰ってきますから!」と崖から落ちたのであった。
「いててて…。」
何回やっても慣れない背中の痛さに悶絶しながらターリャは顔を上げてアロマを探した。だが、アロマは見当たらない。
「…死んだか。」
「死んでねーよ殺すな。」
視界の下からにょきっとアロマがツッコミをしたことに多少の安心感を覚えながら立ち上がる。
「よかったじゃん、死ななくて。でも、ここは明らかにスパイ映画って感じじゃないな。」
そんな言葉と共にアロマもスッと立ち上がった。
「ところでスパイ映画ってなんだ…?」
ターリャは今更?!とツッコみたくなるようなことに思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
「え、ああ、そっか!あの世界ではないのか!ますます副マスが何者なのかわからないな。」
むむ、と考え込んでいたターリャをよそにアロマは辺りをぐるっと見回した。
奥には古くて、茶色い錆のようなものが血のような深紅の柱があったそれは二本生えていて、上にも二本横に乗っている。今立っている場所の横には家と店が一体化していて商店街か団地か良くわからない構造での場所で、その家の窓や玄関の外には不気味な人形がずらりと並んでいた。上に浮いている紙でできた風船が暖かくも不気味なあたたかくも呪われそうな光を放っていて、それを見つけた瞬間に誰も居ないはずの後ろから物音が聞こえてきたり…。アロマでもここは危険だと分かった。
「たたたた、ターリャ?」
ブワッと一気に怖くなり、背筋が凍った感覚がしたので、ターリャがさっきまでいた場所の方を振り返った。だが、気づかぬうちにターリャはどこかに行ってしまっていた。
「ターリャ?!?!?」
「こっち居る。」
呆れた声のした方を見るとターリャが柱の錆を指でなぞっているのが見えた。
早すぎるこの世界の順応に驚きながらターリャの方に近づいた。
「この建造物?ってなんだかわかるか?」
「鳥居じゃないの?」
上を向いていたターリャは話すためにアロマの顔を見たが、思わずブッと吹き出してしまった。
「ビビッてやんの!」
指をさしながら顔面蒼白なアロマを見て笑うターリャに「笑うな!」とアロマは言った。
「それより、鳥居ってなんだ?」
まあ、わからないよね。ターリャはそう思った。
あんな神聖な世界にいたら知らないはず。
「普通は神様を祀る神社って場所の前にあるんだけど…。」
鳥居の奥を見ても何もないように見える。ここはワープゲートだったりするのか?くぐっても帰れる保証はあるのか?
「鳥居ってやつの向こうはわからないし、一回反対方向に進んでみないか。」
そう言ってアロマたちは鳥居と反対方向に進み始めた。
サダメさんの口調迷走中…。




