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異世界全力逃走記  作者: 枝井
第一章
13/16

最初の任務は運頼みのようです。

前回までは短い話を一気に3話ぐらい出してたので今回はまとめて1話にしてみました。

 朝日がカーテンの間から僅かに漏れている、なんてことはなかった。

 瞼を開くと、知らない天井がそこにはあった。光が入ってこない、閉鎖的な部屋。

 ああ、そうか。昨日からここが自室か。

 ベッドからゆっくりと起き上がって辺りを確認し、電気のスイッチを探す。ググっと伸びをしてベッドから立ち上がった。電気をつけると、まだ完全に開いていなかった目が少しずつ開いていく。日が入ってなかったので、電気がついた部屋は一層明るく思えた。徐々に脳が覚醒しはじめる頃に食堂の方から声が聞こえてきた。

「早く行こう。」

 ターリャはいつも頭につけてる赤い紐を手にとって慣れた様子でつけ、部屋を出た。


 昨日説明された道を丁寧に思い出しながら廊下を進んでいく。

 まだ眠く、下を向いていると洗濯機がある部屋へと向かうサダメさんに声をかけられた。

「あ、ターリャちゃん!おはよう!」

「おはようございます。」

 軽く会釈をしてすれ違う。ターリャは失礼だと思い、歩む足を止めて挨拶をした。

「そんなにかしこまらなくていいって!上下関係そんなに厳しくないから大丈夫。」

 やっぱり、ここは良いな。ターリャは改めて思った。


 洗面所につながる扉のドアノブを握った。それは少しひんやりしていて寝てる間に上がった体温を冷ましてくれた。

 パチッと電気をつけ、洗面所にあるブラシに手を伸ばし、髪を解かす。

 蛇口をひねり、下水道だということを忘れてしまうほど綺麗な水を出す。

 そうか、ここはおとぎ話のように美しい街の地下だったな、ということを思い出す。

 掌に水をため、顔にバシャっとかけた。

 結んだ赤い紐がヘアバンド代わりになり、髪が濡れない。スパイ寮生活時代に見つけた裏技だ。

 蛇口をキュッと閉め、タオルで顔をふく。

 赤い紐に絡めておいた前髪を戻し、もう一度ドアノブを握って廊下に出た。


「はよ。」

「おはよう、ターリャ。良く寝れたか?」

 どうやら副マスを待たせてしまったようだ。食堂に到着したターリャに副マスが挨拶してきた。

「おはようございます。昨晩はぐっすり寝れました。」

 ターリャの回答を聞いてから、ちらりと問題児の方を見る副マス。

 問題児はムッとした表情で「はよ。」と雑な挨拶をしてきた。

 ターリャはイラッとしたが、ここは我慢。大人の余裕を見せつけるために愛想よくニコッと笑って丁寧に返す。

「おはよう!」

 訂正。見下すような笑顔で。

 こいつら仲悪いのか…?察する副マス。とても気まずい。そんな雰囲気にしてしまったターリャはちょっぴり反省していたが、問題児ことアロマは反省していないようだ。

 そこに遅れて女神(サダメさん)がやってきた。

「みんな集まったから朝飯にしよう。」

 副マスがそう言った瞬間にみんな一斉に準備を始めた。


「よし、今日の任務内容を伝達するぞ。」

 朝礼開始。ここで毎朝、任務内容を確認するようだ。

「サダメは俺と室内業務だ。」

「了解しました!」

 副マスが直々に教えてくれるのは実にありがたい。なぜなら、人を挟むと任務内容に少しの誤差が生じてしまうからだ。これで何度トラブルになったことか。

「アロマとターリャは共同任務だ。本日付けの任務ではないが、頼めるか?」

 げ、こいつと一緒?と思ったがここは表情に出さずに元気よく返事をするのが良い。頼めるか尋ねた理由は多分、今日の朝のことが原因だろう。ちらりと横のアロマをみると、げっそりした顔で「嫌だ…。」と言いたげな表情をしていたのでターリャはアロマの頭をグッと下に押し付けて、

「はい、全然大丈夫です!どのような任務内容でしょうか!」

 と返事と質問ををした。苦笑いをしながら副マスは答えた。

「お前らには通常任務をお願いすると同時に別任務もやってもらう。ターリャ、お前は異世界に渡る能力を持っているんだな?」

「はい。でも場所とかも選べないし、崖とかから飛び降りないと発動しません。それに、転移か転生かあやふやなのであまり使いたくないと思っています。」

「アロマ、お前は霊操だっけか。」

「はい、上手に操れないんですけどね。」

 ターリャ達はハハ、と乾いた笑いを見せながら答えた。

「お前たちには能力制御の石をとってきてほしいんだ。」

「どこからですか?」

「異世界の闇ギルドからだ。」

 そういった瞬間、副マスに冷たい視線が集められた。

「話聞いてました?こ私、場所選べないんですよ?どうやってそんな狙った場所に転移すれば良いんですか?」

 少し棘のある言い方でターリャは言った。

「そこで、だ。アロマが持っている『幸運』の能力を共有してもらえば、異世界を数回走り回るだけで目的の場所に行ける、と俺はふんでいる。運が良ければ一回でいけるかもな!!」

 なるほど。アロマにそんな能力があったんだな。

 ってちがーーう!!!

「そ、それって私たちにいつ着くかわからない異世界の旅をさせるって言ってるのと同じですよ?!」

 アロマがすかさず加勢する。

「そうです!帰りたくなっても同じように運で転移しなきゃいけないって鬼畜すぎる!」

 ターリャ達の猛反対を真摯に聞きながら、副マスは言った。

「俺も強要するつもりはない。何せこんな任務内容だからな。ただ、その石がないとお前らは一生強くなれない。それでも良いんだな?」

 別に、強くなる必要はない。だってこの地下には命を狙ってくる人なんていない。でも、やっぱり許せない。私を指名手配犯に仕立て上げた、弾を90度曲げた犯人を許せないのだ。せっかく転生してきて新しい人生を歩めると思ったのに、これじゃあスパイ時代と同じじゃないか。私は…。

「俺は行く!」

 ターリャが答える前にアロマが答えた。その時、ターリャの頭の中で違和感が駆け巡る。

 ん、ちょっと待て。一緒に行くってどういうことだ?私の能力は転生か転移か詳しいことはわからないが、一緒にできるものなのか?もし仮に一緒に崖から落ちてもこの能力が私だけに作用する能力とかだったらアロマ死ぬのでは??

「あ、あの。」

「どうしたんだ?ひよってんのか??」

 アロマが挑発してくるが今は無視して話を続ける。

「アロマと一緒に行くってことはアロマと一緒に崖から飛ぶってことですよね?」

「ああ、そうだな。」

「それ、アロマ死にません?能力はまだちょっとしか使ってないから詳しい発動条件とかわからないですし。」

 アロマはターリャの言葉を聞き、一気に青ざめ、バッと副マスの方を見た。

「基本的に能力は手をつないでいたら共有されるし、大丈夫だろう。何とかなる。」

 楽観的な思考すぎないか?!?!サダメさん、なんか言ってやってくださいよ。

 ターリャが驚いていると、サダメさんは本当に口を開いた。

「能力なんて正規の石板や水晶玉でも正確には把握できないくらいですから、大丈夫でしょ。」

 それ今関係あった?!?!

「たしかにそうだな。」

 こんなくそ理論で納得するなよ!

 心の中は沢山のツッコミであふれかえっているターリャであったが、そのおかげでもういいや、と吹っ切れた。まあ失敗してもアロマ死ぬだけだし。

「わかりました。場所はどこですか?何ギルドとか、世界の特徴を言ってもらえると助かるんですけど…。」

「スパイ映画のような世界にある冒険者ギルドだ。」

「冒険者ギルドが闇ギルドなんてことあるんですか?!」

「あるぞ。良い企業もあれば悪い企業もある。」

 ターリャは驚きを隠せず、顔に出てしまっていたが、サダメさんとアロマは何を驚いているんだ?という顔をしていた。

「よし、準備しよう。地下から出るぞ。」

 その言葉で朝礼は終了したのであった。

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