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音の調和

作者: 溝口野口

文化祭で友達が演奏しているのを聞いて、自然と浮かんできた。後悔はしていない。

 ステージの上、4人の人達が今まさに演奏を開始しようとしている。その様子を僕たち観客は今か今かと固唾を呑んで見守る。


 バイオリン、チェロ、ギター、キーボードが置かれたその場所は、壁で仕切られている訳でもないのに、観客席から隔絶していた。そのような雰囲気をこの4人は作り上げていた。この空気に対して、僕は一層演奏に期待を込める。


 キーボードが弦楽器の調律の為に音を発する。それに引き続いてまずはバイオリンが、次にチェロが、ギターが同じ音を作り出す。回りの空気が音という振動によって揺らされる。同じ音だけのはずなのに、重ねられたその音は不思議と重厚さを持った一つの流れとなる。それだけでも、僕は十分にこの小楽団の気持ちの一体感と、技量の高さを汲み取ることが出来た。






 調律が終わり、にわかに張り詰めた空気に会場が包まれた。重苦しいそれを破りギター奏者の足がリズムをとる。


「ワン、ツー、ワンツースリーフォー」


 キーボードから音が奏で始められる。いよいよ、演奏が開始され、僕達は音で編み上げられた籠の中へと、いとも簡単に放り込まれる。赤ちゃんをあやすかに思える優しい音色から楽曲が始まった。


 バイオリン、チェロの音が僕達を特別な世界へと誘う。弓と弦が擦れ合い、その音は楽器の中へと取り込まれ洗練されたと同時に増幅され、F字の孔から奏でられる。甘い恋のささやきを、時には悲壮に満ちた表情を音という手段によって描かれ、伝わっていく。


 エレキギターからケーブルを介し繋がっているアンプから、音がほとばしる。その音は、普段僕が聞いている音楽で使用される歪んだ音ではなく、アコースティックの音色を残しつつ会場中に広がるかのような音。使い手の思いが切に込められた明瞭な音は、直接私の中で響き渡る。


 キーボードの中には、無機質だが多種多様で聞く者を飽きさせることのない、電子回路で作られた音があるという強みがある。当然、弾き手に選択は委ねられる訳だが、それにより始めて音に魂が篭る。他の楽器と同じように大切な役割を担っている。


 そのそれぞれが自分の持ち味たる部分を活かし、演奏していた。






 今奏でられている演奏は、一つ一つの楽器が互いに主張、かつ強調し合い生き物のように繊細でかけがえのない物へと変貌した。バイオリンやギターからの旋律は骨組みを形作り、チェロやキーボードの低音はそれを動かす血肉となったのである。


 ソイツは会場中を駆け、僕達を圧倒させる。同時に憂いや喜びもその背中に乗せ、僕達に届けてくれる。僕は静かにそれにもたれかかり、しみじみと聞いていた。


 演奏の指が目まぐるしく動き、もはや楽器の一部となっていた。






 演奏も佳境に差し掛かる。激しい曲調へと変化し、バイオリンが細かくふるえ、ギターが荒々しくふるえる。キーボードは鍵盤を使い感情の変化を端的に表す。


 生き物が咆哮するような曲調に皆圧倒されていた。それだけ作り出された獣が雄大であったからだ。更に壮大さを増してこちらへと歩く獣。テンポが上がるにつれて歩みも速くなってくる。


 迫る、迫る。このままこちらにやって来たら僕はどうなってしまうのだろう。普段ならば一笑して彼方へと打ち捨てられる考えなのだが、この時ばかりはまともに考えてしまった。


 当然、獣が駆け出した!全速力で迫り来る、感情の波。激しくなる演奏と共に、それを口元から覗かせて、僕を飲み込まんとあらん限りの力で跳躍する!僕は思わず目を閉じた。同時に約10分間に渡る演奏も終わった。


 終わった直後、僕の体は汗びっしょりで、鳥肌が全身に立っていた。皆も同じような感じでいて、しばらく動くことはなかった。


 堰を切るように拍手が沸き起こる。前の演奏者が演奏を終えた時よりも遥かに多い拍手が会場全体を覆い、延々と続く。演奏は大成功した。僕は立ち上がり、賞賛の拍手を演奏者達に送り続けた。


 音楽っていいですよね……。


 クラシック、ポップス、ロックとジャンルはあまたあれど、良い曲は必ずや私達の心を動かせてくれます。そんな気持ちを短いですがまとめてみました。一人でも共感してくれる人がいたならば嬉しい限りでございます。

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[一言] 友人です。 私も書きます。
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