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可愛い俺を好きになってください  作者: 春夜


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第三話 夕暮れのすれ違い

鏡の前に立つ。

そこに映るのは、いつもの男子高校生、小森 叶太ではなく、ほんの少し背伸びした女子――カナエだ。

ダボッとした白いシャツに黒いジャンバーを羽織り。落ち着いた色合いのズボン。もうすぐ夏になるというのに暑そうな格好だが必要最低限だ。茶髪のウィッグを整えて白いリボンの髪留めをつける。顔にはほんのりチークをのせる。鏡越しにウィンクしてみると、自分でも「ちょっと可愛いかも」と思えるから不思議だ。

「あ、あぁ〜」

バス停でバスを待っている間わざと声に出して調節する。

「あぁぁぁ」

学校の知り合いに会うのは絶対に避けたので、決まって出発は夕方以降。今回行くショッピングモールは少し遠いが、そこなら安心していくことができる。また、他とは違い大きいモールなので品揃えも豊富だ。

目的は、文房具と暇つぶしの本探し。男の自分としても買いに行けるものだが__今日は『可愛い』として出かけることに意味を持つ。

フゥゥゥ

バスが来たことで夕暮れの風が頬を撫で、ふわりと長い髪が揺れた。たったそれだけで心臓がドキりと跳ねる。通学手段としてバスに乗ることは日常茶飯事だがいつもとは違う。男として歩く時とは違う世界。すれ違う人の視線、一つのことへの感じ方に至ってすべて違う。こうして外に出ると、ほんとうの『可愛い』になれた気がする。


ショッピングモールに着くと、館内は明るく、家族連れや学生で賑わっている。

最初の目的地は本屋。文房売り場へ向かっている途中でふと目に留まる。そこはかわいい付箋やノートがあるコーナーだった。眺めていると、周りにいる女の子たちと同じ感覚で商品を手に取っている自分がいた。柴犬が丸っこいイラストで描かれており、見ているだけで癒やされそうだった。

「これ、可愛い、、、」

思わず声が漏れる。

ボールペン一つ選ぶにも男なら『使いやすさ』で決めるのに、今は『どちらが可愛いか』で迷ってしまう。ペンを試し書きするときも、心なしか文字が丸っこくなる。それは、学校でノートを書いているときとは違かった

__やばい、完全に『可愛い』になりきっている

そんな自分を笑いそうになるけど、同時に心が軽くなる。

『男だからダメ』、『男の子なのに変』じゃなくて、『可愛い』である『カナエ』としてなら”自由”。そんな不思議な気持ちだった。

__変だなぁ


文房具を選んだら、本コーナーへ移動する。少年・青年漫画コーナで面白そうな表紙に立ち止まるが、、、

「ねぇ、このはなし読んだ?」

「なんだっけそれ、、」

「少女漫画なんだけど!」

「私少年漫画派なんだけど」

隣の少女漫画コーナにいた女子高校生二人の声に思わず耳を傾ける。

「この話ヤバいのよ」

「なに登場人物死んだとか?」

「違う!!」

「主人公に惚れた男の子が女の子にアタックするんだけど、先輩と後輩だからすれ違いが多くってね」

「焦れったいとか」

「そうなの!それに主人公は別の人に恋してるの!」

「へー!やばいじゃん」

「だから読んでみて」

「読んでみようかな」

「読んでみて!!」

キュン死するよ!!などと熱烈に進めている。

「読んでもハマるかはわかんないよ」

「うん!無理にハマんなくていいよ」

「それなら」

「でも感想教えて!!」

わかったわかった。とはしゃぐ二人を見届けた。

そして、そのまま先程進めていた漫画に向かう。

表紙では男の子が女の子に幸せそうに微笑んでいる。恋してるのだと誰もが見てもわかる。

__あ、

一つ気づいたことがある。今6巻まであるがどの表紙を見ても主人公の瞳には男の子は映ってなかった。男の子はどれも主人公を瞳に映している。だが、主人公は別の誰かを見ている。一方通行の片思いなのだと、すれ違っているのだと、

「辛いな」

低い声で言っていた。

その本を手にせず去る。

ノート、ペンが入った袋が揺れている。別の本を探そうと考えたが買わなかった。スマホで確認すればもうすぐ、バスが着くのでバス停へ向かっていた。

そんな時だった。

ふと通路の向こう側に、見覚えのある顔が見えた。

その瞬間、

ドッ、

__心臓が跳ねた。

髪を高めに結び、背筋の伸びた姿勢。意志の強い瞳。

あの堂々とした雰囲気__見間違えるはずがない。

「、、、白石(しらせき)さん」

小さな声が漏れる。

小学生の頃からずっと、ずっと今も好きな人。初恋の人。

会いたくて会いたくて仕方がなかった人がいた。

慌てて歩みを進めた。

心臓がドクドクと大きく鳴り、呼吸が浅くなる。

今まで歩いていたのに、歩き方を忘れてしまったかのように足がもつれる。うまく走れない。

けれど__。

人混みに紛れ、彼女の姿はあっという間に見えなくなっていた。

「あ、、、はぁ、、はぁ、、」

残るのは疲れた呼吸。

体育をした時、思いっきり走った時でさえここまで疲れを感じることはなかった。

立ち尽くす手から、袋が傾き、中のノートなどが床に落ちる。

慌てて拾い上げながら、まだ早鐘のように脈打つ胸を押さえた。

「違う、、、似てただけ、、?。、、、いや、でも、、、、」

頭の中で言い訳を繰り返しても、さっき見たあの顔の印象は鮮明だった。


帰る頃には外は真っ暗だった。

買い物袋をぎゅっと抱きしめながら部屋に入る。今もなお、頭の中では気持ちがぶつかり合っていた。

__だけど。本当に本人だったら?もし女装姿の俺を見て、気づかずに話しかけてきたら?

部屋の鏡には女の子の叶がいる。

「、、、また友達になれるかな」

呟いた言葉は、部屋の静かさに溶けていった。

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