第二話 『かっこい』俺の日常
平日。朝頃。
通学路にあった桜の花が散りかけて夏へとなる時期。
あれから時が経ち高校生へとなった。高校に慣れる為に色んなことに勤しんでいたら気がつけば高ニになっていた。
「小森おはよー」
「おはよう」
教室に入れば何人かが声をかけてくる。
ドガッドガッ!
「こもーーり!!」
ビクッ!!
「頼む!まじで頼む!!」
「な、何だよ急に」
その内の一人が頼み込んできた。
「小森!!」
パンッッッッ!!
破裂したような勢いで手を合わせて頼んできた。
「ノーーーーート見せてくれ!!」
「なんだよ、ノートかよ」
「一限目からノート提出なんだよ!!」
「やってねぇのかよ」
「小森様御慈悲を!!!!!」
「はぁ、仕方がねぇなぁ」
「ありがとうございます!!!」
俺はノートをカバンから取り出し渡す。
渡した途端
ドガッドガッ!
と勢いよく戻っていった。
「朝から元気だなぁ」
「ほんと元気だよな」
前の空いている席に座ったそいつは
「さっきビビってたじゃん」
「別にビビってないし」
フッと鼻笑いをし机に顔をのせる。
いや、お前がのせている机は俺のだぞ
まぁ、先程威勢よく頼み込んできた奴はクラス一の騒がしい奴だ。声の圧も勢いもすごくて有名な野球部だし、、、
その声の勢いから
ドッツ、ドッツ、ドッツ
と心臓がビビり散らかしている。一応、顔では平然としていたはずなんだけどなぁ。
「あっ、、俺もノートやってない」
「何してんだよ」
「ノートみぃせぇてぇ」
「ノートは山田のもとへ旅に出た」
「えぇ、、連れ戻してきて」
「順番待ちな」
「俺忙しんだけど」
忙しいなら自分の席へ戻れという思いを込めて
パコッ
頭を教科書で叩いた。
「ちぇ、」
このだらっとして特徴的なさらさらの黒髪をのせて寝ている男は、和谷 蓮。このクラスでは結構仲の良い人物だ。
「てか、お前等自分でノートやれよ」
「めんど」
それは思う。
「諦めて他の奴に見せてもらえよ」
「えぇぇ、、、」
俺以外にもノートを取っているやついるだろ。もしくは女子とか、こいつが声をかければ貸すどころかプレゼントされるだろ。
「俺小森様のノートがいいぃ」
「なんでだよ」
すぐにお前等、クラスの大半は俺に借りに来やがって。他にいるだろうが
「だって、小森のノート気持ち悪いぐらい見やすいんだもん」
「気持ち悪くはねぇだろ」
にやっと笑い
「小森のノート妙に丸っこくて見やすいんだよなぁ」
「は、、」
「女子より可愛い、字綺麗なんだよなぁ」
「本人たちにも失礼だろ」
そんなに思うか。
「だから俺は小森にしかノート借りない」
「いや、意味わからん」
「気持ち悪いくらい綺麗なノート見ながらやると自分のノートが輝く」
「それは褒めてんのかバカにしているのかどっちなんだよ」
などとくだらない会話が続く。
授業は他の奴らが寝てサボったりする中ちゃんと書き写す。
『女子より可愛い、字綺麗なんだよなぁ』
アイツが言っていた言葉がふと頭をよぎる。手を止めて自分のノートを観察する。
パラパラパラ、、パラパラ、、
今日の分、昨日の分、一昨日の分、とめくるように見る。
ーーそんなに気持ち悪いくらい綺麗か?
体育の時間では
「小森ナイス!」
「応!」
平然と楽しむ。
体育は得意な方だから活躍することができる。だからこそ、周りには期待されている。
「俺も手伝うよ」
「ありがとうな」
重いものだって運べる力だってある。
「棚の上のやつ取ってくれ」
「取ります!」
高いところにあるものを取る力だってある。
昼だって飯をたらふく食べるし、馬鹿騒ぎに巻き込まれたりする。
「こーもーりー!!」
「バカだろ笑笑」
当たり前のように混じる。
「じゃ、」
「応!またな」
駅につくとバスと電車で別れる。大体の奴が電車通学だ。
フゥゥゥゥゥゥゥ
バスが着き風を肌で感じる。
いつも通りの日々。
「ただいま」
いつも通り家に帰り着く。
トッ、トッ、トッ、
階段を登り部屋へ向かう。
部屋の中は全部整理されている。乱れていないし、完璧な状態。扉に付いている鏡に被せている布を取る。
そこにはいつも通りの俺が鏡に映っている。
髪はショートで短く茶髪。少し白っぽい肌。硬い喉仏。腕にはなめらかについている筋肉。それを隠す着痩せする体。175センチの高い背。高校二年生の小森 叶太。
ガチャ_
クローゼットを開ける。片方に学校のリュックと制服を置く。ここには高校生らしいもの埋まっている。もう片方にはカーテンがつけられている場所がある。そこには俺の存在が隠れるもので詰まっている。
サラッ_
今そこを開けることはない。
ただ、
『ただいま』
そう声を掛けるだけ。それだけで今は十分。
休日。夕方頃いや、もうすぐ日が暮れて夜になる頃。
俺はのそのそとクローゼットへ向かう。
少しダボッとした大きめな服。足首まで長く足の大きさがわからないタイプのズボン。たっぷりな日焼け止め。顔には少しの化粧。背中まである長い茶髪の髪を櫛で梳かす。白いリボンの髪留めを付ける。そして、顔の半分を隠すぐらいの大きさの黒いマスク。これで完璧。
扉についている鏡の前に行く。
そこにはいつも通りの私が鏡に映っている。
ズレがないことを再確認する。
黒い小さめのリュック。厚底を履いているように見える靴。
『行ってきます』
その時間は別の誰か。休日には『可愛い』へと変わる。