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第九十二章 人間の結界内部

 俺達は人間の結界内へと突入した。

 と言っても攻勢ではない。ただの偵察だ。メンバーは俺とレオニスのみ。

 レオニスが俺の背の盾に乗り込み鎧を顕現させている。傍から見れば魔物のオーガではなく魔素人形に見えるだろう。白に金の装飾の鎧。このような魔素人形は見たこともないが聖女であるレオニスが乗っているのだ。カモフラージュにはなるだろう。

 盾の中にはムリエルが作った世界の改変を利用した人間用の食料、ムリエル食とムリエル水がふんだんに積み込まれている。俺も真似事は出来るが食用となると安全性に疑問が残る。それは最終手段だろうな。

 一応食事の作り方や水の確保はレオニスがリンセスから学んでいる。今回は非常時なのでムリエルフードだが通常は普通の食事を心がけているようだ。レオニスがアリエスを御姉様呼びするのを見て、レオニスにお姉ちゃん呼びを強要していた。その代わりにこの世界での人間の生き方を教えている。どうなる事かと思ったがこちらも上手く行っているようだ。特にリンセスは子供に食べさせる食事というものに拘りがある。自分ではなく他人に食べさせる食事。これが重要だと説いていた。その真摯な姿にレオニスも感化されたのだろうな。一応調理道具も載せてある。


 なぜ俺とレオニスなのかは揉めたが当然の選択だ。

 聖女たちとそれに追従する人間達の対応力が尋常じゃない。間違いなく人間の結界内には世界の改変であるチートを扱う存在が人間の敵として居るのだろう。それに対抗している内に聖女の対応力が磨かれたのだろうな。

 それならば対チート性能が抜群の俺とそれに対抗できる聖女のレオニスは当然の選択だ。

 それに今回は偵察だ。物見遊山と言ってもいい。見物して帰ってくる。まずはそれだけだ。下手に人数を多くはしたくない。世界の改変が絡むとなると何が起こるのか俺でさえ予想は出来ないからな。


 人間の動向も今は落ち着いている。俺達が旅立って人間の結界の塔に来るまでほとんど動きはなかった。もし俺が人間であればグレートソードのノーネームド聖女と大盾聖女があそこまで手傷を負い討たれたのだ。結界内に退避していてもおかしくはない。人間が全て退避しているという訳ではないが、その戦力は冒険者レベルが居るのみだ。戦うというよりも魔物の動向の把握だろうな。


 そして俺達は何事もなく人間の結界の塔にまで辿り着き、その脇を抜けて侵入に成功した。

 道の脇の森を抜け、何事もなく進む。霧のような靄が急に出現したが何事もない。これが結界の一部なのだろうな。まともに機能していたらどうなるのかは知らないが、今は問題がない。靄の様な霧を抜けても風景は変わらない。拍子抜けするほど何もない。

 本当に何もない。自然が広がるのみだ。街でさえ見当たらない。塔にも人が見当たらなかった。その周辺にも街がない。

 結界の境界線は安全ではないのか? 

 それは結界の外から現れた生物によって知れた。


 ドラゴン!?・・・にしては太い。首がない。言うなればクジラにドラゴンの翼が着いたような、なんだあれは。間違いなくこの世界の理の中に居る存在ではないな。それが西側から結界の靄霧を纏いながら侵入してくる。雲海から現れたクジラの魔獣。形容するならそうだろうな。

 ・・・これは、流石に人間達が魔物に関わっている場合ではないな。人間の結界が弱まってこういう輩の侵入を許しているのか。聖女が魔物の領域に来はじめたのもこれの調査のためか?

 俺達魔物は人間の結界から見て南、南西だ。このクジラドラゴンは西から来ている。魔物の領域の真北だ。あそこはまだ俺も行ったことがないな。

 しかし世界の改変を扱うものは人間の結界の外に居るのか? だとすれば聖女たちは遠征で奴らと戦っていて結界内部は安全なのか? 俺は周りを見渡すが自然が広がっている。もしも本当に安全だったのだとしたらここまで自然が手つかずという事は無いだろうな。そして俺は駆け抜ける聖女たちの姿を捉える。そのクジラドラゴンから逃げているのだろうな。

 クジラドラゴンの視線が聖女を捉える。その姿はシロナガスクジラの顔面が小さいような姿だ。海水を飲み込むほどの口ではない。例えるなら顔の小さなクジラにトカゲの手足、ドラゴンの翼、尾びれにヒレはない。・・・クジラドラゴンで良いだろう。

 だがそれが笑った。食べるためではなく、嘲るために。その小さな口が開かれた。

 それは俺の思い過ごしかもしれないが、それでも俺をイラつかせるには十分だった。


「お父様?」

 レオニスの言葉が聞こえるが俺は集中していた。俺は左手を伸ばしその手のひらにクジラドラゴンを乗せる。コイツは間違いなくチートだ。だがインナースペースがない。魂がない。禁止するまでもなく世界の改変は行えない。

 与えられたものだろうか? 魔族の合成獣のように世界の改変を使った魔法「改変魔法」でもない。これならばこの改変を砕くことができる。

 俺は手のひらから見えるクジラドラゴンのチートを把握すると紐解いていく。そして握りしめると世界の改変が消え失せる。

 落下していくクジラドラゴン。それはそうだろう。あれが浮くはずがない。

 地面に叩きつけられて身動きもできない。それはそうだろう。あの足でその丸太のような体を支えられる筈がない。

 それはそうだろう。コイツはこの世界に存在していいわけがない。


 俺が相棒を抜くと既に聖剣と化している。出しゃばりの方も加護の膜を発生させている。

「お父様!? 戦うの!?」

「戦い? ただの害虫駆除だ。戦いですらない」

 聖剣と化した相棒から光が放たれる。魔素イレイザー。魔族との戦いではそう形容したが、魔素の塊ではない魔族の体も消し飛ばしていた。それがクジラドラゴンの体を消し飛ばす。さしずめ魔獣イレイザーという所か。これが効かなかったのは悪魔であるタウラスくらいか。奴は物理無効まであったのだ。奴が特別なのだろう。

 そして空に目を向けるとクジラドラゴンの群れが次々とこちら側に侵入してくる。

 人間の結界は視界も防いでいるんだな。境界線の何もない所から湧いているように見える。

 俺は目についたクジラドラゴンを片っ端から握りつぶす。墜落したものは魔獣イレイザーの餌食だ。

 何とつまらない。チート合戦などただの害虫駆除。清掃業者と変わらない。ただの作業だ。

 

 そしてやっと親玉が現れる。シロナガスクジラのヒレがドラゴンの翼になった、ヒレだけドラゴンクジラだ。顔もシロナガスクジラと同じだ。その巨体に核がある。目視は出来ないがそれがわかる。チート使いの間ではクジラが流行っているのか?

 だが核だ。コアじゃない。コイツは本体じゃない。コアから生み出されたデミだ。

 ならばあのクジラドラゴンはなんだ?

 デミでもないのなら魔獣とでも呼ぶか。世界の改変を付与された魂のない生物だ。


 流石に核のあるデミのチートは解除できないか。空から引きずり下ろせない。

 俺は諦めて世界の改変の禁止を展開する。デミは世界の改変を扱える。展開しておいてもいいだろう。

 向こうも気付いたか。幸い聖女たちは逃げるのに集中している。邪魔は入らないだろう。

 こちらにヒレだけドラゴンクジラ、改めヒレゴンクジラがやってくる。

 そして意外なことにチート合戦の精神面で出しゃばりが手こずっている。デミを相手に精神戦で優位に立てないという事は相当に精神面で強化されているな。いつぞやのコア持ちの親玉である浮遊城郭を思い出す。あれも精神面で出しゃばりを圧倒していた。

 つまり精神面での強化は聖女に対して有効なのだろうな。それこそ浮遊城郭は聖女であった頃のアリエスを捕らえていた。対聖女戦を考えるなら精神面での強化が正しいのだろう。

 ヒレゴンクジラが空から魔法を撃ってくる。デミには魔獣イレイザーも効かないようだ。迎撃には使えないな。

 高度を取られて反撃できない。世界の改変の禁止が早すぎたかとも思ったが精神面での強化を施されたデミでは禁止を解除するのは逆に危険だ。

「お父様。足場が必要?」

 俺が頷くと加護の盾が上向きに展開される。ただの盾かと思ったが、乗れる。それに合わせるように空中に加護盾の足場が形成される。俺はマントマニューバで一足飛びに移動するとそれに合わせるように足場が展開する。

 流石だな。この使い方はアリエスだな。現行の聖女と戦ってわかったことがある。聖女は何処か神の加護に敬意を持っている。だがアリエスはただの道具としてしか見ていない。だからこその多彩な使い方だ。神への敬意が低い程その使い方に独自性がある。ノーネームドは加護の術に秀でていたが使い方は普通だった。大盾聖女は加護の術はからきしだがその使い方は群を抜いていた。そういう事だろうな。

 俺は加護の足場を伝って相棒に加護の剣を纏わせるとヒレゴンクジラに斬撃を食らわせていく。

 流石にこいつも動き出したな。クジラとはいえ海中生物だ。その動きは機敏だ。

「お父様。とっておきがあるけど使う? これを使っている間は他の事が出来ないけど」

 俺が頷くとヒレゴンクジラの周りに加護の盾が出現し追従する。

「乗って!」

 レオニスの声でその足場に乗る。それはヒレゴンクジラが回転しても足場として機能する。これは便利だ。

「あんまり持たないから。限界が来たらもう出せない。早く片付けて!」

 ならばそうしよう。俺は加護の足場を踏みしめ相棒をヒレゴンクジラに叩きつける。精神面に振っているだけあって体力面は脆いな。ザクザクと切り刻んでいくと核の位置が次第にわかる。コイツは頭じゃないな。中心部に核がある。コア付きのクジラは脳に血液を送るために額だったが、コイツは違うようだ。デミは何処に核があってもいいのかもしれないな。それこそ魔物のデミは外に核があった。

 場所の見当が付けば後は早い。体を切りつけて核に剣が触れるとそこを突き刺す。その場所に目掛けて魔素を燃やした一撃を五連撃。それで核は消失した。

 ゆっくりと落下し消えていくヒレゴンクジラ。それと同時に加護の足場も消えていく。

「レオニス。助かった」

 俺は地表に降り立つとレオニスに声をかけた。

「もう! お父様! 今回みたいのは無しよ! なんでこんなことしたの!」

 流石に怒らせてしまったか。

「すまん。チート使いを見るとどうもな。精神のタカが外れる。この世界に存在すること自体が許せなくなる。コイツラもな」

 俺は聖剣と化した相棒を見せる。

「なら先にちゃんと言って! 私はお母様じゃないんだから! 何でもかんでも全部知っているわけじゃないんだから!」

 この感じはリンセスか。姉たちの影響を受けているな。この成長を喜ばしいと見るか悲しいと見るか。悩ましい所だ。

「わかった。少しお前に甘えすぎていたようだ。俺はいつもシノに甘えていたからな。その感覚が抜けていないようだ」

「まあ、それだけ信用していたっていうのは嬉しいけど、いつも上手くいくわけじゃないから、それだけは憶えておいて」

「そうだな。お前はいつでも頼りになる右腕だ。その判断は信用している。それで頼りになる愛娘よ。この先のプランはあるか?」

「流石にちょっと休ませてほしい。連戦は無理ね。まだ来るようなら離脱したい所。どう? お父様?」

 俺は出しゃばりに意識を向ける。後続はない。だが本体のインナースペースの手掛かりはある。

 だがどのみち休息は必要だ。人間ベースの存在と同行しているときは魔物の感覚で動いていてはいけない。それはムリエルと共闘した時の戒めだ。

「後続は無い様だ。どこか水場があればそこに向かおう。それでいいか?」

「ええ。水浴びできるなら最高ね。やっぱり浄化だけは堪えるわ。お姉ちゃんみたいに生成魔法が使えれば本当に良いんだけど」

「確かにな。コアは便利だ。失って初めて気づくその有用性だな」

「お父様も使っていたの?」

「たまにな。俺は使えないがシノがそれを通して使えていた。レオーネめ。今頃何処で何をしているのか。見つけたら八つ裂きにしてくれる」

「その人が私の体に魔王の心臓とお父様の意識を植え付けた人?」

「そうだ。未だにその理由はわからないが、コア持ちが居たら気を付けろ。姿を変えたレオーネかもしれないからな」

「そっか。その人が私をここに連れて来たんだ」

「レオニス、お前の視点では悪人ではないのかもしれんがその目的がはっきりしない。接触してきたなら必ず知らせろ。俺に言えないならシノでも姉達でもいい。自分で抱え込むことだけはするな。それは約束してくれ」

「わかったわ。約束する。コア持ちの怪しい奴がいたら捕まえてやるわ」

「そこまではいい。奴は神の代弁者の目ですらすり抜ける。捕らえるのは無理だと思うがな」

 さて丁度いい水辺が見つかった。

 後は居場所を捉えたコア付きか。ヒレゴンクジラの本体だ。奴は帰りにでも始末しよう。生かして帰すという選択肢は俺にはないな。



Tips

コア付きとコア持ちについて。わかりにくいのでザックリ説明。

厳密には同じものですが分かり易くするために明記。

コア付きはボスで、コア持ちはキャラクターという感じでです。


コア付き

大型の敵。魔物などが後付けの異世界転生者の魂を得て世界改変が可能になったもの。


コア持ち

人型。人間などが後付けで異世界転生者の魂を得て世界改変が可能になったもの。


例外

ムリエル

コア付きだがコア持ちのように過ごしてる。「第三部 魔族」の後、自らのコアで人間化したセルフ転生。


魔族になる前のシノ

コア付きだがボスにはならずキャラクターに戻ったためコア持ちに。

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