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第九十章 スコルピィ

 上機嫌になったパルテは去っていった。奴の本当の目的は魔物の統括者であるスコルピィへの値踏みと挨拶だったのだろう。

 そして取り残された俺とスコルピィ。話は聞いていたのだろうがまだ目を閉じ、思考から戻ってこない。

 パルテの方は問題があってもこの世界の範疇だ。だが俺となるとあまりにも直接的な脅威だ。パルテの言葉通り魔物の統括者として見逃せるはずもない。それこそ聖女よりも脅威度は上だろう。俺が同じ立場であっても野放しに出来る存在でない。

 だが奴の最初の言葉は俺の予想を裏切った。


「王牙。レオニスをどう思う?」

 どういうことだ? 今更それを語るのか?

「俺の可愛い娘だ。家族となりその成長を見守りたいと考えているが?」

「それがお前の本心か? 誰かに植え付けられたものではなく、自信を持って自分の意思だと言えるのか?」

 なるほど。なんとなくだがわかってきたな。

「つまりレオニスがそれを出来る存在だという事か? それならばないだろう。世界の改変は目立つ。特に俺に気付かれずにそれを行うとすれば、この世界のそういう存在だという事になるな」

 スコルピィは黙り込む。これは余程、いや迷っているのか。探っているのか。

 それでもスコルピィは会話を続けた。

「レオニスは、魔物の王の前身、魔物の王が誕生する以前の姿に酷似している」

 なるほど、神の代弁者であるリブラの言葉が蘇る。レオニスの顔を女神関連で見た記憶があると。それがこれか。

「いま、レオニスと話してみてだ。顔以外は違うと思っていた。あの傲慢な態度は何処にもなかった。俺が知ってるアイツはあんな女の子のような女じゃなかった。色々な意味で規格外で化け物だったからな。いつも何かを抱えていて、絶大な力と意志を持っていて、それでもどこか余裕がなかった。だが今のレオニスは似すぎているんだ。性格じゃない。もしもアイツが何も抱え込まずにいたらこんなだろうなって思わせるような、そんな感じがしている」

 スコルピィ自身もこの件を整理できていないのだろう。いつもの淀みない口調とは違う。取り留めのない言葉だ。

「最初は何処から語ればいいか。そうだな。魔物の王は俺達が生まれるよりも前から居た。そいつを討つための俺達だ。あの時代は今とは違う。人間でさえ今でいう生成魔法が使えた。今思えば世界を変える力を人間自体が持っていた。俺達はそれを駆使し魔物の王を倒すために研鑽していた。そこに居たのがアイツだ。今の人間でいう聖女だな。並みはずれた力と圧倒的な求心力。そしてその美貌。的確な予測と予感。まさにこの地に降り立った女神だったな」

 なるほど。これがそのままの意味か。地に降り立ち自分の望んだ世界の構築か。レオニスに似たアイツとは女神自身の現身アバターのようなものなのだろう。

「俺達は苦戦しながらも魔物の王を倒し全てが終わった。倒した魔物の王は現身で本体は別にある。それを砕くにはアイツが生贄としてその本体に食われる必要があった。それをアイツは知っていた。これまでの傲慢不遜な態度と振る舞いはこの時のため。これを受け入れるためのアイツの最後の時間だってな。だからアイツは俺達が止めても進んでその身を差し出した」

 これが女神が自身を消すための前段階。俺達の知る神と同一存在の真の魔物の王の誕生か。

「だが魔物の王は滅ぶどころか復活した。アイツを飲み込んで本体ごと大地に出て来た魔物の王は圧倒的だった。敵う敵わないの話じゃない。全てが消え去った。俺達もその時に巻き込まれた。そしてこの姿だ。俺達は魔物になった」

 ここが魔物の誕生か。

「俺達は歓喜したよ。アイツは死を受け入れず、この世界を壊して俺達と歩むつもりなんだってな。少なくとも俺はそう信じた。この世界が滅びに瀕した時、あれがお前の言う勇者だったんだろうな。人間達の手によってアイツを擁したままの魔物の王は討たれた」

 スコルピィの視点で言えば生贄にされたアイツが世界に復讐しようとして失敗したという所か。だが実際はそれは女神自身が消えるための予定調和だった。

「ここから先はお前も知っての通りだ。俺達は神がアイツを殺したと思っていた。まあ実際アイツが神ならそうなんだろうな。俺達は残された大地で好きにやっていたさ。これがアイツの望んだ世界だって信じながらな」

 スコルピィは大きく息を吐いた。人間の時の名残だろう。

「神の代弁者の言う通りなら俺達は見捨てられ裏切られたわけだ。アイツにな。だがアイツにそっくりな人間が俺の目の前にいる。レオニスはアイツなのか? お前の目から見てレオニスはどうだ? 魔物が娘などといってアイツを保護している。これは偶然か? そしてそいつはこの世界を破壊するだけの力を持っている。これも偶然か? 俺達はまたアイツに騙されているのか? その答えがいまだに出ねぇ。王牙。お前の意見を聞かせてくれ。アイツは、レオニスは何なんだ?」

 なるほどな。これは熟考が必要なわけだ。だがレオニスか。これもシノの時と同じだ。仮に時間遡行が出来たとして同じ事が起きるとは思えない。これを計算尽くというのは無理がある。

 だが確かにレオニスは女神に関係するのは間違いないようだ。俺は慎重に口を開く。

「確かにレオニスは女神に関係しているのは間違いないだろう。神の代弁者でさえ何の関わりもなさ過ぎてここまでの状況になっていることを訝しんでいた。寧ろ何もなさ過ぎるとな。この世界の神である女神ならそれが可能らしい。神の代弁者の目を欺くことが出来る。そしてその顔に見覚えがあるとな。女神が降ろした現身であるのならその記憶が朧げなのも納得だろう。それよりもシノの顔に見覚えないか?」

「シノ、あの赤髪の髑髏か。いや、全くないな。やつもその関係者なのか?」

「そうだ。シノの容姿はその女神本体と同じ顔らしい。シノ自体も女神に強い復讐心を抱いていた。シノに関しては女神本人というよりも巻き込まれた魂というのが俺達の見立てだ。レオニスは、巻き込まれたというよりも、確かに女神本人である可能性は高い」

「・・・」

「レオニスの存在は勇者が関係していた。勇者の目的は不明だが全くの無関係とは考えにくい。そしてシノだ。レオニスを迎え入れるにあたり、『神への反逆は終わった。レオニスに生きよ。全てを許す』と。これはシノでさえ確定してはいないようだが何かを感じ取ったのだろうな。レオニスがその女神本人の魂のような存在である可能性が限りなく高い。だがレオニスにその自覚はないだろう。お前の見るレオニスは女神だと仮定して自覚があると思うか?」

「・・・いや、ねぇな。むしろ昔の事が綺麗さっぱり無くなってでもいなけりゃああはならないだろう。アイツの、本当にまっさらな、アイツの、なんだろうな。本心に触れているようだった。以前は全く近づけなかったのにな。あの飼い主ってのもアイツの事だ。絶対的な力で俺を屈服させていつでも噛みついて来いってな。あの時は気付けなかったが、アイツはどこか何かを求めていた。俺だけがそれを与えられると思い上がっていたがな。今のレオニスを見て、それが思い上がりじゃなかったような気はしてるけどな」

 そういうスコルピィの顔を見て一つだけ確信できることがある。

「スコルピィ。一つだけはっきりしたな」

「何がだ?」

「レオニスは女神の力を使って俺達を操ってなどいない。この気持ちや思いまでもが操られたものだとすれば俺達は自分の感情の全てを信じられなくなるだろう」

「確かにな。あーーー!!! レオニスとの最高のデートに水を差しちまう所だったぜ! もう過去なんて関係ねぇ。レオニスはレオニスだ。しみったれて前の女になんて引きずられてやんねぇよ。アイツは一人で逝っちまった。それが全てだ。俺は未来に生きる!」

 スコルピィが地に降りた女神の逆ハーレムの一員だとするとコイツこそが女神の望んだ人間の一人と言う所か。勇者のように作られた存在ではなく選抜された存在。女神を救えたかもしれない可能性を秘めた存在か。それならば仮にレオニスが女神だとしてもそれを救う一因になるかもしれん。

 この出会いもまた計算されたものだと? どんな神がその奇跡を起こせる。

「ありがとうな赤鬼野郎。お陰で吹っ切れたぜ。それでなんだっけか? お前はこの世界を滅ぼせるんだっけか?」

「ああ。神を殺せる。その選択はこの世界の維持の放棄と同義だろう」

「んでお前はそれをする気はねぇんだろ? それをやろうとしたのはシノとレオニスを守るためだったわけだ」

「ああ。この世界が二人を害する前に神の力の息の根を止めようとした。だがそれはレオニスの働きで実行に移す必要はなくなったがな」

「だったらいいじゃねぇか。レオニスが守れねぇならこんな世界に意味はねぇ。壊したきゃ壊せ。その時は止めたい奴がお前を止めるだろ。だがそんな事は起こさせねぇ。それでいいな?」

「そうだな。自身の愛する者を守り、それを育む世界を守り、繋いでいく世界を見守る。たったそれだけの事だ。何も難しいことはない」

「だったらこの話は終わりだ。今まで通り頼りにするぜ赤鬼野郎」

「いいのか?」

「ああ。考えてもしかたねぇ。お前を殺して何の問題が解決する。なによりお前抜きで人間と渡り合える気がしねぇ。人間と渡り合えているのは王牙。お前という希望が産まれたからだ。単純な戦闘力だけじゃねぇ。お前を中心に魔物が動いているんだ。その自覚はあるんだろうな?」

「薄々はな」

「薄々どころじゃねぇよ。お前が居なかったら味方になってない奴がどれだけいると思ってやがる。お前がこの魔物の軍勢を育てたと言っても過言じゃねぇ。お前は一体何なんだ? 新たな魔物の王になりたいのか?」

「俺がそんな器か。俺はただ魔物の前線で剣を振るうただ一匹の鬼だ。それ以下でも以上でもない。この前線を支えるために奔走しているだけだ。魔物の王どころか統括者ですら務まらないだろう。何より俺がそんな事をしている暇があるのか。そんなものは魔物が勝利した後にでも考えるとしよう。取り合えず今考える事ではないな」

「それもそうだ。今のは忘れてくれ。確かにそんなこと言ってる場合じゃねぇな。今一番の問題は人間の結界の中だ。その情報はあるか?」

「残念ながらないな。あるとすれば結界を維持する塔が半壊して少数の魔物なら出入りできるという事ぐらいか」


「あるじゃねぇーか!!! この赤鬼野郎ォ!!! なんでそれを黙ってるんだお前はァ!!!」

 

 その後、俺は根掘り葉掘り尋問された。そして最後にスコルピィ曰く。

「お前は魔物の王にも統括者にも向いてねぇわ」

 という結論だけだった。


 ・・・流石にここは反省点か。その視点も磨くべきだな。

 だが魔物の大局を考えていないわけではないが、それ以上の不安定要素が残り過ぎている。

 女神に世界に神の選別。勇者の行方。色々とあり過ぎてそこまでは手が回らない。

 俺は俺にしかできないことを優先だな。こちらもまた無視できる案件ではない。

 前線で剣を振る一匹の鬼か。それが俺の望みだがそうとばかりも言ってはいられなくなってきたな。

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