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第八十二章 魔物の申し子

「あれだけデカイ口を叩いておいてこのザマァ?」

 レオニスを診察し終えたパルテが俺を煽る。

 ここは聖王都跡だ。何事もなく到着し、ここの建設をしていたパルテにレオニスを診せた。

「ああ。そうだ」

「そうだ、じゃないでしょ。何をしたらこうなるのぉ?」

「レオを構成していたパーツの一つであるレオーネが裏切った。だから隔離した。そいつの発生させていた加護の代わりが今のレオに必要だ」

「理解はしてるんだぁ。それで私に相談? 魔物にこれが対処できるとでも思ってるの?」

「出来ないなら他を当たる。世話になったな」

「何そんなに焦ってるの。話は終わってないでしょ」

「終わった。邪魔をする気か? レオニスを守るというのは嘘だったのか?」

「そうは言ってないじゃん。話もしないの?」

「その無駄話に意味があるのか? ないなら邪魔をするな魔王。ここで殺されたいか」

 俺とパルテの間で緊張が走る。だがあっさりとパルテは折れた。

「とにかく聞きな。その覚悟もないならレオニスは渡さない」

 つまらない話ではないという事か。

「聞こう」

「結論から言うよ。レオニスは救えない。例え加護が間に合ったとしてももう体の維持が出来ない。あーしに出来るのは体を完全に別物に置き換えて無理やりレオニスの意識体を定着させるって事。それか延命。これだけ。どっちもレオニスは永続できない。これだけ憶えておいて。それでもあーしの力が必要になった時は言いな。それだけ」

「心得た」


ーーー


 ここは聖王都の何かの一室。そこにレオニスが寝かされている。周りにはシノ、リンセス、ムリエル、アリエスが居る。リンセスとムリエルでコアからの加護供給を行っているようだ。俺は窓の外から中の様子を伺っている。

「レオニスの様子はどうだ?」

 シノが答える。

「順調だ。だが真綿に水を染み込ませるようなものだ。まだ足りない」

 これでインナースペースが使えればシノとの合体でコアが使い放題なのだが、それも今は無理だ。

「ダンナ。きっと大丈夫。こんなのすぐ貯まるんだから」

 リンセスだ。見ていても疲労が濃い。

「ほれ。リンセス。少し休め。これ以上続けるならムリエル食とムリエル水を食わせるぞ」

 ムリエルだ。こちらはまだ余裕がありそうだ。

「リンセス。ここは任せてください」

 アリエスが立ち上がり渋るリンセスを連れていく。

「で。王牙、何か進展はあるのか?」

「・・・」

「そうか」

 打つ手なしだ。加護となると人間を絞った所で出てくるものではないだろう。


「お父様・・・?」

「起きたかレオニス。体はどうだ?」

「今の所は快適ね。ムリエル、後でムリエルフードのフルコースを頼んでもいいかしら」

「いつでもいいが少しだけじゃ。腹がはちきれてしまうぞ。今は世界の改変飲料で我慢せい」

 ムリエルがストロー付きのペットボトルを取り出しレオニスの口に付ける。

「ん。美味しい。それでこれはどういう状況?」

「簡単だ。レオーネが裏切った。そいつを隔離したら加護が足りなくなった。それだけだ」

 そう簡単なことだ。

「そう。だったら聖女の心臓でも取り込んでみようかしら。それとも・・・」

「そんな事が可能なのか!?」

 マズイ。食いつき過ぎた。

「・・・冗談よ。聖女の生き血を啜ってまで生きたくないわ。それは皆に愛される生き方なのかしら」

 それをシノは否定した。

「当然愛される生き方だ。私は同族の魔族を皆殺しにして生き血を啜って来たぞ。ただ私が強くなるためだ。それに何の負い目がある。なによりお前はこちら側だろう」

「そうね。私は魔物側。このままずっと。・・・もしも私がこの生を諦めたら人間に戻るのかな?」

 ここに来る前にリブラが言っていた事を思い出す。

「それは確約されている。この生が終われば人の輪廻に戻ると。今現在神の代わりをしている者にな」

 それにシノが食いつく。

「王牙!? お前自分が何を言っているのかわかっているのか!? レオニスを神に売り渡す気か!」

「可能性の話だ。ただの仮定だ。レオニス。お前がこの世界の生を望むのなら俺は今まで通り全力を尽くそう。だがそうでないのなら、俺はその選択を尊重する。俺は、・・・お前の味方で居たい。その道を問わず」

「なら、私の言う事を聞いてくれる? 私をここから連れ出して。お父様。本当に私を愛しているのなら」

「グッ!」

 俺がレオニスの体と繋げると激痛が走る。体がバラバラになりそうだ。レオニスはこれに耐えていたのか。

 動けないレオニスを抱えようとしたがこれは動かせそうにないな。痛みは俺に移したままで部屋の壁をぶち破る。ならばベッド毎持っていくだけだ。

「どこか広い所へ。小高い丘へ。この世界の光を浴びられる場所に!」

「心得た」


ーーー


「いい天気ね」

 ここは聖王都の近くのただの丘だ。何もない。見渡す限りのただの子山だ。

 気が利かんな。俺はそこに大地の支配で石の木を生やす。木陰が出来れば御の字だろう。

「凄く広い。こんなに世界は広いのに私は何を求めていたんだろう」

「命と愛ではないのか?」

「それは両立しないと意味がないわ。私の痛みを愛を盾に肩代わりさせるような事は望んでないの」

「そうか。それでも返す気はないぞ。オーガの魂がこの程度で音を上げるか。感度一万倍に耐えたのは伊達ではないぞ」

「もう! 痛みがなくてもどうにもならないでしょう。たぶんこの体を癒すのなら聖女クラスの神の加護が必要。それを聖女殺しのこの私に施す人間が居るのかしら?」

「心当たりは一つある。俺が神になればそれで済む話だ」

「それはお父様の望み? 一方通行の愛は私が望んだ愛ではないわ。愛が得られない生なんて願い下げよ。それは人間としての恥を捨ててまで得たい物かしら」

「俺の望みでは駄目か?」

「駄目ね。お父様が王牙として私を愛するなら考えてもいいけど」

 そこでシノが現れた。

「それは容認できんな。お前は言ったはずだ。王牙は私の下に帰ってくると」

「ええ。それはその通り。私はお父様にはお父様として愛して欲しい。・・・筋肉ダルマな彼氏は願い下げよ」

「振られたな王牙」

「では父親としての願いはどうだ」

「それは今さっきやっていただろう。それは両親の願いと変える事にしよう」

「どういうことだ?」

 シノはレオニスに向き合う。

「私を母と呼べレオニス。それで私も腹をくくる。この忌まわしい女神の残り香はここで役に立つだろう。レオと王牙、お前の中の聖女の因子を結び付ける。王牙。お前は二度と神の加護を操れなくなるだろう。これが成功失敗に関わらずにだ」

 シノが魔族である自分と魔物である髑髏を結び付けた業か。

「俺は問題ないな。レオが居なければあっても意味のないものだ」

「決まりだな。後はレオニスお前だ。私達夫婦の家族となり命と愛を受ける準備はいいか?」

「まって。王牙はそれでいいの? 私を受け入れたら二度と魔素人形は動かせなくなるわ」

「構わん。お前は娘であると共に右腕だ。俺が操作する必要はないだろう。何より居なくなっては困るぞ」

「じゃあシノは? 私の為にここまでする必要はないでしょう?」

「その必要の為に母と呼べと言っているのだ。レオニス。私はお前を愛している。王牙への愛が神への反逆と並んだ時に気付いた。私の愛は神への反逆を超える」

「・・・私は、生きてもいいの? 愛されてもいいの?」

「それが俺達の、いや、家族全員の願いだ。生きてくれレオニス」

 レオニスは一度目瞑ると大きく呼吸をした。

「私は髑髏の王の牙、王牙と死の髑髏であるシノの娘レオニス。お父様、お母様。私に愛をください」


 そうと決まれば儀式の開始だ。

 シノの右手が俺の背中にあるコアに触れ、左手がレオの体に触れる。俺のコアは元々シノの物だ。そこから限りなく少ない時間で俺の取り込んだ聖女の因子をインナースペースから取り出す。それがシノの体を巡りレオの体へ。

 最初の変化は少ないものだった。施された手足が修復されていく。それと同時に今までウェイト状態だった神の手先が息を吹き返す。ベッドから起き上がり浮きがったレオの体から白い翼が現れる。

 名付けるなら、ネームド『魔物の申し子』。俺達の娘だ。

 そしてこれは紛い物ではない神の意志が宿った神の加護だ。神の手先の延長ではない。今まさに降りて来た加護だ。

 少しだけ、違和感を感じる。これはリブラが降ろしたのか? 曲がりなりにもレオの体は聖女殺しだ。これに本物の神の意志が宿る神の加護が降りて来た。神の手先の副産物の可能性もあるが、なんだ? 何かを見落としているような。

 無事に儀式を終えるとレオニスは跪いて祈っていた。

「何に祈るんだ?」

「私達を見守る神に。お父様。私やっぱり。聖女になりたかった。今、それが叶って、私、嬉しい」

 叶った?

「その加護は聖女の物なのか? それほど強力には見えないが」

「聖女の加護は祈りによって増大するの。だからこうして神と繋がることが必要なのよ」

 そうか。聖女はリブラの因子と言ってもいい。それと祈りによって繋がる事で回復を行うのか。普通の加護持ちと違って戦闘時に回復しないのはこのせいか。道理で聖女間で上下差が激しいと思っていた。

「それで調子はどうだ私の娘よ。生は成った。愛を受け取る準備はどうだ?」

「え、と、その、シノは・・・」

 レオニスの目が泳ぐ。何かと思えば恥ずかしがっているのか。さもありなん。

「レオニス。堂々と私の娘だと名乗れ。私は微塵も恥ずかしくないぞ」

「じゃあ、お母様・・・?」

「それでいい。私の娘よ。ようやくお前を手に入れたぞ。お前は私の物だと宣言していたはずだ」

 シノがいつぞやのようにレオニスの手を引くと後ろから抱きしめる。

「存分に愛を感じるが良い。そこの木偶の坊は家族ではないのか。妻と娘を支える位置に来い」

 そうだな。俺は二人の背後に包み込むように陣取る。

「え、と、普通に戻ったら恥ずかしくなってきたわ。お父様呼びだって半分は当てつけだったもの。その、そういう、本当の意味での、その呼び方は、ちょっと」

「駄目だ。お前を私の物だと知らしめる意味合いもある。嫌だと言ってももう遅いぞ。恥の代わりに愛情だけは注ぎ込んでやる。返事を早まったな」

「早まってはいないけど、恥ずかしいの!」

「ならばそちらの筋肉ダルマのように当てつけでもいいのだぞ。私は娘に従順など求めない。魔物の申し子だ。噛みつくぐらいでも構わんのだぞ」

「もう。お母様は意地悪過ぎ。お伽噺の継母じゃないの」

「それはいい。そのぐらいの立ち位置の方がお前も楽だろう。そうだな。生みの母ではないのだそれでもいい。意地悪な継母とは私にピッタリの配役だ」

「そうやって娘を虐めているとバチが当たるんだから。釜茹でで溶けるとか暖炉で燃やされるとか」

「それは怖い。虐めても愛情を注いでもバチが当たるとは親とはなんとも理不尽な存在よ。それでも許すぞ愛娘よ。さあ、お前のお母様に甘えられる内に甘えておくが良い」

 シノのその言葉にレオニスは硬くしていた身をシノの体に預けた。

「うん。そうするわ。ありがとう。お父様。お母様。私はここで生きて愛を探すわ」

「それでいい。ここに宣言しよう。レオニス。わが娘。死の髑髏である私のお前への愛は神への反逆を超えた。お前の生存と愛こそが私の魔物としての原動力だ。全力で生きよ。私が全て許す」

 レオニスの返事がない。安らかな寝息が聞こえてくる。

「眠ってしまったようだな」

「ああ。私達の腕で眠れレオニス。王牙、先の宣言は聞いていたな?」

 俺は返事を返す。

「ならば聞いての通りだ。私の第一目標はこの世界の維持。この終わる世界を食い止めよう。そのためならば神の座に就くことも辞さない。これならば私の仇が私だったなどというふざけた結末であったとしても受け入れよう。それは二の次だ」

 そうか。シノがそちらに舵を切るなら俺もそれ相応に考えることが出てくるな。

 この世界の維持は神の反逆よりも大仕事になりそうだ。

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