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第八十章 名無し達の聖女

 ~王牙戦記~


 俺の名は王牙。3~4m級の大型オーガ種。赤い体と黒い角の典型的な赤鬼だ!

 名前の由来は神に反逆する髑髏の王の牙で王牙だ。この牙を神に突き立ててやるぜ!


 メイン武器はバスタードソード。銘は『相棒』。長すぎず短すぎず、あらゆる状況に対応できるナイス武器だ!


 サブ武器は変形する盾だ。銘は『出しゃばり』。盾は勿論、弓にシザーズに人型にと多岐にわたる。中型の魔物を格納状態で背負う事で共闘もできる万能兵器だ!


 腰の後ろにある武器は魔物武器の脇差。銘は『旗織り』。新型の武器の形をした魔物だ。人間が使う魔物特攻の『施された武器』には弱いが、それ以外には抜群の攻撃力を誇る武器だ! 俺の魔素の爪の力を纏わせて太刀にする事も可能だぞ!


 得意技は『魔素体炎化』。魔物を構成する魔素の体を燃やして自己強化。剣戟を鋭くしたり動きの強化も可能な凄い技だ!


 特殊技は『合体』だ。仲間を一時的に取り込むことで超強化できるぞ!

 その上取り込んだことのある仲間とは繋がりが出来てパッシブスキルも手に入るんだ!

 シノの『空間把握』。

 言わば魔素を介さないレーダーだ。魔素阻害の影響を受けないぞ!

 アリエスの『自己強化』

 自分のみに使える部位回復だ。損傷部位は勿論。魔素体炎化の消費も減らせるぞ!

 タウラスの『物理無効』

 言わばよろけ無効だ。ダメージは食らっても切られたり刺さったりはしないぞ!

 レオの『魔素アンカー』

 魔素の錨を射出する移動業だ。攻撃には使えないが便利だぞ!


 魔物のオーガとしての力は『大地の支配』。大地に魔物の支配の力を流し意のままに操れるぞ!

 石を呼び出して武器にすることも可能だ!

 何より近接職には地形が重要だ!

 地面を均す事も事も荒らす事も可能だぞ!


 こんな普通の俺が活躍する物語。王牙戦記の始まりだ!


 ~吟遊詩人ムリエル著~


ーーー


 俺はムリエルとの共同著作『王牙戦記』を思い出しながら剣を振るう。

 ここは前回陥落した聖王都から北。人類圏へ向けて進軍中だ。そしてここはひとつの街。塀もないような普通の街だ。

 それもさもありなん。聖王都が落ちて魔物が来るなど想定していないだろうからな。

 俺達が街を襲うのは橋頭保のためだ。街を破壊して魔素を放出する魔素ジェネレーターを建設する。それには人間とその営みがある町が最適だ。それらは魔素ジェネレーターの材料になる。


 それも人間達はわかっているのだろう。街の防衛に今までの冒険者のような寄せ集めではなく組織立った動きを敷く者たちがいる。ファランクスだ。

 文字通りの盾と槍の密集形態。あの盾も盾と人間本体を囲う完全防御型の神の加護だ。以前に見た大盾は盾と本体で加護が別だった。あれはDPS仕様だったのだな。

 とてもではないが崩せない。神の加護を纏ったファランクスなど魔物に手が出せるはずがない。初手こそシノの髑髏種の支配である『空間の支配』で魔法を座標で発動させていたが、それもヒーラーの『広域加護』のせいで範囲内の座標に魔法を撃ちこめないでいる。やはりヒーラーは俺達魔物の天敵だ。

 そしてそのヒーラーの天敵である魔物側の魔女アリエスの『魅了』も対処が成されている。ヒーラーなどの兜を被っていない兵種が仮面をつけている。この対処の速さから元からそういう装備があったのだろうな。

 このヒーラーの『広域加護』も地味に強力だ。支配と魅了の遮断のほかに、魔素属性への抵抗も高い。外からの魔素魔法を軽減してくる。

 本来であれば俺達オーガが蹴散らしていたが、ファランクス相手ではそう簡単にはいかないな。


「ダンナ! 火の玉を落とすよ!」


 この声はリンセスだ。そしてこれは詠唱ではない。異世界転生人の魂を使ったコアから成る魔法。生成魔法だ。

 コアはいわば願望器。自身の望んだ物を生み出す事が出来る。

 リンセスの放った火の玉が放物線を描く。弾速は遅いが相手はファランクスだ。俺が足止めで攻撃をかける。施された武器とはいえ片手持ちの槍だ。多少の被弾は止むを得まい。そうこうする内にリンセスの火の玉がファランクスに迫る。

 俺はその火の玉を纏うように攻撃していく。炸裂した火の玉が俺を巻き込むが問題ない。高温は魔素で出来た魔物の体を一時的に動けなくすることができるがそれは魔素の膜で防ぐことができる。そしてこの火の玉がナパーム弾のように地上に燃え広がるが魔素生物である魔物にはそれほど効果はない。だが人間には効果覿面。神の加護でさえこの高温は遮れない。

 流石にファランクスが崩れたな。ヒーラーの回復は効いているようだが燃え広がる炎に纏われて正気でいられる方が難しいだろう。俺はファランクスたちの盾を弾き飛ばそうとするが違和感がある。これは施された武器ではない。加護の鎧だ。

 なるほどな。ファランクスの施された武器は槍のみ。盾の方は施されていない。加護の鎧を加工したものだ。加護持ちの持つ施された武器は一つ。という事か。

 俺は脇差を抜くと爪を纏わせて太刀にする。加護鎧の盾に槍であれば打ち合う事もないだろう。物理の相棒よりも魔素属性の魔物武器の方が有効だ。ファランクスの加護鎧の盾を切り裂き、施された槍をいなす。こいつへの対処法が見えてきたな。

 それにしてもリンセスの生成魔法は本当に加護に対して有効だな。亜人ゴブリンであるリンセスの息子たちも同じように炎を投げつけている。ただこちらはリンセスのナパームに対して火炎瓶ぐらいだ。それでも有効なのには変わらないがな。


 それを見て俺も試してみる。世界の改変を使った炎の攻撃だ。下手に火球を作れば危ういな。この前のように時限式の炎を相棒に纏わせる。炎のエンチャントだ。だがこれは生成魔法のような物理法則に則ったものではない。炎という現象であり酸化するという科学的な反応ではない。これが攻撃に際してどのような効果をもたらすか。世界の改変は未知数が大きすぎるな。

 俺は改変された炎エンチャントで人間に切りつける。打ち合った瞬間に炎が剣を離れ人間の体に燃え移る。だがそれだけだ。燃え上がった人間の体は派手に見えたが損傷はほとんど見られない。効果がないというよりも神の加護に打ち消されたと見るのが正解か。

 やはり神の加護は世界の改変に対して抵抗する術がある。

 生半可な改変では神の加護を抜くことは出来ないな。そしてそれを実現できるほどの改変はもはやこの世界の人間に直接改変を行うがごとき危険性を孕む。単純な世界の負担もあるが、相棒に出しゃばり、楽園の守護者は敵に回ると考えていいな。

 実質世界の改変で使えるのは目くらましぐらいか。あとは無から生み出した武器系統。直接攻撃に繋がるものは論外だな。


 ようやくファランクスが片付きだしたな。

 そしてそれで終わる筈もなく、例のごとく聖女がやって来る。これがレオーネの言っていた中央に当たり前のようにいる普通の聖女。ネームドではない、ノーネームドと呼ぶべき常駐された聖女だろう。

 黄金の髪をなびかせこの戦場にエントリーしてくる。巨大な施されたグレートソード。通常の鎧に加えスカートアーマーで脚部の補強。表情はわからないが文字通り駆け付けてきたのだろう。その覇気が魔物への殺意に満ちている。

 ノーネームドからほぼノーモーションで加護のレーザーが俺達に降り注ぐ。雨のような中空からの掃射だ。ファランクスに取り付いていた俺達は堪らず距離を取った。するとそれがわかっていたかのようにファランクス共が再集結。ノーネームドの両脇に控えた。

 初めてみた攻撃系の奇跡の術よりもコイツラの整然とした動きに目を見張る。これは練度がどうとか疑うレベルではないぞ。コイツラは一体何と戦うとここまでの練兵が出来る。

 正直、聞いた話の中央などは平和ボケしてパラメータだけが高いだけのイメージがあった。だが完全に外れたな。確かに俺達が居たのは人類圏のド田舎だ。そしてこのノーネームドの加護は少なく見積もっても神官30人分。転生前のアリエス、新型聖女だった時のアリエスが100人分だとすると少なく感じるが、この練度を見れば破格だ。そもそも神官の30倍などとこの時点で戯けた性能だ。シノですら髑髏10体分の10倍だぞ。


 俺がノーネームドに肉薄する道を選ぶとその道程に壁がそびえ立つ。半透明の加護の壁だ。

 おいおい、いつそんなの実装された。今までの敵とレベルが違い過ぎる。村クエストから上位の集会所クエストか。

 俺は魔素を燃やした斬撃を叩き込む。一撃、駄目だ。二撃、ヒビが入る。三撃目、破壊完了。半透明の加護の壁が粉々に砕ける。

 三撃だと? 俺の本気の一撃を三回重ねてようやく撃破か。どれほどの硬さを誇るのだこれは。

 ノーネームドが完全に俺をターゲッティングしたな。そのグレートソードの剣捌きはマントグレートソードに迫る。しかも加護の鎧の加護操作でその動きの一段上を行けるだろう。これは未だ様子見だ。この状態で俺が最強だと思っている人間に迫っているのか。

 両翼はアリエスとレオニスが分かれ、それに魔物が追従している形だ。シノは後衛に圧をかけているな。

 リンセスは既に下がっている。リンキンが下がらせているな。そしてリンキンと目が合う。このまま撤退する様だ。これは増援が来るな。リンキンの嗅覚は頼りになる。奴が逃げる時はそこは死地だ。リンセスは元々戦闘員でないのに加えて人間寄りだ。魔物が逃げ出す状況ではまず逃げ切れない。この辺も加えて頼りになる男だ。そちらはもう任せてもいいだろう。

 そしてこちらは俺がノーネームドを抑えて有利に進めている。こいつさえ居なければ勝っていた戦いだ。だが時間は奴に味方する。増援が間に合えばこいつの勝ちだ。それでも時間稼ぎなどという手を取る気はないようだな。確実に俺を殺す気だ。

 

 ノーネームドが一瞬の溜めを見せると横なぎに加護の壁が襲ってくる。魔物の爪のような使い方だ。意趣返しのつもりか。俺は即座に三撃叩き込んで消滅させる。これがわかっていれば俺に隙など生れんぞ。俺が突き入れた相棒がノーネームドに届く前に奇跡の発動硬直が消え、グレートソードを突き返してくる。いなしではなく相打ちか。俺とノーネームドのどちらの右肩にも刃が突き刺さる。

 だがこちらにはアリエスが居る。こいつの回復とバフがなければ今頃俺は居ないだろうな。

 だがここで違和感が一つある。ノーネームドに回復が来ない。かつて戦った新型聖女のアリエスの時にも思ったが、聖女ユニットを回復する兵種がないのか? その馬鹿げた性能のせいで通常の身体の損傷の回復や、加護自体の補給も行われているように見えない。

 ここが聖女の弱点か。

 そこで俺は恐ろしい想像に行きつく。もしかしてだが新型聖女というのはこの旧型聖女の回復と補給を目的とした兵種ではなかったのか? もしそうなら新型聖女に無敵の旧型聖女がまとわりつくという最悪のシナリオが頭をよぎる。確かにこれならば転生前のアリエスは人類に望まれたこの世界を変える本物の聖女になっていたはずだ。それはリブラも望んでいた事だろう。

 あくまで想像だ。そうはなっていない。俺が揺らいでは今のアリエスに示しがつかないな。アリエスがそれに気づいてない筈もないだろう。

 それにしても硬いな。聖女がグレートソードを持ち出せば最強などと・・・その通りだ。新型聖女のアリエスはノーハンドで俺の全力の剣戟を防いでいた。それより劣るとはいえ武器で防いでいればそれはそれで硬いわけだ。その上加護を武器に纏わせた爆発や光波も撃ってこない。それを使ってしまえば聖女の馬鹿げた加護の出力が丸裸になって実質無意味になってしまう。使うとすれば捨て身の相打ちだろうな。

 そしてそれは近いだろう。回復の効いている俺と回復なしの聖女。ファランクスももうガタガタだ。そして俺達は増援が来る前に撤退したい。ここが決め時か。

 俺はリンクでアリエスとレオニスに合図を送る。ファランクは味方に任せてこの聖女を取る。

 それを敏感に察したかノーネームドが加護を収め武器に纏わせる。そして加護鎧の活性化。

 捨て身、ではないな。ただの形態変化だ。まだ加護は生きている。直撃しても即死はないだろう。何より加護の鎧も生きている。


 ノーネームドが一歩下がり光波の構えを取る。そのあまりにもあからさまな挑発に俺は足を止めるがアリエスとレオニスが分かれて肉薄する。そしてそれが起こった。

 施されたグレートソードを大地に叩きつけて爆発したかと思うとそれがそのまま前進してくる。爆発の形の光波だ。そのあまりにも広範囲な半円に二人が飲み込まれる。致命傷ではないが軽傷とも言えない。俺はと言えば大地の支配で立てた石塔を影に爆発光波の中心点から身を守る。爆発光波はエリア攻撃ではない。その中心に加護の爆発を放出する中心部がある。俺は中心部と石塔に出来る影に入る形だ。

 石塔を中心に爆発光波と入れ替わりでノーネームドの方向に出る。流石に連続では撃てないか。未だ硬直中だ。俺は左手で相棒を突きの形に構えると後ろ手にした右手にシザース形態の出しゃばりに爪を纏わせ旗織りをセットする。硬直の解けたノーネームドのグレートソードを相棒で抑えると右手を聖女へ。勿論のこと神の加護が発生するがそれは無駄だ。神の加護を抜いてシザースが聖女を掴む。そして射出された旗織りが死のフラグを聖女へ与える。そして首を取る。

 対聖女用の装備が無駄にはならなかったな。

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