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第八章 聖王都攻略戦③ 武器チュートリアルカッコ狩り

 それに気づいたのは偶然だった。簡易魔素ジェネレーターから感じられる魔素の流れがまばらなのだ。まだら模様と言っても良い。流れの中に空間がある。最初はそんなものかと思っていたがそれが移動している。たまたまといえばそういえなくもないが何かがオカシイ。シノに聞いてみても周りに人間が、それも加護持ちはいないらしいのだが・・・。

「出発するぞ」

 俺は自身の予感を信じて声を発する。

「本気か? 私はまだ本調子ではないぞ。ここに置いていけ」

 自身の足を見せながらシノが言う。それは勿論わかっているが俺は言葉を発した。

「駄目だ。来るんだ」

「何を焦っている。戦局も城内に移って来た。しばらくすれば味方と合流できるだろう」

 それまではここで休もう、か。それは正しいだろう。だが。

「今すぐ立つ。捕まれ」

 俺は強引にシノを抱え上げると捕まるように促す。

「そこまでして戦いたいのかこの鬼め。それとも手柄か? 私をこき使ってまで必要な事か」

 怒るのはわかる。俺もおかしなことをしているとわかっている。それでもだ。

「ああそうだ。お前が必要だ」

 俺とシノの間で剣呑な空気が流れる。それでも折れたのはシノだった。

「この鬼め。お前のような鬼畜について来た私が間違っていた。私はただの便利な道具か」

 声こそキツイものの、シノが俺の首にしがみつく。それを左手で抱えると即座に穴倉から踊り出る。簡易魔素ジェネレーターのおかげで外もだいぶ楽になっているようだ。味方も内部に入ってきている。ボウガン砲台もそちらに割かれているようだ。

 ・・・ボウガンが一台もこちらを向いてない。あれだけ集中砲火をしていた標的にここまで無関心になるものか?

 それに気づいたのはシノが先だった。何かの魔法発動の気配。それは俺達を標的にしたものだったが、それが暴発した。シノのカウンターマジックのようなものだろう。それと同時に周りの気配が変わる。俺は迷わず駆けだした。

「どういう事だ。敵が見えない」

 シノは困惑した声をだしながらも周りを索敵しているようだった。なるほどシノには見えないようだが俺には把握できてる。やはり魔素の中にある何もない空間は何かが居る。局所的な魔素キャンセラーだろうか。魔法に秀でているシノには感知できず、魔素の流れを感じている俺には見えている。例えるならレーダーの質が違うのだろう。シノは魔法による長大な索敵を誇る巨大レーダーだとして、対して俺は近くの反応しか見えない。そのぶん色々な物が見えている。魔素の詳細な流れの把握は俺の方が優れているのだろう。取り合えず目視は出来る。

 このまだら模様の魔素の感じでは囲まれているな。戻るよりも先行してるオーガ部隊に合流した方が安全か。幸いそちらは包囲が薄い。なんにしても飛び道具が無いのが有難い。こんな街中ではエルフの矢は生産出来ないだろう。魔法もシノが抑えられる。問題は近接だな。位置はわかるが何が潜んでいるかわからん。足を止めたら総攻撃だろう。もしも穴倉から出るのが遅れたらと思うとゾッとする。

「見えているのか?」

 シノの言葉にいや、と答えを返す。感覚だけだと伝えると訝しげな表情を感じられた。

「ただ一つはっきりしているのはあそこにお前を置いていったら二度と会えない気がしてな」

 これは本当だ。ほぼ全て直感と感覚だけで確証は何もない。

「今も同じだ。確証はないが動けと俺の中の何かが告げている」

 説明のしようもない、と告げると一応は納得したようだった。

「だがこのままでは私に感知できない。発動した魔法以外はどうにもならんぞ」

「見えてないものが真実だ。見えてない所に敵が居る」

「・・・なるほど。カラクリがわかれば位置は特定できる。それよりも数が多い」

 だろうな。ボウガンの攻撃が止んでいるのは誤射を防ぐためだろう。たかだかオーガの一部隊にご丁寧な事だ。その上、先行してる部隊が何かと交戦している。あれは・・・

「ロボットだ」

 思わず声が付いて出る。オーガと同じ大きさの鎧を着た何かだ。体に何かの光るラインが浮かび上がっている。あれは筋肉か。それも魔素の構成体だ。機械仕掛けではないから厳密にはロボットではないのか。

 それよりも武器だ。やつらの武器は俺達オーガに丁度いい大きさだ。しかも施されていない。

 これは・・・。

 ニヤケが止まらない。やっと来たか。やっと俺達の武器が来たか。武器無しチュートリアルが漸く終わって武器チュートリアルの始まりだろうな。

「しっかり捕まっていろ!」

 俺は手近な槍持ちロボットに狙いを定める。前に抱えていたシノを背中側に回すと石棍棒を投げつける。それをいなした相手の槍を掴んで懐に入る。存分に俺の歓喜を乗せた魔素の爪をその体に抉り込ませた。加護は無い。金属の鎧も魔素の爪を弾くほどでもない。そして抉り込んだこの爪の感触は魔物と同じ魔素の筋肉に・・・、何かの骨に魔素の筋肉を纏わせているな。

 命はまだ断っていない。魔物と同じだ。魔素のHPを削りきるまでは活動を止めないタイプだろう。奪った槍を構え直すとその首を目掛けて打つ。確かな手応え。魔素ではない何かの首の骨を粉砕するとその動きを止めた。

 崩れ落ちていく相手の体を見ながら俺は絶望を感じていた。相手は間違いなく絶命しているだろう。

「魔物を改造した魔素の人形か。惨いことだな」

 シノがそれに気づいて声をかけてくる。俺はそれに生返事を返しながらも失望を隠せない。この槍だ。この槍が・・・。

 もうグラグラだ。首の骨を断った時に感じた違和感。

 これは次の一撃で折れるな。

 またか。下手すれば石棍棒以下じゃないのかコレは。オーガ用の武器かと期待したらコレか。

 次のロボット、もとい槍持ち魔素人形の一撃を柄でいなして首を突く。当たり前のように穂が折れるが、折れるとわかっていたそれを更に押し込む。そしてまた武器を奪う。次に狙うのは関節だ。膝を砕き地面に伏した所を石突で喉を突き刺す。

 怒りがこみ上げる。手加減して今度は帆がぐらつくような事は無いが手を伝わって来る不快感。完全に粗悪品だ。魔素人形に施された武器を持たせるわけにいかずありあわせなのだろう。仮にここを占拠しても手に入るのは粗悪品だ。

「クソがぁ!」

 悪態が喉を突き立て声を咆哮させる。この分では武器の調達はまだまだ先だ。

 この時俺は浮かれていた。粗悪品とはいえ武器を手に出来た事に興奮し警戒を怠っていた。俺達は追われていたのだ。この魔素人形はいわば急造の粗悪品。それを出してまで何がしたいかと言えば。それは俺達の足止めだ。髑髏であるシノの感知すら受け付けない精鋭が俺達に追いついた。


Tips

施されたレンガ

文字通り何かが施されたレンガ。これを敷き詰めることでオーガ種の大地の支配を防げる。

その他、建物に使用することで魔法での倒壊を防ぐこともできる。

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