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第七十八章 レオニス

 話は少し遡る。神の塔の③~④の間。


 王牙が神の塔に昇って数日。私レオは魔剣機体の扱い方を模索していた。

 それは建前で今は実質ムリエルとのデート中。皇帝の牛車を履いた魔剣機体で色々なマニューバを試している。

「流石王牙なのじゃ。これを操りながら皇帝の操作とはの」

 む。

「これを扱えるのは私、レオの方よ。王牙では流石に無理ね」

「んー? 自分に嫉妬かえ? レオも自我が出てきたのぉ」

「茶化さないで。今ムリエルとのデートしてるのは私、レオよ」

「まったくレオは寂しがり屋さんじゃな。我が居ないと何もできないんじゃから」

 それは実際にはそう。魔物の中で人間のような生理機能を持ったのは私達とリンセスの息子たち、亜人ゴブリンくらいだ。そこでムリエルのコアの生成能力と世界の改変を加えた工夫はとても助かっている。それこそ食事は魔法使いのように出てくるから実質食べ放題。ムリエルが管理してくれなかったら服のボタンが弾け飛ぶ所だった。

 ただリンセスには評判が悪い。ムリエルの出した食料をムリエル食、ムリエル水といって息子たちの口には入れさせない。確かに私達は特殊な部類だから食べても平気だけど、純粋に生物である亜人ゴブリンには何が起こるかわからない。最悪消化した食べ物が消えてなくなる可能性もある。

 ムリエルは安全だと主張するけどそういう問題ではないのでしょうね。宙から出てきた食べ物を口にするのはムリエルを皇帝として擁していた魔族ぐらいなものでしょう。まさかの食料自給率ムリエル%なんて状況だったのかしら?

「む。私だって色々できるのよ。食材がないだけ。卵があれば理想なんだけど」

「卵料理といって出てくるものは大抵焼くだけじゃろ。素直に我に甘えるのじゃ。・・・廃材の処理は手間がかかるからの」

「廃材って・・・。ここってコンロってあったかしら?」

「あるわけないじゃろ! やっぱり汝は王牙じゃな」


 私が言い返そうとしたときに何かが落下していくるのを感じる。

 これは相棒と出しゃばりに旗織り。私は機体を上昇させると皇帝を停止させて落下スピードを合わせる。

 私が掴まなくても機体に吸い込まれるように装備されていく。

 皇帝のジャイロ機能を起動するとガシィィィーーン!!!と音を立てそうなポーズを取る。

 ・・・ちょっと恥ずかしい。


「なんで王牙の武器が落ちてくるのじゃ!? レオ! 王牙は無事なのかえ!」

「大丈夫。繋がってるわ。戦っているけど問題なさそう」

「王牙。どんな答えを得たのかのぉ。ああみえて頭は付いている奴じゃ。いい様にはやられんじゃろ」

「信じているの?」

「そうじゃな。あ奴ならどうとでもなるじゃろう。神を討つこともできる。討たない事もできる。その選択は我らが辿り着けなかった場所に続くと信じさせてくれる。そんな男じゃ」

「そうね。ムリエル、今の私は王牙に見える?」

「およ? 繋がっておるのではないか?」

「深層だけね。力の供給があるだけで意志は通じてないわ。今のこの私は誰なのかなって思っただけ」

「王牙、ではないのじゃろう? それともその体の持ち主か?」

「それは、王牙と同化しているわ。だからそれは実質王牙。今の私はそのどちらとも違う。・・・ムリエル。もし私が消えてもムリエルだけは憶えていてね」

「では汝の名は何というのじゃ?」

「私の本当の名前は、あったけど、今は思い出せないわ。でも私は確かにここに居た。ここで生きて暮らしていた。私は確かにこの国の人間だった。一人の国民として恥じない生き方をしてきた」

 そう私は自分の人生を歩んでいた。真っ直ぐに。

「それがどうして。私は過ぎた望みをしていたの? 私は愛して欲しかった。力があれば、尊敬と信頼を勝ち取れば、愛が得られると信じていた。生きてるだけじゃ誰にも愛してもらえなかった。だから力を求めたのに。今の私は、魔物の傀儡」

 ハァっと私は息をつく。王牙が帰ってきたら、私はまたもとのレオに戻ってしまう。

「だから憶えていてムリエル。今の私を。人であった私を」


「コル・レオニス。これでレオニスでどうじゃ? 獅子レオの心臓という意味じゃ。今は失われた人の心、人間の心臓こそが汝じゃ」

「レオニス。うん。私はレオニス。ムリエル。私レオニスを憶えていてね」

「なぜそんなに消えたがるのじゃ? 自我が芽生えたのならそれはもう個人じゃ。王牙がそうも無下にするとは思えんがのう?」

「それは元々居ない存在だからでしょう。レオは王牙の一部。自分の右腕が意志を持って動き出したらそれを元に戻そうと思うでしょう? 今の私は王牙にとっての取り除くべき異物。それこそこの機体が操れなくなるじゃない。私を使っているときの王牙はとても楽しそうだったもの。意のままに動かない道具なんて誰でも疎ましく感じるわ」

「そうかのう? 王牙は汝に気付けばあっさりと受け入れそうじゃが。もう気付いておるじゃろ」

「ムリエルは私より王牙を信じるんだ」


 ああ、王牙が帰ってくる。

 王牙との繋がりが戻ってしまう。

 私は愛されたい。消える前に皆に愛して欲しい。


 ガシャッと音を立てて背面の出しゃばりが脱落する。その衝撃でバランスを崩し落下していく機体。なんとか不時着するとその手から相棒が落ちる。そしてムリエルは機体から降りながら言った。

「考え過ぎじゃレオニス。皆汝の事を憶えておる。ほれ、王牙を迎えに行くぞ」

 皆、全てが王牙に奪われていく。

 ムリエルの背中を眺めながら、私は、

 ・・・行かないで・・・。

「私に気付いて! 私を愛して!」


ーーー

 

 私、王牙はレオの方に意識を移すと体に意識を走らせる。

 今は魔剣機体で魔素武器の有用性を検証したすぐ後ね。メタ的に言えば神の塔④のすぐ後。

 あまりにもレオの動きが悪かったので見てみたのだけれど。やはり様子がおかしい。意識を移す時も抵抗があった。なにかあったのかと強引に繋いでみたのだけれど、繋いでも抵抗がある。今の状態では100%の性能は引き出せないでしょうね。

 その原因は自我。心配したような外部からの干渉ではなかったのだけれど、それはそれで厄介ね。

「レオニス? どうしたんじゃ?」

 ムリエルが様子を見に来たみたいね。

 レオニス? 私はレオの意識からそれを読み取ろうとしたけれど抵抗される。私なら強引に突破できるのだけれど、どうしたものかしらね。

 知られたくない記憶。この私の中で自分という領域を展開しようとしている。今のうちに潰すべきかしらね。折角の自我の芽生えだけれど邪魔になるのなら取り除かないと、ね。

「レオニス? 泣いておるのか?」

 私が頬に手を当てると確かに涙が流れている。

「ムリエル。何があったのか話して。そのレオニスの記憶を教えてくれないの」

「本当に自我が目覚めたんじゃな。レオニス大丈夫じゃ。我はずっとここにおる。汝は決して消えはせん」

 ムリエルが私の手を握る。すると今までの抵抗が嘘のように消える。本当にここに居るのね。

 私は再度レオの意識を探っていく。

 なるほど。人間の魂であるレオニス。それが王牙との繋がりが絶たれたことで目を覚ましたと言う所ね。

 という事はレオーネはこの体の持ち主ではないという事?

 輪廻転生と言っても異世界転生のように憑依タイプや上書きタイプが存在するのかしら?

 だとするとまた厄介ね。レオはどちらに属するのかしら。


ーーー


 俺は王牙に戻ってレオと対峙していた。

「さて、お前の言を借りればお前という俺の右腕が自発的に行動する事に問題がある。それ自体は良い。別に構わん。だが使いたいときに使えないのは戴けない。試させてもらうぞ」


 レオの返事を待つと完全に繋がりを断つ。

 この状態では加護のみ。魔素は使えないようだ。そしてやはり苦しそうだ。通り一遍を試して繋がりを回復する。完全に断つと生命維持に問題が出る。これは論外だな。


 そして意識は繋げず力の供給だけ。

 加護も魔素も問題ない。だが俺の意識を繋げた時とは二段階ぐらい戦闘力は下がるな。特に魔素だ。燃やした一撃は勿論、竜翼も3本が限界か。その代わりに加護の術が使える様だ。加護の森の一重。レオーネの三重のような卓越した使い方ではない。

 全体的に戦闘力は下がるが完全自律だ。俺と違って加護の術が使えるなら有用だが、生存という面で大きく劣るな。人間との戦闘はほぼ無理だろう。死にに行かせるようなものだ。


 最後に意識を繋げる。

 これは問題ないようね。それでも同期が遅れている。抵抗はないものの意識が同期を遅らせている。

 これはマズイわね。

 判断の遅れがレオの戦闘能力を著しく下げている。自分の動きがコンマ一秒遅れると思えばどれだけ致命的かわかるわね。

 それでも必死に意識が追い付こうとあがいている。時間があればそれでいいでしょう。でもこの意識を一時的にでも消す事が出来れば元の状態に戻る。戦闘時は意識を消すのがベストでしょうね。

 そこで意識の抵抗を感じる。どうやら限界の様ね。王牙に戻った方が良さそうね。


「待って! 棄てないで! 私をもっと信じて! 絶対、絶対追い付いてみせるから!」


 王牙に戻った俺はレオの言葉を聞いている。


「私にチャンスをください! 絶対、絶対応えてみせるから!」


 それは嘘だな。何の根拠もない。ただの勢いだ。

 確かに時間が解決する可能性はある。だがそれはレオのコンディションに左右される。レオの意識に不調があれば同じことだろう。完全自律も特に必要はない。今まで通り意識を繋げ続ければいいだけだ。繋げないぶん対応が遅れる可能性さえある。

 このレオの意識を存続させる理由が一ミリもない。寧ろマイナスだ。


「お前は誰だ? その答えを用意しておけ」

「え・・・?」

「もう一度繋げるぞ。準備は良いか?」

「はい!」


 私はレオの意識を繋げる。一通り試す。先程よりもマシと言いたいけれど、ただムラが出来ただけで逆に扱いにくい。均一な前の方が良かったわね。このまま続けてもこのムラは消して消えない。

 これは駄目ね。消えてもらおうかしら? もうチャンスは与えたでしょう。

 さようなら。名も知らないレオの意識体。

 ・・・

 絶望からの怒りを感じる。

 ふむ。もう戻っても良さそうね。


ーーー


 俺がレオとの意識を切ると自由になったレオが襲って来た。

「誰が殺されるもんですか! 私は最後まで抗い続ける! 私はレオニスよ! あなたには絶対に従わないわ!」

「やっと答えが出たか」

 俺は猛攻をかけるレオニスの攻撃を受け流す。火事場の馬鹿力を期待したがそこまでは無理か。

「何の答えよ!」

「もう忘れたか。お前は誰だ? この問いかけは俺が自分の右腕と話しているようなものだ。それが本当に俺の右腕なのか、それとも魂のある存在なのか。それを見極めたかった」

「それであなたの答えは出たの!」

「出ている。レオニス。お前がただの右腕の不具合ではないという事はな」

「なら教えてあげるわよ。私は人間として生まれ人間として恥ずかしくない生き方をしてきたわ。それが今や魔物の走狗」

 レオニスはそう言うと自虐的に笑う。それでもはっきりと宣言した。

「それでも私は生きていたい! 人として恥ずかしい生き方でも私は生きていたい! ただ、それだけよ!」

 レオニスはただ巻き込まれただけの無害な魂だったのだろうな。

「それが重要だ。お前は魔物ではないが魔物にはそれが必要だ。魔物に堕ちた時の原動力。お前のそれは生存本能だ。ただ生きたいという思いがお前をここに留めている」

「私は愛されたかった。そのためには生きなきゃ、死んだら誰にも愛してもらえないもの」


 俺は剣を下ろす。レオは警戒しながらもその手を止めた。

「それが聞ければ十分だ。もう一度名前を聞いてもいいか? レオの意識体よ」

「私はレオニス。コル・レオニス。獅子レオの心臓。失われた心臓。私は私を失ってない。私は生きることも愛されることも失ってない」

「レオニス。命と愛を求める者よ。歓迎するぞ。それが成就するかは未知数だが俺が支え続けよう。それでいいか?」

「え、と、あなたはそれでいいの? 私が居たらレオの力は半減するでしょう?」


「ああ、気付いていないのか」

 不思議そうにレオニスはこちらを向く。

「レオニスという自我を得てお前の体の同期が進んでいる。安定化は勿論だが、魔王の心臓と施された肉体が使用可能になるだろう。その頃にはお前自身の成長も進んでいる。最終的には全盛期のレオに、左右十二翼の竜翼と魔王の心臓、施された肉体から延びる施された鎧と武器、それら全ての両立が出来るのではないかと踏んでいるが、どうだ?」


「じゃ、じゃあ、私を存続させる意味がないっていうのはなんだったの・・・?」

「あれは嘘だ。お前を引き出すための詭弁だ」

「む。私はずっとあなたの掌の上で踊らされていたってわけね?」

「ああ。可愛らしい演目だったぞ。流石はTS・・・ではない真の美少女だな」

「そう、可愛らしかったんだ。じゃあこれからもよろしくね♡ お父様♡」

 レオニスは挑発的に上目遣いで睨んでくる。

「ここまで理解を示した相手への返しがそれか」

「でも嬉しいでしょう? お父様がレオで出来なかった美少女ムーブ。私なら出来るわよ?」

 鞘に入った剣を胸に抱き締めながら蔓延の笑みを見せるレオニス。

 そうか仕返しではなく感謝。そう思う事にしておこう。

「いい仕事だレオニス」

 俺はサムズアップで返す。

「はい♡ お父様♡」

 満更嫌そうでもないな。それならこれでいいのだろう。

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