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第七十七章 神の塔④ 帰郷

 俺が地表に近づくとレオが魔剣機体を駆って様々な強化の仕様を試しているのが見えてきた。

 ムリエルも乗っているのか魔剣機体に皇帝を履かせている。相棒と出しゃばりも魔剣機体サイズだ。コイツラ俺が居ない間になんて楽しそうなことをしているんだ。クソ羨ましい。本来ならレオを介して俺が遊びたい所だが、レオも段々と自我が芽生え始めているのか意識を繋がなくても行動が出来ているようだな。

 

 ここは占拠済みの聖王都。見た感じではそれほど時間は経っていなさそうだな。屋根の上にシノとアリエスの姿が見える。レオの見学か。何か言い争いをしているようだ。

 こちらは見えていないのか?

 俺は加護ジェネレーターに囲まれたまま二人の立つ屋根へと降り立つ。

「シノ。貴女はレオまでも自分の物にする気ですか?」

「そうだアリエス。あれらは全て私のものだ。誰にも渡さん」

 ? どういうことだ? レオがモテモテだ。

「レオはレオだ。俺ではない。堂々と浮気宣言をされるのは看過できんぞ」

 シノとアリエスの二人の視線がこちらに向く。

「・・・王牙。帰っていたのか」

「わが父・・・おかえりなさい」

 ? なんだこの反応は? 熱烈歓迎を望んでいたわけではないが少し様子がおかしい。


 そこにドガッと音を立てて何かが屋根に刺さる。盾だ。出しゃばりめ。飛んでる機体から落ちて来たのか。不時着したレオの機体からも相棒がその手から落ちてバウンドし俺達のいる屋根に突き刺さる。それが跳ね上がり柄が俺の手の位置に来る。もう滅茶苦茶だな。世界の改変を隠す気が微塵もないな。俺は相棒と出しゃばりを手に取ると背に背負う。脇差も戻ったようだ。

 まったくコイツラの方が熱烈歓迎か。それはそうだろうな。神との邂逅の結果を一番知りたいのはコイツラだろう。取り敢えずはシノと話してからだ。俺も状況の整理がしたい。

「王牙! 戻ったか! また私に貧乏くじを引かせる気ではないかと気が気ではなかったぞ」

「流石ですわが父! やはりわが父は選ばれたお方。心配など杞憂でした」

「ああ。色々と待たせたようだな」

 こっちもようやく目を覚ましたようだな。さっきのぼんやりしていたのは何だったんだ?

「王牙ぁー! おかえりなのじゃ!」

 ムリエルが飛びついてくる。ムリエルの場合は純粋に俺の帰還を喜んでくれているようだ。そういえば見えないと思ったタウラスはアリエスの手の上で寝ているのか。こいつはこいつでマイペースだな。

 リンキンたちは別の場所にいるようだな。パルテもまだ古城の要塞化でここには来ていないだろう。

「ダンナ。おかえりなさい」

 だが何故かリンセスはいるようだな。

「ここから遠征でしょ。私が付いていかないでどうするの」

 腰に手を当てて従軍スタイルの分厚い生地だ。

 そうだな。未だに人類圏の端にまで来ていないのだ。長い道のりが始まるのだろう。


ーーー


 俺は魔剣機体のレオと対峙していた。色々と話す前に体を動かして頭を整理したかったからだ。

 それに試したいこともある。

 ここに来る前に考えていた。加護の鎧に髑髏の魔法は有効だった。つまり魔素属性は加護の鎧に効果がある。

 何が言いたいかと言えば『施された武器』。これだけが異常な程に魔物に特攻な武器でその他は魔物への特攻効果はないのではないかということだ。


 人を覆う『神の加護』。これ自体は強力だが魔素に強いというだけで無効化するわけではない。


 鎧に使われる『加護の鎧』。ヒーラーで回復できる鎧だ。そして自己の加護で操作もできる。実際強いがこれも魔素に特攻という訳ではない。


 そして『施された武器』だ。これだけが別格だ。まず破壊できない。魔素の消失どころか魔法をなぞるだけで消す事が出来る。これに関しては魔物であれば打つ手がない。物理の石の棒や金属の武器で対処するしかない。

 そう、この武器だけが魔物への殺意が異常に高い。

 製造方法も不明だ。形態変化が出来るという事は持ち主が出現させるという可能性もあるが、魔素人形や巨大ボウガンに大型の物が使われていたこともある。だが、そこはまたリブラにでも聞けばいいか。


 ではここで何がしたいかと言えば、魔素武器の可能性だ。俺は脇差を抜いて魔素の爪を添わせて太刀状にする。

 魔物武器の使い処がないのは人間が『施された武器』を持っているからだ。逆説的に言えば人間が『施された武器』さえ持っていなければ十二分に戦える武器なのではないか? という事だ。

 太刀と化した俺の脇差『旗織り』がレオの魔剣機体の魔剣と切り合い火花を散らす。断ち切るバスタードソードとは違う戦い方だ。撫で切り切り裂く。魔素属性の刃が魔剣を抉る感覚が手に伝わってくる。やはり魔物武器は魔剣を超える。生身の人間が居なければこれをメインに使う事も可能だろう。

 その剣戟を縫ってレオの機体にある加護の鎧にも刃を走らせる。

 ここもそうだ。魔物武器は加護の鎧にも有効だ。物理の刃のように早く強く打ち付けるのではない。魔素の属性を最大限に効かせる。力ではない。属性だ。魔素の属性攻撃力を最大限に活かす。加護の鎧を魔素で焼き切るイメージだ。それには撫で切る太刀こそが相応しい。

 属性を乗せた太刀の一撃を合間に入れて加護の鎧を切り裂いていく。レオはボロボロになった魔剣で守勢に回っている。その魔剣ではもう前に出られないだろう。俺はそれに乗じて更に加護の鎧を切り裂いていく。レオの加護供給が間に合わず不安定化していく加護の鎧。そしてようやく胴体の加護鎧が落ちる。維持が出来なくて消えたな。

 ここで意外なことが起きた。レオの魔剣機体の機動性が落ちる。予想は出来て当たり前だったが実際目の当たりにすると違う。レオは加護の鎧に干渉し、それを浮かせ操作することで機体のスペックを上げていた。それが一つ落ちたことでそのバランスが一気に狂う。完全にダメージコントロールに失敗している状態だ。

 その後も残った加護の鎧を落としていく。鎧が減って機体が軽くなるかと思われたが逆だな。特に俺はレオの時に加護の操作に重きを置いていた。重りがなくなった所か強化パーツを外されたに等しい。

 そして魔剣を折って終わる。敵が魔剣だけなら魔物武器で良さそうだ。実戦でやったら間違いなく人間の施された武器で魔物武器は一撃粉砕だろうがな。

 やはりあの施された武器が頭がおかしいのだろうな。リブラに聞いたらこう返ってきそうだな。「当然です! 何せ! 私が! 作ったんですからね! わかりますか王牙さん! わかりますか?私の献身が! それなのにここのアリンコ共は感謝もせずに罵声ですよ! わかりますか!? 王牙さん!」とこんな感じか。聖女でさえあそこまで拘っていた奴だからな。相当に力を入れていても不思議はない。

 それにしても折れかけた武器で戦うのは悪手だな。相棒に慣れていたせいで武器が壊れる可能性が頭からなくなっていた。レオで気づいたが、折れかけていた魔剣をカバーしながら戦ってればいいように弄ばれるわけだ。魔物武器を活用するなら武器の消耗も考え直さないとだな。


ーーー


「この世界の神が既に死んでいただと!?」

 俺は興奮するシノと相棒と出しゃばりを抑えながら落ち着くまで待った。最初にシノとだけ話し合うつもりだったが頑として譲らなかったからだ。その時もシノと話し終えるまでは黙るという事を取り決めていたのだがな。

「そうだな。まずはシノ。お前の事から話そう。俺の見立てでは神の塔に居た神の代弁者事リブラはお前の目指す神ではないのかもしれん。楽園の守護者、お前以外の髑髏の標的となる神はこのリブラで間違いないと俺は思っている。だがシノ。お前の語る神はそれらとは違うと思っている」

「なるほど。私と他の者達との目指すものが違うという事か」

「そうだ。どうもシノお前は特殊らしい。いくつか並べてみよう。

 ①先にも言ったがお前はその死んだ神、女神に似ているそうだ。

 そして不可解な点が多くある。

 ②罪人でも異世界転生でもないお前が魔物に堕ち魂を維持している。

 ③そして転生だ。魔物から魔族へ、だ。ここに直で行くのはあり得ないらしい。それもリブラの目に留まらなかったそうだ。

 ④髑髏と魔族の融合。これもあり得ないとな。

 これが成し得るならお前自身が女神か、それに関わっているものと考えるのが自然だろう」

「・・・私がその死んだ女神に会っていて、何らかの不条理に巻き込まれた。それ故に特異な状態であり、その原因である女神に何らかの感情があると、そういう事か」

「そうだな。お前自身が女神の線はないのか? 理の外に居る存在とは文字通りこの世界の外にいる可能性だ」

「・・・異世界転生者と自認する存在が居るのならばその可能性もありか。その全てが狂言という可能性もあるぞ」

「そこまではな。取り合えずは情報の洗い出しだ。もし神の代弁者であるリブラがお前の標的であった場合。殺すのは限りなく難しい。仮に殺せたとしてもこの世界の崩壊と同じ意味を持つ。これは確定していても最終手段だ。シノ。お前のその時の選択はどうなる?」

「・・・確定したなら私は躊躇わない。もとより刺し違えてでも殺したいと思うほどだ。記憶は無くしたといえ、この私の魂がな。だが、確かに王牙、お前の言う通りだ。今まで神の真似事をしていた存在を疎ましくは感じたが、殺意は抱かなかった。私の殺すべき相手はそのリブラではないのかもしれん」

「まずはその見極めだな。そこに重点を置こう。案外とリブラの口車に乗って神を目指すのが一番の近道かもしれないな」

「私が本物の神にか。もしかしたら返り咲きか? 私の仇が私自身などは笑えたものではない。それも神の代弁者を名乗る者の口車に乗ってか。あまりにも無様すぎる結末だ。・・・しかし女神か。まるで琴線に触れん。女である必要があったのか?」

「そこは話のタイミングだろう。神に性別などあるとは思えない。時には男であり女である。死んだ時がたまたま女だっただけではないか?」

 ある意味本当の意味のTS美少女だな。どちらでもありどちらでもない。その両方の経験があるだけだ。

 レオの元になった魂レオーネも今は女の体だが、前世も相当数あるのだろう。それこそ神の塔に昇った時は男だったのだろ・・・ああ、一番最初の性別が基準になるか。そこでリブラの肩代わりを申し出て、タマも一緒に逝ってしまったのか。

「・・・私の存在か。確かにこれは一朝一夕で答えが出るものでもないな」

「そうだな。それまでは魔物の侵攻に従おうと思うがどうだ?」

「構わない。私も同行しよう。しかし神のいない世界か。突拍子過ぎてそれ自体がお伽噺のように聞こえて来たぞ」

「実際はどうだろうな。俺が見た感じはリブラが嘘をついているようには見えなかった。そしてその力も神に次ぐと言われても納得できる内容だった。神亡き世界の維持。どれだけ恨まれ憎まれてもその姿勢を崩してはいなかった。魔王種の件もこの世界に神を立てるためだ。どれだけ怨嗟の声が響いてもこの世界の維持を止めるようには見えなかった」

「お前にそれほど言わせる程の人物か、そのリブラという神の代弁者は」

「頑固さだけは神を凌ぐだろう。冷徹であっても善人だ。その目的のために手段は選ばない。神でないからこそ真に神に近いのだろう。その道筋の研鑽は己自身を刻んでなお立ち続けられる人間だ」

「そこまでの人物なら除外しても良さそうだな」

「人間の恨みはしこたま抱えているだろうがな」

「そんなものは私達も抱えている。私が殺すべき存在は私の恨みを抱えた存在だ。必ず見つけて殺してやろう。例えそれが元は神であったとしても」

「決まりだな。しばらくはまた人間との戦いだ。そこで動きがあれば御の字だ」


ーーー


 さてお前たちはどうだ? 相棒、出しゃばり。


 俺達でも流石に話が大きすぎる。俺達が討つべき神が神でなく救世主などと悪い冗談だと思いたいくらいだ。

 それでも一考の価値はある。世界の為に神を立てるか。

 そこは俺達の領分じゃない。俺達はこの楽園の守護者だ。選択権はない。俺等はただこの楽園を守るのみ。

 そうも言ってられないぞ。この問題はこの世界に存在する全ての者の選択だ。

 俺達もまた、選択する時が来たという事か。

 ああ、この楽園が俺達の楽園であり続けるか否か、だな。


「俺の選択は決まっている。シノの隣だ。この世界の全てよりも」


 これ以上俺達を魅了するな。

 これだからお前の傍を離れられないんだ。


 さて、どうだかな。楽園の守護者。それの選択も関わってきそうだな。

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