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第七十六章 神の塔③ リブラ

「なぜお前が神にならない」

「それは私にとっての越権行為です。そもそもそれが可能かどうかもわかりません」

「なぜこの世界を救わない。聖女タイプにしてもそうだ。あれはお前の一部を組み込んだものだろう。お前に介在出来ない筈がない。いざとなればそれを使って人類を抹殺することも出来たのではないか? むしろそのためのものではないのか。俺がレオになった時、人間との戦闘は有利に進められた。それは神の加護を無視できたからだ。聖女タイプは加護を持った人間に有効だ」

「それは、まだ神となれる人物がいなかったからです」

「アリエスはどうだ? アレこそがお前が神に成り代わるテストヘッドではないのか」

「いえ。そこは明確に違うと答えておきます。期待してなかったと言えば嘘になりますが、それを潰したのはあなたでしょう王牙さん」

 そしてリブラは息をついた。

「聖女タイプを全て人類から離反させることはできます。ですがそれは戦闘からの離脱が精一杯でしょう。先にも言った通り聖女タイプに選んだ魂は人類を見捨てて神に従うような者は選んでいません。そして私はその選択をしないでしょう。出来るかと言われればやれます。ですがそれを強制したいのであれば王牙さん。あなたが神になる保証を私に提示してください。それならば私も覚悟を決めます」

 なるほど。覚悟がないわけではないのか。だからこそ確実な一手でなければ動かないという事か。

「リブラ。お前がそれで素直に言うことを聞くたまか?」

 俺は冗談交じりに言う。

「私ほど神に従順なナビゲーターは居ませんよ王牙さん。あの女神の為にどれだけ身を粉にした事か。理想の世界の為に自身が人間となって世界に介入すると言い出した時は眩暈がしました。その上私まで介入する羽目になって。ようやく彼女が理想の世界を諦めたと思ったらあの勇者ストーリーです。彼女が魔物の王になると言い出した時は自分の思い通りにならない世界をぶち壊したいんだと思っていました。その上で物語になるよう、彼女の理想の勇者の活躍を愉しむのだと。最後は勇者に敗れた魔物の王が勇者と恋に落ちるような、そんなチープな物語が展開すると思っていました」

 リブラは楽しそうに話していた。

「でもそれが、まさか、自身を消すための行動だなんて。魔物の王が勇者に討たれた時、私はいつもの冗談だと思っていました。また次は何かに転生してやり直しか、なんて暢気に考えていました。ですがその勇者が人間の身でありながら全ての神の力を宿した時に悟ったのです。彼女の真意を」

 リブラは長椅子を作り出すとそれに腰かけた。俺もそれに座る。

「これは私に対する裏切りです! ここまで身を粉にして付き合ってきたのに! それもこれも彼女を神として立たせるため! 神の自覚が芽生えてこの世界を見守ると信じていたのに! そのためならどこまでも付き合ったのに! ・・・私は全てを失いました。自身の神も、見守るべき世界も」

 いつもの過剰なポージングも今は物悲しく見える。

「ですがまだ希望はありました。神の力を受け継いだ勇者。神は外から来るのが常です。その世界の存在が神になるなんて前代未聞でした。それでもやるしかなかったんです。それしか方法がなかったんですから」

 神はやはり外から来るのか。となればシノが倒すべき神はこの女神、なのだろうか。

「ですがこの勇者がまた、頭がお花畑を超えて天国か楽園の花園レベルでした。私を神と信じるのは良かったのですが、次代の神にと話を進めると、自分はそれにふさわしくないと言って神の力を平等にかつ公平に配って次代の神を選別しようと言い出しました。その時の私は正直自暴自棄になっていたのでしょうね。それともそんな楽園が実現すると思っていたのでしょうか。その時の私はその勇者を盲目的に信じていました」

 今のリブラからは考えられないな。

「異変はすぐにわかりました。魔物の王が蹂躙したすぐ後ですので治安がいいはずもなく、それでもそれは異常でした。略奪者の強さです。最初は魔物の再来かとも思われましたが、それは神の加護を纏っていました。それも強大に。神のいない世界で最も神に愛されたのは殺人者でした」

 神のいない世界か。

「最初は女神の嫌がらせかと期待しましたよ。でもそれはただ単に平等に配られた神の力の奪い合いだったのです。人を殺せば経験値になりレベルアップ。この世界にレベルアップなんて概念はありませんからね。皆それに酔いしれたのでしょう。大量虐殺から大量の経験値を持つ勝者から奪うという方法に成り代わるのはすぐでした。そして絶対的格差の社会です。強者は強者を追い求め、弱者は弱者で成り上がるために弱者同士で殺し合いをしました」

 まさに『人肉食い』改め『神肉食い』システムだな。

「それも勇者の台頭で終わります。彼は神の力を無効化することが出来ました。純粋に人の力で勝って神の力を回収したのです」

 回収? 奪ったのではないのか?

「まて、それは神肉食いシステムに穴がないか? 殺さずとも奪えたのか?」

「そこは私が居ましたから。この勇者が図々しくもこの私に地に足をつかせたのです。おかげで私は地べたを這いずり回ることになりました。その後は勇者が勝つたびに勇者に力を返す人間も出てきました。戦わずに降参させて力を回収することもできました。そして世界は平定しました。元から生き残った人類も多くはなかったですからね。神の力も八割がた回収し彼は王に推されました」

 これも楽しかった時間か。そろそろこの昔話をする意味が分かってきたな。

「そして彼は王になりました。ですが、あまりにも頭が楽園の花園過ぎました。善人ではあるのですが、善人過ぎました。勇者には向いていましたが王には全く向かない人材でした。そしてそれが起きました。謀殺です。彼が何者かに殺されました。死因は不明。遺体もありませんでした。ただそこには置き去りにされた神の力だけが残っていたのです」

「お前でもわからないのならその勇者自身が神の力を捨てたのではないか?」

「それも考えましたが彼はそこまで神の力を使いこなせていませんでした。女神のように自身で消滅を図るタイプでもありませんでした。未だに彼を殺した人間とその方法がわかっていません。ですがもし女神が生きていたのならそれも可能でしょう。動機は色々ありますね。信じた勇者がヒャッハーワールドを作って自作自演の王様ロード、とかですかね。私が女神でもブチ切れて殺しに来るでしょう」

 客観的に見ればそうなるな。

「本来ならもう、この世界は終わっていたんです。でも私は手を出す楽しみを憶えてしまった。私が介在することで世界が変わることを知ってしまった。私はこの地に足を着くことの意味を知ってしまった」

 そしてリブラはこちらを向いた。

「わかりますか? 私はもう傍観者ではなくこの世界のキャラクターなんです。この世界の存続を願うと同時に、この世界のキャラクターを愛している。私の今している仕事は、無駄ではない。何時か世界を救えると信じている自分がいます。でも現実主義な私はそれを容認できない。このまま世界が良くなっても何も解決しない。ただ弱っていく世界を維持することしかできないんです」

 ふむ。

「それでいいのではないか?」

 え? と意外そうな顔が返ってくる。

「今すぐ崩壊するというものでもないのだろう。その間際まで待ってみてもいいのではないか? このまま続けていけば俺達魔物が人間の領域へと進むだろう。そこで何か変化が起きないとも限らん。早急に決断しても良いものか」

 それにだな。

「もうお前は神としての資質を備えている。お前が神を宣言したとて誰がそれに反対できる。この世界を作ってきたのは間違いなくお前だリブラ。それはもはや神ではないのか」

「ですが私はナビゲーター。神になることは禁じられています」

「その罰則がなんであれ、滅びる世界を救える選択肢がある。例えその選択の末に世界の崩壊が待っていたとしてもそもそも滅びる世界だ。何を迷う必要がある」

 そうだな。

「だがこの世界を棄ててもお前自身が崩壊しないのなら捨てるのも選択だ。この世界の崩壊を受け入れられるのならナビゲーターとしての職務を全うすればいい。その選択でお前がお前としていられる方を選べ」

 これで伝わったか? 

「私は、この世界が崩壊したら私でいられなくなるかもしれません。もう、私は、ナビゲーターには戻れない。私はもうこの世界と運命を共にしていたんですね。・・・もう手遅れでした。何もかも手遅れ。私はもうこの世界の住人なのですから!」

 バッとリブレが立ち上がる。

「でもですね王牙さん。私はあなたを神に据えることを諦めてはいませんよ! やはりあなたはこの世界の神になるべき存在です! この世界の住人である私が推します! 私が神になるのは最終手段にしておきましょう!」

「この流れはお前が神になる決心をする場面じゃないのか。わざわざ決め台詞まで考えていたんだぞ」

「ちなみに聞きますがどんなのです?」

「お前に与えた名、リブラは天秤だ。お前が神になると決心したらその天秤の持ち主である女神アストレアを名乗れ。と宣言するはずだったんだがな」

「確かその女神は最後に残った女神ですが結局人間を見捨てるじゃないですか」

「そこも踏まえてだ。その去るというのは地上に降りてないだけだろう。神として消えてもお前の仕事は続けるのだろう?」

「んまあ、そうですね。確かに私が神になったら地上になんて降りでしょうしね。所詮アリンコが差し出すものなんて何もいりませんし、アリンコ自身を捧げられてもいりませんしね。アリンコはただ黙って感謝と尊敬を捧げていればいいんですよ。自身に価値があるなんて傲慢にもほどがあるってんですよ」

「やる気が出てきたようだな。女神アストレア」

「いえ、リブラで結構です。王牙さん。取り合えず話は継続中ですからね。

 第一に人間を追いつめて神の力の一極化を図る事!

 第二に王牙さんが神になる事! もしくはその身代わりを差し出す事!

 王牙さんの捧げる供物と王牙さん自身ならこの神の代・弁・者! であるリブラが受け取って差し上げてもいいんですよ!」

「どれだけ上から目線だ代弁者。全て自分で出来るだろう。やってしまってもいいんだぞ女神アストレア」

「嫌です! というか業務に支障が出ます! 仕事しながら物語を作るなんて無理です! 王牙さん創作に強いでしょう!」

「神の役目は物語作りか。それなら俺は不適格だ。地べたを這いずるアリンコが俺にはお似合いだ」

「それでもいいんですよ。世界の改変使いまくりの最強アリンコ伝説を作ればいいんですから!」

「つまらん、最高につまらん。そんなものは野原の草刈りと変わらんだろう。たしかにこの世界にレベルアップがないのは正解だな。経験値は駄目だ。ゲームでは面白いが現実ではありえん。触手プレイと同じだ。現実でやれば死と障害が待っているだろう」

「王牙さん・・・。やったんですか?」

「無理だ。危険すぎて止めた。ヌルヌル触手プレイは二次元限定だ。ファンタジー現実でも無理だ」

「王牙さん! そんなあなたに朗報です! 神になれば世界の改変で安全で快適なヌルヌル触手プレイが可能になります! 是非挑戦しましょう!」

 流石にそれは嫌すぎる。

「冗談はここまでだ。流石に俺は下に戻るぞ。お前の話は心に留めておくが、絶対ではないぞ」

「わかりました。その時は聖女タイプ全員でハーレム勧誘をしに行くので楽しみにしていてください!」

 冗談に聞こえないぞ。

「その時は返り討ちだ。女神アストレア。リブラとしてならまた会おう」

 リブラは跪いて祈りのポーズを取る。

「はい。わが神、王牙。あなたの帰還を心待ちにしています」

 そして俺は加護ジェネレーターに囲まれた。

 そういえばこいつは何だったんだ? 神の塔のパーツだったのか。

 そして俺は降りていく。さてこの話をどうしたものか。

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