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第七十五章 神の塔② 神肉食いシステム

「シノ、さん。彼女は何なんですか?」

 どういう質問だ? 俺は目でリブラに尋ねる。

「彼女は何の変哲もない普通の魂です。異世界転生者などの特殊な魂は私が管理しています。その転生も適切だと思えば行います。不適切ならそれ相応の処理をします。特に望んで魔物になる以外の魂は魔物になって消滅することの方が多いですね。魂のない魔物は大体それです。魔物になってその魂を維持できるというのはそれほど凄いことなんですよ」

 ほう。

「王牙さん達異世界転生者や元聖女はわかります。ですが彼女は何なんでしょう。普通の輪廻転生で魔物の髑髏になるなんて聞いたことがありません。この世界の普通の何にもかかわってない何の変哲もない魂は自然と循環します。魔物に堕ちるならそれ相応の魂で私の目にも止まるはずです。それがありません」

 なるほど。

「それに彼女は二度の転生で魔族になりました。魔物が魔族にですよ。そんな特殊なケースが私の目に留まらない筈がないんです。ですが私は把握していません。それに当たり前のように行っていましたけど、魔物である髑髏と魔族が融合というのは何です? そんなこと可能なわけがないでしょう」

「だがシノはコアを取り入れていた。それで異世界転生者の力と記憶を手に入れていたのではないか?」

「それでもです。王牙さん。世界の改変がありますよね? 異世界転生者がそれを使えばすぐにでもわかります。ですがそれを使ったのがこの世界で世界の改変を使える人物だったらどうでしょう」

「どういうことだ?」

「これが最大の懸念点です。シノさんはこの世界を棄てて消滅した女神本人にそっくりなんです。彼女が女神ならこの世界の改変は異物ではなく仕様です。誰に気付かれることもありません。この私にもです」

「それが確定だとしてシノの狙いはなんだ? シノは神の反逆を唱えているがそれは自分自身という事か? それはないだろう。神の代弁者であるリブラ。お前でもない。明確に倒すべき神が居る。それはなんだ?」

「・・・私にもわかりかねます。彼女がこの状況を演出してでも倒すべき神。いえ、そんな事が、そんなものがこの世界にあるとは思えません」

「懸念材料は山積みだな。これは素直に神の擁立を進めていいかも含めて、その部分にも目を向ける必要がありそうだな」

「そうですね。ですが気のせいという事はありません。彼女には十分に気を付けてください」

「だがな。俺は最終的にシノの側に着くと思うぞ。今の俺を形作っているのはシノだからな。女神の力よりもシノの言う私の好きなお前でいろ、私の愛したお前でいろ、この言葉の方がよほど重い。この気持ちまで疑えというのか?」

「王牙さん。まさかあなたは女神に作られた理想の神候補なんじゃありませんか! そうでもないとこの状態が説明出来ません! もし彼女がこの世界にまだ未練があるならあなたの存在が答えです!」

「お前に都合が良すぎだろう。それにこれがシノの企てだとしても穴があり過ぎる。仮に時間遡行が出来たとしても同じことが起きるとは思えないほど色々な事が起きた。何よりシノが世界の為に俺を導くというその構図が思いうかべない。シノが神への道筋に俺を利用することはあるだろうが、世界の為には正直ありえんだろうな」

「そうですね。私もそんな気がしてきました。彼女の反逆する神が私でないことを祈りましょう」


「他のことを聞いてもいいか?」

「ハイどうぞ」

「リンキンの転生はお前が関わっているのか?」

「そうですよ。彼は最初酷い状態でしたから長くはないと思っていましたが、王牙さんとの出会いでだいぶ変わりましたね。二度目の転生はその他もろもろ込みでかなり色を付けさせてもらいました」

「という事は何度でも転生は可能なのか?」

「本人が望めば実質的に無限ですけど、その生に意味を見出してもらう事が条件です。特に魔物は即座に行動が可能ですからね。その分成果無しで死なれるようだとこちらとしても不要な魂としてしかるべき処置をします。これは王牙さん。あなたでもです。命を軽く考えるようなら神の座は無理でしょうから」


「リンセスについて聞きたい」

「彼女の事は聞ない方がいいと思います。わかりますか?」

「そうか。ならばやめておこう」

「・・・そうですね。リンセスさんの名誉のためにお話しします。彼女に問題はありません。その姉妹が問題アリです。血のつながりがないのは勿論ですが分御霊を姉妹に食わせる時点でお察しです。そのような環境下でリンセスさんだけに神の加護が発生しました。さてどうなるでしょうか」

「考えるまでもないな」

「そういう事です。本人に資質があっても環境が整わなければ神の加護は降ろせません。更なる悲劇が起きるだけですからね」


「タウラスについて聞きたい」

「彼については私もわかりません。宇宙に存在するキャラクターが居るとは思ってもいませんでした。私の認識では彼は宇宙という背景が擬人化したような感じでしょうか。私の管理はこの惑星と言っていいです。この世界の宇宙が無限に存在するのか。私でもわかりかねます」


「ムリエルについて聞きたい」

「ムリエルさんというよりも楽園の守護者ですね。私もあまり彼らは信用していません。この世界を守っているのは本当ですが、私を敵視し、彼らの存在自体がこの世界を危うくしたりと、正直手放しで受け入れられる組織ではありませんね。何より本当にこの世界を守護している私を討とうという時点で問題です。私がいなくなればまた人間同士で神の力の奪い合いが始まります。それにすら気付けていない時点で私が彼らを評価することはないでしょう」

「ただ彼女の世界の改変を安全に使う試みは評価しています。あの合成獣も改変魔法も、それにあの世界改変飲料でしたか? あのペットボトルも使った後にすぐに消えてなくなっていたでしょう。あれは彼女の努力の証です」


「レオについて聞きたい」

「憶えていますか? 最初に私の肩代わりと言い出した人物です。この神の塔は神の加護、つまり神の力を継承していなければそもそも入れません。それを努力した人間が入れないだの、不公平だのと夢を語っていました。ここまで来たのですからその友人に神の加護を授ければいいものを欲をかいてあの様です。典型的なアリンコですね。次の転生権は剝奪します。それだけの事はしているでしょう。彼彼女が単体で魔物に転生しても耐えられるとは思えません。一度死んだら二度と会えないと考えてください」


「神の加護について聞きたい」

「ムリエルやレオの加護を俺が使う事が可能だったのだが」

「あれはもう神の力でない神の加護でしたから。それを聖女の魂で誤魔化している、一種のグリッチだと考えてください。純粋な神の意志が宿る神の加護ではありません。あのコアが発生させる加護もそうですね」

「王牙さんをこの神の塔へ呼べたのもこのグリッチです。あなたは合体という形で聖女の魂を取り込んでいましたからね」


「パルテについて聞きたい」

「パルテさんの何を聞きたいのでしょう。彼女の願いは乙女の秘密です。魔王に関してなら単純に人類を一枚板にする、丁度王牙さんに頼んだ事と同じです。実際はただ魔王城に引き籠っただけですが。それを置いてもマッチポンプは難しいですね。それを踏まえての王牙さんです。やはり本当の敵でないとそれは実現できないでしょうから」


「魔物について聞きたい」

「魔物に指示を出す存在なら私は関与していませんよ。そうですね。もし仮に神の座に推したいのならやめた方がいいでしょう。神の座には相応しくないでしょうね。ただ王牙さん達が来てから魔物自体も強くなっています。魂のない魔物達が王牙さん達に影響されて次々に強化されています。特にオーガ種は昔と比べ物にならないくらい強くなっています。そうですね。あなた達ユニーク魔物が強くなればなるほどその種が強化されると見て間違いないでしょう」


「人間について聞きたい」

「アリンコはもう踏みつぶしてもいいでしょう。私が神の加護の選別を行ってもそれに銃を向けるような連中です。正直異世界転生者にはほとほと呆れ果てました。ここはアニメでもゲームでもねーんですよ。世界に貢献できないなら死ね! 私が彼らに神の加護を渡さない理由がわかりましたか? もし王牙さんが人間に転生していたらもれなく見捨てていましたね」


「俺について聞きたい」

「王牙さんもよくも転生先に魔物なんて選びましたね。やはりあの人間への怒りは人類への期待だったんですか? あなたは何時か自分が討たれることを望んでいる。自分を殺せる人間。それが居なかった事が前世のあなたの人間への恨みの根源でしょう」


「リブラについて聞きたい」

「私についてですか。この耳はただのデザイン的理由でエルフ種族というような設定ではないんですよ。神のナビゲーターという事でそれに準ずる力は持っています」

「もしシノさんが女神であったのなら、その反逆すべき神とは私を仕わせた存在がそうなのかもしれませんね。勿論私にはわかりませんよ。私は私の仕事をするだけです。ですが女神がそれと接触するとは考えにくいです。そうなるとシノさんの反逆すべき神はこの世界に居ると考えるのが自然でしょうね」


「以上だ」

「はい。そうだ王牙さん。神の塔を降ろしたことで現身の塔が降ろせるようになりました。実際は王牙さん専用のエレベーターです。攻撃にも使えますが降ろした後は強制的にここに連れてこられます。トドメならともかくこれを降ろすと長時間王牙さんは戦線に戻れないと考えてください。呼ぶときは『リブラ。俺は神だ。神の塔を降ろせ』で。大きな声ではっきりとお願いします」

「もし人間達全てに神の加護が宿ったら私に何かがあった時だと考えてください。その時でもこの現身の塔は降ろせます。これは非常時対策です。ただ用があるなり遊びに来るなりで使うのは勿論良いですよ。その代わり私のお茶には付き合ってもらいますが」


「王牙さん。私は矛盾しているでしょうか?」

 質問を終えた所でリブラが話しかけてきた。

「私は私の意志でこの世界を存続させました。これは間違いなくナビゲーターとしての越権行為です。私が罪に問われるとすればこの世界に過度に干渉していることでしょう。本来なら神の力に満ちたこの世界は壮絶な死闘の末に正しい世界、人が神になり存続する未来があったのかもしれません」

「だがそれは人同士の食い合いを生き延びた言わば『人肉食い』の神だろう。それの敷く世界は存続可能なのか?」

「可能ではあります。神の力を得た人間が自己を強化し続ければキャパシティの問題は解決できるでしょう。ただそのような『人肉食い』、いえ神の力を食らう『神肉食い』ではそのような行動に移る前に自滅するでしょう。そしてまた、誰も手に出来ない神の力の塊が漂う事になります」

「それは人間以外には手に入らないのか?」

「私の介在がないと無理でしょうね。逆に言えば私が行えば王牙さんに倒した人間の神の力を宿す事は出来ます。ただしその時は魔物とのリンクは切れると考えてください。魔物とその指示する存在は明確に敵になります。だからこそ最終局面での神の力の譲渡という形をとる必要がありました」

「しかしそうか。だとすればその『神肉食い』システムを今実行するのはどうだ? 人間達が殺し合うのは勿論、人間のキャパオーバーで漂う神の力の塊を回収していけばいつかは神を降ろせるだけの神の力の一極化が図れるだろう。そうならなければ俺が人間を狩りつくせばいいだけだ」

 その時のタイトルは「神肉食い~鬼に転生した俺は流されるままに人を喰い散らかしていく~」に変更だな。キャッチコピーは「神肉食いシステムスタート! これで神の力は俺の物だ!」だな。

「それは、そうかもしれません。人間を追いつめ神の力の一極化には一番いい方法かもしれません。ですがその『神肉食い』と化した王牙さんにこの世界の神が務まるでしょうか」

 やはり乗ってこないか。

「お前は優しすぎるのだ。本当にこの世界を救うならいくらでも方法があるのだろう。それをやらないのは何故だ」

 これも図星だな。その顔でわかる。

「先の問答でもわかった。お前に人間が殺せるのか。アリエスのオリジナルよ。この世界と人間を天秤にかけるリブラ。お前の覚悟がまだできていない」



Tips

聖女の魂

神の代弁者であるリブラの一部が込められた魂。アリエスは100%リブラ製。


神肉食いシステム

神が死んでその力を全ての人間達に平等に譲渡した状態。人間が人間を殺す事でその神の力を奪える。

ここでは王牙が便宜的にシステムと呼んでいるが、実際には意図されたものではなく偶発的に起きてしまった仕様。

他の種族への付与、または他者への譲渡はリブラの介在が必要。

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