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第七十四章 神の塔① 正義の天秤

 俺達がのんびり補給をしているとそれは唐突に表れた。

 何かのマーカーが表示され高台のあった場所へ来るとそれが止まった。そして警告音。比喩ではない。音を介さない警告音が響き渡る。衛星兵器の攻撃マーカーを思わせるが、いやこれは正にそれか。

 警告音が最大になると暗雲が立ち込めそれを貫通するかのように塔が落ちてくる。白い塔だ。落ちてくるというよりも伸びてくるというのが正しいか。その天辺が下からは見えない。それが轟音を立てて地表に落下するとそのまま地面にめり込んだ。

 これが神の塔だとするとこれは軌道エレベーターか?

 それに呼応するかのように加護ジェネレーターが息を吹き返す。その数は八つ。両腕の六基に胴体と下半身がそれぞれ一基。それが俺の元に集い俺の体が浮き上がる。

 しまった。完全に気が抜けていた。俺は慌ててタウラスを降ろすと相棒を手に取る。動けはするが移動は出来ないな。円の中心に囚われた形だ。それがそのまま神の塔に向かうと上昇していく。

 これはどちらだ?

 人間の攻撃か。代弁者の誘いか。考える間もなく神の塔の暗雲に突っ込むと景色が一変した。ここは既に宇宙空間か。青い空ではなく暗い夜空だ。今の所は問題ない。上昇を続けている。終着点に宇宙ステーションでもあるのかと見上げてみたが見えないな。だが、何かにぶつかった感触で俺は目を閉じ視界を閉ざされる。そして目を開くと加護ジェネレーターはなく、星空のドームに囲われた広い空間に俺は居た。


 趣は完全にボス部屋だな。俺は手にした相棒の感触を確かめようとしたがそれが無い。相棒も出しゃばりも、脇差すらない。こんな所で武装解除か。これが代弁者の言う罠か?

 俺が部屋の中央に進むとベールをめくるようにそこに白い女神の巨像、それも石膏造りが現れる。椅子に腰かけ肘をつくぞんざいな態度だ。

「よくここまで辿り着いた。私が神だ」

 ?

「私を倒してみろ。さすれば願いを叶えてやろう」

 ??

「ちなみに王牙さん。武装解除はあなたの武器が全部この部屋に持ち込めないものばかりだからです。普通の武器なら持ち込めるんですよ。わかっていただけました?」

 ???

「弱点は胸です。足を踏み踏みするのでそれに乗って胸を切って私を取り出してください。そこで選択です。誤って切らないようにしてくださいね。わかりましたか?」

 ????

「武器がないなら出しますけど。聞こえてますか?」

「いや俺には爪がある。それは効くのか?」

「問題ないです。それでは始めましょう!」

 

 俺は助言に従って地団太を踏む足の甲から膝へ。胸を爪で切り裂くとそこから代弁者らしき人物が現れた。金髪金目の棘耳エルフが何やらコードに絡まって拘束スタイルだ。

「私を殺すのですか?」

「そんなに殺す人間は多いのか?」

「はい。私に止めを刺してハッピーエンド。それで終わりです。ここに戻ることはできませんが、出来ても私の死体があるだけですね」

「どれだけ恨まれているんだお前は」

「心外です。ほとんど冤罪です。それに人間が会話で解決するなんて選択肢、ほとんどの人は選びませんよ。選べるだけましなんですがね」

「ではそのマシな選択肢を選ばせてもらおうか」

「本当に話が早くて助かります」

 そういうと代弁者と石膏の巨大女神像は消え失せ、かわりに巨大な人影が魔方陣、いや中空に浮くデータに囲まれたデータボールに浮く人影が見える。目を閉じ直立した姿勢だ。開いた両手は微かに動いているが、そのデータの動きはそれよりも早い。服はファンタジーとも現代ともとれる洋服だ。街を歩ける普通の格好だ。そのとがった耳がなければ金髪ストレートの美女といった趣か。


「お待せしました」

 パタパタと小柄な人影、いや身長が俺の首一つ下あるが、これはスケールを合わせているのか。目の前の巨大な人影をデフォルメしたような美少女キャラが走ってくる。

「で? 聞かせてもらえるか神よ」

「あれはテンプレのお決まり文句です。私はここでは真実も嘘もつけるのですから。それよりもまずは神です。本当に私が神だと言い出したら怒りますからね。わかりますか?」

「ではこちらも質問だ。神は死んだのか?」

「・・・現存はしています」

「では神は一度死んだのか?」

「はい」

「かつての神とは魔物の王、そして破れ、散りじりになった。今の神はそれ受け継ぐ人間達。つまり加護を纏いし人間達の集合無意識だ」

 最後の決めてはタウラスの神の加護に感じた意志という言葉だ。神が死んでその残滓が残った世界。その残滓である神の加護が神であり、それに方向性を決めるのがそれを纏う人間だ。

 代弁者は跪いて祈りのポーズを始める。これはアリエスと同じポーズか。

「わが父。王牙さん。流石です! やはりあなたは救世主です!」

「父でも救世主でもないぞ。それより聞かせてもらえるのか?」

「はい。お話いたします。この世界の神は思い通りにならないこの世界から逃れるために自らを滅ぼしました」

 は?

「そのためにまず自身の力を預ける人間を作りそれを代理の神とします。そして自分は残った力で魔物の王になり人類を滅ぼし始めます。そしてその代理の神に討たれて見事この世界から消滅することに成功したのです」

 破れたのではなく、自己崩壊を図ったのか。

「問題はここからです。その代理の神、勇者ですが、善人なんですが、だいぶ頭がお花畑でして、よりにもよってその神の力を人間全員に配ってしまったんです。元の神、ここでは女神としましょう。この人も大概お花畑でしたが、その彼女が作った勇者はそれに輪をかけて頭が天国だったんですよね。それで何が起こったかわかりますか? 王牙さん」

「普通に考えれば人同士の争いか」

「それ以上です。王牙さんの世界で例えるとそうですね。PKで神の経験値が手に入ると言えばわかるでしょうか」

 は? PKとはプレイヤーキラーだ。大抵は罰則が多く、出来ても不遇な環境が多い。そうでなければ皆が皆PKに走るだろう。

「わかったようですね。人間を殺せば殺すほど神の力が増幅されるのです。むしろ人を殺さない情報弱者は次々に狩られましたね」

 まあ、そうなるな。黙っていれば大量殺人鬼が最強になるゲームだ。参加しなければ餌に回るだけだ。

「流石に勇者も慌てた様で神の力を無効化することでその勝者を狩っていきました。そして曲がりなりにも平定という形を取れはしたのですが、何者かに謀殺されました」

「神の力を集めた勇者がか?」

「そうです。これは未だに私でさえ情報が掴めていません。ですがその力だけが残りました。そこで私の登場です。その力を管理し、授けられる相手を選んで渡し、この世界の秩序と維持を務めています。わかりますか? これは今現在も続いているんです」

「まて。お前は寧ろなんだ? なぜそんなことができる」

「私は神のナビゲーター。この世界に降り立った神にアドバイスをするのが仕事です。ハッキリ言って今の状態は私が独断で終わった世界を存続させている、なんでしょうか。やはり代弁者が近いでしょう。代理人は加護を纏った人間達でしょうしね」

 そのナビゲーターとは何だと言っても人間に人間とは何だと問いかけるようなものか。この話が全て本当だとするとこの代弁者は相当のお人好しの善人に見えるが、そうではない冷徹な現実主義も垣間見える。少なくとも悪人の類ではない。


「名前はあるのか? 代弁者」

「そうですね。何時までも代弁者はあり得ませんね。では王牙さん。あなたに私に名付ける栄誉を差し上げます!」

 尊大な態度だな。しかし次の天秤関連となれば役割的にも女神アストレアが最適だが、流石に女神の名を冠するのは侮辱か。

「では七番目の天秤関連でリブラはどうだ?」

「それを狙っていました! 正義の天秤こそ私にふさわしいと思いませんか王牙さん! ここのアリンコ達は! 私が! 世界を! 救っているのに! 感謝どころか罵声ですよ王牙さん! わかりますか? 王牙さん!」

「わかるわかる」

「でしょう! どこぞのアリンコは私の肩代わりが出来ると抜かして代わったらコンマ一秒で消滅ですよ! 慌てて助けたらほとんど残ってなくて! 私が慈悲で聖女タイプとして転生させて救ってあげたのに! なんて言っていたと思います? 神に嵌められて聖女にされたですよ! わかりますか王牙さん!? わかりますか!?」

「ぐうわか」

「その後も肩代わりアリンコはやってきましたよ。アリンコに神の代弁者の代わりが務まるわけないって何べん言ってもわからないんですよ! 散々私を罵倒して! もう死ね! 死ね! 死ね!  お前の為に止めてやってるんですよ! アリンコなんて死滅してしまえ!」

 さっきの女神よろしく地団太を踏むリブラ。確かにこれは善人だな。


「もうアリンコなんて滅ぼしてしまってもいいと思いませんか? 王牙さん。これが次の話です」

 ようやく本題か。

「この世界は神が居ません。何時かは神を立てないとこの世界は滅んでしまいます。そこで王牙さん。人間を追いつめて一致団結させて欲しいんです。これが一つ目です」

「お前の言葉では駄目なのか?」

「王牙さん。誰が私の言葉なんて聞くと思います? 今現存する聖女タイプが私が人間を一致団結させるために追い込みますよ、と言って誰が従うんです。そんな聖女が一人でも居ましたか? 居るわけないんですよ。私が選別したんですから! 神の言葉でホイホイ人間を裏切る聖女になんて神の加護を与えるわけねーんですよ。わかりますか王牙さん! わかりますか!?」

「まて、それではアリエスはお前の中でどうなっている」

「あの子は神に従いましたか? あの子は自分の意志で自分の道を決めました。そして私の選択とも一致しました。奇しくもその選択はこの世界を守る方向に向かいました。私には何も言う事はありません」

「これは聞いてもいいか迷ったが、アリエスはお前が作ったのか?」

「はい。王牙さんの言葉で言えば集合無意識でしたっけ? それが新しい聖女を求めていたんです。この世界を変える存在。それには普通の魂では足りませんでした。ですから私の一部を人の魂に変えた存在。神の塔を知る王牙さんに異常なほど警戒していたのはその残滓が残っていたのでしょうね」

「繋がっているのか?」

「いいえ。それは、生れた時から繋がりはありません。求められていたのは神の意志を理解する人形ではありませんでしたからね」

「そうか。続けてくれ」

「はい。それで人間を追いつめて神の加護の一極化。人間達の手でその状況を打開する神を作り出させるのです」

「そこまでうまくいくのか?」

「これは理想の形ですがまとめられた神の加護を持つ人間を打ち倒しその力を継承して次の神を立てるという事です」

「まて、それは」

「そうです! これが二つ目! それを王牙さんが行って王牙さんが次の神になるのです!」

「それを俺が了承すると?」

「それが一番望ましいですが王牙さんが推す存在なら代役を立ててもらっても可能です。とにかく新しい神を立てる必要があります」

「人間では駄目なのか?」

「キャパシティーが足りません。何より信用できません。ここまで人類の繁栄を行ったのに彼らは一つになれませんでした。人間に神は不可能です。それこそ楽園の守護者も同意見でしょう。彼らも王牙さんを見出したのですから」

 こいつらはどれだけ俺に期待しているんだ。そんなに俺は神に向いているのか。俺自身がそうは思えん。

「信用というならばシノか。シノだけがリブラ、お前のその向こうの存在を神と断じていた」

「シノ・・・さんですか」

 珍しく歯切れが悪いな。やはり何かあるのか。

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