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第七十三章 聖王都奪還戦⑥ 星渡(ほしわたり)

 取り決めをしたのは良いがやはり視線となると避けようがないな。俺は阿修羅ゴリラに取り付きながら隙を窺っているが中々顔面に入れられない。阿修羅ゴリラが移動用に使っていた下の腕もこちらを狙ってきている。

 阿修羅ゴリラの足は止まった。下の腕もボロボロで殴りは出来ても掴みは出来ない。右側の腕は腕が上がってないな。右側の加護ジェネレータはだいぶ弱っているのだろう。

 それは一瞬の事だった。弱っていたと思った阿修羅ゴリラの右上部の腕が巨大サーベルを捨てアリエスを掴んだ。魔素回復の胞子を撒いていたアリエスは無防備だったが、アリエスの目がこちらを捉えている。これはわざと誘ったな。

 こいつは俺を顎で以下略。それを狙うように阿修羅ゴリラの左顔のアリエスを見つめる瞳が輝きだす。俺はその放たれた加護ビームを遮るようにタウラスグレートソードを刺し入れるとそのまま左顔の両目を叩き切る。返す刀でアリエスを掴んだ右上腕に叩きつけた。既に右上腕は弱っていたのだろう。肘から先が千切れて落ちる。とはいってもこちらも繋がってはいない球体関節だな。


「無理をし過ぎだ」

 俺はアリエスを掴んだまま一時戦線を離脱する。

「いいえ。私はわが父とわが夫を信じていました。二人なら必ずできると」

 その信用の眼差しでかつての聖女アリエスの従者たちの気持ちがわかる。

 お前が突っ込むな! と。これだけは奴らに同情だな。結果論は問題ないがこちらの限界を試してくる。余程の信頼が築けていないと信用を失う奴だな。ヤレヤレ結果的には結果は出ているが危ういな。

「そういう問題ではないのだがな」

「わかっています。それでも信じたかった。王牙様。タウラス。きっと二人なら応えてくれる。私の思いを受け止めてくれる。そう信じる心を信じさせて欲しかったのです」

 それはわからんでもないがそれを肯定は出来んな。

「そこまで言われては返す言葉がないなタウラス」

「全くだ僕たちだから出来たことだ。それでも自分の身を危険にしていい理由にはならないよアリエス」

「同感だ。自ら死に行く物は救えない。その戦いには驕りが見える。お前は自分の身をコインにして賭けをしたんだ。これからは慎め」

 そして俺は息をつく。

「結果ではない、アリエス。自分の死を賭けた戦い方はいずれ自分だけではなく仲間をも殺す。憶えておけ」

「はい。わかりました。・・・でも、そうですね。今気づきました。私は、私を否定して欲しかったのかもしれません。それが間違いであると」

 アリエスは意外にも晴れやかな顔をしていた。

「戦い方は間違っていない。正直助かった。だが」

「はい。自分の身を捧げるような戦いはしません」

「ああ。勝てなければ逃げる。それが魔物の戦い方だ。人間を捨てたのだ。人間の戦い方を続ける道理もないだろう」

「はい。私は魔女アリエス。身も心も魔物に堕ちました」

 ようやく安心できる顔になったな。


「お前たちは過保護だな」

 この言葉はシノだ。俺達は再度阿修羅ゴリラに向かう。タウラスは黒猫で俺の盾の中だ。アリエスは随伴している。もう先のような行動はないだろう。

 俺は聖剣と盾の鎧を顕現している。加護ビーム対策だ。この状態では竜翼が使えず盾に魔素を充填してブーストだ。シノには魔法攻撃を優先してもらっている。

「アリエスは過保護にして丁度いいだろう。力と精神のバランスが危うすぎる」

「そうだね。そこがアリエスの魅力なんだけど。絶大な力を持ちながらまるで幼子のような心が同居して、まさに僕の天使だ」

「そこまで過保護で惚気られるのなら何も言うまい」

「散々手間をかけさせられたがあれが新しい魔物の姿なのかもしれないな。新型の新しい世代。俺のような旧式は型遅れの骨董品だ」

 今ならレオーネの気持ちがわかるな。聖女タイプとして転生し戦ってきたが、その新型とのあまりの性能差に自身への失望と新型への嫉妬が混じっていたのだろう。これはレオと合体しているからではないな。純粋に俺の思いだろう。奇しくもレオーネと重なっただけだ。

「新型と言ってもアリエスだけだろう。あのような元聖女が次々と来ると思っているのか? 来るかもしれない未来に怯えるな。今の主力は私達だ。そんなことはアレを瞬殺できるようになった後にでも考えろ」

 それもそうだ。

「わが父。私を投げてくれませんか?」

 アリエスの声で前を見ると魔物が苦戦しているな。阿修羅ゴリラの上の腕が落ちて四足歩行だが正面顔の加護ビームが機能しているのか。

「背中でいいのか?」

「はい。やはりあの怪物は距離を取ると逆に危険でしょうから」

 俺は了承と返すと魔素ブーストで高度を上げる。アリエスを左腕側に放り投げるとアリエスが阿修羅ゴリラの体を遮蔽にしてそこで魔素回復の胞子を放つ。それに気を取られた阿修羅ゴリラの左顔を俺が聖剣でぶった切る。素直に正面に回るよりも潰れた左顔から叩き潰したほうが安全だな。阿修羅ゴリラは潰れた左手に、上がらない右腕で俺に対処できない。

 となると次は阿修羅ゴリラの連続ジャンプが始まる。完全にロデオだ。流石に俺もこれには近づけない。しかも竜翼ではなく盾鎧状態のブーストは直線的で対阿修羅ゴリラには向いていない。だが、

 振り返った阿修羅ゴリラの正面顔加護ビームを食らうがビクともしない。この装備は正解だな。

「王牙。髑髏部隊が槍の詠唱が始まった。このまま耐えるぞ」

 槍? ああ、あの時の聖王都戦で最初に使っていたやつか。動きがここまで鈍っていれば当てられるか。

「止めを譲ってもいいのか?」

「当然だ。所詮私は単騎の髑髏だ。百体以上の髑髏の協力魔法には敵わん」

 そういうものか。

「正直シノ一人で髑髏部隊とタメを張れると思っていた」

「私は一人で十体分の力があって魔法の扱いに長けただけだ。魔法の種類は多いかもしれんがそれだけだ。あの魔王城を破壊した魔法もただの工夫だ。固定目標以外には火力はでない。少しずれれば爆風のみの派手なだけの魔法だ」

 いや、あの爆発が余波だったのか。本来の直撃は俺には想像もできないな。

 阿修羅ゴリラは完全に我を忘れているな。俺が降りたことでジャンプはしなくなったがその加護ビームが俺を狙い続けている。手足は地面を叩きつけているが下に居る魔物を狙ってはいないだろう。正気ではないな。

 俺はマントを操作するとマントマニューバで奴の前に躍り出る。奴が俺を追いに体を前進させたのを見ると俺はそのまま飛んできた髑髏部隊の槍を掠めてそれを盾にする。阿修羅ゴリラが両手で槍を止めようとするがその手が歪み捻じれていく。そしてそのまま顔にまで槍が前進すると音を立てて無貌のゴリラへと変化していった。

 相変わらずその下が地獄絵図だな。直撃部分を見れば可愛いものだが。

 ようやくこれで終わりか。あまりにも長い戦いだったな。

 ・・・だったな。

 槍が消えた後に残ったのは顔と胴が失われた阿修羅ゴリラ、無貌のゴリラだった。腕の加護ジェネレーターはまだ無事だ。曲がった腕で直立する。

 おいおいおい。これはまさかのネームドタイムじゃないだろうな。というか何処に人が乗っているんだ?

 俺が撤退準備を始めようとした時だ。阿修羅ゴリラの上半身が落ち、その下半身だけで立ち上がる。あの貧弱な下半身だ。あそこがコクピットか。尻尾のような丸みが上に上がると辺りを見回すように動く。あれがカメラか。だがそれが落ちた。

 狙撃オーガだ。いつもよりも重い銃声が阿修羅ゴリラ下半身のカメラを吹き飛ばす。

 俺はそれに回り込むと聖剣で殴って誘導する。その場所とは神殿跡の登頂だ。

 案の定ドカーンという盛大な土煙を吹いてその高台は消失した。その爆心地には蹲る下半身。

 流石にもう終わりか。そろそろ合体も限界だ。一度解除する必要があるな。


 俺はレオで鹵獲した魔素人形を操作しながら魔素ジェネレーターで魔素の補給をしていた。

 その手には黒猫になったタウラス。約束通りこの時間をタウラスに当てている。3、4m級のオーガの手で30cmもない猫を撫でるが、魔素のコントロールが役立っている。爪ではなく指の腹でなぞるように撫でていく。感覚的には大きな枕で撫でる感じだ。

「王牙。君は僕に首ったけじゃないか。もっと早くこの姿になっておくべきだったよ」

「俺も意外だったな。この繊細な動きでお前の物理無効の毛皮を撫でるのは癖になりそうだ」

「フフフ。王牙が僕だけを見つめて、僕だけのことを考えて、僕に夢中になってるのは悪くない。この時間のためならあの苦労も報われるよ」

「ああ。助かった。傷はもういいのか?」

「勿論さ。回復は早い方だからね。加護レーザーの照射みたいなのは苦手というだけさ。施された武器との打ち合いは問題なかったからね」

「なるほどな。宇宙での光よりも強烈なのか?」

「そうだね。なんというか全く異質なものなんだ加護の光は。それ自体が意志があるような感じかな。無機質な光線じゃない。光そのものが生き物のような感じかな」

 ほう。それは新しい視点だな。神の加護に意志か。

「君も宇宙に興味があるのかい? 星を渡る感覚は君となら分かち合えそうだ。魔物なら宇宙にも適応できるだろう?」

「確かに魔物は宇宙空間に最適だな。生命維持は必要ない。魅力的な提案だが、それは断っておく。一時的にしても俺が星に誘われてしまいそうだ」

「やっぱり君は僕が思っていた通りだ。君となら星の海をいつまでも渡り続けられると思う。これはアリエスでも無理だからね」

「確かにな。無限に続く星の海を愉しむのは俺達でないと無理だろう」

「君は・・・。本当に星渡だったのかもしれないよ。異世界なんて本当にあるのかどうか。世界を改変する力と同時に変なものでも植え付けられたんじゃないかな?」

「どうだろうな。俺の知る異世界は本当に俺が体験してきたかと問われればそうだと答えたい所だが、確証はない。俺も星から落ちてきて改造されたのかもしれないな。魔物は元宇宙人だ」

「だとしたら僕も同郷だね。僕はたまたまその改造から逃れた同族だ。それにしてもあの戦いで世界の改変は使えなかったのかい?」

「世界の改変は厄介だ。この前のお前との喧嘩で作った改変した黒曜石の剣だがな。あれも解体できずにムリエルに封印してもらったからな」

「なんだい。とんだ産業廃棄物排出能力じゃないか。おいそれと使いたくないのもわかるよ」

「極めればそんなことはないのだろうが、その前に世界が変調を起こす。相手が使ってきた時以外は封印だな」

「思ったよりも万能じゃないんだね。この世界を犠牲にしてまで欲しいとは思わなくなってきたよ」

「そうなのか?」

「そうだよ。きっと僕たちには繋がりが必要なんだ。僕にはアリエス。君にはシノ。それが無いと僕たちは何処かへ飛んで行ってしまう。その繋がりがある世界を僕は愛することが出来た。だから世界の改変よりも優先すべきはこの世界の維持さ」

 なるほどな。

「でも、もしもこの世界が無くなってしまったら、その時は僕と君で星の海を渡ろう。約束だ」

「ああ。だがその前に」

「「繋がりのあるこの世界を守る」」

「君と僕なら余裕さ」

「そうだな。だがその約束はシノともしている。それは構わんな?」

「王牙。君ってやつは。そういう話をしているんじゃない。星渡の旅に普通の人間が耐えられるわけないだろう。繋がりが生きているならその世界で暮らすんだ。連れ出すのは星渡としてのマナー違反だ。憶えておいてくれ」

「心得た」

「この分だと世界の終焉が来るのは遠そうだね。そこは気長に待つよ。星が終わりを迎える時間なんてあっという間さ」

 こうしてみるとこいつこそが神なのではと疑いたくなるが、そうだとしてもまた別の神が増えただけだろうな。

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