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第七章 聖王都攻略戦② 城壁内

 そのバリアに振れた時の感触は痺れだった。魔素の消滅。それは皮膚が爛れるのではなく魔素が肉から抜けていく感覚だ。だがそれもすぐに緩和された。シノが魔素のMP部分で俺達を覆っている。だが思っていたような衝撃などは無い。

 このバリアは障壁では無いな。魔素を霧散させる、言わば魔素キャンセラーだ。このエリア内の魔素を少しづつ消していく感じだな。髑髏部隊の魔法が消えていたのも頷ける。壁に魔物を近づけたくなかった理由がこれか。

 シノが放っていた魔素が消えてもそれほどの脅威は感じない。HPの減る毒の沼地と考えればいいだろう。どの道良い状況では無いが即死という感じでは無い様だ。

 俺もシノを真似てMP部分の魔素を放出する。オーガにとってなけなしの部分だが、HPの肩代わりと思えば十二分に有用だろう。

「上手くいったな。ここの神は魔物を地獄に送るのが仕事だろうからな」

「神が私達の願いなど叶えるものか」

 軽く軽口を叩くと疎通で同族に現状を知らせる。だが通じたのは半数ぐらいか。やられたのではなく疎通が魔素キャンセラーで届いてない。順々に浸透はしているようだ。

 しかしどうしたものか。城壁内は城下町で石造りと木造が混在している。俺が投げ込んだ石棍棒も健在でこれを使えば取り合えずの武器はどうにかなるな。人間はほぼいない。石棍棒で崩れた家屋も人の気配は無い様だ。

 となれば目指すは神殿。魔素キャンセラーがありそうな場所か。

 ん? 地鳴り? 何かが動いている。

 地面の揺れを感じて辺りを見渡すと城壁に何かがせりあがって来る。

 あれはボウガンか?

 凄くデカい。人力で撃てる様なサイズでは無いな。それがグリンとこちらを向いた。その瞬間、槍が発射された。間一髪で避けるものの、その命中精度に驚きを隠せない。槍と言うか矢なのだろうがサイズがデカい。それもこれは施されたヤツだ。直撃したら即死もあり得るだろう。しかも一つじゃない。そこかしこに現れて自動砲台の体を為してる。幸い後ろ、外側の城壁には無い様だ。神殿を守るように扇状に設置されている。シノがいつものマーキングをした所総数は二十基くらい。こちらを狙えるのが五基といった所か。そのマーキングもすぐにかき消されてしまう。やはり魔法は長時間持たないか。

 その間も常に射撃は続いている。ここにきて随分な振舞いだ。施された槍の連発など気前が良すぎる。しかもこいつは…。その軌道を見て俺は足を止める。目の間に突き刺さる槍。偏差撃ちではないだろうな。機動を変更する何かの仕掛けがあるのだろう。だが一つだけ朗報がある。これの刺さった地面だ。この煉瓦は施されて大地の支配が通らないが、その下は地面だ。下水などがあれば無理だと思っていたが、武器の補充は可能そうだな。

 これなら一つ試してみるか。

 俺は槍で耕された地面に石の棒を突き入れると支配を伸ばしていく。そう。この世界には火薬がある。この棒の先に火薬を擦り付ければ着弾と同時にドカーンというわけだ。だが一つ間違えば投げる前に自爆だな。良い感じの塩梅で抜く。

 これをそーっと手首のスナップだけで優しく投げる。近くのボウガンを狙ったものだったがそれが丁度槍と当って爆発した。

 ボフーンと言うなんとも微妙な音が響いたがそこには滞留する白煙が残っていた。

 これは使える。

 俺の中に確信がある。露出した大地から短い石の棒と白煙薬を作り出す。あのボウガンは目視だ。撃つ時に軌道を設定している。だったらコイツの出番だな。左手のスナップで優しく投げた白煙棒を右手の石で撃ち落とす。これで煙幕の完成だな。

「器用な物だ」

 俺に同行していたたシノが呟く。

「どうする近くの弓を潰すか?」

 俺が頷くとシノがボウガンの周りをマーキングする。

 人が居るのか。自動砲台ではないんだな。

 魔法を発動させるとボウガンの動きが止まる。俺は他から援護が来ないように煙幕で覆うと肉薄する。この頑丈なボウガンを石の棒で壊せるとも思えない。狙うとしたら弦。それも生半可な爪ではなく牙。これは痛い。絶対に痛い。痛みが感じられなくても間違いなく痛い。それでも俺は弦に牙を立てた。

 耳をつんざく轟音と耳障りな残響を残して弦が切れた。その反り返ったボウガンを見れば当分は使い物にならないだろう。俺達が次に狙いを覚めようとした瞬間、全てのボウガンがこちらを向いた。


 そこからの事は憶えてない。無我夢中で走り、死角を探し、射線を切り、安全地帯と思われたその建物は・・・、遮蔽物ではなく誘い込まれた罠だった。その建物を背に一息ついた瞬間に俺の中の警報が大音量で鳴り響く。

 この背にしている建物は本当に遮蔽物なのか?

 その予想通り全てのボウガンの槍がその建物ごと俺達を貫く軌道に乗った。

 俺はそこに誘い込むための槍の連打で耕されていた大地に、ありったけの大地の支配を叩き込んで大穴を開け今に至る。

 完全に死角にはなっているがここから出られそうにない。下水の一部も巻き込んだようで汚水が流れているがオーガが通れるような通路では無いな。

 それよりも問題はシノの容態だ。俺は何とか間に合ったがシノは両足の先を持っていかれている。髑髏の体力ではカスっただけでも致命傷になるのだろう。気丈にふるまってはいるがダメージが大きいのは見て取れる。すぐにでも城外に連れ出すべきだろう。

 だが出られない。俺は苛立ち紛れにそこらの地面を掘り進めていた。

 それが表れたのは偶然だった。地下室だ。そこでは人間が欲望のままに魔物を虐げている光景が広がっていた。人間の視点で言えばだ。魔物の視点で見れば外見は傷ついて見えるものの魔素は健在で寧ろ凝縮されている。地下とはいえこの魔素キャンセラー下でこれは異常だ。繋がれている鎖も施されたものではない。魔物に何の効果ももたらさないだろう。拘束されているのか疑わしいぐらいだ。それでも俺は彼女、多分サキュバスの拘束を解いた。

 サキュバスは優雅に一礼すると何かの言葉を口にした。すると突然恐れおののいていた人間達が白目をむき絶命して魔素を吐き出し始める。これは簡易魔素ジェネレーターか。それも人間を十分に熟成させた濃度の濃いものだ。彼女はそれを救い上げると一塊のさらに熟成させた魔素の塊を差し出してきた。

 魔素に違いは無い。寧ろ上質なのだが、人間産の更に濃い魔素か。

 俺はそれを受け取ると口に含んで飲み込んだ。決して悪くないがそこに転がってる奴から搾り取ったものだと思うとあまり気分の良い物ではない。

 彼女はそれを見届けると一際高い声を上げる。それを合図に各所で魔素が溢れてくるのを感じた。

 これは偶然ではないのか。彼女たちは事前に潜伏して簡易魔素ジェネレーターの準備をしていたんだな。作戦のさの字もない作戦だと思っていたが事前の準備は進められていたようだ。

 彼女を見送ったあと簡易魔素ジェネレーターの傍にシノを置いて漸く一息つくことが出来た。今一番安全なのはここだろうからな。一番槍の手柄は無いがそれに見合う貢献はしているだろう。シノの容態を見て一度下がるべきだな。


Tips

簡易魔素ジェネレーター

設置しても一時的にしか持たない魔素ジェネレーター。永続は出来ない。

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