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第六十六章 姫騎士

「ズバリ! あーしの魔物要塞のコンセプトは壁のない要塞よ!」

 どこからか出した黒板のようなものを前に教鞭を振るうパルテ。そこには手の空いた魔物連中が集っている。

「あーしの魔王城の弱点はなに? はい王牙っち!」

「密閉された空間という事か?」

「そう! 次元の壁でさえシノっちの魔法の前には崩れたの! そしてもう一つの弱点をあげると、そこのゴブリンっち!」

「ええ俺かよぉ、入り口が一つしかないって事か?」

「そう! どんなに巨大で次元の壁に囲まれていても入り口が一つだと封鎖されて封印されてしまうの!」

「まて、あれは誰に封印されていたんだ?」

「いい質問ね王牙っち。それは人間。油断してたら入口兼出口の魔王城を次元の彼方に飛ばされてでられなくなったの!」

 そのままだな。

「ではどうすればいいか! シノっち。シノっちの魔法はこの国全土を吹き飛ばせる?」

「無理だな。それほどの広範囲は無理だ」

「そう。これが答え。篭るのではなく広大にするの。壁を作って篭っても、それが次元の壁であっても万全ではないの。あーし達はこの広大な大地全てを要塞にするのよ!」

 ふむ。

「もしここが攻撃されたらすぐに次の場所へ移動するの。常に移動し続けて人間の主力を集中させない。攻撃目標を作らせないのが目的ね。人間がこの魔物領域全土を同時攻撃しなければならないとしたら攻めてくるはずないでしょう?」

「それは理にかなっているな。人間の戦争部隊は必ず勝つ戦いを挑んでくる。不確実な攻勢作戦を実行するとは思えない」

「王牙っち・・・。もしかして王牙っちって筋肉に脳があるの?」

 いや、俺達魔物はそうだろう。そういう意味ではないのだろうが。

「お前も流石は元魔王だな。侮っていた」

「もう、あーしは魔王の器じゃないよ。王牙っちはどう?」

「俺は王の器と言うよりもその器を破壊する方だな。王に向くとは思えんだろう」

 賛同の声が多いな。そうとも俺が王になった姿など俺にも想像も出来ん。

「じゃあシノっちは? 一番向いてそうだけど」

「確かにシノは向いていそうだ。魔物の王であり髑髏の王であるならば俺はその牙。髑髏の王の牙で王牙だな」

「そのフレーズは確かに悪くないがそもそも魔物に王など要るのか?」

「甘ーい! と言いたい所だけどそれはもういるか。魔物なら現場に指揮官はいらないしね」

「そうだな。それに俺達の目的は、特に俺とシノの目的は神への反逆だ。人間との戦闘はその副産物にすぎん。目的の順序がある。まず第一に神へ反逆だ。それを忘れて魔王ごっこは本末転倒だ。この魔物の地を守ることは賛成で協力もするが、第一目的ではないと憶えておいてくれ」

「オッケー。そうね。国を建てるんじゃんないんだからこれぐらいでいいんだ。あーしも協力してくれる魔物見繕ってぱぱっと取り掛かろうかな」

「俺達に何かあるか?」

「ううん。ないよ。王牙っちたちは今まで通り前線で暴れていて。あーしはさっき言った通り協力してくれそうな魔物を誘ってみるよ」

「わかった。お前の作る要塞は正直俺も楽しみだ。戦力が必要なら何時でも言ってくれ」

「わかってるじゃん。でもね王牙っち」

 パルテは一呼吸置くと厳かに言った。

「人間との全面戦争は必ず来るよ」


 俺は眠ったレオを操って俺の体と夜の散歩に出ていた。パルテの言った通り使える竜翼が12枚になっている。6枚で脚部、2枚でレオの固定。残り四枚はフリー枠だ。攻撃にも防御にもアンカーにも使える。

 しかしレオの状態は今のところ不明としか言い様がない。特殊な体に作り替えられたが魔王の心臓で血液が流れ人間のようにもなっている。この眠りもそうだ。作り替えられた体は魔物ではない魔物の様な非生物的な存在だった。だが実際はそうでなく食事も睡眠も必要だ。

 精神のほうも寝ているときは問題ないが起きているときはノイズのような、完全に把握できてない感じを受ける。力の方も不安定だ。修理された魔王の心臓で魔素も扱え、神の加護も使える。ただ神の手先のような馬鹿げた出力の加護はない。そして黒皇女のような瞬時に回復する加護も使えない。いうなれば魔法の使えない魔法使いタイプの人間だな。単純に前の状態から魔素量が増大しただけだ。マイナス分は何もない。

 ただどう扱っていいか。俺の端末の一つという感じでは使えるが、戦闘で同時運用するほどのものではない。もうレオの役目は終わったと見てもいい。このまま眠らせるのも選択の一つだろう。

 レオが目を覚ますな。またノイズが酷くなる。これはなんだ? 俺の内から出てきている。俺のインナースペースから何かが呼びかけているのか?

 レオの体で俺のインナースペースを解放する。そこから何かが出てくると俺の意識は俺の体に戻った。


「レオ。お前なのか?」

「ええ。そうよ。消滅を避けるためにあなたの中に潜らせてもらったけど迷惑だったかしら?」

「正直消えたのかと思ったぞ。お前の体を処分するか迷っていた所だ」

「心臓を失った所に神の手先が降りて来て逃げようと思ったら何故か魔王を助けて感度地獄よ。流石の私でも限界。あなたの中に逃げ込むのが遅れていたらそうなっていたでしょうね。気付かなかったの?」

「ああ。こちらの体ではお前が中に入るのは感じられなかった。妙な所に弱点が出来たな」

「それはレオの半分はあなただもの。自分が出入りして気付くはずがないわ」

「それで聞いてもいいのか?」

「ええ。私は旧式の聖女。新型聖女のアリエスが無から作り出されたのに対して、旧式の私は人間の魂を媒介に作られたわ。言わばもう使い古しね。こんな辺境に居るのがいい証拠」

「ここは辺境なのか?」

「辺境の僻地でしょう。あなた達魔物は結界にすら辿り着いていない。正直こんなど田舎で人間の可能性は片腹痛かったわね」

「そこまでか」

「ええ。中央は聖女タイプが普通にいるもの。アリエスほどの規格外の新型は流石にまだ居ないけど。それでも黒皇女レベルは普通に居ると考えていいわ。ただ神の手先は旧型の私には荷が重いわね。使える確率は半々くらい。まさか聖女以外が降ろしてくるとは思わなかった。シノにとっては助けるというよりも実験だったのでしょうけどね」

「まだそれほど戦力差があるのか」

「ええ。ただあなたの目的は神への反逆でしょう? それは人間との全面戦争とは無縁かもしれない。正直な話、神への反逆よりも人間の殲滅の方が遠い目標よ。あなたの言う通り目標の選別は考えた方がいいわね」

 なるほどな。

「もう自立は出来るのか?」

「まだ無理ね。あなたの介在がないとまともに動けない。この体はインナースペースで改良していかないと崩壊して死んでしまう。そこは期待してもいいのかしら?」

「ああ。お前の意志が残っているなら協力しよう。俺が同期しても問題ないな?」

「ええ。その上で全てを貴方に開示できるわ。私の全て。知ってみる?」

「遠慮しておこう。お前の目的は神への反逆ではないのか?」

「その通り。ここで私を辱めてでも情報を得ようとするなら見込みがないでしょう? あなたにはただの悪戯目的だけど」

「それが分かっただけでもいい。また一つに戻るが何かあるか?」

「そうね。私を呼ぶときはレオーネで。それとヌルヌル触手プレイをリクエストしてもいいかしら?」

 ?

「私の体のメンテナンス。感度を高めて全身を刺激しないと施された肉体と魔王の心臓が同期できないでしょう? 今のうちに慣れておいて」

 ああ。そういうことか。いやまて。

「触手は必要ないだろう」

「リクエスト。いつもは魔王の心臓の暴走だったけど、普通に感度高めの触手プレイを楽しみたいの」

 おい。まさか。

「ええ。その通り。私は旧式で人の魂を媒介にして作られた。あなたの望んだTS美少女姫騎士レオーネよ♡ 存分に堪能して♡ ヌルヌル触手プレイのオーガ様♡」

 ・・・リンキン。やっぱりヌルヌル触手プレイはTS美少女にしか需要がないぞ。

「俺はそういう趣味はないんだが」

「安心して♡ 私も愛してるのは触手だけだから♡ ただ、女の子たちには内緒にして欲しいナ♡」

 そんなこと俺も言いたくないぞ。

 メンテナンスとインナースペースでの改良はしなければレオと体が崩壊するのは本当だが、気が進まないな。

 パルテ。お前の言う王子様は実在したぞ。良かったな。それを知って喜ぶとは思えないが。

 ヤレヤレ。とんだ貧乏くじだ。


 その後レオは安定して黒皇女の加護と竜翼を同時に使えるようになった。右半身で施された武器。左半身で魔剣と竜翼。光と闇が合わさり最強になる魔物に堕ちた姫騎士レオが誕生した。

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