第六十五章 魔王
「それは人間じゃない! すぐに殺して!」
この一声はリンセスのものだ。完全に臨戦態勢。
俺達は古城に辿り着き、出迎えたリンセスの反応がこれだ。
「わからないの!? それは敵よ! お願い信じてリンキン!」
俺とリンキンが、いやレオとリンキンが目を合わすと俺はレオの制御を手放す。その瞬間、魔王の心臓が飛び出した。心臓を失ったレオが崩れ落ちる。
「あああー! やっと出られた! ご明察~。やっとその聖女からでられた。筋肉だるまの王牙っち。ご苦労様~。お礼に殺してあげるね」
その心臓から体が作り出され八翼が現れる。すぐに応戦するがこちらの動きが読まれているようで前回のようにいかない。
「アンタの手の内はわかってるのよ筋肉だるまの臭いオジサン!」
マズイな。剣筋が読まれている。それを八翼で対処されるのは流石にキツイ。
そこでシノの魔法が来るが、これはなんだ? シノが跪いて祈りのポーズだ。
神の手先。文字通りの神の手先が空から落ちてくる。それは心臓をえぐられて倒れているレオの元へだ。俺が意識でレオを探ると体が作り替えられているのがわかる。あれはただの強化パーツではなかったのか。心臓がないまま何かに作り替えられて、いや、だが、意識がない。聖女の魂はここにはないのか?
「へぇ、面白いことしてくれんじゃん。だったらこっちも奥の手を出さないとね!」
八翼が下がって自分の胸に手を置く。感度を高める魔王の心臓か。あの八翼が更に鋭くなったら手が付けられないぞ。
止めるのは無理と判断してヘイトの外れた俺はレオに意識を戻す。作り替えられた体と神の手先がウェイト状態で俺にも使える状態だ。こちらを主で戦う方が有利か。俺が八翼に目を向けると八翼が悶えていた。
「なにこれ。ナニコレ! 壊れてるじゃない! なんでこんなの! アンタは普通に使っていたじゃない!」
ああ。やはり壊れていたのか。あれは戦えるような状態ではなかったものな。
「ヤダ! 痛い! 痛いよぉ! た、助けて! 助けなさいよぉ!」
ええぇ。これから八翼の真の力のはずが、えええ。
「ヤダ! やだ、いあやだ、いああだ・・・」
そして八翼は絶命した。
えええ。レオの神の手先も残ってるんじゃが。ええー。
だが八翼は復活した。
「助けて。助けて。助けて。助けて助けて」
そしてまた絶命する。
これはアレか。噂に聞くざまぁ展開の無限に苦しむやつか。
えええ。この先の真の魔王戦は? どうするんだこれは。
その打開策はレオが打ち出した。心臓のない体で魔王の心臓をもう一度取り込む気だ。しかも神の力を使って。いや、俺が動かしているんだがその意思が俺ではないような感覚だ。
レオが魔王の心臓を取り込むと案の定感度に苦しみだした。俺は駆け寄って対処しようとするが、駄目だ。俺の操作では感じ方がわからず逆に危険だ。レオの側で俺の操作をして少しづつ鎮めていく。
「なんで。なんで。そんなに。あなたが私の、運命の人・・・」
心臓を失った八翼がこちらを見つめている。その体が死んだときに次の復活はどう出るか。レオは動かせないが、こちらも助かるか微妙なラインだ。
遂に八翼が絶命したが復活の兆しがない。そこに中型の女性型オーガが現れた。2メートル級だが角と赤みがかった肌はオーガのものだろう。こちらにザンバらに着崩した着物姿の裾をはだけながら駆け寄ってくる。その背中に爪のようなものがありそれが飛び出すと俺とレオを囲んで防御態勢。これは八翼で見た使い方だが。
「絶対助ける信じて」
その女性型オーガが指先から魔素体の触手を伸ばすとレオの容体が収まってくる。まるで意味が分からないがとりあえず先の言葉に嘘はないようだ。そしてレオの容体が安定してきた。
「助かった」
「いいの。いいの。それはあーしが作ったもんだしね」
ん?
「王牙っちの注文通り最低枚数四枚にしておいたよ翼。今のレオっちなら十二枚は行けると思うな」
んん?
「感度は7000倍で上限にしておいたよ。レオっちなら余裕でしょ。意識を切らずにオフにできるから試してみてね」
んんん?
「でもよかった。筋肉だるまじゃない理想の王牙っちがここに居たじゃない。レオっち、愛してる。私の王子様♡」
これは、
「で、お前は誰だ?」
「元魔王の女型オーガっしょ。こっちにつくからよろしくね!」
「あーしの魔王城はアンタ達が壊しちゃったからここに魔物の要塞建てようって思ってるんだよねー」
結局コイツの待遇は保留になった。完全に魔物で敵意はない。八翼の方は掻き消えてしまった。
「ここにはさ。アレ、があるよね」
アレ?
「とぼけなくてもいいよ。あーしはかつての所持者だから。アレと、一緒だった。ま、あーしが裏切っちゃったんだけどねー」
明るく振舞ってはいるが無理が見えるな。
「もう一度一緒になってくれるかな。あーしは神の口車に乗っちゃったから」
「神に下ると特典があるのか?」
「それは、言えない。王牙っちは神に挑むんでしょ? なら理由はいらないよね?」
「ああ。しかしいいのか?」
「うん。問題ないよ。あーしはもう神につく気はないから。魔王城も壊れちゃったしねー。もうあの時吹っ切れちゃってたんだ」
「しかしその姿は異世界転生者か?」
「そうだよ。あーしはここにきてモノづくりにはまったんだ。魔王城はその集大成だったんだけど無くなっちゃったしね」
「魔王種は味方に付くのか?」
「それはない。あの子たちは、あーしも含めて神の意向なんて気にしてないから。好きな事好きなようにしているだけ。あーしが敵に回ったら躊躇なく殺しに来るかんね。あーしももう作っちゃった子には興味ないしね」
「魔王種もお前が作ったのか?」
「そうだよ。力を求める子は大勢いたからあーしがね。ここの子たちもあーしが改造すれば魔王種みたいになれるよ。ただ元には戻せないから慎重にね。肩から腕と翼は同時に生やせないっしょ?」
「なるほどな。それにしても世界の改変は使わないのか?」
「そんなの王牙っちも気付いてるでしょ。あんなの使ったら世界が壊れちゃうっしょ。あーしの技術はそんなの入れてないの。ただ、あー! 転生して技術がだいぶ零れてる。また一からやり直し! ま、それも込みでの転生だけどね!」
そうか。だいぶ俺の想像する魔王とは違うな。完全に技術系か。道理で強くないわけだ。そして俺達が辿り着いたのは古城の炉だ。鍛冶オーガ達が居る場所だ。
「ねぇ。王牙っち。私に名前を付けてくれない? そっちの筋肉だるまじゃなくてレオの方で」
注文の多いやつだ。一応俺と会話しているがあまり俺と目を合わせない。そんなにオーガの姿が気に入らないのか。
「そうね。なら六番目。乙女という意味のパルテノスはどう? パルテノスでパルテ」
「気に入った! これからあーしは女型オーガのパルテ! はぁ、うん、うん! あーしはパルテ! 生まれかわった!」
そしてパルテは炉に向かう。
「ともに楽園を」
聞きなれたフレーズだ。そうかパルテは異世界転生でも世界の改変を否定している。繋がりがあってもおかしくないが、この炉が楽園の守護者か。武具だけではないんだな。いつぞやの狙撃オーガもこの炉との繋がりがあったのか。
「ありがとう」
どうやら終わったようだな。その目から涙が零れている。無理していたのはこれか。
そして急に駆けだした。忙しいやつだ次はなんだ。
「シノ! あーしだよ! 憶えてるよね!」
次はシノか。ここにも何かがあるとは思っていたが。
「お前は・・・」
「今はパルテ。シノ。また会えた。あーし、御免ね。裏切っちゃって。でももう離さない。これからずっと一緒だよ」
パルテがシノを抱きしめる。
「私は憶えてない。パルテ、私は憶えてない。それに今はもう愛するパートナーがいる」
「どうして。なんでこんな筋肉だるま! やっぱり男が良かったの!? いまからでもやりなおそ? あーしはシノの為にここに要塞を建てるんだ。シノに吹き飛ばされたようなのじゃなくてもっと凄いやつ!」
シノはパルテを突き離した。
「私はシノだ。お前はパルテだ。私のパートナーは決まっている。お前は、お前のパートナーを見つけてくれ」
「・・・シノは幸せ?」
「いいや不幸だ。だが満足している。この指輪が私を離さないからな」
シノは左手の俺の呪いが篭った指輪の旗折り(フラグブレイカー)を見せる。
「これは・・・。アンタ! この筋肉だるまの加齢臭! シノになんてもの、やっぱりここで殺してやる!」
「まて。これは私の命も救ってくれた。不器用な筋肉だるまの愛の形だ。私は気にっている」
それは俺でもまた恋に落ちそうな素晴らしい笑顔だった。
「あーしはとんでもないものを手放してしまったんだね。うん。それならいっか! またシノと会えた! あーしはそれで十分!」
忙しい上に切り替えの早いやつだ。
「そっか。じゃあ、シノの知り合いを集めて! これからあーしの魔物要塞の概要をプレゼンするから!」
まだ何かするつもりか。
ヤレヤレ。俺の出番が全くないがそれはどうだ?




