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第六十三章 真・TS美少女

 私はレオに戻ってアリエスと模擬戦をしている。私のいないレオはあまりにも弱くて私はその戦い方を模索中だ。

 人型のアリエスがトゲ棍棒二刀流で襲ってくる。早いけどだいぶ手加減してるわね。そのくらいにこの体は遅い。加護を使わないと本当に遅い。見た目は良いのだけれど健康的なだけで戦闘向きじゃない。限界を迎えればすぐにヘタレてしまうでしょうね。

 私は加護を展開する。アリエスのトゲ棍棒は魔物武器だが加護を抜くのではなく加護の減衰に特化している特殊な魔物武器だ。こんな全周囲に展開したふわふわ加護では一瞬で穴を開けられる。私は加護に収束を持たせてアリエスのトゲ棍棒をいなす。流石にアリエスも驚いたようだ。その隙をついて施されたレイピアを突き入れる。今の私は弱レオの戦い方の模索だ。いつものバスタードでは意味がない。アリエスの牽制を加護で無効化するとタウラスの鎧の隙間を抜いていく。堪らずアリエスがトゲ棍棒で防御に回るがそれは魔物武器だ。鈍器で硬さを増しているとは言え施されたレイピアに耐えきれるものではない。防御に使ったトゲ棍棒を集中攻撃しそれをいなそうとするもう一本を加護で封じる。傷だらけになったトゲ棍棒がアリエスの回復で復元するがやはり魔素の減衰は大きい。これは次で破壊できるわね。

 ここで滞留魔素が現れた。魔物の時は魔素のセンサーを封じられて致命的なデバフだったが人間ではどうも違う。魔素を感じる器官自体は封じられていない。いわば目隠しにはならない。その先のアリエスの魔素を感じられる。だがアリエスが滞留魔素を動かすとその状況は一変した。それ自体は問題ないが自身の周りで魔素が蠢いているだけで感覚がそちらに取られる。これは確かに無害とはいえ無視はできない。人間が混乱していたのはこれね。この状態で魔法を構築するのは体を撫でまわされながら詠唱するようなものだ。私は収束させていた加護を全周囲に放って滞留魔素を吹き飛ばす。そこを狙うようにアリエスの魔法の槍が飛んでくる。やっぱり魔素の感知は魔物に劣る。今の私ではカウンターマジックを使う事は出来ないだろう。魔法使いの才能と詠唱も必要になる。ワード理解値3のオーガでもカウンターマジックが出来たという事は魔物の魔素の適正は本当に高いのね。

 私は迫りくる魔法の槍をレイピアでなぞる。切るのではない。剣の面積で収束された魔素を消していく感じだ。魔法の槍に合わせたバックステップが終わるとなぞり終えた槍は消滅する。広域に展開した加護に対して収束した魔法の槍は効果的だけれど、施された武器の扱いに長けた人間に真正面から撃つのは得策ではないわね。シノなら死角から突いていたでしょう。以前のアリエスもそうしていたけどその余裕はなかったみたいね。

 いえ、今の隙で回復していたみたいね。トゲ棍棒の魔素が元に戻っている。アリエスの傷も塞がっている。決め手がないと言いたい所だけどアリエスはヒーラーでタンク。この立ち回りが正しい。

「レオ。本気を出してもいいですか?」

 私は頷くと武器をバスタードソードに替える。タウラスが鎧から巨大な槌へと変化する。破壊不可能な超重武器。それを片手で持ち上げている。これがアリエスに使ってもらうという意味ね。自己強化と自己回復の胞子も展開している。捨て身ね。相打ち狙いの殴り合い。いくら加護持ちでもこれは打ち負ける。

 まるで片手持ちのハンマーのように繰り出される槌の一撃を体を浮かせて軽減する。見た目にはアリエスが槌で私を打ち上げている感じかしら。地上で受けてはひとたまりもない。空中で受けることによって衝撃を緩和して攻撃の威力自体も下げられる。私は空中で空振りしながら滞空する。斬撃した勢いがないと加護操作でも滞空はできない。弱点はその槌の大きさか。それで視界が遮られる。次の一撃。アリエスの狙いすました一撃を軌道をずらすことで死角に入る。その一撃を受け流すのではなく加護で耐えるとそのまま槌を滑るようにアリエスの元に流れ着く。私の一撃がアリエスの仮面を割る。

 美しい。私はそれに見惚れてしまう。

 だがそれは悪手だった。アリエスは止まったがタウラスが勘違い。槌から悪魔へと姿を変えて殴りつけて来た。

 本当に、本当に空気の読めない男ね。

 私は地面を転がりながら意識を失った。


「レオ。起きましたか?」

 アリエスの柔らかい声が聞こえてくる。これは膝枕? アリエスの柔らかい膝枕にその顔を埋める。

「レオ?」

「起きたのかレオ。すまない。僕は・・・」

「お黙り獣」

 折角のアリエスの膝枕が台無しよ。何かに揺られていると思ったけどこの揺れる物理無効のカーペットはタウラスね。その背中でアリエスの膝枕。幸せだ。

「これよ。私がやりたかったTS美少女はこれよ。女の子たちとイチャイチャするのが真のTS美少女だと痛感したわ」

「本当にわが父なのですか?」

「そうよ。鬼の身ではそういう事は一切なかったけれど、人の身を得て私は変わった。本当に人の身は業が深いわ。もし私がこの状態で王牙の力を持っていたら正気では居られなかったでしょうね」

「それにしてもお強いのですねレオは。神の御手もなく、ただ普通の人間であそこまで強いのは私も初めてです」

「ええ。人類の可能性。私達が信じた人類の可能性はこういう事よ。神の加護は確かに神の力だけれど、聖女のような選ばれた力ではないわ。私の信じる人類の可能性は聖女のようなユニークではなくて人類全体の底力のようなものね」

「・・・私は人類の可能性は選ばれた聖女のような存在が引っ張っていくと思っていました。でもそれも打ち砕かれた。わが父は私の全てを打ち砕いていくのですね」

「やっぱり悩んでいたのね」

「はい。今のままで私はいいのか。人類がこのまま負け続けるのであれば、私は人類を導く聖女や勇者を見出してそれを人類の守護者として立たせることも考えていました」

 そうね。アリエスは私に人類の可能性を見せる。そして私はそれを見たい。そのためなら魔物を離反して人類側につくこともあるでしょう。

「王牙。アリエスは君に人類の可能性を見せるために悩んでいたんだ。君を裏切るような真似をしたいんじゃない」

「お黙り獣。もう私達はわかり合っているの。百合に入ってこないで」

「ではわが父。私がどんな道を歩んでもアリエスの名をもらっても構いませんか?」

「勿論。アリエスが人類の守護者として私に人類の可能性を見せるためなら例え敵対してもその名はあなたのものよ。ただその時は私も本気。どちらが倒れてもこの信仰は消えないわ」

「本当にわが父なのですね」

「ええ。ただそれとは別にレオとしてあなたの膝枕を堪能するのは許してほしい。鬼の身では出来ない上に望むこともないでしょうから」

「はい。レオ。私もわが父が甘えてくれることに感謝します」

 はぁ。アリエスは尊い。鬼の身では全く感じなかった感情に身を任せる。これはこれでいいものね。


「王牙。何をしている?」

 シノね。

「私はレオよ。どうしたの?」

「その遊びは何時まで続ける気だ?」

「そうね。あなたがこの体に対するわだかまりが消えるまでかしら」

「なんだと?」

 シノの視線が消しくなる。今の私はシノの王牙ではない。シノの望む王牙である必要がない。でもそれを口にするのは決定的な亀裂になる。だから私は、

「どうも女体化した俺はお前を愛せないらしい」

 ようやく同時に操れるようになったわね。鬼の体の私がそこに居る。

「俺も意外だったのだがTS美少女化したときにシノ、お前に対してのわだかまりがある」

「つまり私、レオはあなたが嫌いという事よシノ」


 本当に意外だ。TS美少女化してシノとイチャイチャする筈だったのがこうも拒否反応が出るのは予想できなかった。

「どういうことだ?」

「そのままだ。俺のシノへの愛は変わらないが、レオでいるとむしろ憎しみ、ではないな馬が合わないという感覚的な嫌悪感がある。本来なら今のアリエスのような感じが望みだったのだがな」

「お前でもどうにもならないのか?」

「ああ。これはレオというよりも魔王か少女かそっちの方かもしれないな。この状態はあまり近づかないでくれ。シノには何もないのか?」

「・・・私にもわからない。魔王は、私の、何かに抵触するのだろう。だがその記憶がないと言う所だろうな。馬が合わないというのは確か言い得て妙だ。これをまだ続けるのか?」

「この現象自体にも興味があるが、言ってみれば鹵獲した人間の性能が知れる機会だ。これは逃したくない」

「俺氏の言うとおりね。シノには遊びに見えても必要な事なのよ。わかる?」

 これはレオだ。ここまで意識しても棘が抜けない。

 俺氏というのは自分で自分を王牙と呼ぶのは抵抗があるからだ。

「やはり駄目だな。シノ。お前に対しては攻撃的になる。やってやれないことはないが俺の性格上強制は無理だな」

「いや、それは私にもわかる。赤髪と髑髏では感じ方が変わることがある。それにしてもここまではないがな」

「この現象は俺が発端ではないからな。イレギュラーはあるだろう。極力レオでいようと思うがどうだ?」

「わかった。取り合えずレオには近づかないでおこう。戦闘は可能なのか?」

「今の段階では同時に戦闘は無理だな。負担を減らすために俺の方は牛車に戻す。いざとなったらレオにぶつけてくれ」

「わかった。しかし用心しろ。腐っても魔王の一部だ」

「心得た」

 確かに動きがない。俺が抑えているというのもあるが何を狙っている? レオが妙に女性陣にべたつくのも気になる。TS美少女の百合は確かに俺の夢ではあるが、

「わが父」

「なんだ?」「なに?」

 同時に反応してしまったが俺の方か。

「さっきの話は伝わっていますか?」

「ああ。勿論だ。何時かする話だとは思っていたがここまでスムーズに行ったことにはレオに感謝だな」

「だけど私には用心して。タウラス、あなたも。アリエスを守るためなら私を敵に回しても構わない。あなたの選択は正しいわ。正しいからイラついてるの」

「わかったよレオ。君に嫌われても僕は僕の選択を信じるよ」

「それはそれとして、もう少し戦闘の機微は磨かなくてはな」

「そこはまだ未知数だよ。王牙。僕は僕の選択を信じる」

 なるほど。そこは用心したほうが良さそうだ。

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