第六十二章 テンタクルアンカー
「そんな。そんな。王牙ってイケメン魔物じゃなかったの!? こんな筋肉なの!?」
ようやく合流して俺は元に戻れたが、その後のレオの第一声がこれだ。
「それにシノって・・・骨じゃない! 私がこれになってたって事!?」
酷い言い草だ。まあわからんでもない。いくら力を得たとしても美少女から髑髏になるのは抵抗があるだろう。
「そんな。私は、私は、こんなことの為に全てを捨てたの!?」
レオは俺の姿もシノの姿も知っていたはずだ。それでこの反応は少しおかしいと観察していたのだが、どうやらこの体には三つの魂が同居していたようだ。囚われて居た俺、魔王の心臓であるレオ。そして体の持ち主である少女。俺が元に戻ったことで少女の魂が前に出てきたという所だ。レオのように俺と同化せず、ただ見ていたと言う所だろう。
「どうやら魔王に騙されたようだな。ハッキリ言うがここで一番の美少女はお前だレオ。美女はいるが可愛さでお前を超える者はいないだろう。力を手にしてもその美貌は失うことになるぞ」
「そんな! 私がこの顔と体にどれだけの時間と労力をかけたか知っているの!? ・・・あれ? どうして。何も思い出せない。私が私になるためにしてきたことが全てが思い出せない! そんな、私がしてきたことが全部消えて、なくなってしまってる。そんな、これじゃ帰れない。帰れるわけない。あれだけ大量虐殺して帰れるわけないじゃない・・・。どうして、どうしてこんなんことに」
一応レオではあるのか。膝をついて自分を抱きしめている。
「お前の目的は何だったのだレオ。ここにきてシノと入れ替わる事か?」
「そうよ! 私が死の髑髏の力を得てイケメンの王牙とラブロマンス! そうなるはずじゃなかったの!?」
おおう。TS要素がなくなった途端美少女に何の価値もなくなったでゴザル。やはり美少女にTSは必要だ。美少女とは俺達の心の中にだけ存在するものなのだ。
「その前だ。その魔王の心臓はどこから出てきた」
「アンタに教えるわけないじゃない! この筋肉だるま! 王牙がアンタみたいなオジサンだって知ってたらこんな所来なかったわ!」
俺はオッサンどころかおじいさんなんだがな。転生の回数を合算すれば百は超えているだろう。
「王牙。これはもう片付けて構わんな。見苦しい」
シノはもう怒りを通り越して関心が無くなっているな。レオを片付ける敵としてしか認識していない。
「やってみなさいよ! 私だって神の加護に選ばれたのよ!」
? レオが施されたバスタードソードを握るがおかしい。ふらついている。俺がいないにしてもここまで無様な構え方はしないと思うが得物が使い慣れたレイピアでないというのを差し引いても・・・、
いやリンクすら機能していない。これは武器も戻せないのか?
へっぴり腰のレオの剣を弾き飛ばすと俺が憑依した時と同じようなぺたんとした女の子座りになる。
呆然とした表情のまま涙が流れる。
これは、どう判断していいものか。いや、それよりも。
「魔王。なぜ黙っている。レオが死ぬぞ」
そのまましばらく動きがなかったが渋々という感じで魔王の心臓が起動した。
私は感度三千倍に耐えながら今の状況を確認していた。
結論から言えば私は魔王の心臓で感度を上げても全く王牙に歯が立たなかった。あまりの弱さに王牙が一度私に憑依しなおしリンクで武器をレイピアに変えてくれた。それでもまるで歯が立たなかった。お話にならなかった。感度に耐えきれず屈服しようとした私に王牙が憑依し今に至る。
そう、今の私は王牙と同化している。鬼の体は王牙を運んできたムリエルの牛車の中だ。それよりも感度の方が問題だ。私は膝をモジ付かせながら耐えている。流石に女の子にこれはさせられない。TS美少女である私でないとアウトだろう。
「王牙。辛いならいくつか薬が出せるのじゃ」
ムリエルが心配そうに見てくるがそれも正直キツイ。
「ありがとう。でもこれはそれで耐えられるようなものじゃないからそっとしておいて」
ムリエルが凄く可愛く見えてくる。押し倒したくなる。この声が私をくすぐる。
「旦那。一発やっちまうか?」
これはリンキンなりのジョークなのはわかるが余裕がない私はキッと睨む。
「冗談はやめて。命に係わる。この状態の過度な刺激は私でさえ廃人になりかねないわ」
「そこまでかよ!?」
「ええ。もし私が、いえレオ単体であったならこの効果が切れる前に焼き切れて廃人でしょうね。今の私だから耐えられてる」
「なら俺はいない方がいいみてぇだな」
「いえ、ここに居て欲しいわ。正直な話女の子が近くに来ると押し倒したくなるのよ。多分私がTS美少女なせいかしらね。何か話はない?」
「なら結局旦那でいいんだよな?」
「ええ。それでいいわ。王牙と魔王と体の持ち主。それが混ざって不安定になってはいるけれど。今のレオは王牙と魔王との融合でしょうね。私をオジサン呼ばわりした女の子は干渉できてない、ただ聞いているだけね」
「またホントに格別に厄介ごとだな旦那。そこまでして守る価値があるのかよ」
「情と言えなくもないのだけれど予感ね。早々に片付けてもいいのだけれど、これは多分シノに関係しているわ」
「関係などしていない。お前は誰だ。私の何を知っている」
シノだ。マズイ。感度が急に上がってきた。愛し合っている女性が来るとこれは、マズイ。
「姉御! 外してくれねぇか。女が不味いらしいんだ。見てわかるだろ」
荒い息で会話が出来ない私の代わりにリンキンがシノを止めてくれる。持つべきものは同性の友人だ。シノの刺すような視線が突き刺さっていたが何も言わずに去っていった。これは間違いなく何かある。それはレオ自身にも。
それにしてもキツイ。やはり何か解決策が必要か。
「リンキン。これは抜くしかないわ。私の、王牙の所まで付き合ってくれる?」
「おう。いいぜ。どうするんだ?」
「自分で慰める。あまり体に触れたくないけれどこのまま時間が経つのは私でも耐えられないかもしれない。王牙の手なら感度に影響なく使えると思うの。私自身の手も性感帯になってるから」
私はリンキンの助けを借りて王牙が鎮座している牛車の中に入る。
ふぅ。まさかのTS美少女ヌルヌル触手プレイを自分の身で体験することになるとはね。私は王牙の魔素体で触手を生やす。流石に爪のある手は危険だ。
少しずつ撫でるように。感度を高めていく。
ああ、でもそうか。TS美少女の利点がもう一つあった。美少女の造形には煩くても竿役の顔はどうでもいい。イケメンでなくても問題ないな。
俺は終わった後にレオを浄化で身綺麗にしてムリエルの所に預けて来た。こういう時無邪気なムリエルは頼りになる。俺のいないレオでも面倒を見てくれるだろう。
「お疲れ旦那。もういいのか?」
「ああ。助かった。俺の体でないとはいえTSで致している所は知られたくないからな」
「癖になっちまったか?」
「いや。あれはそんな良いものじゃない。感度一万倍だぞ。オーガの魂でなければ耐えられない代物だ。もしあれにシノの魂が入っていたかと思うとぞっとする。俺で良かったぐらいだ」
「それ普通に死ぬだろ! そんなにやばかったのかよ! 旦那も本当によくやるぜ」
「だがそれだけではないぞ。魔素体の新しい使い方をマスターした」
俺は腰の後ろ辺りから触手を生やすとそれを束ねて射出する。
「今はもう必要ないがあの線路の森で落ちた時にこれを使えば復帰できる。命綱だな」
「ピコーン! 王牙のスキルレベルが上がった。テンタクルアンカーがレベル2になって両脇から射出が可能になった!」
ほう。それは面白い。さっきは右だけだった触手、テンタクルアンカーを左にも生やす。
「ダブル! テンタクルアンカー!!!」
俺は地面にテンタクルアンカーを打ち込むとその場でジャンプしアンカーを収縮させる。
「おおお! やっぱり立体で軌道できる奴じゃねぇかそれ!」
「だがこれは刺さらないぞ。線路に巻き付けるならともかく壁に突き刺すのは流石に無理だな」
「できるだけでも凄いぜ。俺でも股間サイズが関の山だしな」
「なんだそのアンカーは突き刺す相手が決まっている奴じゃないだろうな」
「バレたかー! 俺にはこいつだけで十分だからな」
「俺の方は医療用か。感度の呪いをばら撒きたくなってきたぞ」
「ピコーン! テンタクルアンカーがレベル5になって多人数プレイが可能になった!」
「俺はエロアニメの竿役か!」
「まんまじゃねぇのそれ。旦那ハーレムの特典にしようぜ」
「それに来るのはTS美少女だけだ。夢を見過ぎだな」
「説得力あり過ぎだろwww」
ヤレヤレ。色々な悩んでいたのが馬鹿らしくなってきたZE!




