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第六十一章 レオ

 目を覚ました私は街道を避け古城へと向かうであろう方向に進んでいる。眠っている状態で魔素を使って体を酷使したのもあるけど体調はかなり悪い。やはり生身に魔素を流すのは危険が伴う。夜は移動するにしても竜翼のみに限定した方がいいでしょうね。竜翼が四本あれば四足歩行で快適なのだけど、せめて三本。魔素体で疑似的に松葉付のような使い方で二本移動が限界だ。

 それもあるのだけれど感度の底地が上がってきている。心臓の高鳴りが激しくなるたびに人間での行動時間が短くなっていく。これでは最終的に人間での行動が出来なくなる恐れがある。鬼の体に戻れない今、この体の死は解放になるのか確証もない。

 それよりも今は水と食料ね。

 これについては施された武器と加護の力が役に立っている。幸い緑の多い土地だ。そこから得られる水分を加護で凝縮し浄化を行えば安全な飲み水になる。食事にしても施された武器を使えば毒物などの有害な効果を無効化できる。ファンタジー様々ね。

 虫や寄生虫に関しては魔素漬けにすることで対処可能だ。魔素の放出だけで虫よけになる。魔物様々ね。

 だけれど、そう、食べ物がない。ゴハンがない。食料しかない。たとえTS美少女でもこんな質素な栄養源だけでは美少女が維持できないでしょう。それに体もいくら浄化できるとはいえ服の汚れは限度がある。

 ふとリンセスを思い出す。ツインコアの持ち主で家事全般は無双だった。風呂も洗濯もコアによる生成魔法で大勢の子供たちの世話を一手に引き受けていた。あれが私にも欲しいな。


 古城の皆を思い出す。リンキン、リンセス、アリエス、タウラス、ムリエル、多くのオーガ達。そしてシノ。シノは古い付き合いだ。一番古い。その時の私は、え、と。俺って誰? シノと一緒に居た俺って誰? 私ではないの?

 私はそう人間だった。その居場所は私が壊してしまった。私は禁忌を犯して、

 え? 私は何度禁忌を犯したの? 全てを捨てて縋ったのに。私が手に入れたのは・・・。

 仲間、そう仲間がいた。その合言葉は、

「ともに楽園を」

 その言葉はどこにも届かない。私はその言葉を裏切ってしまった。だから私は。

 世界の改変の気配がする。

 どうして? また私の呼びかけに答えてくれるの?

 そこから現れたのは

「ムリエル・・・?」

「およ? 汝は誰・・・汝は・・・」

「ムリエル! 会いたかった!」

 私の頬には自然と涙が流れていた。


「つまり王牙がTS美少女になって今はレオと名乗っておると、そういう事でいいのじゃな?」

「そう。今の私はTS美少女のレオだ。体に戻れないからここまで歩いてきた」

「なるほどじゃな。いま、王牙の体もここに向かってきておる。皇帝の牛車に乗ってVIP待遇じゃ」

「よかった。何事もなかったのか」

「ありまくりじゃ。魔王のパーツが暴走して大変なのじゃぞ」

「どういうこと?」

「首を落とした魔王の体が各地に散らばっての。どうやら各地に現身を潜伏させていたのじゃろう。まだ本体は見つかっておらん」

「どうりで余裕だったわけだ。本当なら魔王は人間に掴まって悠々自適に神の恩恵だったはずがどうしてこんなことに」

「レオ。随分と詳しいの。何か情報があるのかえ?」

「まさか。私は生き延びるので精いっぱいだ。人間の体なのに人間とコンタクトが出来なくて即バレだ」

「ほう。そこはそうなのじゃな。なんにしても災難じゃったな。魔王の呪いを直撃じゃ。意識がなくても不思議はなかったのじゃ」

「そんなことがあったのか?」

「なんじゃ忘れておったのか。狙われたのはシノじゃ。汝が庇って今の状態じゃ」

「シノ・・・。死の髑髏。そう、狙われたのは俺じゃなくてシノ。俺は狙いじゃなかった」

「なんじゃTS美少女ごっこはもう終わりかえ?」

「まさか。折角だから堪能させてもらう。ムリエル、シャワーは出せるか? もう私は限界。この感度が高まったTS美少女ボディを堪能したい」

「なんじゃその感度とは。良からぬことをするでないぞ。その体は汝のものではないのじゃろう?」

「じゃあ、一緒に入ろっか。もう見せ合ったなかだし、レオお姉さんと一緒に、ね」

 私はウインクする。

「そのとってつけたようなTS美少女ムーブは我の機嫌を損ねるためかえ?」

「まさか! 私は本気だよ! ムリエル!」

 私は後ろ手で振り返りながら最高の笑顔を見せる。これは絶対に可愛いはず!

「はぁ。わかったのじゃ。楽しんでおるならそれでよい。ただし一緒に入るのは無しじゃ! TS美少女を悪用するでない!」


 その後も散々ムリエルを玩んだレオは疲れて寝てしまった。眠れていないよりはいい兆候だろう。確実に精神を蝕まれていた。

「ムリエル」

「なんじゃレオ。起きたのか?」

「俺だ。王牙だ。話せるか?」

「王牙。やはりレオは汝ではなかったか」

「そこは難しくてな。オレとレオは同じ存在という感覚が常に付きまとっている。二重人格ではないな。レオの行動は俺の行動として認識していたがお前にはどう見えた?」

「別人じゃな。本当に汝が王牙かどうか疑っている所じゃ」

「そこも難しいな。オレとレオはほぼ全てを共有している。記憶や性格、混じっているというのが正しいな。俺が王牙であって王牙でないという認識は正しい」

「じゃろうな。そしてその気づきはレオにも伝わる。少し危険かもしれんのじゃ。この会話は少し早すぎではないか?」

「むしろ黙っていた方が危険だ。俺の思考はレオの思考だ。お前を傷つけるような事は極力避けるが、いざとなれば身の安全を優先してくれ」

「わかったのじゃ。それにしても汝、やはりTS美少女とやらに憧れがあったのかのう?」

「ないと言えば噓になるな。最高の美少女を自身で作り上げるというのは全ての夢だ。だが自分でなるのは少々な。美少女は二次元で留めておくのが正解だと思い始めている所だ」

「なんじゃやはりあのポーズはこの娘の趣味じゃったのか」

「いや、あれは俺だ。これほどの美少女だ。まず間違いなく可愛いと思ったのだがどうだ?」

「汝、変態じゃな」

「まて鬼の姿ではやらんぞ。この姿だからこそ意味がある。この声もとても可愛らしいだろう。男の妄想が具現化したようではないか?」

「王牙よ。汝がその娘に入っているだけでその娘は普通の娘じゃろう。なぜTS美少女になるのじゃ」

「あの感度でエロい姿を見ればTS美少女だと思うだろう。そもそもの魔王がTS八翼の竜姫ではないのか?」

「なるほどじゃ。魔王だからTSというわけじゃな。そして現身が魔王の理想のTS娘じゃと」

「そうなるな。レオは間違いなく魔王本人だろう。あの感度も心臓からくるものだ。頭がない以上心臓が本体だとみるが?」

「朝になったらどんな反応になるのか楽しみじゃ。もう我は寝るぞ」

 ムリエルは寝てしまった。このムリエルの改変テントの中なら安全なのだろう。少し迷ったが俺も横になる。そして体の隅々にまで神経を行き渡らせると呼吸を整えていく。精神が休まった今、体の方も休息が必要だろう。今の所はまず安定だな。


 私は心地よい感覚に目を覚ました。昨日の呼吸法が効いている。乱れていた心音も今は収まっている。昨日の夜を思い出すと少しだけ心音がトクンと鳴る。これはなんだろう。私が魔王かもしれないという事だろうか。仮にそうだとしてもなんだというのか。私は私だ。少しだけ頬が火照る。起き抜けで体が起き出したようだ。

「どうじゃ魔王様。今日はTS美少女は無しかえ?」

 私は無言でムリエルを抱き寄せるとそのままキスをする。

「な、な、な、なにをしとんのじゃ汝は!」

 可愛い。

「TS百合ムーブ。昨日までは一人だったから今日からは一緒だね。女の子同士だからこそ許される二人でくんずほぐれつ旅行だものね」

「我を巻き込むな! 昨日の今日でどうなるかと思ったのじゃが。随分と余裕じゃな」

「そう? 私はきっと、どんなことがあっても私なんだってそれに気づいただけ」

「そうだといいのう」

 ムリエルの言いたいことはわかる。これは多分イレギュラーだ。魔王の本当の呪いは入れ替え。私とシノが入れ替わり、最高の力を手入れた魔王と女の子になってしまった死の髑髏という構図だったのだろう。でも変わりに庇った王牙の体は特別だった。魔王は入れ替わる事が出来ずにこの体で王牙と混ざってしまった。魔王は私の心臓。これがきっとレオの正体。でもきっと・・・。

「うん! きっとそうなる! 私はそうなる! ムリエルそれまで一緒だよ!」

「おおう。これがTS美少女かえ。こぉれぇわぁ。被っとる。わたしと被り過ぎておるわ」

「私はレオ! 夜はオレ! そう決めれば一気に楽になったの! うん! 今の私はとっても可愛いTS美少女だよ!」

 私はとびっきりの笑顔を浮かべる。これを残しておきたい。

「そうだ! ムリエル、ポラロイドカメラがあったでしょ? アレで撮って! 一緒に撮ろう!」

「確かに汝は王牙ではないのう。では撮りまくるのじゃ! 遠慮するでないぞ!」

「イェーイ!」

「「カニ!!」」

 私達は進む道も忘れて撮り続けた。


 そして俺は眠ったムリエルを抱きかかえたまま竜翼で道を駆ける。

 ヤレヤレ。困ったOHIMESAMAタチだZE!

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