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第五十七章 ドラゴン

 俺達が遊んでいるうちにシノが魔王種に止めを刺したようだ。魔物種ではなく魔王城への直接攻撃。いつぞやの古城を破壊し交易路街を吹き飛ばした魔法だ。それを魔族の魔素で縦に三段重ね。それを食らうと魔王城が崩れ出す。だがそれが異常だったのは崩れ出した魔王城から瓦礫が流れ出たことだ。例えるなら魔王城の傷から瓦礫という血液が流れ出ているような感じだ。明かに瓦礫の量がオカシイ。それもどう見ても魔王城にあるパーツには見えない瓦礫も含まれている。

 そして二発目のシノの魔法が発動した。次は同じ魔法の四段重ねだ。遂に魔王城が割れ、その内容物が流れ出る。明かに魔王城の体積を超える瓦礫が零れ落ちている。これはあれか。あれは魔王城の形をしたダンジョンの入り口で中に入ると階層式の明かに魔王城の中とは思えない光景が広がっているやつか。その中身が魔王城という入り口から吐き出されている感じか。外から見ると割れているだけに見えるが内部は相当にダメージがあるのだろう。本来ならこのダンジョンを攻略して魔王の元へと辿り着く。そういう仕様なのだろうな。線路の森の巨大な空間も底まで瓦礫が埋まったのか、それとも詰まったのか瓦礫が上に積みあがっている。今では魔王城を頂点に瓦礫の山になりつつあるな。

 そして三発目。シノの魔法が五重になって炸裂した。遂に魔王城が崩壊して瓦礫が爆発する様にその周りに吹き飛ぶ。血の海ならぬ瓦礫の海で線路の森は完全に埋もれてしまったな。そして遂に魔王がその姿を現した。


 その姿はドラゴン・・・と言いたいが蝙蝠の羽の付いた怪獣の着ぐるみだ。確かにドラゴンではあるが中に人が入っていそうないかにもな怪獣だ。実際に空を飛んで戦闘というのはいささか無理がありそうな造形だ。それが瓦礫の山を下ってシノの元へと突撃する。造形はふざけているがその大きさは本物だ。シノが牽制の魔法を放っているが様子がおかしい。魔法が効いていない。シノは事前に知っていたのだろう。だからこその試しの牽制魔法か。

「王牙。私の遊びに付き合う気はないか?」

「何をするんだ?」

「巨大な髑髏を顕現する。それをお前に操作してもらいたい。あの魔素人形の要領だ」

「わかった。中央に俺が入る形か?」

「そうだ。魔王に魔法は通じない。あの皮膚だ。竜皮が魔法を通さない。物理を試してみる。頼めるか?」

「承知」


 俺がシノの元に行くと超巨大髑髏が顕現する。魔族の魔素の黒骸骨だ、大きさはいつもの五倍。それで魔王と同サイズだ。

 俺とシノが肋骨の中央に位置するとリンクで俺が操作する。

 今回俺が操作するのは骨か。筋肉ではない感覚が俺を包む。これは筋肉ではない。骨を加護操作のように干渉し、間接がサーボモーターのように間接兼動力になっている。これはパワーが出ても持続は無理だな。瞬間的なパワーは望めるが掴み合いになったら確実に負ける。確実に間合いを取って的確なダメージだな。俺は大地の支配で石の棒を生み出す。単純なただの棒だ。この体では刃物を出しても刃を通すことはできないだろう。そもそも握る手が骨だ。仮に魔素体をだしても骨と干渉して逆に邪魔になりそうだ。

 俺が平地に移動すると魔王もついてくる。確実にやる気だな。魔王の突撃をいなし棒の一撃を入れていく。妙だ。ダメージは与えているが魔素の減りがない。そうこうするうちに石の棒が崩れ次の棒を生み出す。するとそれが魔素に包まれる。シノのエンチャントだ。ただの棒なら単純に硬くするだけでもありがたい。握りも適度な弾力で力が入る。これはいい。俺は突きで攻勢に出ていく。魔王の機先を制し動きを殺していく。やはり見た目通りに動きはそこまででもない。パワーはあるがそれを活かせないように立ち回っていく。

 確実にダメージは与えている。いわば体の部位ダメージは与えている。それが魔王の回復量を超えてダメージにはなっている。だが魔素の総量が減らない。これでは部位ダメージで動けなくなった所でトドメは刺せないぞ。

「シノ。こいつの魔素はどうやって減らす」

「それがまだわからん。奴は魔法が効かないが奴自身も魔法を使わない。全く魔素に干渉できん。窮地になれば何か打開策があるかと思ったが厳しいな」

「なるほどな。取り合えず痛めつけて動きを止めてみる」


 ちまちまとダメージを与えてようやく魔王に動きが出る。第二形態か。魔素を消費しての自身の強化。これか。解決の糸口は。部位ダメージは全て回復されたが魔王の魔素は減っている。これを繰り返すのが理想か。だが魔素が減ってスリム化した魔王の動きが良くなっている。さっきまでの肥満体と比べて引き締まった筋肉の体だ。いうなれば怪獣からドラゴニュートだな。単純に手数は増えている。棒でいなしているが奴は気付いている。俺が掴み合いを避けていることに。その爪が俺ではなく棒に注がれている。これが折れた瞬間が決め手だな。

 遂に棒が折れると俺が棒の切れ端を顔面に突き入れても強引に距離を詰められる。そして掴まれる左腕。俺は掴まれた腕を外すと魔王の背後に回って右腕で魔王の首を絞める。これも駄目か。締めても首の部位ダメージが蓄積するだけで窒息や血流を止めるというような効果は得られない。変に暴れる前に俺は魔王から離れると投げ飛ばされた左腕を回収する。

「難しいな。部位ダメージの修復で魔素が減らせれば御の字だが、全て竜皮の中で完結している。その分外部から魔素の補給がないのが唯一の救いだな」

「やはり魔王を倒すなら聖剣か」

 それは俺も考えたがこの髑髏体では剣をまともに扱えない。下手をすれば剣が奪われる。こんな時に改変が使えればとも思うが、タウラスとの喧嘩ならともかく、魔王を倒す武器となるとその改変は危険なレベルにまで高まる。間違いなくやってはいけない改変だ。やるまでもなくその危険性が理解できる。一度改変を戦闘で使うとその可能性が脳裏にチラつくな。これは楽園の守護者が釘を指すわけだ。一度やれば二度三度か。

「シノ。オーガ体を出す。可能か?」

「私の魔素は問題ない。だが流石にこのサイズだと後が続かないと思え。それよりもお前だ。このサイズのオーガ体の顕現など出来るのか?」

「やるしかないだろう。聖剣を人間サイズで使うならば聖女クラスの人間のネームドの力が必要だろうな。そしてそれは俺達魔物にはない」

「そうだな。成功失敗に関わらすこれが打ち止めだ。これが駄目なら撤退だ。私は無力化する。後は頼むぞ」

「心得た」


 俺は髑髏の体に魔素体を走らせる。あえて髑髏の体を脱力化し魔素体に集中する。先程よりも動きは良い。魔王の爪を素手でいなし躱していく。そして顕現した魔素体と髑髏の体を連動させ打撃を与える。これで瞬間的な機械的パワーと持続的な筋肉の動きが同時に得られる。俺は魔王の腕を取るとへし折る。流石の魔王もこれで攻勢には出ないだろう。優勢だがこの状態ではまだ届かない。その上にオーガ体を顕現していく。

「相棒!」

 俺は鞘から相棒を取り出すと宙に投げる。そして超巨大オーガ体にふさわしい巨大なバスタードソードが地面に突き刺さる。聖剣ではない。まだその時ではないのか。俺はそれを手に取るとオーガ体の魔素を燃やす。髑髏体のパワーとオーガ体の筋肉に燃やした魔素の威力を乗せた一撃。それは魔王の全ての骨を打ち砕いて斬撃を境にくの字に曲げる。その斬撃の軌道にある全てが破壊されるが竜皮だけは健在だ。真っ二つに折れた魔王が竜皮だけで繋がっている。

 これほどのものか。魔王の骨も筋肉も繊維も全て断ち切ったのに竜皮だけが残っている。そしてこれを破らない限り魔王の魔素は流出しないのだろう。俺は剣戟を速めて魔王をズタ袋にしていく。ほぼ無力化しているのに竜皮だけが破れない。これは断ち切るのは無理か。それなら引き切る。俺は剣を竜皮に当てると断ち切る動きではなく引いて切り裂く。ほんの少し、ほんの少しだが竜皮に傷がつく。それを何度か繰り返すと俺は剣を振りかぶって斬撃と切り裂きを同時に行う。ようやく竜皮が破れ魔素が流れ出した。俺がその間に剣を差し込むと相棒が聖剣の姿を取り戻す。

 ようやくか。俺は相棒の突き刺さったズタ袋を中身を切り裂くように振り回す。ようやく魔王の魔素が尽き初め竜皮がその効力を失っていく。後に残ったのは魔王の残骸だ。竜皮さえなくなれば後は時間の問題だな。

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