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第五十六章 魔王種

 しかし線路の森は意外な顔を見せて来た。俺達が撤退した後何かが起きたらしい。

 線路の森の巨大な穴にすっぽりと収まるような城が宙に浮いている。勿論地面付きだ。それが空に現れ宙に浮いたまま固定されている。見た感じは人間の城のようにも見えるがそれにしては禍々しい。それもそのはず。翼付きの魔物のような生き物が飛んでいる。例えるならゴブリンウイングか。そういえば魔物に羽根付きや多腕が居ないな。俺達にも遂に異形の魔物が配備されるのか。

「あれは魔王の手下か」

 ほう。やっと魔王のお出ましか。俺達魔物側にはネームドが居なかったがようやく参戦か。つまるところ俺達は魔王の復活の為にここを目指してしたのか。俺達がドンパチやっている間にここの封印か何かを参戦していなかった髑髏部隊が解除でもしたのだろう。

「よくもぬけぬけと顔を出せたものだ。この腰抜けどもめ」

 シノから怒りの感情が流れてくる。察するに封印ではなく逃げたのだろうか。俺達次世代の魔物がここを取り返しに来たのを見てノコノコと出てきたのか。

「神の傀儡がまだ生きていたとはお笑い草だ。もう死滅したものと思っていたが」

 は?

「魔王とその一党は我々魔物の敵。神の手先だ。リンクが通じないだろう。討伐指示も出ているはずだ」

「まて。奴らは人間を攻撃しているぞ」

「自作自演だ。奴らは神の指示で人間をいたぶっている。哀れな連中だ。神に膝を屈しその玩具に成り果てた。見下げ果てた・・・、見下げ果てた存在だ。生かしておく理由がない」

 見下げ果てた同胞か。

 魔王勢が人間だけを攻撃しているなら高みの見物をしようと思っていたがこちらにもやってきているな。これは迎撃する必要があるな。シノは髑髏としてアリエスはそのガードか。レーザーは流石にオモチャだな。素直に皇帝で相棒の空中戦か。

「ムリエル。皇帝を使いたい。盾に乗ってくれるか?」

「わかったのじゃ」

 二つ返事で盾に乗り込むムリエル。流石に外でプカプカと浮かばせておくことは出来ない。

「俺が遊撃に出るが構わないか?」

「ああ。こちらは私に任せろ」

 こちらも二つ返事だ。さて魔王勢の力はどれほどのものか。


 やはりというか苦戦は必至だな。羽魔王種の空戦性能は皇帝を履いた俺と同じくらいだ。あの羽は空戦では普通に強いな。そして魔法。射出型と範囲型だ。こちらは逆に精度が高くない。先のレーザー魔素人形とどっこいだ。見てから避けられる。むしろ空飛ぶレーザー魔素人形と言ってもいい。あれはコイツラから着想を得たのだろうか。俺は相棒を収めて爪と脇差で切り裂いている。とはいえ数で不利なうえそうやすやすとは取らせてくれない。マニューバを駆使して油断した奴を狩るのが精一杯だ。

 それともう一つの手数が魔素チャフだ。何のことはない。俺の体に滞留魔素を重ねて魔素の支配をすることでアリエスの滞留魔素を多少なりとも再現できる。これも地味に使えているな。もしアリエスが乗っていたら空中に滞留魔素を撒いて目くらまし、羽魔王種の羽にデバフを入れれば最高の電子戦機になれるのだがな。流石にシノをノーガードには出来ない。


 しかし人間側はどう戦っているのかと見ていると旧型の魔素人形が出てきているな。アレが何の役に立つのかと見ていたら顔からビームが出ている。

 は?

 カメラの部分か。そこから加護属性のビームが出ている。

 は? そんな機能あったのか?

 人型ではない奴だな。四脚のいかにもビームを撃ちそうな奴だ。魔素人形訓練場で俺と宿主殿で散々ボコった非人型の旧型だ。弱すぎると思ったら加護ビームで戦う機体だったのか。魔素人形戦でそんなもの使えるはずもなく自衛用の施された武器で戦っていたのか。

 これはドームに突っ込まなくて正解だったな。線路の森で加護ビームは普通に死ねる。あの加護列車は完全に囮か。まさか俺達魔物があそこまで苦戦するとは思っていなかったのだろう。どうりで撤退も楽にできたわけだ。


 しかし加護ビームか。いや乗っているのが人間なら使えるのか?

「ムリエル、加護は出せるか?」

「出来るが何に使うのじゃ?」

 俺は盾とのリンクを頼むと鎧とマントが顕現する。その流れで相棒とのリンクも頼むとこちらもオーケーだ。ただ加護自体はそれほど強くない。戦士一人分だが回復が異常に早い。あの黒皇女の加護だ。出力は出ないが固定値で消費がないと考えていいだろう。鎧の方はその仕様でオーガサイズの鎧を出せる。マントもだ。一度出せば維持の加護消費は少ない。聖剣の方はそこそこの加護の刃が出せる程度だが、それを細く伸ばす形で剣先から加護の棘を伸ばす疑似的な加護ビームが可能になった。拳銃のように構えて射撃だ。羽魔王種にもかなりのダメージが見込める。

 問題は加護のマントだな。これが出しゃばりのように上手く使えない。出しゃばりはこれを使って空中でマントマニューバを使っていた。マントの反動で空中を自在に駆けていたのだが今の俺では使えない。繊細な操作が出来ないというよりもこれの使用者がムリエルで俺はそれを間借りしている状態だ。マントマニューバを使えるほどリンクが浸透していないのだろう。皇帝を停止して自由落下状態でのマントマニューバ。これが限界だな。皇帝との併用は今の俺では無理か。それでも防御面では頼りになるがな。

 だいぶ有利になったがそれでも攻撃が加護ビーム一丁では大群には効率が悪いな。特に絵面が地味だ。リロードもなく淡々と目標を捉えて発射を繰り返している。勿論強いのだが地味だ。敵が減らせているが地味だ。というか羽魔王種しか出てこないのか? ユニークはどうした。魔王はどこだ。


「王牙。我漏れそうなのじゃ。そろそろ戻らんか?」

「ムリエル。漏らしてからがパイロットの始まりだ」

「嫌じゃ! 嫌じゃ! 漏れるのじゃ! 戻るのじゃ!」

「そこでしても構わんぞ。別に漏らす必要はないだろう」

 簡易トイレを改変で出せば済む話だと思うが。

「我は戦うためにここに来たわけじゃないのじゃ! 我はもう自分を犠牲にはしないのじゃ!」

 半泣きのムリエルの声を聞いて俺は気付いた。こいつは人間だったな。それも戦闘員ではない。

「わかった。戻るぞムリエル。その後休息だ。俺がついているから安心していい」

「いいのかえ? 我の我儘を聞いてくれるのかえ?」

「我儘なものか。お前は人間だ。俺達に合わせていたら死ぬぞ。俺もすっかり忘れていた。お前はこちら側でなかったな」

「我は、こちら側ではないのか?」

「どちらにしろ休息だ。どちら側かは後で決めればいい。決める必要すらないだろう」

 俺は下がりながらシノの方へ近づく。こちらは順調だな。

「シノ。ムリエルの休息の為に一度下がる。何か問題はあるか?」

「ないな。お前が下がるならそろそろ片付けてもいいだろう。どこぞの皇女のように後出し戦力はなさそうだ。お前の出番が無くなるが構わんな」

「それならこちらはゆっくりと休ませてもらおう。ムリエル、仮眠でも食事でも付き合えるぞ」

「そうじゃな。だったらシャワーが浴びたい所じゃ。どこか建物がいいのじゃ」

「了解した」


「王牙」

 俺が呼びかけに振り替えるとバスタオル姿のムリエルがそこにいた。

「王牙。わたし、あなたが好き」

 そしてふぁさっとバスタオルが落ちる。そこには全裸のムリエルが居た。

「王牙。わたしね、一番じゃなくてもいいの。それこそムリエル(4番)でもいい。いつもでなくてもいいの。だからわたしにも少しだけ時間を頂戴」

 ふむ。なるほど。

「ムリエル。お前股間についてないぞ」

 ピシッと音がして何かがひび割れた空気が漂う。

「そうか。お前はTS美少女だな。あまりにも美少女ムーブ過ぎるとは思っていた。そんなものが現実に存在するものか。それは俺達の心の中にだけある妄想だ。現実の女はそれを作っている。本心からそれなどありえんのだ」

 そうか。同性愛者のTS娘か。それなら今までの行動も納得がいく。こんな殊勝な女がいるわけがない。

「そんなわけないじゃろがー!!!」

「無理をするな。女性経験が少ないのだろう。アレを演技と見抜けないから童貞がバレるのだ」

「何を言っとるんじゃお前は! 『わたし』は我の素じゃ! お前たちみたいのが居るからわたしは素を出せないんだ! わたしが『わたし』でいられないから我になったんじゃ! それを履き違えるな!!!」

 おっとぉ。これは見誤ったか?

「我が『わたし』でいると皆が嫌うんじゃ! じゃからこうして本当の自分を隠しているんじゃ! 王牙なら素のわたしを出せると思ったのに! どうしてわたしを裏切るの!!!」

 これは、ふむ、意外だ。

「すまん。これは流石に俺の勘違いか。いやあのムーブは流石に童貞丸出しだったぞ」

「だからなんで童貞なんじゃ! なに? 王牙はわたしがTS美少女だと嬉しいの? 本当はショタに襲われたいの? それが望みならわたしはそれでもいいよ。いまからわたしはTS美少女。元ショタの男に惚れる男の娘だよ。王牙とならどんなことでも、ヌルヌル触手プレイでも、わたしは拒否しないよ?」

「女なのは理解したが、なんでそう童貞ムーブなんだ。何がどうなるとそうなる。皇女の時はそうだったのか?」

「うん。これでみんな落ちたよ。王牙はそうじゃないの?」

 そうか。こいつは悪役令嬢物のメインヒロイン『皇女』だったな。確かにこれは嫌われる。しかもこれは作ってない。本当に素だ。嘘偽りない。だからこそ厄介だ。悪魔を閉じ込めて刺されたと聞いたが、これは本当に悪魔の魅了だけが原因か?

「ならムリエル。俺はいつもののじゃろりのお前が好きだ。楽園の守護者を捨て己の道を模索するお前が好きだ。楽園の守護者である事を捨てられないお前も好きだ。いつもの明るいムリエルが一番好きだ。それでは駄目か?」

 ムリエルは目を見開いてぽかんと口を開けていた。

「本当にこの我が好きなのじゃな?」

「ああ。それが好ましい」

「・・・王牙がそういうならこれを素にしても構わんのじゃ。これでよいのじゃな?」

「俺の望む関係は双方向だ。ムリエル、お前には好意を。互いが好きであることを認めよう。だが愛だけは譲れない。それはシノと俺だけのものだ」

「んー! やっぱり王牙は最高なのじゃ! それでよい! 好意だけで十分じゃ! 行為が欲しければいつでも尻を貸すぞ! こんなのは汝だけじゃ!」

 ヤレヤレ。予想外の所で天使と踊っちまったゼ。

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