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第五十四章 王牙戦記

「王牙。アリエスに聞いたのじゃ。もう悪魔はいないんじゃな。我がしてきたことは間違っておらんよな?」

「ああ。何も間違ってはいない。ムリエル。お前はこの世界を守っていた。そしてそれは報われた。もう自由だ」

 ムリエルが俺の名を呟くとまた目から涙が零れた。余程つらかったのだろうな。

「我ね。我ね。本当はね。皆を助けたかった。皆が悪魔に惹かれていって、我だけが何ともなくて、何とかしなくっちゃって、でも誰も理解してくれなかった。我が悪魔を隠すとののしられて。でもすぐに戻ると信じてた。・・・・我の現身が、殺されるまでは」

 そこでムリエルは荒い息をついた。これは話したいのだろうな。

「ムリエル。お前は一体なんだのだ?」

「我はね。コア、だよ。完全な形のコア。本当なら我は狩られる側だったけど、我の望みは一人の人間として生きる事だったから、楽園の守護者として最適だったの」

 コアか。通りで出力が高いわけだ。そして自立行動もできる。

「それでね。色々あって魔族と一緒にエルフのいない森へと進んだの。そこが始まり」

「そこに悪魔がやってきたというわけか」

「うん。我が空の彼方を知るために夜空に旅立って。その時に。・・・我は良きものだと思っていたのじゃ」

 あの靴ならば可能か。やはり宇宙と異世界は違うものだな。流石に異世界転生は地続きではないだろう。

「それが、あんな、あんな、厄災で、あんな、忌まわしい、あれは、悪魔じゃった」

 ムリエルは荒い息をついて涙を流す。

「本当はね。追い出したかったの。でもね。そうしたらね。この世界がね。壊れちゃうから。我はね。皆を犠牲にしたの。皆我が殺したの。世界の為に」

「楽園の守護者としての判断か?」

「違う。我は、我を殺した魔族たちも許せなかった。全部悪魔の仕業って知ってたの。全部知ってた。でも、だけど、魔族も許せなかった。だから一緒に閉じ込めたの。世界のためなんて嘘。わたしは、全部閉じ込めて潰したかっただけ」

「憎かったのか?」

「わた、我はそんなことはないのじゃ! 我は皆を愛していた! ただ我が愛されなかっただけじゃ!」

「それで皇女か」

「我は愛されたかった! このまま世界が崩壊しても! ただ愛されたかった! それがあの世界じゃ・・・!」

 なるほど。あの時点でもう限界だったのか。

「王牙が来たとき。我はね。怖かった。楽園の守護者を捨てたわたしに、バツが下るんだって。すごく怖かった。この世界が救われるよりも、ただ、凄く、怖かった」

 確かにそう見えた。俺の目には守護者の片鱗すら見えなかった。

「でも今は感謝してる。王牙が全て終わらせてくれた。わたしをとめてくれて、悪魔も救ってくれた」

 だが、やはり守護者か。その目に嘘はない。

「・・・・ねぇ。我って何だったのかな? 何にもできなかったよ。楽園の守護者失格。誰も救えなかった。守れなかった。こんなのもう楽園の守護者なんて、名乗れるわけないじゃない」

 それはないな。

「俺はお前が楽園の守護者だと断ずる。ムリエル。お前が悪魔を留めていなければこの世界は崩壊していた。お前が居たからこの結末が得られた。お前は間違いなくこの世界を救った。なにより、俺の呼び声に応えてくれた。少なくとも俺は救われたぞ」

「うん。知ってる。わかってる。でも、だからこそ。なんで我は一人なの? 世界を救った代償だけが残ったよ。汝の呼び声に応えたもの救いたかったかからじゃない。我はただ誰かに応えて欲しかった。我に気付いて欲しかった。ただそれだけなんじゃ・・・」

 世界を救った代償だけ、か。全てを犠牲に悪魔の脅威をこの世界から隔離した。そして俺達という解決策までバトンを繋いだ。結果論だが確実にこの功績はムリエルのものだ。初手で抑えていなければ人類圏は改変魔法で溢れかえっていただろう。それ自体はムリエルにもわかっている。

 だが感情が付いて来ないのだろう。特にもう心が砕ける寸前だった。

「王牙・・・?」

「まて、少し時間をくれ」

 不安がらせてしまったか。言葉などいくら紡いでも無駄か。

「ならばムリエル。俺達とくるか? お前の救った世界だ。それを楽しむのも悪くないだろう。一人が嫌なら俺達とくればいい。魔物に従軍する戦場吟遊詩人だ」

「んー! それいい! 我の名も高まるじゃろう! じゃない、高まろうものだ!」

「・・・ムリエル。素直にのじゃろり口調でいいだろうが。お前のそれは何口調だ」

「いやじゃ! いやじゃ! 高尚な皇女口調なのである! 我に従いし従者よ!」

 ・・・何かのアニメか? 俺がゲームの記録が残っているように断片的なものがあるのだろうな。

「そんな真面目な顔をするでない! 我は吟遊詩人ムリエルであるぞ! 図が高い!」

「無茶苦茶だ。会話に支障が出る。のじゃろりにしておけ」

「王牙は行けずなのじゃ。我が新しく生まれ変わるのじゃ。いめーじちぇんじをしたかったのじゃ」

「わたしでは駄目なのか?」

「王牙。それだけは忘れて欲しい。我は我じゃ」

「心得た」

「んー! お前は本当に欲しい言葉をくれる天才じゃ! 吟遊詩人も悪くない! 王牙戦記の始まりじゃ!」

 これからこの物語のタイトルは「王牙戦記~天才美少女天使ムリエルの大冒険日誌~」に変更だな。

「それについてまずはこれじゃ!」

 バーンとムリエルが取り出したのがポラロイドカメラだ。間違いなく世界の改変だな。

「ムリエル。お前はこの世界を壊す気か」

「大丈夫じゃ! 人間や魔法に使わない限り世界の改変は危険なものではない。量があれば別じゃが人一人くらいで壊れるほど軟ではないわ」

「そっちじゃない。世界観の話だ」

「なんじゃ、これはレトロだから大丈夫じゃ。超古代文明の異世界と繋がった超次元遺跡のお宝じゃ!」

 曲がりなりにも元楽園の守護者が言うのだから危険はないのだろう。

「それよりも写真じゃ。ほれ、重力で浮かしているからポーズじゃ! カニ!」

 カニ、か。このポーズは全世界共通なのだろうか。その後なんパターンかカニポーズを撮ったが・・・、ふむ、集合写真じゃなければ変なフラグは立たんだろう。


「もうムリエル~!」

 俺は折角だからとさっきのタウラス戦で作ってしまった改変された黒曜石の剣を解体してもらっていたのだが、ムリエルのこのセリフだ。最初は楽勝と言ってたのだがな。

「なんじゃこれは。こんな結合初めて見たぞ。稚拙なのに、いや単純すぎて綻びが見えんのじゃ。石の塊じゃが一つの結晶のようじゃ」

「そんなに凄いのか? 適当に組んだだけだが」

「じゃろうな。ただその出力が高すぎるのじゃ。王牙。ちょっと禁止を使ってみるのじゃ」

 言われるがままに禁止を展開する。

「な、なんじゃこれは。我に匹敵するほどのインナースペース・・・。これなら汝の中に我も取り込めるではないか」

「入れろとは言うな。アリエスでさえ消えかけたんだ。それはもうこりごりだ」

「聖女の魂を消しかけたというのか!? まて、汝悪魔をその身に入れていたな。あのとき悪魔を操ろうとしたが何かに邪魔された」

「ご明察だ。アリエスだ」

「悪魔と聖女をその内に入れて聖女を消し去る程のインナースペースじゃと・・・。汝まさか神ではないじゃろうな!」

「またそれか。俺が神だとしてはいそうですと答えるのか。もうその話は終わった」

「なんじゃ。汝自分には何の力もないみたいな顔してチートインナースペースの持ち主ではないか! これだからヤレヤレ系主人公は嫌なんじゃ!」

「それは何かの役に立つのか?」

「ヤレヤレ。ヤレヤレじゃ。この難局もその力あってこそのものじゃ。汝の力があればこの世界を塗り替えることができるのじゃぞ。何もかも汝の思うがまま! この世界の王にもなれる力じゃ!」

「なるほど。それはいい」

「何か望みがあるのかや? 元楽園の守護者である我が汝の望みを叶えてもいいのじゃぞ?」

「取り敢えずはコアの処分だな。チート合戦は戦闘ではない。あれはとっとと処理する清掃作業だ。それが早くなるなら御の字だ」

「ほう? まだあるのじゃろう?」

「もう一つは神への対抗策だ。世界ではなく神に手が届けなければ意味がない。その足掛かりにはなるのだろう?」

「んー! 満点じゃ! やっぱり汝は楽園の王じゃ! だがその問いには答えられぬ」

「そうか」

 すっかり元の調子を取り戻したようだな。これならもう大丈夫か。

 その後俺達は解体できない改変された黒曜石の剣を改変された壁在に埋めることで解決した。よくある剣を抜くと地面毎抜けるアレだ。壁在の改変を解体できるのならば抜けるだろう。そんな存在にこれが必要なのかどうかは置いといて。

 取り合えず俺は改変を使わない方が良さそうだ。最悪出したものを解体できるようになるか、解体できるものを生み出せるようにならなければな。

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