第五十章 惑星ファンタジー
「見ろよ旦那。俺専用機体だぜ。ゴブリンソルジャーのリンソルだ」
何を遊んでいるんだ。お前は。
「クソ羨ましいィ!」
おっと。心の声とセリフが逆だった。
「だろォ。これからゴブリンソルジャーのレーザー部隊で未開惑星ファンタジーを攻略だぜ!」
クソ羨ましい。この機体なら2mクラスのゴブリンなら搭乗可能だろう。しかもリンキンは魔法にも適性がある。機体の制御とレーザーの同時運用は可能だろう。機体の制御を諦めれば足を止めての魔法とレーザーの組み合わせも可能だろう。
クソ羨ましい。物理特化型の俺では仮に乗れたとしても動かすことすら出来ないだろう。もしこの体を失ってリトライできたのなら次は魔素特化型ゴブリンでこの機体を使った無双SFファンタジーを始めるとしよう。
だが俺は思い出した。この盾は俺でも使える魔素人形だ。魔素供給が必要だが・・・。
「なんだ遊びたいのか」
「いや、この構造物はオーガには少し狭すぎる。一回り小さい盾の機体なら魔素人形の搬入口も使えると思ってな」
「だから遊びたいのだろう?」
「いや、この膠着状態のうちにこの構造物の構造を把握しておきたいだけだ」
「それなら空間の把握ができるようになっただろう。それで十分な筈だが? 遊びたいのだろう?」
「いや、この構造物は魔素人形に最適化されている。オーガのままでは危険だろう」
「つまり魔素人形で遊びたいのだろう?」
流石に折れるか。
「そうだ。リンキンが羨ましかった」
「まったくお前という奴は、最初からそう言え。遊びならいつでも付き合ってやるぞ。私ばかりに遊ばせていないでたまにはお前自身も遊べ」
「ありがたい。色々試してみたこともある。付き合ってくれるか?」
シノは了承の返事をすると赤髪を分離して盾に乗り込む。俺も盾にリンクして人型へと変える。シノの放出した魔素で魔素体を顕現。動きに問題はないな。一応本体と魔素人形のどちらも動かせるが同時は集中が持たないな。
「王牙。今はどちらか一方に集中しておけ。慣れたら感覚だけ共有しろ。自然と両方動かせるようになる」
なるほど。シノは髑髏と赤髪を同時に操っている。そのアドバイスは聞いておくか。
「アリエス。しばらく王牙は使い物にならん。ガードしながら敵を殲滅するぞ。王牙。体は私の指示で歩かせるだけでいい。いざとなれば戻れ。その盾は私だけで事足りる。いいな?」
俺とアリエスは頷く。さて折角の時間だ有効に使わねばな。
「惑星ファンタジーにようこそ旦那。地獄の入り口でちびるなよ」
俺達は魔素人形の搬入口から中に侵入していた。中では魔法の撃ち合いだ。流石に内部では射出型だけで範囲攻撃はない様だ。遮蔽物を使いながら的確に魔法を撃ちこんでいく。街並みは以前のファンタジー様式だが地面や建物に金属の板が見え隠れしている。ただの街のままではないだろうな。それは建物を遮蔽物に使えていることからもわかる。
リンキンの機体はキャノンのない手持ち型。単発のライフルとグレネード式範囲型の二丁持ちだ。動きを重視しているのはゴブリンとしての戦い方をしやすいからだろう。
俺の機体は以前のままだ。素体に魔素体を纏わせてリンキンの機体よりもパワーがある。武器にしてもシノの助言で組み合わせを変え照射式のアサルト仕様レーザーだ。シノの魔素を使うにあたって単発での自壊を防ぐために照射という消費の多い形で実用性を高めている。シノから言わせれば魔法が使った方が強くて楽だという事だが機体運用のノウハウを知るためには致し方ない処置だろう。
「旦那の機体強すぎじゃねぇか?」
「二人乗りだからな。出力過剰で武器の自壊が懸念点だ」
「はー。相変わらず自分だけスペシャル仕様かよ。こっちはガス欠がキツイんだよな。あいつら人間のくせによくもあんなに撃てるよな」
「一人乗りならタンクがないか? 魔素流体の補充が出来ると思うんだが」
「これか? おお!? ホントに回復してくるじゃねぇか! なんだよコレ」
「魔素を充填できる液体だ。どこかで補充出来る場所があるはずだ。敵から奪ってもいいだろう。昔はそれを機体の潤滑油に使っていたが、今は質も良くなっているな」
「旦那。アンタ本当に何者だよ」
「この機体を手に入れた時に色々な。この機体も昔は加護持ちが居ないと使えないものだった」
「はー。改良したせいで魔物の俺にも使えるようになっちまったってわけか」
「当時はこの機体に合わせた巨大な施された武器があったんだが、機体性能が低すぎて使い物にならなかったからな。仮想敵はオーガだ。ゴブリンに機体を奪われるとは思ってもいなかっただろう」
「それはわかるぜ。ただこれレーザーは人間相手に弱すぎるんだよな。旦那のでも加護を抜けるか微妙だぜ」
「そうだな。鹵獲対策ではないだろうがやはりロマンか」
「ま、重機だと思えば使い道もカスタマイズもあるだろうよ。ロマンで終わるにゃもったいねぇって」
「そうだな。後は最後のテストだ。シノ、魔族の魔素を使わせてくれ。機体の構築に使う」
俺は生成された魔族の魔素を元にオーガ体を顕現させる。
「なんだよそれ! 超良いじゃんか!」
「これをやると機体が壊れるぞ。この機体が特別製なだけだ」
体が軽い。腕を上げるだけでも重さを感じないぐらいだ。本体のオーガの時よりも筋力が上がっている感じがある。機体は問題ない。しなってはいるが折れる気配はない。俺は持ってきた脇差を抜くと爪を纏わせる。見るからに強力だな。
「援護するぜ。必要なさそうだけどな」
俺はそれに頷き返すと魔素を燃やす。この機体の最大の利点は魔素を使い切っても死の危険はないという事だ。補充分を消費する。そしてシノの補充が途切れることはないだろう。
魔族の魔素オンリーのオーガ体の実力を見せてもらおうか。
防戦では弱かったが流石に街中では敵の動きがいい。スペック差があるからこそ接近できているがそこまで容易にはさせてくれない。リンキンの援護は必要だな。接近さえ出来れば簡単だ。単純な話だが弾速の遅さと座標の位置が丸わかりで攻撃はほぼ避けられる。課題は弾速と発動スピードだな。
俺は回り込みそうな魔素人形を優先して叩いていく。街の中に入っている魔物は少数だ。遮蔽に隠れた俺達を討つには回り込む必要がある。その先端から潰していく形だ。
しかし敵が動くな。射撃して同じ場所から撃ってこない。キャノンは確実に固定砲台だと思っていたが一度撃った場所からは撃ってこない。そして移動しつつ街の各所で補給も同時に行っている。魔素流体の補給だ。あれのスタンドがちょこちょこある様だ。俺が敵の動きを機先出来ているのは空間の把握による所が大きい。敵の位置がまる見えのウォールハック状態だ。これで俺がアサルトレーザーも持っていたら無敵だったんだが、レーザーは魔族の魔素仕様の状態では使うと自壊してしまう。
「王牙。援護が必要か?」
「頼む」
シノだ。流石に見かねたか。頭を出す奴を魔法の小爆発で抑えてくる。
これは動きやすい。
俺は回り込みに対処するのをやめ、正面突破に切り替える。頭を抑えた奴らに肉薄する形だ。本当なら白煙棒が欲しい所だが地面がない。地肌はあるが下が地面ではないな。だが一度接近さえしてしまえれば何も問題はない。金属製の魔素人形といえど加護持ち人間に比べれば紙切れだ。少なくとも本体ダメージで動きの阻害が出来るだけでも段違いに楽だな。
「王牙。そろそろ片付けるぞ。私にも動きが見えてきた」
「了解した」
今まで牽制だったシノの魔法が直撃していく。地味だが効果的な魔法が多い。座標に槍を使ったもので出現と初速が早い。そのうえ動きに合わせている。相手に神の加護がないからこその芸当だな。
一度パニックが起これば後は容易い。いうなれば加護無し人間を相手にしているようなものだ。魔物相手に神の加護を展開しないのは悪手だな。こうなると旧型の魔素流体の加護操作も理解できるな。少なくとも施された装甲で覆われている上に装甲を加護で動かすのだ。魔素による干渉は受けようがない。今気づいたがあの魔素流体も魔物の魔素への干渉を防ぐものだったのか。確かに俺が魔物OSとして搭載されていた時も魔素流体の使用は出来ても干渉は出来なかった。あれは対魔法使用魔物用機体だったのか。だがそれにしてはオーガに弱すぎた。しかも今の魔物に魔法戦士系はいない。居てもそれこそリンキンのようなゴブリン亜種と最近出てきた蛇女ぐらいか。他にも居そうだが戦場で見かけることはほとんどない。
まさかと思うが初期の魔物は魔法戦士だったのだろうか? だとしたら魔素流体の加護操作機体が有効なのもわかる。言ってしまえばリンキンのようなゴブリン亜種のような魔物であれば束になっても止められないだろう。魔法は効かず打撃も無理だろう。オーガ級の大型近接系が生まれたのはこのためか。あまりにも特攻過ぎる。オーガであれに負けるのは敵の大群にでも囲まれていない限り無理だ。遅い上に打撃によるフレームへのダメージは施された装甲でも防ぐことはできない。
例外があるとすれば大会に出てきた黒塗りグレートソード魔素人形か。今にして思えばあれは一人乗りではなかったのかもしれないな。あの巨体を動かして光波まで飛ばしてきたのは異常すぎる。
なんにしてもこの新型のレーザー装備機体はオーガ級と戦うには足りたが、シノやアリエスといった魔法系ユニーク魔物には弱いな。
・・・素直に生身の加護持ちと組めば強そうだが未だ出てこないな。移動と展開速度の違いなどそれこそ魔素人形に人間を乗せて運べば事足りそうだが。魔素と加護の干渉もともに戦わなければいいだけだ。それこそレーザーで遠距離だしな。
となると、生身が戦えない理由がここにあるのか。ここもまた謎がてんこ盛りだな。




