第四十九章 レーザーライフル
遂に人間の目的が知れた。壁がずれて銃眼が見えてくる。壁が前に倒れてその隙間から銃口が覗いている。壁の上部も前にせり出してネズミ返しだ。そして出てきたのは弓矢じゃない。魔法を撃ってくる魔素人形だ。比喩ではなくそのままだ。肩の二門のキャノン砲から魔法を撃ってくる。あのキャノンは何かの筒を組みわせているようだ。前にせり出し砲身が前に倒れると、その手で砲身を取り換えている。一本の大きな砲身ではなく台座に缶詰の缶をセットしているような感じだ。それを四つか五つほど並べて肩に戻すと発射が出来るようだ。
その動きから見て魔素制御だな。完全な人型で魔法使いが魔素でコントロールしている感じか。以前の魔素流体の加護操作とはまるで違う。機械的な施された武器の斬撃よりも、魔法使いを乗せて動きを良くした感じか。それも武器が遠距離なら常に動いて砲撃という形を取れる。施された装甲を使ってはいるが、武器が違う。これならそこそこの性能を出すこともできるだろう。あの形状を見るに二人乗りか。魔素の生成と操縦士が分かれている。魔素人形の中に一人。後ろの砲身を据える所にもう一人という形だろう。
これは宿主殿が作り出したものか? あのデミ魔物の襲撃で既存の施された近接武器が何の役にも立たない事を証明した。実際に問題があったのは魔素人形の方だがそれを理解し、武器を変えることによって今の体制を作り出したのだろう。魔法使いによる魔素の供給とその制御で柔軟な動きが出来る。そして武器を魔法に依るものにすれば過剰な魔素による施された武器の拒否反応も生まれない。魔物と魔素人形のスペック差は近接を拒否することで実現できている。踏ん張りは効かないが確実に魔物にダメージを与えていく戦術だろう。威力があっても当たらない巨大な施された武器に比べて現実的だ。
それにあのキャノンは見た所魔法を使えなくても魔素を流すだけで発動しているようだ。手持ちのキャノンに魔素流体らしきパイプを繋いでいる機体もある。
つまりレーザーライフルとレーザーキャノンを搭載した魔素人形という事だ。
その性質上射出のみかと思ったが座標の魔法も使えているようだ。砲身の交換は魔法の変更も兼ねているのだろう。
これは正直憧れる。出しゃばりが意味ありげに黙っていたのはこういう事か。しかしこの形態では加護持ちは操縦者として役に立たない。ほぼ魔法使いで固めているのだろうか。まあ、中に入れば生身の加護持ちが待ち構えていると見るのが自然だろう。こうなるとあの門もブラフではなく入った瞬間蜂の巣だろうな。
「王牙。あの魔法はカウンターが出来ないぞ。気をつけろ」
「どういうことだ?」
「あの筒だ。あれが髑髏の空間の支配と言っていい。それが筒という物質になっているせいで魔素への介入が出来ない。やるならあの筒を破壊できる勢いでやる必要があるな。お前はもとより私でさえカウンターマジックをするぐらいなら破壊した方が早いくらいだ」
「魔法の発動を阻害できないという事か?」
「そうだ。人間もよく考えたものだ。術式を形ある物にして阻害を防ぐのは勿論、これを利用した共同魔法も可能だろう。魔素を送るだけで魔法と組み合わせることもできる。理論上は髑髏に匹敵する魔法を人間でも使えるようになるだろうな」
「そんなに凄いものか」
「理論上は、だがな。実際は強度が足りなすぎる。髑髏の空間の支配には及ばないだろう。あの筒に私が魔素を籠めれば自壊するだろうな。見た目は派手だがエルフの矢を超える事はないだろう。脅威なのは数だな。ある程度近づければあの筒を自壊させるのは簡単だ」
「なら強引に攻め込むか?」
「ああ、アリエス。滞留魔法は使えるな? アレを進路いっぱいに張ってくれ」
「まて、アレが魔法の減衰に有効なのはわかるがこちらにも影響があるだろう」
「そこは大丈夫だ。髑髏の空間の支配は滞留魔素の影響を受けない。むしろ加護の影響がなくなる分使いやすくなるほどだ」
なるほどな。そういう事か。
「ではシノ。王牙様。滞留魔素を発動させますがよろしいですか?」
俺達は頷く。城壁まで続く魔素の流れ。それが全て滞留魔素と化した。
「王牙。私とアリエスを守れ。ここからあいつらを潰していく」
「承知」
滞留魔素で城壁の下まで辿り着いた俺達はそこで迎撃だ。射撃系の魔法は射角が取れず、座標系の魔法は滞留魔素で目標が設定できないでいる。ほぼあてずっぽうだな。俺が突撃の時に構えた盾もそこまで活躍する間もなく真下まで到達できた。
この滞留魔素も俺の三次元戦闘能力を奪うものだったが、シノのヒントである程度対処できている。髑髏の空間の支配だ。俺が以前取り込んだシノの体を元にある程度の性能が引き出せる。今使っているのは空間の把握だ。
インナースペースに取り込んだ性能と言えば今の所三つだ。
シノの空間の把握。これは髑髏の空間の支配の下位互換で支配は出来なくとも把握は出来る。この滞留魔素の中ではありがたい性能だ。コアの方は以前の通り自分では使えない代物だ。
アリエスの自己強化。これは蛇女の魔素の支配の下位互換だ。外には使えないが自身には使える。性能は四分の一。25%ぐらいだがそれでも魔素の燃焼を減らせるとみれば大きいだろう。
タウラスの物理無効。これも無効ではあるが魔素の消費は直撃時とどっこいだ。何に使うかと言えばゴリ押しだな。スーパーアーマーのよろけ耐性で無理やり攻撃を叩き込める。実際にはピンポイントバリアのようなものだ。これで弾いて相手の体勢も崩せるが先も言った通り直撃時と同じだけの魔素を消費する。余程の決死の一撃以外は使えないがその一瞬が生死を分ける時もあるだろう。
派手さはないが地味に役に立つパッシブスキルだ。特にタウラスの物理無効はそれこそ致死の一撃で怯まないのはそれだけでも生存能力が上がる。
アクティブスキルは合体時限定だな。シノとの合体でコアの無限使用。アリエスとタウラスとの合体で盾の鎧と物理無効のマントが使用可能。こちらは危険が大きいからそれこそネームドのトドメ専用だな。
さてそんなことを考えているうちに上の掃討が終わったようだな。向こうは滞留魔素で魔法の目隠し&減衰でこっちは髑髏の空間の支配で魔法使いたい放題だ。シノの干渉でレーザー装備もあらかたお釈迦になっていることだろう。
完全にこっちがチートモードだが、魔素の扱いで魔物が人間を上回るのは仕様だ。オーガを相手にするならレーザー装備は有効だったが、魔物全体となれば話は変わってくる。それも防戦ではな。俺なら距離を取ってひたすら逃げ回りながら撃つところだが。先に行った通りこのレーザー魔素人形では踏ん張れるはずがない。まだ何か隠し玉があると見ていいだろうな。
しかし蛇女というよりもアリエスだな。ヘイトを稼げて戦えるヒーラー。それに加えてバフデバフに敵魔法の減衰にとありとあらゆる性能が盛り盛りでトドメを刺せないというデメリットが霞んでみるな。それもいざとなればタウラスが始末するだろう。明かに俺よりも主人公をしているな。やはりネームドという存在はそれ自体が別格なのだろうな。
俺の主人公特性と言えば仲間がチート染みているというだけだからな。俺はただ一体の鬼。それでいいのだろう。少なくともそれは俺の望みだ。この先俺が神になろうと人間に討たれようとそれは変わらない。俺はこの生涯をただ一匹の鬼として駆け抜けるだけだ。




