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第四十六章 エピローグ3 オニアック教

 俺達は古城に帰ってきた。ここもそろそろ崩壊した古城とは呼べなくなった来たな。相変わらず鍛冶オーガが勤勉に働いている。取り合えず俺達は狙撃オーガの要望で集めた魔剣を下していく。シノもそれに付き合うようだ。あれだけの激戦だ。得るものがあるなら歓迎したい所だな。できるならオーガサイズの魔剣。良くて矢じりか。銃も欲しい所だがオーガサイズの銃など間違いなく暴発するだろうな。俺が妄想を膨らませているとリンセスがやってきた。

「おかえりなさい。ダンナ」

「ただいまだ。リンセス。またゴブリンの子供が増えたな」

「ええ。ああそうだ。ゴブリンが名前変えたの知ってる?」

 俺が被りを振る。

「新しい名前はリンキン。ゴブリンキングのリンキンですって」

「確かにそれはアイツのネーミングセンスだな。まさかリンセスまでゴブリンクイーンのリンクイか?」

「私はリンセスのまま。私にはいつまでもお姫様でいて欲しいってリンキンが」

「あいつがそう簡単に口を割るか」

「もう。なんでわかるの。そう。中々教えてくれなくて喧嘩までしたんだから。新しいクイーンが別にいるんじゃないかって」

「まあ、ゴブ、リンキンか。アイツは確かにモテそうだからな。その気持ちはわかる」

「そうでしょ。私が泣くまで教えてくれなかったんだから」

 それは辛かったなと頭を撫でるとしばらくはのろけが続いた。この二人は問題なさそうだな。それにしてもリンキンか。色々な所に転生者がいる状態では名を変えるのが正解だな。あの頃と違って危険を呼び込むだろう。成功している転生者というだけで妬むものが出てくるかもしれない。魔物はともかく人間には多そうだからな。


 丁度いいタイミングでアリエスの帰還が届いてきた。この場なら何が起きても大丈夫だろう。リンセスにそれを伝えると微妙な表情が返ってきたがそれでも受け入れてくれるようだ。俺は壁側にインナースペースの入り口を向ける。流石にこの入り口は怖がらせてしまうだろう。

「ただいま戻りました。わが父」

 あの時は助かったと声をかけようとして俺は絶句した。アリエスの膨らんだお腹をみてリンセスの平手打ちが飛んでくる。まあ、そうなるな。

「それを聞いてもいいのか?」

「はい。わが父。紹介したい方が居ます。今はここに」

 そう言って腹を撫でる。

「わが最愛の夫はここに居ます。わが父の中で出会い。共に居るために私の中で生まれかわることを選びました」

 つまりどういうことだってばよ。

 助けを求めてリンセスを見るが頷くだけで分かったというような顔だ。

 俺が分かってないんだってばよ。

「つまりどういうことだってばよ」

 流石の俺も言葉が出ない。いや本音が出てしまった。

「はい。お話します。わが夫は王牙様が言う所の悪魔です。私が王牙様の中に入る時に侵入してきたのです」

 やはり悪魔は俺に取り付いていたのか。あの毛皮に執着していたのは悪魔の魅了か何かか。

「その時は敵対していましたが、その、王牙様と奥方様が、その、愛を語られ始めて、愛で世界が埋まりました」

 あの時か。

「はい。王牙様が昇天した、死んだと、と聞いて慌てた私達は力を合わせてその状況を知ろうとしたのです。そして私達は愛し合いました」

 俺の中で何をしているんだコイツラは。

「でもだからこそ私は帰ってくることが出来ました。夫が私を、消えかける私を常に補完し支えてくれました。彼の中にあるアリエスが私をここに留めてくれたのです」

 そこは感謝だな。アリエスを守っていたのなら全て許そう。

「そして夫の怨敵である皇帝との戦いで彼は皇帝に操られる所でした。中から王牙様を攻撃せよと」

 俺の知らない所で何が起こってるんだってばよ。

「そこでわが父。貴方が夫の体を取り戻してくださいました」

 あれか。皇女の灰色の羽か。

「体を取り戻した夫はその力を王牙様に渡し、自身は自分を改変するために私の中へ。それで皇帝の魔の手から逃れたのです」

 理屈はわかった。

「そうか。そいつには礼を言わねばな」

「はい。わが夫も喜びます。ですがしばらく時間をください。彼が今一度生まれかわるまで」

「承知した。リンセス。聞いての通りだが誤解は解けたか?」

「うん。ごめんねダンナ。あの話の流れでつい」

「ではアリエスを頼めるか?」

「任せて」

 快い返事だ。頼もしいな。

「はい。わが父。リンセス。お世話になります。私を受け入れていただけますか?」

「勿論。何でも聞いて、アリエスで良いんだよね」

「はい。わが父に貰った名です。これを違えることはありません」


 そして月日がたち無事生れた悪魔はすくすくと成長し立派な青年になって表れた。いや、単純に成長スピードが速すぎただけだ。手間がかからないとリンセスがぼやくぐらいには速すぎた。

「わが父。オーガ様。私を受け入れてもらえますか?」

 黒髪黒目で肌も黒い。アラビアンな美丈夫だ。相当なイケメンだな。アリエスが落ちるわけだ。そもそも悪魔だったか。

「受け入れよう。悪魔よ名はあるか?」

「いえ。名は捨てました」

「ではタウラスと名乗れ。二番目を意味する名だ。その名を捨てる時が俺への信仰を捨てた時とみなす」

「ハッ。アリエスともどもオーガ様にお仕えします」

「アリエスから聞いてはいると思うが俺の信仰は双方向だ。お前の信仰を受けとった俺はお前への信仰も持ち合わせている。意味が変わるか?」

「わが父。貴方が私に人間の可能性を見ているのですか?」

「違う。俺のお前への信仰はただ一つ。アリエスの伴侶としてアリエスを守ってきたことだ。俺の信仰するアリエスを守ってくれた。ただそれだけで足りる。これからも頼む」

「お任せください。わが父」

「ありがとうございます。わが父」

 これはアリエスだ。二人で寄り添う姿は様になっている。

 いやしかしアリエスを嫁にするとは流石だな悪魔は。正直並みの男では務まらない大役だろう。それだけでも感謝したい所だ。しかし何故俺に信仰を求めるのだろうな。皇帝から救った恩義と討ち果たしたという事なのだろうが仮にも悪魔を名乗る男がなぜというのはある。

「タウラス。一つ聞きたい悪魔とはなんだ?」

「それは私がこの星の外から来たからです」

 は?

「ほら見ろ王牙。宇宙人はいるじゃないか」

 おおう。予想外過ぎてぐうの音も出ない。どうりで技術体系が違うわけだ。

「シノ様は宇宙の事をご存じで?」

「言葉だけだがな。それとタウラス。私に様付けはやめろ。私は王牙の伴侶だが神ではない。祭り上げられるのは不愉快だ」

「わかった。シノと呼ばせてもらう。シノは宇宙人に会ったことがあるのか?」

「目の前にいるだろ。お前の信仰する神だ」

「わが父。貴方も星の外から来たのですか?」

 目がキラキラしてるな。

「異世界人だ。それと俺も様付けは遠慮したい。あれはアリエスだけで十分だ」

「わかった。わが父。王牙。僕も普通に話させてもらう。それにしても異世界人とはどういう冗談なんだ?」

 おおう。タウラスお前もか。

「王牙。これが普通なんだ。お前の異世界という戯言などより星渡を名乗れ。宇宙人に信仰されてるんだぞ」

 ぐうの音も出ない。

「ゴブリン、じゃないリンキン助けてくれ」

 俺が助けを求めると何やら考え事をしながらこちらにやってくる。

「なあ、旦那。タウラスの次はジェミニだよな。そこは俺達リンキンとリンセスで埋めるのはどうだ?」

「リンキンお前もか。それは構わんがインナースペースに入れろとは言うな。これは冗談で済む話じゃない。アリエスでさえ消えかけたのだからな」

「そこまでは言わねぇよ。旦那教だからゾディアックだろ。鬼悪教で。オニアック教でどうだ。良い名だろ」

「広めようとするな。そもそもアリエス自体がイレギュラーなんだ。増やす予定などなかった。タウラス。なぜお前は俺を信仰する?」

「それは言わなくてもわかるだろう、わが父。アリエスを守ってくれたからさ。貴方と同じだ」

「ありがたい。俺以外に信じること事が出来る存在がアリエスに欲しかった。俺のお前への信仰が上がったぞ」

「あの時の好感度という奴か。確かに僕も聞いたことがない。異世界では感情が力になるのか?」

「それは俺の世界の遊戯の話だ。それを流用しただけだ。実際に起こる現象ではない」

「そうか。でもそれが僕とアリエスを結び付けた。その点では力になる」

「じゃあ式はいつ上げるんだ? まだやってないんだろ? パーッとやろうぜ。オニアック教の初の仕事だ」

「リンキンそのネタをまだ引っ張るのか。心が通じ合えば式などふよ・・・オオオーッ」

 俺の体が燃え上がる。物理的に炎の渦が渦巻いてくる。生成魔法は流石に読めない。

「わが父。式はあなたの愛娘リンセスが執り行います。任せていただけますか?」

 何か言おうとしたが口が動かん。まさかの魔物は熱に弱いのか? 魔素の消費は少ないが細部の動きが阻害されている。こんな時に新しい発見か。

「王牙様。今治します。リンセス。嬉しいけどやり過ぎですよ」

「ごめんなさい。ダンナ。こんなに効くとは思わなくて」

 アリエスの回復で細部が動き出す。

「俺も意外だった。後で生成魔法を試してもらえるか? 高温で動けなくなるなら低温も試しておきたい。あの火の渦はまだ威力を上げられるのか?」

「勿論。火力も冗談程度だもの。式もそれでいいのよね」

「ああ。アリエスが嬉しいというのなら俺は何も言わん。それでいいのだろう?」

「本当にダンナはそういうの嫌いだよね」

「違う。俺が祝い事や贈り物をすると碌な事がおきんのだ」

「わが父。それはどういうことか聞いてもいいのでしょうか」

「それは私が話そう。こいつは贈り物が不幸を呼ぶといって私に呪いの指輪をはめるような奴だ。呪いなら不幸にならないというが貧乏くじは散々引かされたものだ」

「王牙様。これはあまりにも酷過ぎます。本物の呪いではありませんか」

「そう、これが普通の感想だぞ。王牙。アリエス。お前たちもおいおい知ることになるがその時まで信仰が続くかな。王牙、お前を受け入れられるのは私だけだぞ。憶えておけ」

 また悶着の始まりか。なんとも騒々しくなってきたものだ。

 だが、まあ、このおままごとも俺の居場所の一つになりつつあるな。

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