第四十四章 遭遇戦
魔族の侵攻。それは意外な形を成していた。魔族が神の加護を纏っている。見間違いでもなんでもない。言葉通りだ。
「神に屈したか」
俺達は侵攻中の魔族の部隊と鉢合わせになり遭遇戦になっている。見通しの悪い岩場だ。敵の全体像が掴めない。
だがこちらはだいぶ有利に進めている。なぜここまで敵の侵攻が早いのかというと装備だな。人間と違い魔剣を装備している。効果は様々なようだが一番厄介なのが魔素の吸引だろうな。単純に魔物の魔素を魔族の物に変換できる。こちらの魔物武器を無効化できると捉えていい。そして何よりも魔法だろう。単純に人間の魔法使いが人間の戦士並みの加護を得て様々な効果を持つ魔剣を振ってくる。これが現状の魔族の状態だ。
一見すれば強いのだが俺達には何一つ届かない。
まず俺達オーガは金属製の武器を持っている。魔剣だろうが打ち負けるという事がない。その魔剣の効果だが先の魔素吸引以外は何の効果があるのかわからない。何かあるのだろうが判別することもできないぐらいには何の影響もない。ただ硬さだけは折り紙付きだ。本気の斬撃を入れてもビクともしない。これが俺達のサイズであったら欲しいぐらいだ。単純に魔剣と言っても剣以外の物もあるが槍でさえオーガに使えるものではないな。
そして魔法はシノが封じている。見ていてもわかるが魔族は魔法の隠蔽を行っていない。対処の知らない魔物であれば魔族の魔素もあって効果は抜群だが、俺でさえカウンターマジックが使えるぐらいには稚拙だ。その出力と使い方にあまりにも差があり過ぎる。威力はあってもその使い方は人間の魔法使い以下だ。
最初は不機嫌だったシノもこの入れ食い状態に気を良くしている。魔法を放とうとした魔族の腕が吹き飛んだ。
「見たか王牙。まるで赤子の手を捻るようだ。こいつらは魔法の基礎の基の字すら知らない。これが今の魔族だ。なんとも無様なものだ。矜持を捨て神に膝を屈して手に入れた力がこれか。なんとも無様で愚かではないか」
むしろ上機嫌だな。
シノは黒髑髏を顕現させると赤髪と同時に操る。いつもの黒髑髏のアバラ内に居るが首元から顔を出して始末した魔族の血液を吸収している。だが・・・。
「絵面が悪いなそれは」
完全に魔族を埋め込んだキメラだ。魔物のパーツにされた哀れな魔族にしか見えない。
「敢えてだ。私という魔物キメラに食い物にされる魔族の姿はとても美味だ。私をキメラ送りなどとのたまった魔族が赤子のように無様で愚かな魔法を駆使している。散々私を罵ってくれたのだ。これぐらいの意趣返しがなんだ」
わざとか。そんな遊びができるぐらいには魔族は弱い。最初に魔物が苦戦したのは魔素吸引の魔剣と隠蔽無し魔法に対応できる魔物が居なかったのだろうな。それで無双状態だったのだろうが、今の魔族は魔法を封じられ魔剣という名のただ硬いだけの武器で戦う魔法使いだ。
言葉にすると絶望感が増すな。仮に俺が魔族だとしてもこの状況なら逃げ出すぞ。
何故コイツラは下がらない? この絶望的状態で下がる気配がないのはなんだ?
「シノ。何故コイツラは下がらない。何か狙いがあるのか?」
「いや、そんなものはないな。神の加護で魔族の言葉は聞き取れないが魔族の命令は絶対だ。破れば研究所送りだからな。今やそれが無くなったとはいえ今更引けないのだろう。神に屈してまで手に入れた力が児戯に等しい代物だとは認めたくないだろうからな」
そしてシノはひとしきり笑った。
「ザマァァァ! はぁ。確かにこれは気持ちが良いな。お前がこれに惑うのもわかる。幻滅したか?」
「いや、お前は何も変わっていないぞ、シノ。お前が魔法に関わるときはいつもそんな感じだが、気付いてなかったのか?」
「・・・本当か?」
俺は頷く。いつだか俺がニヤけていたとシノに指摘されたことがあったがこういう事か。古城を吹き飛ばした時の満足げな顔を今のシノに見せてやりたい所だ。
「そうか。なら遠慮はいらないな。魔族の血液も食い放題だ。今回は吸い過ぎないように空中で溜め置いた。これで限界は超えることがないぞ」
見るとシノの頭上に血の流れる球体が存在している。黒髑髏で魔法を操り赤髪で血液の操作か。血は良いとして死体が残っているな。
「魔族の死体は残るのか?」
「ああ。以前のあれはお前の剣が存在毎消し飛ばしていたのだろう。普通なら魔族の死体は残る。魔族とは魔素の心臓で魔素の血が流れる魔素生命体だ。普通の魔素と質が違うのはそういう所だろうな。この血も正確には魔素の凝縮体だ。魔族の体には生命維持の血液として機能するが厳密には血液ではない。私がこうして操れているのが良い証拠だ」
「魔物とは違うのか?」
「人間としての機能が生きているからな。食事はしなくても死にはしないが体はやせ細っていく。実質人間と変わらないとみていいだろう。何より魔族は魔族から生まれる。流れているのが血液か魔族の魔素かという違いだけだ。体の部分は生命体だ」
「それを聞くとリンセスの子供たちはコアの心臓からコアの血液が流れている可能性があるな」
「どういうことだ?」
「リンセスの子供たちは生成魔法を使っていた。あれは血から生まれる力だ。その心臓が魔族と同じ特殊なものかもしれないな」
「何故そう思う」
「魔族も異世界からの転生者によって生み出されたのではないかと思ってな。エルフもそうだ。亜人種はもともとこの世界にはいなかったのではと疑っている」
「確かにな。あのコアはお前の世界にあったものか?」
「いや、あんなものは無かったがコアの原料が異世界の魂というのが俺の持論だ。髑髏はこの世界の人間の魂かもしれないがお前のコアの元は異世界人の可能性がある」
「確かに私の知らない知識が時々浮かぶ。宇宙に空気がないというのは本当か?」
「事実だ。俺が実際に試したわけではないがそう伝わっている」
「そうか。星空を宇宙と呼ぶこの記憶は私の物ではない。私もまた星を渡って来たのかもしれないな」
「俺の世界では異世界人よりも宇宙人の実在の方が疑わしかったが、この異世界の宇宙であればまた違うのかもしれないな」
「強情な奴め。異世界転生よりも星渡の方が美しいだろう。神を下したらその時は確かめるからな」
俺達の世界では物理法則という神が支配していた。ではこの世界を支配する神は何なのか。この不可思議溢れる世界の神は物理法則をも捻じ曲げる何かなのだろうな。
そんなことを言ってる間に魔族の部隊が片付いたな。誰一人として逃げなかったが勇猛果敢ではない。時間稼ぎでもない。コイツラは一体なんだ? 指揮を執る人間さえ居なかったが。
俺達は数本の魔剣を手にして進軍する。魔剣はシノの研究用だ。土産にもなるかと思ったがあの魔素吸引にしてもあれは魔族専用だ。もし亜人種が使えば吸引した魔素が体に流れて大惨事だろう。オーガサイズなら俺も欲しい所だが結局人間の使う施された武器が強すぎるのだ。魔剣と名がついた武器がそれに有効だとも思えない。
もし有効なら悪魔の毛皮・・・と言いたい所だが、なんだろうな。あれだけ欲しかった悪魔の毛皮を思い浮かべても何も感じない。どのような手段をもってしても手に入れたいという欲求が消えている。
単純に飽きたか?
それともシノとの愛が満たされたおかげでそういう欲求が消えたのか。これなら悪魔の本体が出てきてもそれに拘ることはないな。始末できるときは即始末だ。この技術の起源となるなら確実に葬る必要があるだろう。皇女よりも優先すべき標的だな。




