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第四十一章 ベルセルクヒーラー+ダイジェスト版追加執筆

この話を4編にわけた補完シナリオを追加

 ベルセルクヒーラー。


 元聖女の魔物アリエスの姿はまさにそれだ。俺達は監視と新魔物運用のために付き合っているがとにかく前に出たがるのだ。

 その時の掛け声は何時もこれだ。「神の威光を示す」。無駄にデカイ体で、無駄にスピードの出る蛇の体で特攻していく。ヒーラーにスピードがあるのはとても良い事だがそれは突撃するという意味じゃない。しかも今は加護付き弓兵がいる可能性もある。最前線でもなければ出てこないだろうが矢の普及が早まればその限りではない。体の大きさがアドバンテージになる時代は終わっているだろうからな。

 体の大きさと言えば蛇女は魔素の回復自体も行えるようだ。自身の体を花のように咲かせてその胞子を浴びた魔物の魔素を回復できる。いわば単発式魔素ジェネレーターだな。体の高さを上げるほど胞子の範囲が広がり滞留した時間が増えるのに応じて魔素の回復量も増える。逆を言えばここが弱点だ。高さを保てば的になり、低ければ効果が薄い。前線ではなく下がって使うのが理想だな。弓兵が本格的に稼働し始めたら戦闘区域では使用が出来なくなる可能性もある。

 それもあって前線で活性化、下がって回復というのがベターなわけだが・・・、アリエスの場合は胞子を蒔きながら自己強化を施している。

 ヒーラーでありながらヘイトを一身に受けるヒーラータンクというある意味正解なのがまた質が悪い。前線で暴れるアリエスの援護をする俺が弓DPSでシノも魔法DPSとして機能している。人間側から見れば蛇の巨体が街中を縦横無尽に這いずり回っている。それを見れば俺でもそいつにヘイトを向けるだろう。だがこれは散発的な戦闘なら問題ないが前線を組める最前線の人間には効かないだろう。それに魔物側の前衛も動きづらい。俺が弓を持っているのもそのせいだ。ヘイトが動きまくる上に蛇女の巨体が邪魔で敵よりも味方の動きに注視しなければならない。攪乱効果は高いが実質効率的に人間を片付けるなら不向きな構成でもあることがこれで知れたというのもあるな。

 そして何よりも問題が、やはりアリエスは人間を攻撃できない。正確には止めを刺せない。吹き飛ばすなら問題ないがトドメとなる爪を使う事が出来ないでいる。見かねた俺が大地の支配の石棍棒を与えるとそれは使いこなす。だが黒曜石の剣は駄目だ。典型的な刃物が使えないタイプだ。元人間で元聖女ともなればそれはそうだろう。それ故にある意味ヒーラー職である蛇女が最適なのだが、その戦闘センスは前衛寄り。

 ヒーラーに不向きで人間にトドメは刺せないが戦闘センスは抜群という何もかも噛み合っていない構成がアリエスの姿だろうな。


 初期はリンセスも付き合って意見を聞いてたのだが、人間の頃から何も変わっていないらしい。無責任な安請け合いで悪徳領主を討伐に行けば掴まるという、ある意味あれは相手が強すぎたというのもあるが、俺の件も踏まえて能力はあるが運が極端に低いというのがリンセスの総評だ。

 ここでもまた悶着があった。俺がアリエスを信徒にしたというとリンセスが「ズルい」ときた。アリエスのわが父というのが癇に障ったらしい。私という娘が居ながらどうしてという理不尽なリンセスに、わが父の娘は私だけというアリエスの返しに火に油。シノが俺は私の物という事で俺が了承し丸く収まった。だが俺には「女にはモテないが子供にはモテる」という不名誉な称号がシノから与えられれた。

 その時もまた悶着だ。「お前の精神年齢ではそうだろう」というシノに俺は「大人になれないんじゃない。人間になりたくないだけだ」と返した。シノはそれで納得したようだったがそれでも何か譲れないものがあったのだろう。「お前の言うそれは人間か?」という問いかけでその会話は終わった。

 大人=人間だろうな。俺には特に意味もない言葉だったがシノにとって人間ではない=子供と繋がるのは業腹だったのだろう。


 シノのアリエスの評価はまた異なる。俺をわが父と呼ぶアリエスはシノを母と呼ぼうとしたがそれは拒否していた。伴侶ではあっても神ではないと。そして神を下すなら伴侶であってもライバルだと。これは半分俺に言っていたのだろうな。一時的とはいえ俺が神を自称したのがライバル宣言に聞こえたらしい。シノの言を取れば神を自称したものは神ではないのだろうが、それは神への挑戦者を意味していたのか。俺をそれに祭り上げたアリエスにはあまりいい印象はない様だ。

 その力も能力も認めているが使いこなせていないことには言及しない。そこは俺に何とかしろという事だろう。口は出さないというスタンスだ。


 上記ダイジェストの補完①~④を末尾に。



 つまるところ、能力はあるが地雷というのが俺の結論だな。今までの言動を見るに人間の時も前に出がちだったのだろうな。あの聖女にまとわりつく近接DPSがやたらと前に出ていたのはアリエスを前に出さないためか。自分たちが下がったら聖女が前に出るというある意味強迫観念に駆られていたのだろう。これは信用が得られるはずがない。そして失敗を重ねるごとにその傾向は強くなっていったのだろう。神の手先を降ろしたのは勝ちを狙ったものではなくただの焦りだろう。それは戦った俺が一番よく知っている。

 あながちアリエスの「俺が一番アリエスの事を理解している」というのは的を射てたのだろうな。

 それならと問いた。誰がアリエスをヒーラーに仕立て上げたのか。その答えはアリエスの記憶にはない。正直アリエスにはグレートソードを持たせた方が強かったのではと思うのだが。それを言うとアリエスは感激の祈りを捧げて来た。やはり本人にも自覚があったのだろう。ヒーラーは向いてないと。

 本人は否定してるがアリエスはかなりわかりやすい人間だ。俺が一番理解しているというよりも、俺が一番こいつの事を考えていたというのが本当の所だろう。聖女の時からどう潰すか散々に頭を悩ませた。敵の俺が一番聖女の事知っていたとは何とも皮肉なことだ。そしてそれは本人が一番よく知っている。だからこそここに居るのだろう。

 アリエスの信仰か。それがカギだろう。だがまずはその鍵穴を探さなくてはな。


「追放系ザマァ展開ですか?」

 不思議そうに聞き返してくるアリエス。まあ知らないだろうな。

「創作にある展開の一つだ。優秀なものがその力を発揮できない場所で不遇な扱いを受け、追放された後にその真価を発揮できる場所に出会う。そしてその真価を知れなかった元の仲間が歯噛みし落ちぶれるという展開だ」

 そこで俺は一息つく。

「これはお前に当てはまらないか? 聖女として才能がなかったお前が魔物として成功する。お前は元の仲間だった人間達に思う所はないのか?」

「私は彼らに思う所はありません。ただ感謝を。今でもそれに変わりはありません」

「お前を理解しようともしなかった連中だぞ?」

「それでも私は聖女としてあるまじき存在でした。付き従ってくれたことだけでも感謝しています」

「では彼らがお前の前に立ちはだかっても感謝の心を続けるのか?」

「いいえ。私はわが父の信徒。手心は加えません」

「俺が殺せと言ったら殺せるのか?」

「それは、もちろん、わが父の意志とあれば、私は彼らを攻撃します」

 攻撃か。

「お前の信仰では人の命は取れないという事か」

「いいえ。殺します。私は彼らを殺します。私の、信仰に、かけて。私は必ず彼らを殺します」

 これは嘘か。

「お前の信仰ではお前は人を殺せない。そうだな」

「違います。私は殺せます。幾人だってあなたの為に人を殺します」

 無理だな。

「そこに信仰がないのは気付いているか?」

「私は私の信仰に基づいてあなたの敵を殺します。この手で、血に染めて、あなたに献上します」

 ここらが限界か。

「そうか。ではお前にお前の信仰である神として命ずる」

 さてこれがどう出るか。

「お前に人間の殺害を禁じる」


「それは、私には無理だという事ですか。私には何も期待しないという事ですか」

 流石に怒り出したか。

「何故か。答えを出せ」

「私が人間を殺せない無力で哀れな存在だから見限るというのですか。私を否定するのですか。今からでも私は人間を殺して持ってきます。今すぐにでも私は私の信仰を証明して見せます。私に命じてください。神として人間の殺害を」

 自身の決断では無理だと気付いたか。

「命に背き答えも出せないか」

「・・・命に従います。私は人の殺害をしません。答えは・・・私が人を殺せないからです」

 ようやくここまで辿り着いた。

「そうだ。お前の信仰に人間の殺害は含まれない」

「何故、ですか。私はあなたに私の信仰を捧げた。ならば私はあなたの敵である人間を殺害できるはずなのに、なぜ、ですか」

「簡単だ。お前の信仰に人間を守れと刻まれているのだろう。答えろ聖女」

「私は、アリエスです。・・・はい。私の信仰には人間を守れと、守りたいと刻まれています」

 やはりな。

「ならばそれでいい。アリエス。自分の信仰を見失うな。魔物に堕ちたものは必ずその原動力となる物がある。それがお前にとっての信仰だ。お前がもしそれに背いて人間を殺した時、お前は魔物としての死を迎える」

「それは、本当ですか・・・?」

「仮説だ。お前がなぜそれほどまでに人間を殺すのを躊躇うのか。それは自身の消失と同義だからだ。だからまずはその信仰の形を確かめろ。人を殺せない。それはその一つだ。そしてお前の目的を思い出せ。それがこの命の本当の意味だ」

 これで伝わったか。いつもの祈りのポーズも今回は長い。これを受け入れる事が出来るだろうか。

「わが父。ダンナ様。私はあなたに信仰を捧げて良かった」

 漸く鍵穴が見つかったか。


「所でもう一つ言いにくい事がある。心して聞け」

「はい。わが父。何なりと」

「俺の名は王牙。お前の言うダンナ様は旦那という敬称だ。それを理解して使いたいなら止めんが」

「そ、それを今言うのですか! なぜもっと早くいってくれなかったのですか! 私は父と呼んで信仰を捧げた貴方の名前を間違えていたなんて・・・!!!」

「それも神の試練だったのだ!」

「嘘おっしゃい!」

 俺の冗談に怒れるぐらいには元気になったか。

「だがアリエスよ。それほどにお前には余裕がなかったのだ。今はもう大丈夫だな」

「この流れでわが父と呼ばせようとするのはズルいです、王牙様。私を虐めて喜んでおられるのですか?」

「正直な話。名を正す前にお前が聖女としての信仰を取り戻すと踏んでいたからな。名を捨てる時は必ず言え。それがどんな決断でもだ」

「わかりました。私は私の決断を必ずあなたに伝えます。たとえ私がアリエスでなくなったとしても」

 漸くいい顔になってきたな。それでこそ俺を圧倒した聖女だ。


ーーー


ダイジェスト版追加執筆を追加



「神の威光を示します!」

 その一言に俺はポカンと口が開いてしまった。

 ヒーラーが突撃するな。

 その言葉を発する間もなくアリエスが突撃していく。

 

 ここはどこかの人間の街。指示の対象ではないが加護持ちが多すぎる。無視するには大きすぎた街だ。そこでアリエスの初陣と新魔物の運用試験を兼ねてここに来たのだが・・・。

 町の合間を縫って人間を蹴散らしていくアリエスに言葉がでない。

 アリエスとの対戦で戦闘センスがあるのはわかっていたがヒーラーが敵を薙ぎ倒すな。

 しかも敵を仕留め損ねている。素人にありがちな奴だ。敵を倒すことに夢中になってトドメが疎かになる奴だな。一番危険な奴だが、そこはヒーラーか。後ろから切りかかれらてもビクともしていない。俺は死にぞこないを始末しながらアリエスの援護に回る。いつもは俺がタンクのような立ち回りだがこれはこれで楽だな。シノも今は髑髏を顕現している。それというのもアリエスの体力が持ちそうにないからだ。オーガよりも大型で暴れまわればそのヘイトと攻撃の集中は蛇女の回復力を上回る。ではどうするかというと俺達が速攻で人間を片付ける以外にない。

 そろそろ片付く頃かと思っていたがアリエスが一人の人間と対峙している。余程の強者かと思ったがどうも様子がおかしい。アリエスが爪を使えないでいる。

 言わんことじゃない。魔素切れか何かだろう。俺は石棍棒を大地の支配で作り出すとアリエスに投げて寄越す。先の重くなった奴ではなくただの長い棒だ。こちらの方があの体には使いやすいだろう。案の定棒術で人間を吹き飛ばす。

 完全に新兵だな。窮地に際してトドメよりもその恐怖の対象を遠ざける方を選ぶ。この状況からいち早く逃れたいという心理状態だな。この戦闘センスが持ってして思考が新兵とは元聖女でヒーラー職となれば当然か。

 俺達は最後の加護持ちを始末するとその場を後にする。


「で、俺の信徒よ。今回の戦いはどういうことだ」

「私の活躍がわが父の目には叶わなかったという事ですか?」

 ちがーう。

「何故ヒーラーが突撃する」

「これが最善と判断いたしましたわが父。私が全てを引き受ければ皆が動きやすいでしょう」

 なるほど。タンクの思考はあるわけか。そもそも聖女の動きはそれに近かった。

「それでもだ。今のお前は一魔物だ。聖女のような馬鹿げた性能を持ってはいない。俺達の援護が遅れていたら討たれていた可能性もある」

「私はあなたの信徒です。その力を示すために討たれたとしても本望でございます」

 嘘だな。これは間違いなく嘘だ。だが何の嘘をついている?

 こいつはまさか人間への恨みが芽生えて苦しめることに快感を憶えているのか?

「生存を優先しろ。今回のように最後にバテて止めを刺されたら敵わん。ペース配分だ。生きてこそ真価が発揮される」

「わかりました。わが父。次こそは期待に応えて見せます」

 その笑顔に不安しかないのはどういうことだってばよ



 次の街へ来た。ここも指示はないが加護持ちが多い街だ。

 そこでアリエスが縦横無尽に駆け回っている。散発的な攻撃を与えて逃げ回るスタイルだ。散々ヘイトを取った上で蛇女のスピードを生かして翻弄している。

 おおう。そうじゃないんだってばよ。

 確かに魔物に体力の概念はない。この戦い方で人間の体力を減らし自身の耐久も確保できる。先の突撃型よりはマシな戦い方だが、アリエスの動きがこちらにも把握できない。地味にあの滞留魔素を放っているせいでこちらも近づけない。対魔法使い対策なのだろうがそれはこっち(魔物側)にも効くんだってばよ。

 そんなわけで今俺は盾を弓にして黒曜石の矢を放っている。こうでもないとあの動きに対応できん。シノの方は問題なさそうだな。滞留魔素にも対応して魔法を放っている。流石は魔法のスペシャリストと言う所か。対応できない俺は滞留魔素に近づくことが出来ないでいる。

 それにしてもアリエスは本当に止めを刺さない奴だな。次から次へと標的を変えて食い散らかしている状態だ。ヘイトを取るのは良いがトドメは刺しても構わんのだが。手柄を寄越すスタイルなのか。それとも人間への恨みがアリエス自身を暴走させているのか。判断がつかんな。

「アリエス。トドメを刺しても構わんぞ」

 迷った俺はアリエスに大地の支配で生み出した黒曜石の剣を渡す。棒術があれだけ使えるのだ。剣が使えないことがないだろうと踏んでいたのだが・・・。

 不味いな。

 剣を持ったアリエスが途端に挙動不審になる。使えないのではない。扱えるが切れないのだ。アリエスが爪で俺を切り裂いたときのことを思い出す。こいつは典型的な刃物が使えないタイプか。鈍器の方がいいだろう。俺は片手で使える石棍棒を渡すとアリエスに投げて寄越す。

「そっちを使え。剣は捨てていい」

 ? アリエスが両手に黒曜石の剣と石棍棒を持って完全にフリーズしている。俺は弓を盾に変えると相棒を抜く。そしてアリエスを狙う人間に切りつける。

 これは本格的にマズイか。

「アリエス。武器を捨てろ。下がれ」

「ですがわが父。私は、まだ・・・」

「命に従え!!!」

「は、はい。命に従います」

 武器を捨てて下がるアリエス。

 これはどういうことだ? これを見るに人間に恨みを持って嬲り殺しという線は無くなった。刃物が使えないというのも分かった。だがなぜその後戦えなくなる

 なにか俺は見落としているのか?



「聖女の時もあんな感じだったよ」

 先の戦いを見ていたリンセスに意見を聞いていた。

「無駄に自信があって、何でも自分にできると思い込んでいて、周りの人間を信じないくせには他の人間は自分に盲従すると信じているの」

 んー。凄い酷評が降ってきた。

「今も全くおんなじ。自分を特別な存在と思い込んでいるんでしょ。元聖女のくせに魔物たちが自分に付き従うと思っているんだから」

 正論過ぎて、ぐうの音も出ない。

「ダンナもどうしてあんなのと一緒に居るの? 聖女だよ? あの戦いを忘れたの? 今だってダンナの首を狙ってるに決まっているじゃない!」

 おおう。何一つ言い返せない。

 まあそれが正解だろう。だが、

「もしアリエスが俺の首を狙うならあの立ち回りはない」

「どういうこと?」

「俺がアリエスならヒーラーとしての信用を築く。そして俺を倒せる敵が来たら裏切りだ。回復をしなければヒーラーを信じた前衛は簡単に殺せる。ヒーラーに能力以前に人格が求められるのはこのせいだ。その点アリエスは自身が前に出ている。それも人格的にも人間的にも信用に足る。流石元聖女と言う所だ」

「じゃあ本当にダンナの信徒になるっていうの?」

「それがわからん。アリエスの狙いがどこにあるのか。俺が聞きたいぐらいだ」

「その答えは信仰では足りませんか? わが父」

 アリエスか。ふさぎ込んでいたからしばらくは立ち直れないと思っていたが。

「今回の戦いでもわが父ダンナ様は私を救ってくださいました。この信用に応えようとするのは信徒として当然です」

 また嘘か。だがカラ元気もないよりはマシか。

「俺もお前のことは信用している。だが信仰となると話は別だ。俺は神ではないからな」

「わが父。それだけで十分なのです。あなたを信仰する一人の娘として光栄に思います」

 これが嘘に聞こえない。俺の何処に信仰する要素があるんだ?

「ズルい」

 ん?

「ダンナには私という娘がいるでしょう? どうしてそんな子を受け入れるの」

 どういうことだ?

「わが父には私という信徒である娘がいるのです。あなたが本当の娘という事はないはず。わが父の本当の娘は私一人です」

 何が起きてるんだってばよ。

「所詮信仰でしか縛れない元聖女が娘だなんて笑わせてくれるじゃない。私はそんなものなくてもダンナの娘なの」

「言いましたね。下賤なエルフが。貴女と違って人間は縛られない存在では居られないのです。全てが繋がっている。その繋がりを受け入れるのにどれほどの勇気がいるか。貴女にはわからないでしょうね」

「私をそんな自分勝手な女だと思ってるあなたが何も見えてないのよ。盲従の聖女」

「この、下賤な、下々が。人の加護に縋った亜人が。義務も果たさずに権利ばかりを押し付けて!」

「誰も頼んでない。あなたが勝手に納得して私たちの話も聞かない。それで負けた責任は私たちのせいにするの? あなたが負けた後私達がどうなったか! あなたは知っているの!?」

 この二人は何の話をしているんだ?

「つまり二人が俺の娘では駄目なのか?」

「「駄目!!」」

  おおう。

「「どっち!!」」

 どういうことだってばよ。

 それを助けてくれたのはシノだった。

「それは私のものだ。所有権は私にある。リンセス、お前は私の友だ。娘には出来ん。アリエス、前にも言ったが私は神になる気はない、よって娘には出来ん。王牙、お前は私の認めない娘を養子にするつもりはないだろう」

 よくわからないが俺は頷いた。

「自称は構わん。だが私の王牙を所有しようとする存在を私は許さない。どうする二人とも」

「うん。ちょっと熱くなってた。ごめんねダンナ」

「私も少し舞い上がっていたようです。信仰とは見返を求めないもの。未熟でした」

「では解散だ。しばらく王牙を独占させてもらう」


「助かった」

「お前は女には全くモテないのに子供には随分とモテるんだな」

「言われても何かをしているわけではないぞ」

「それはわかっている。お前の精神年齢が幼過ぎるのだろう」

「俺は大人になれないんじゃない。人間になりたくないだけだ」

「なんだそれは。人間を拒否したものはすべて子供か」

「そういう事ではないのか?」

「・・・お前の言うそれは人間か?」

 どういうことだ? 目で尋ねるが答えは返ってこなかった



 俺達は次の町に来ていた。特に取り立てて何もない加護持ちが多少いるだけの小さな町だ。

 

 そこではアリエスが一人の人間の戦士を甚振っていた。見た目にはそうだ。アリエスの鈍器をどれだけ食らっても吹き飛ばされても立ち上がり立ち塞がってくる。

 ここが街の占拠と指示が出てれば俺も即座に片付けていただろう。それでなくとも魔素ジェネレーターの建設部隊が始末していただろう。ただ今回はただの加護持ちの掃除だ。それも指示なしで独自にやっているだけだ。別に見逃しても構わない。

 正直逃げても追わないんだがその気配がないな。ここを死に場所に決めている者の動きだ。他のオーガはアリエスが片付けると思っているが、いや、俺もそう思っていたのだが、あまりにも時間をかけすぎだ。傍目には嬲っているようにも見える。ここまで死力を尽くした戦士だ。横から俺が手を出す気にもなれずアリエスに任せる気でいたが終わる気配がない。

 アリエスに人間への恨みがないという俺の見立てが間違っていたのか? それともかつての知り合いで恨みが噴き出したか。この扱いは尋常じゃない。

「アリエス。何をしている」

「わ、わが父。もう少しお待ちください。必ず仕留めて見せます」

 ? なんだ? なんでこいつが苦戦をしているような塩梅だ?

「アリエス。何かの奇跡か?」

 そういえば魔物に痛みを与える奇跡などというのを放ってきた聖女が居たな。目の前に。

「いえ、違います。私に異常はありません。私は正常です。わが父の手を煩わせる事はあり得ません」

 また嘘か。こいつは何の嘘をついている。俺の知らない奇跡があるとでもいうのか?

 しかしアリエスが俺の与えた石棍棒を手に立ち尽くしている。限界だな。

「アリエス。終わりだ。こいつは放っておけ。次に行くぞ」

「そんな。私は必ず仕留めて見せます」

「なぜそこまで拘る。知り合いか?」

「いいえ違います。それでも私が乗り越えなければならない試練です」

 試練? 何の試練だ?

 そこでようやく俺は答えに辿り着いた。

 アリエスは人を殺せない。それを乗り越える事が試練か。

 俺は大地の支配でアリエスの持っている石棍棒を砕く。

「わが父? なぜです?」

「終わりだ。まだ続けたいならその名を捨てるか?」

「いいえ。私はアリエスです。わが父の命に従います」

 そのアリエスの顔はなんとも言えないものだった。救われたとも諦めとも違う。絶望に満ちた顔だ。

 これは俺がなんとかするしかないか。それでアリエスがその名を捨てることになっても今の状態では誰も救われないだろう


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