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第四章 人間の村

 次に俺達が辿り着いたのは砲火の溢れる箱庭だった。

 銃だ。間違いなく銃だ。それと大砲。本物の戦場がここにある!

 …のだが、しょぼいな。前込め式のアレだな。アサルトやショットガンはおろかリボルバーさえ無いだろう。そもそも薬莢という概念すら無さそうだ。飛んでくる火砲もただの玉だな。弾が爆発する事は無い。そのうえ距離があるのに撃ってくるのは間違いなく手練れではない。ライフリングの無いライフルなどハンドガン以下の命中精度だろう。当たっている魔物もいるが特に問題はなさそうだな。少なくとも貫通はしていない。

 だがそれも止むをえないか。目の前にある重要拠点は箱庭と形容したように森に面した丘に木の柵を建てただけの簡素な代物だ。砦と言うよりも村に近いか。練度も低い。物資は豊富にあるようだが陥落は時間の問題だな。

 俺は丘を攻めるべく大地の支配で塹壕を掘っていたのだが、途中で力が尽きてこの場に足止めを食っている。やはり一気に使いすぎては駄目だな。今の残量では蛸壺を局所的に作って進む以外に無い。

 いっその事オーガのパワーを当てにして突撃と言う作戦もあるが、そこまで肉薄すれば加護持ちが待ち構えているのは容易に想像できる。あの銃火器にしても至近距離から放たれれば施された武器に匹敵するだろう。

「攻めあぐねているようだな」

 この声はシノか。本来ならリッチ…髑髏だったか。その部隊はまた別の場所に送られたようだがこいつだけは俺達について来た。

「ああ。中の様子がわからんからな」

 俺が素直に頷くとシノは詠唱に入る。何をするのかと魔素を読み取ろうとしたが読み取れない。

 なんだ? よくはわからんが魔法が何かに包まれている?

 シノが魔法を発動した途端、蓋が外れたかのように中身の情報が流れ込んでくる。それでも読み取れるのはいくつかの断片のみ。

 これは魔法の隠蔽か。流石に本職だけあって魔法の戦闘も一段上のレベルなのだろう。それでもその効果は俺にも伝わる。これは敢えて分かり易くしているのだろうな。この前のエルフで使ったヤツだ。範囲に居る人間をロックしてそのままに固定してある。

「凄いな」

 思わず声を上げてしまった。魔法の効果ではない。その使い方だ。魔法を待機させて敵の把握だけを可能にする。しかも動きを見るに敵には気付かれていない。

 ザっと100か120か。目の感覚よりも魔素の感覚を鋭敏にして敵の数を図る。思ったよりも少ないが…。いやこれは武器を持っている人間のみか。脅威になりそうな人間だけをピックアップしてある。今の所加護持ちは居ないな。

 シノに加護持ちがいないか尋ねると6人と返って来た。1パーティと考えて良さそうだな。

 これならいけるか。俺は周りのオーガに情報を共有すると石の棍棒を取り出す。そのままシノに目配せすると魔法が発動。俺達は踊り出る。ようやく反撃の始まりだ。


 この魔法は威力は低いが加護無しにはだいぶ効いてるようだな。言わば加護はHP。これが無ければ自分の体で耐えるしかないのだろう。即死でなくでも痛みは戦意の喪失に繋がる。混乱も大きい。事実蜂の巣をつついたような騒ぎになっているな。

 戦意の残った者もシノは間髪入れずに追撃している。これ以上の無い念の入れようだな。俺達が攻め入る前に自壊しそうだ。

 今回シノが火力を出していないのには訳がある。もしもこの砦を破壊するのであればそもそもオーガなどを寄越さずに髑髏部隊で一掃すればいいのだ。魔法の高火力による殴殺。それを求めていられないなら殴殺するべきないのだろう。その考えでオーガ主体の作戦になっているのだが、あまり出番はなさそうだな。温存しているであろう加護パーティが出るまではエスコートだな。

 その油断が危機を招いた。ここは森の近く。そう、ここは森のすぐ傍だ。以前に何故これ程強力な髑髏の部隊が敗走していたのか。その理由をシノの魔素の揺らぎから察することになった。

 最初は音だった。硬い何かが当たった音、その後にヒビが入り何かが砕ける音。音の方を見やるとシノが胸を押さえて蹲っている。その下に散らばっているのは骨、つまりシノの体の一部だ。

 俺は咄嗟にシノの前に立つと大地の支配で石の壁を立てる。だがやはりと言うべきか、次弾はこの壁を越えてやってきた。奴らの矢は誘導と見紛う程の軌跡を描く。だが威力はそれほどでもない。俺はシノを壁に押し付けるとそれを狙う矢を体で受けた。

肉を食い破り浸食してくるその芽を魔素の凝縮で枯らす。間違いなく銃弾よりも厄介だ。

 シノを見やると見た目以上にダメージが大きいようだ。矢が肋骨に刺さりそのまま発芽したのだろう。その部分が崩れて落ちたな。

 しかしどういう事だ? オーガよりも魔素の許容量の大きい髑髏がこの程度の攻撃でダメージを受けるとも思えんのだが。今まさに俺に突き刺さっている矢は確かに強力だが致命の一撃にはなりえない。

 何かの要因があるのかとシノの魔素を感じてみて、次第にわかって来た。そうか魔素の総量は耐久とイコールではないんだな。言わば魔素の総量はHPとMPの合算だ。俺たちオーガの魔素がほぼHPなのに対して髑髏はほぼMPなのだろう。単純に魔法使いタイプだな。その強大な魔法で近づく事は出来ないが、遠距離の効果的な攻撃は致命的という事か。

 シノは一旦このままで大丈夫だな。それよりも俺だな。致命傷ではないといってもこうも数が多いと魔素の耐久もだいぶ減らされている。仲間のオーガも気をやってはくれているのだが、如何せんエルフとは相性が悪い。こちらも弓があれば、せめて何か投擲物。

 そこで閃いた。この石の棒だ。コイツに爆薬を括りつけて投げつければそれだけで脅威になる。今結ぶのは無理にしても、いや作るときに取り込めればいいのか。大地の支配をそこらに転がっている火薬と結びつけると…大爆発した。

「「おのれエルフ共」」

 台詞が被って下を見やると怒りに震える髑髏が火を噴きそうな勢いで睨んでいる。俺のはただの八つ当たりで吐いたセリフで少しだけバツが悪い。お互いの無事を確かめ合うとシノは既に補足済みだったのであろうエルフ共を魔法で炙りだす。居場所さえわかれば俺達オーガ部隊の敵ではない。補足ついでに嫌がらせを混ぜたシノの魔法で追い立てられ、奴らは遂に全滅する事となった。


Tips

髑髏

魔法に秀でた魔物。

本体は文字通り頭だが魔法の行使に体の動作が必要なため体を作り出している。

本体は頭でも体のダメージはHPに直接届く。体が崩壊すると他の魔物の「首切り状態」となり絶命する。

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