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第三十六章 魔族の心臓(イチャラブ注意)

 世界の改変を禁じるな。

 珍しくそう提案してきたのは相棒の方だった。この手の物は出しゃばりがやんわりと俺を通じて伝えてくるものだったが今回ははっきりと伝えてきた。珍しいというか初めてだが、俺達に迫ってくる脅威を感じて俺は了承した。何か途轍もない異形が迫ってきている。

 その正体は合成獣キメラだった。先の悪魔のレプリカだろうか。色々な動物を掛け合わせた異形の生物に魔族たちが乗っている。完全に先程の悪魔よりも悪魔らしい。基本四つ足だがその背に羽が生えている。グリフォンにライオン顔のキメラというその系統の獣だ。悪魔と違うのはその体に魔素が流れている。それも魔族の魔素だ。何よりもヤバイのがその体の構成に改変魔法が使われているという点だ。その体に流れる魔族の魔素が常に改変魔法を展開してその存在を維持している。その禍々しさで空間が揺らぐほどだ。

 これはヤバイ。俺は既に聖剣と白金の鎧を展開しているがそれが明滅しているほどに活性化している。

 その合成獣軍団の長であろう人物が降りて来た。が、聖剣の一瞥で塵と化す。魔族たちが色めきだすがその時にはもう彼らの合成獣は死んでいた。出しゃばりの精神攻撃だ。ただでさえ改変による無理な魂が一瞬で消し飛び体の維持が出来なくなる。崩れていく合成獣から落ちた魔族は体勢を整えるまでもなく聖剣の魔素キャンセラーを収束した魔素イレイザーで消滅していく。

 これの何が恐ろしいと言えば何も起きていないのだ。俺もコイツラも何一つ動きがなく敵が消えていく。外から見れば合成獣騎士団が棒立ちの俺の前で音もなく消えていく。言葉はおろか悲鳴も戦闘の音すらしない。ただ消滅していく。この光景は戦闘ではない。何も起きていないのだ。最初から何もいなかったかのようだ。

 だが一つだけ動くものがあった。身なりのいい王冠を被った魔族。王族だろうかと顔を見ようとしたがそれは叶わなかった。音もなく聖剣が形を変え深海魚のような巨大な口に変わったかと思えばその王冠魔族に食らいつく。ここでも何の音もない。食らいついてはいるが食事ではない。情報収集だ。その存在を食らいつくして情報を貪っている。勿論食われている方は存在を食われている。食われた時点でその魂が消し飛んだのだろう。身動きの一つもしない。これが相棒の精神攻撃のスタイルなのだろう。

 情報収集が終わるとその拠点の場所。魔族の王族の城が示される。

 だが流石にシノの回復を待つぞ。数も地の利もまるで足りない。勝機があっても突撃はまだだ。


「なんだもう王を倒したのか」

 その王冠魔族を見るなりシノが驚いた声を上げた。まだ魔族の血を消化しきっていないが意識は戻ってきたようだ。

「これが親玉か?」

「そうだ。だが何故一人なんだ。ご自慢の合成獣も居ないようだが」

 事の顛末を聞くと流石に眉をしかめる。

「そこまで戦力差があるのか。それで王城に突入するのか?」

「そのつもりだ。魔族はともかくこの合成獣はマズイ。こいつはなんだ?」

「悪魔を体現したものだそうだ。魔族の改変魔法も起源は悪魔から得たものだ。悪魔の技術をもとに発展したのが魔族といってもいだろう。そのオリジナルに近づくのが自然だな。本物の悪魔は傷一つ付けられないそうだぞ」

「なるほど。さっきのは下位の悪魔か。物理無効はあったが魔素でサクサクだったからな」

「なんだそれは。下位の悪魔など聞いたことがないぞ。悪魔は一体のはずだ」

「ではさっきのがそうか。惜しいことをしたな」

 一点ものなら畜生に堕ちてでもも生きたまま解体すべきだったか。

「いや、魔素の魔法も効かない筈だが。魔物の魔素は効いたのか」

「ああ。かなり有効だった。硬い翼も牙と脇差でへし折れた。そのあとその穴に落として解体したかったんだがコイツが始末してしまってな。あの物理無効の毛皮は是非とも欲しかったのだがな」

「ならそれは現身だな。悪魔の毛は現存しているぞ。私も見た。だが本体はもうこの世界にない。皇帝と供に別の次元、お前の好きな異世界に行ったと言われている。魔族の生まれに関する物語だ」

「現身か。まるで神のようだな」

「実際ここではそうだ。魔族に力を与えた悪魔と魔族の始祖である皇帝。これは神格化されている。王族が魔族を統べるものならば皇族は神の化身だ。だが皇族は世襲制ではなく皇女に選ばれてなるものだがな。今も人間の皇女が居て魔族の男が色めき立っている所だ。皇女と結ばれればはれて皇族の仲間入りだからな」

 まて。

「人間の皇女だと。何故そんなものが出てくる」

「今は別世界に居る皇帝から送られてくるそうだぞ。基本は王族と結ばれるが、選ぶのは皇女だ。そのおかげで私は婚約破棄という憂き目にあうわけだがな。お前が来るのがもう少し遅かったら私は亡き者にされていた」

「貴族の令嬢ではないのか?」

「貴族の令嬢だからだ。婚約破棄などありえない。私が何らかの理由で死ぬのが一番理想だ。お前の指輪のせいで改変魔法が使えなかったからな。随分と恨んだものだぞ」

「だがそれが死のフラグだったのだろう。お前が改変魔法を使っていたらコイツラが止める間もなくお前を消滅させていた。どうやら俺の呪いは随分と強力らしい。俺の恨みが常に供給され続けていたからな」

「全く貧乏くじだ。こんな束縛の強い独占欲まみれの鬼に思われ続けて受け入れるのは私だけだぞ。感謝しておけ」

 では遠慮なく。俺がシノを抱き寄せるとその身を預けてくる。今のシノの髪は元のウェーブに戻っている。俺のコアで生成したローブ姿だ。コアを内蔵していた時と違い、かなり女性味を帯びている。転生して女性となればそうなるだろう。髑髏と一体化しても以前との違いは歴然だ。胸はそれほどでもないが素体が女性なだけあって体のラインが撫でていても違いがわかる。

 中も撫でろとのリクエストで口から舌で中を撫でまわしているが、どうやら体の構造は魔物よりのようだ。所謂消化器などの内臓はなく魔族の心臓に到達する。舌で確認するに心臓だがのっぺりとしている。心臓を動かすための血管がないのだろうな。この心臓自体がジェネレーターで各部に魔素を送り、溢れた部分を回収する仕組みになっている。シノの言を取ればコアの上位版といってもいいだろう。魔素特化型の成長型コアといってもいい。

「もう俺の魔素は必要ないな」

「まだわからないぞ。取り合えず注ぎ込め。魔族の心臓が私を侵食する可能性はまだあるからな。全てが未知数だ」

 なるほど。俺は舌の先から魔素を心臓の周りに送り込む。

「馬鹿。中に直接出す奴があるか。それも出し過ぎだ。私の心臓を止める気か」

「まて、この心臓はお前の生命に直結しているのか?」

「いや、この心臓は止まっても私の命に問題はない。魔素の供給が滞るだけだ。だが実際はどうなるかわからん。コアの停止で私の意識が途切れたように問題があるかもしれん。・・・王牙。やはり多めに注げ。余剰にお前の魔素を取り込んでおきたい」

 わかった。返事の代わりに満遍なく魔素を配置していく。こいつの血管は上部に集中している。切り離すとすればここか。動力部である下部は何が起こるかわからない。破壊よりも切断だ。最悪抉り出す算段はつけておいた方がいいだろう。コアは同調していたが今回のシノは魔物側に本体の魂があるとみていい。シノ自体が崩壊する危険はないだろうな。

「またお前はよからぬ事を考えていないだろうな」

「最悪抉り出す方法を考えていた」

「お前は本当に。何でもかんでも壊そうとするな。私が死を選んでまで手に入れたものだぞ。絶対に壊すな。摘出するな」

「今回の心臓はコアと違って構造がわからん。悪魔もそうだ。魔素や世界の改変ではない何かだ。俺が何を優先させるかは決めている。シノ。お前という存在だ。それを害するものは全て破壊対象だ」

「わかった留意しておこう。私も今回は全てが初めてのことだ。予想以上に私が対処できるかどうかも判断がつかない。その時は頼りにするぞ王牙」

 任せろという返事に形を憶えておけというシノの言葉に心臓の形を把握していく。これからは適時確認するということで話はまとまった。

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