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第二十七章 人肉食い

「この人肉食いめ! 同族ぐらいの人食い鬼が!」

 俺はその戯言を一笑して相棒を突き立てる。

「この腑抜けが! だから!俺が!代わりに!鬼になるのだ!」

 これは俺の口から洩れた言葉だ。この言葉を俺はどこかで口にした。そうだ。俺が鬼になるとは、俺が代わりに鬼になる。確かにどこかで俺はそれを口にした。だがなぜ今それが出てくるこいつは一体なんだ?

 俺はここに来るまでの記憶を辿る。そうこのバカげた茶番を始めた顛末だ。


 俺達が最初に目したのは平原におっ建つ巨大な城だった。今までの西洋風ではない。和風の聳え立つ城。それが平原のど真ん中に建っていた。このポイントに間違いないが、世界改変というチートを隠す気が全くないのが異様だった。魔物のリンクを乗っ取って誤情報を流すという芸当に似合わない豪胆さだ。

 むしろこれではただ単に魔物に指示を出せるというだけで誤情報を流す電子戦という趣ではないのだろうな。それは到着してからも知れた。中で言葉を話すデミオーガ達の審問が始まったのだ。それこそお奉行様のお裁きが始まり指示に従わない俺達を裁こうというのだ。もう、俺の怒りは有頂天に達した。俺の怒髪天にたじろぐデミオーガ達、それを止めたのは同じデミオーガの長であるホブデミオーガだった。

 俺の怒りは有頂天を貫き無頂点に昇華する寸前まで高まっていた。そこで休息。魔物のこの俺に休息の時間が与えられたもう殺したい。その先はもう殺したい。一秒と待たず殺したい。

 だが肝心のコアが見つからないのだ。中核のコア持ちを見つけなければ最悪逃げられてしまう。サイバー戦どころか電子戦にもならない展開に俺の心は荒み切っていた。このくだらない茶番はいつまで続く。

 そしてついにそれが訪れた。人間との和解。

 魔王の王子と人間の聖女が婚姻するらしい。

 もう殺したい。

 そこが俺の限界だった。魔王を名乗るゴミを聖剣と化した相棒で貫く。それと同時に出しゃばりの白金の鎧をまとう。この出来損ないのデミ魔王が無様に生きあがくのを眺めると核を握りつぶす。俺はもうコアを見つけるなどという正常な判断が出来なくなっていた。相棒と出しゃばりを展開してこのチート空間を叩き潰す。

「貴様、神の手先か!」

 お前らを殺せるなら俺は神の手先でも・・・。

「ほら見ろ王牙。誰でもお前を見ればそういう反応だ」

 ブッと噴き出す自分を感じる。シノの言葉で目が覚めた。そうだ。まだ神の元に行くには早すぎるか。

「ならその神の手先の敬愛する主君よ。次の行動を教えてくれ」

「あの子供だ。王子だ。あれ自体がコアだ。気をつけろ。建物すべてがこいつの体だ」

「流石は俺が敬愛する主君だ!」

 王子に躍りかかる俺に立ち塞がったのがさっきのホブデミオーガだった。

「貴様人の心を手に入れたのではないのか!」

 何を言っている?

「やはり貴様は人肉食いだ。人の血肉を啜らねば生きていけないか」

 こいつは誰だ? オーガが日本刀を携えている。

 ・・・こいつは鬼だったか? 俺の知ってるこいつは人間だ。鬼などではない。鬼は俺だ。

「大恩ある大君をその手にかけて貴様の得たものはなんだ」

 俺は、ただ気に入らなかっただけだ。この地に平穏などあるはずがない。それは幻想だ。だから俺は、

「腑抜けた王に引導を渡しただけだ」

 そして冒頭に戻る。

「この人肉食いめ! 同族食らいの人食い鬼が!」

 俺はその戯言を一笑して相棒を突き立てる。

「この腑抜けが! だから!俺が!代わりに!鬼になるのだ!」

 これは俺の口から洩れた言葉だ。俺がゲーマーになる前、魂に刻まれた記憶だ。戦乱でも人の世でも異世界でも俺は鬼にしかなれなかった。いや、俺が鬼になることを望んだのだ。

 ここは楽園などではない。俺が望んだ俺の地獄だ。この魂を鎮め無へと返る。その旅路だけは誰にも邪魔はさせない。

「俺は鬼としてこの世界で果てる。お前もここで死んでいけ。二度と化けて出るな」

 核を貫く感覚。対チート全開の相棒の一撃だ。魂さえも砕けるだろう。人は人として死ね。


 俺がセンチに浸ったせいで状況が悪化していた。逃がしたコア王子がこの城を浮上させている。シノの推察通りこの城自体が奴の体だ。斜めに傾いた城郭が土をつけたまま浮いている。冗談のような造形だがこれでいいのだろう。この浮遊城郭は以前のクジラとは違って精神タイプか。今まさに俺が経験したことがそうだろう。それは魔物リンクの情報の書き換えからもわかる。ただその目的が世界の改変ではなく何か別の目的があったのだろうな。

 

 取り込まれるのを恐れた俺は外に出る。コアはもう消失しているな。体に溶け込んだ状態だ。大量の血を流させてコアの再顕現を図るしかない。幸い建造物を切りつければ血が流れる。異様な光景だが慣れるしかないな。

 今回は俺が操作して相棒と出しゃばりがチートへの対策に全力を使える状態だ。宙を舞い、城郭を切りつけていく。対チート全開状態の相棒に切れないものはないな。相手の防御策はおろか攻撃も全て無効化できる。つまり正面突破が可能ということだ。この浮遊城郭に俺を止める手段がない。

 問題は出しゃばりの方だ。精神面でのチートの対抗戦が押され始めている。一見俺が優勢に進めているように見えるがこちらの精神の牙城が崩れれば相手の勝ちだ。俺は攻撃の手を緩めない。こうなれば単純な殴り合いだ。こいつの城郭が崩れるのが先か、俺の精神が侵されるのが先か。それでもまだ有利はこちらにあるようだ。

 こうなれば相手が何か仕掛けてくるのは当然か。空間に穴が開いて槍が飛び出してくる。こういう手合いは初めてだがゲーマーである俺ならそれぐらいは予想できる。つまり対処は可能だ。避けるのではなくその槍を切りつける。そこから血が噴き出した。

 案の定だ。これはインナースペースからの攻撃だ。本来の世界の改変であるチートは外の世界の理を曲げるものだ。外の世界への干渉。今回のような空間を穿つような行為は出来ない。ではどうするかというと内の世界を改変する。自分の中で空間を穿つものを作り出し外に顕現する。だがそれは武器などではなく自分自身の一部だ。反撃されれば相応のダメージを内の世界に食らう。いわば諸刃の剣だ。有利を取れる半面弱点も晒す。この好機に出しゃばりが飛び出し相手のインナースペースに取り付いたようだ。

 この現象をどう例えるべきか。インナースペースは卵の殻に守られているイメージが近いだろう。本来この殻を破るのはほぼ不可能と言っていい。精神への攻撃もこの殻の外から行われるものだ。だが今回の相手である浮遊城郭はその殻を攻撃に使った。卵の殻を自ら割ってその破片を飛ばして攻撃しているイメージだ。チートでさえ絶対不可侵なその欠片はとても強力だが、殻がないゆえにインナースペースが無防備になる。卓越していればその割れた破片で防御もできるのだろうが、この浮遊城郭はそこまでの使い手ではなかったらしい。出しゃばりがその隙間を縫ってインナースペースへの直接攻撃を行っている。

 えげつないな。

 それを把握している俺の感想だ。インナースペースの攻撃は防御ゼロの弱点にクリティカルを決めているようなものだ。入られた時点で負けといってもいい。事実浮遊城郭はコアを顕現する力すらなく落ちていく。

 どんな状況であれインナースペースの開放は行ってはいけないな。出しゃばりのえげつなさは俺にそれを印象付ける。これは魂の凌辱だ。ここまでえげつないものか。逆に言えばここまでやらないと駄目なのだろう。手心を加えれば相手のインナースペースのただ中だ。侵入した側が不利になる。この一回のチャンスで決めないといけないのだろう。相変わらずコイツラの戦闘は勉強になる。

 もう終わりだな。浮遊城郭の形は残っているがすでに死んでいる。魔物のリンクも正常化したようだ。やはりあの町の占拠が指示されている。

 今回はチートの禁止も使ってないから鎧はそのままだな。ある程度まで飛んでいくか。未だに占拠できてないということは何か障害があるのだろう。俺達はあのゴブリンが居た街へと進路を取った。



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